中国のシンクタンク・安邦智庫はこのほど、「日本の非正規雇用から見る、中国のギグエコノミーの未来」との文章を掲載した。

文章は、近年、デジタル技術の発展により「ギグエコノミー(フリーランスなど単発の仕事を請け負う働き方)」が現代社会経済に不可欠な構成要素になっていると指摘。

一般的には派遣労働者、(日雇いなど)臨時対応型労働者、契約社員、フリーランスなどが含まれると説明した。そして、「過去10年間で中国のギグエコノミーは爆発的に成長し、2024年末の時点で中国でこうした『柔軟な働き方』をする労働者は2億人を超え、全体の約3分の1を占めている。中国の大手IT企業・アリババグループのシンクタンク・阿里研究院は、2036年には4億人がインターネットを通じて自営やフリーランスとして働くと予測している」とした。

その上で、ギグエコノミーは中国特有の現象ではなく、ポストフォーディズム型労働形態のグローバルな特徴だと言及。「フォーディズム時代は規模生産、終身雇用、標準化された労働時間と福利厚生を特徴とし、効率と安定を両立させた。20世紀末以降、製造業からサービス業・知識経済への転換、そしてネット・情報技術の発展により、生産方式の柔軟化が進み、企業はアウトソーシングやプラットフォーム型組織でコストやリスクを低減し、労働者は個人契約者として働くようになった」とし、「これは技術の進歩、グローバル資本の移動、労使関係の再編、政策誘導が複合的に作用した結果である」と論じた。

そして、「中国はこうした流れの先端に位置し、発達したプラットフォームとアルゴリズムによりギグエコノミーが急拡大した。しかし同時に、従来の安定した雇用制度は解体されつつある。こうした不安定な雇用において、今なお高所得化を実現できてはおらず、急速に高齢化が進む中国にとって、社会保障の持続可能性を脅かし、世代間の貧困連鎖などの問題を生む可能性がある」と指摘。「この点において、日本の経験は参考になる」とした。

文章は、日本において「非正規雇用(雇用の非正規化)」が中国よりも早く進行し、1990年代のバブル崩壊以降、兼業、派遣、日雇い労働者が増加したと説明。「初期には企業競争力の回復に寄与したが、2000年代後期には非正規労働者が約40%を占めた。

若者と女性が中心になったこの層は低所得、昇進の制限、社会保障不足に直面し、構造的な『若年貧困』を生んだ。婚姻率や出生率の低下、高齢化率の上昇、年金制度への圧力も生じた。また、不安定な雇用は社会的信頼感や帰属意識を低下させ、経済の活力と社会的結束を損なった」と論じた。

そして、「中国は現在、類似の転換期にある。形は異なるが、企業の柔軟性追求による労働者へのリスク転嫁は共通する」と指摘。「経済成長の鈍化や製造業の利益の圧縮、サービス業の比重増加により、この傾向は強まっている。プラットフォーム経済は効率を高める一方、不平等を拡大し、労働者は情報・交渉力で不利な立場に置かれる。また、人口高齢化に伴い、2035年には高齢者が4億人に達するとの予測もあり、ギグエコノミーの拡大は社会保障の基盤を弱めることになる」との見方を示した。

また、「政策面では、中国は柔軟就業者(非正規労働者)向けの社会保険改革や権益保障の試みを始めているが、制度の包括性や実効性には限界がある」とし、「日本の経験が示すように、労働市場の柔軟化は短期的には企業の環境適応に有効でも、長期的には社会の二極化や格差を生む。中国はギグエコノミーの発展に伴い、効率と公平のバランスを制度的に確保し、社会保障・税制・職業訓練・労働者権益保護を統合した仕組みを整備する必要がある」と提言した。(翻訳・編集/北田)

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