華為技術(ファーウェイ)は四川省成都市内で先ごろ行われた四川省医学会第29回消化器疾患学会学術会議で、医療AIエージェントの「睿賓2」を発表した。「医療AIエージェント」とは、医療用の人工知能(AI)の機能やデータ処理能力を統合して自律的に機能するシステムのことで、機能面に注目して医師アシストAIと呼ばれることもある。

同会議にはファーウェイの謝黎明フラッシュストレージ部門総裁も出席し、ファーウェイの医療分野向けAIデータプラットフォームを正式発表した。中国メディアのIT之家が伝えた。

従来型の医療サービスは専門家の経験に強く依存し、空間と時間の制約が大きく、質の高いリソースを末端の医療機関に広く行き渡らせることが難しかった。新たに導入された医師アシストAIなども、AIに極めて膨大な医学文献や臨床経験などの知識資産を効率よく理解させ、利用できる知識体系に転化することや、個別の患者や医師に適すように能力を発揮させたり、継続的な進化能力を持たせること、さらに、ますます複雑になる推論タスクに対応させることなどに課題が残っていた。

謝総裁は、データストレージ(記憶装置)の役割が「データを保存する」ことから「知識を保存し、記憶を保存する」ことに移行しつつあると指摘した。すなわち、記憶装置には、生のデータを単に保存するのではなく、AIが直接使える形に変換して保存することが求められている。

ファーウェイが発表したAIデータプラットフォームは同社が開発する記憶装置のオーシャンストアA800(OceanStor A800)を基盤にしており、知的な演算能力を内蔵させることができ、知識の生成と検索、記憶の抽出と想起を実行させることもできる。また、大規模言語モデルなどのAIが、大量の履歴情報や長い文脈を扱う際の処理速度と効率を大幅に向上させる技術のUCM推論加速も投入されている。ファーウェイの新たなAIデータプラットフォームはこれらにより、医師アシストAIシステムの大規模化を支えることができる。

医療分野のデータには、医学文献、カルテなどのテキスト、X線、MRI、CTスキャンの画像、さらに医師と患者の会話記録の音声などのさまざまな種類がある。ファーウェイはAIデータプラットフォームのために、多様なデータに含まれる微細な特徴を失うことなくAIが利用できる形式に変換できる技術(マルチモーダル・ロスレス解析)を開発した。さらに、ユーザーの検索要求に対して、単一の方法に頼るのではなく、複数の独立した検索経路を同時に実行し、その結果を統合して最適な答えを導き出す「多経路リコール検索最適化技術」も導入した。

これらにより、ファーウェイのAIデータプラットフォームは95.0%を超える検索精度を実現した。

記憶の抽出と想起技術では、個別の患者向けに最適化され、時間経過ととも関連するデータの学習と分析を続け、要約された、より洗練された知識へと絶えず更新していく機能がもたらされた。すなわち、医師アシストAIとユーザーの相互作用の過程における状況の記憶とプロセスの経験を蓄積し、記憶をさかのぼった参照や複数の医師アシストAIの協調学習を支援する。

UCM推論加速技術は、履歴記憶データを利用して推論を加速するもので、そこで使われるのはKVインテリジェント階層キャッシュ管理だ。KVキャッシュとは、AIの大規模言語モデルが推論を行う際に、処理済みのテキストやデータの情報を、「Key(キー)-Value(バリュー)」という形式で一時的にメモリに保存することだ。KVキャッシュ階層管理では、このKVキャッシュを記憶装置と演算装置の間でスマートに階層化して管理することで、頻繁に必要とされる情報は高速なメモリに置き、それ以外の情報は容量の大きなストレージに効率的に配置する。このことで、AIが過去の記憶を参照する際に、高速なメモリから必要な情報を取り出せるため、データの検索時間が短縮される。

AIモデルが一度に処理し、記憶として保持できる文脈の長さには上限がある(コンテキストウインドウ)。そして、医療分野には特に、扱う一つの文脈が長い場合が多い特徴がある。従来のAIでは、このコンテキストウインドウが短いので、長い病歴や文献の途中の情報を「忘れてしまう」問題があった。UCM推論加速技術はKVキャッシュ階層管理を利用することなどで、このコンテキストウインドウを大幅に引き延ばすことを実現した。

四川大学華西医院(病院)、ファーウェイ、医療検査のソリューションを提供する上海潤達医療科技、大規模計算プラットフォームの成都智算センターは、ファーウェイのAIデータプラットフォームを利用することで、医療AIエージェントの「睿賓2」を共同で構築し、さらに患者に対して病気の全過程をカバーする専門的な診療サービスの「医知」を提供すると同時に、医師に対しては文献の検索や整理、分析などについての補助や医学的根拠の高速検索、さらにAIによるこれまでに発表された知見のレビュー作成を一体化した知的研究支援の「論界」を提供している。

(翻訳・編集/如月隼人)

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