2025年12月17日、シンガポールメディア・聯合早報は、中国で年末の風物詩化している農民工(出稼ぎ労働者)の賃金未払い問題が、地方財政の悪化により一層深刻化していると報じた。

記事は、中国で年末が近づく中、出稼ぎ労働者(農民工)による賃金未払いへの抗議活動が各地で相次いでおり、この1週間だけでも中国各地で10件以上の抗議活動が確認されたと紹介。

広西チワン族自治区や湖北省では労働者が道路を封鎖して支払いを訴えたほか、黒龍江省では未払いに抗議する作業員が工事現場のクレーンに2日間にわたって立てこもる事態も発生したと伝えた。

また、特に不動産不況の直撃を受けた建設業界は深刻な状況で、SNS上では「現場でお金をもらうのが年々難しくなっている」「2021年の分すらまだ受け取っていない」といった悲痛な声があふれているとした。一部企業ではコストダウンを目的として労働時間の削減や手当の引き下げを実施しており、広東省深セン市の企業ではこれを不満とする1週間以上の大規模なストライキも発生したと伝えている。

一方で、社会の安定維持を目指す中国当局は対策に乗り出しており、先日行われた共産党政治局会議では企業や農民工への賃金未払い解消が来年の重点工作として挙げられ、「民生の最低ラインを死守する」方針が示されたほか、最高検察院や全国総工会(労働組合組織)も、悪質な賃金踏み倒しに対する厳罰化や、労働者の理性的・合法的な権利保護を支援する通知を出していると紹介した。

記事によると、年末の農民工や労使をめぐる問題が深刻化する背景について、シンガポール・南洋理工大学の占少華(ジャン・シャオホア)副教授は地方政府の財政難と、施工案件の減少によって労働者が不利な条件や無契約での労働を強いられており、権利主張が後回しになったことを挙げて解説した。

また、農民工の賃金未払い問題は1990年代末から顕在化し、2000年代初めには社会問題として定着しており、当時中国政府は「賃金保証金」制度(施工業者にあらかじめ一定額を預けさせ、未払い時にそこから支払う仕組み)を導入したと説明し、「今になっても毎年巨額の未払い金が回収・執行されているという事実こそが、この制度の限界を証明している」と評した。

なお、中国人民最高法院のデータによると、22年9月から23年1月にかけて全国裁判所が裁定を下した農民工の賃金に関する紛争は15万件を超え、支払いが命じられた総額は約78億元(約1700億円)に上るという。(編集・翻訳/川尻)

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