米国の著名な旅行雑誌「ナショナルジオグラフィック」が発表した「2026年に行くべき世界の旅行先25選(Best of the World 2026)」に日本から山形県が唯一選出された。山寺や蔵王、銀山温泉といった観光地が評価される一方で、近年はクマ出没のニュースが相次いでいる。
日本政府観光局(JNTO)はこの選出を地方誘客促進の好機として、引き続き日本各地の魅力の発信に取り組むと発表した。
「ナショナルジオグラフィック」が山形県を評価した理由は、その独特な魅力にある。東京から300キロ圏内という比較的近い距離にありながら、「別世界のような静けさ」を保つ場所として認識されたのだ。聖なる山々、静寂に包まれた寺社、フォトジェニックな温泉、四季を通じて各地で開催される伝統的な祭りなど、混雑を避けて通年で古くからの伝統と神秘的なアウトドア体験ができる点が高く評価された。
JNTOが9月に実施した東北の招請事業においても、山形県は「自然と文化の融合による唯一無二の魅力がある」と参加した海外旅行会社から高い評価を得た。こうした国際的な評価の積み重ねが今回の選出につながった。
山形県の魅力は複数の観光地が織りなす多層的な価値にある。天空の古刹として知られる山寺(宝珠山立石寺)は、松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ歴史的な舞台だ。1015段の石段を登った先に広がる絶景は訪れる者に精神的な充足感をもたらす。この古刹はナショナルジオグラフィックが評価した「静寂の絶景」の象徴であり、日本の精神文化を代表する場所となっている。
一方、蔵王連峰は雄大な自然の代表で、神秘的な火口湖「御釜」は季節や時間帯によって色を変え、訪れる者を魅了する。
冬の蔵王に現れる「樹氷」は、樹木が氷に覆われた幻想的な光景で、スキー場からも眺められる蔵王の冬を代表する風景だ。スキー、温泉、ハイキング、トレッキングなど、四季を通じて多彩なアウトドア体験ができる場所として、通年の観光地として機能している。
さらに注目すべきは銀山温泉だ。NHK連続テレビ小説「おしん」にも登場した。1983年から1984年に放映されたこのドラマは、40年以上たった現在でも高い人気を誇っている。
ノスタルジックな大正ロマンの街並みは映画「千と千尋の神隠し」のモデルになったとも言われ、日本の原風景を感じさせる空間として国内外の観光客から愛されている。
しかし、光があれば影もある。山形県の魅力の裏側に潜む厳しい現実に気付かされたのは昨今のニュースだ。近年、山形県内でクマの出没が相次いでおり、観光客や住民の安全が脅かされている。美しい豊かな自然に恵まれているからこそ、野生動物が身近な存在となることもある。
最近では8日にJR新庄駅構内でクマが目撃された。駅員ら7人が車庫に避難し、市などが設置した箱わなで捕獲された。
ナショナルジオグラフィックが評価した「別世界の静けさ」や「混雑を避けた体験」は、手つかずの自然が豊かに残っていることの裏返しでもある。この豊かな自然が野生動物との距離を近づけている現状を直視する必要がある。
「静寂」と「野生」は隣り合わせの関係にある。観光地として評価される山形の自然環境は、同時に野生動物の生息地でもある。クマ出没問題は単なる安全上の課題ではなく、人間と自然との共存という現代社会が抱える根本的な問題を象徴している。
「世界の旅行先25選」に選出されたことは山形の持つ普遍的な魅力が世界に認められた証しだが、複数の視点からのクマ対策が求められる。
■安全の確保
観光客と住民の安全を最優先とした対策が必要。クマとの遭遇を避けるための施設整備、情報提供体制の充実、緊急時の対応体制の強化など、多角的なアプローチが求められている。
■共存の模索
豊かな自然を守りつつ、野生動物との適切な距離感を保つための知恵が必要。観光開発と自然保全のバランスを取りながら、人間と野生動物が共存できる環境づくりが重要だ。
■持続可能性
「静寂の絶景」を未来へつなぐためには、長期的な視点で山形の魅力を守り続ける必要がある。世代を超えて「別世界の静けさ」を保ち続けることが、世界が山形に期待する真の「Best of the World」の実現につながる。(提供/邦人NAVI-WeChat公式アカウント・編集/耕雲)











