中国では2015年以降、「トイレ革命」と呼ばれる公共衛生改革が進められてきた。事は農村部や観光地を中心とした水洗化、清掃・管理体制の整備にとどまらない。

新技術を取り入れた実験的なトイレも次々と登場している。こうした流れの中で、喫煙すると個室のドアが透明になる公衆トイレが深センに現れ、議論を呼んでいる。

「トイレ革命」が生む実験の余地

中国のトイレ革命は15年に国家旅游局(当時)が主導して始まった政策だ。観光環境の改善や農村部の生活インフラ整備を目的に、水洗化や衛生教育、責任主体の明確化が進められた。

18年以降は住宅都市農村建設部など複数の政府部門も関与し、政策は国家的なインフラ整備へと拡張した。その結果、トイレは「放置された場所」から「管理される公共空間」へと位置付けが変わり、新技術を試す余地も生まれた。

ハイテク化する中国のトイレ

中国では近年、公衆トイレにテクノロジーを組み合わせる試みが相次いで報じられている。排泄データを解析して健康指標を提示するスマート便器やAIやセンサーを用いて男女の誤進入を検知し警告を出す仕組みなどだ。

いずれも一部施設での実証的導入にとどまるが、「管理」と「テクノロジー」を結びつける発想は日本の公衆トイレ文化とは異なる方向性を示している。

深センに登場した「透明トイレ」

こうした流れの延長線上にあるのが深セン市羅湖区の商業施設「水貝インターナショナルセンター」と「水貝金座」の一部トイレに設置された、いわゆる「透明トイレ」だ。

個室のドアには電子制御で不透明と透明が切り替わる電致変色ガラス(エレクトロクロミック・ガラス)が使われている。通常は曇りガラス状で中は見えないが、煙センサーがたばこの煙を検知すると警報音が鳴り、数秒以内にガラスが透明化する。

深センテレビの現地検証では、喫煙の点火直後にアラームが作動し、短時間で利用者の輪郭が外から視認できる状態になる様子が確認された。ドアには「喫煙すると透明になります」と明示した注意表示が掲示されている。

狙いは喫煙対策、効果は運営側の説明段階

施設側の説明によると、深セン市では屋内公共空間での喫煙が禁じられているにもかかわらず、トイレ個室での喫煙が後を絶たなかったという。臭気による苦情、清掃負担、さらには吸い殻による火災リスクも問題になっていた。

水貝金座の運営責任者は、この仕組みを導入して以降、喫煙に関する苦情や行為が減少したと説明した。ただし、これは統計データに基づく検証ではなく、現場での実感を語ったものである点には留意が必要だ。

プライバシーという別の論点

一方で、法的観点からは慎重な見方も示されている。

羊城晩報などの報道でコメントした広東省の法律専門家は、公衆トイレ内での行為は民法典が保障するプライバシー権の保護対象に含まれると指摘する。その上で、技術的な誤検知や機器トラブルによって、非喫煙者の利用状況が外部から可視化される事態が生じれば、民事責任を問われる可能性があると述べている。

主要報道の範囲では、現時点で重大な事故や訴訟例が確認されている訳ではない。しかし、「いつ透明になるか分からない」という感覚そのものが、個室という空間の性質を変えてしまう点は否定できない。

東京の透明トイレとの違い

ちなみに「透明」「内部が見える構造」というコンセプトのトイレを先行させたのは日本だ。東京・渋谷区に設置されて話題になった「透明トイレ」は、未使用時に透明にして安全性や清潔さを確認でき、使用時には不透明になる設計で、利用者の安心を最優先に据えていた。

一方、深センの透明トイレは、喫煙という行為を検知した際に透明化するという点で、行動の抑止を主目的としている。透明化が安心のためか、管理のためかという点で、両者の設計思想は正反対のように見えてくる。ただし、東京の事例でも冬季には誤作動の懸念から常時不透明に切り替えられるなど、運用面では慎重な調整が求められた。

可視化されたのは都市の視線

深センの透明トイレは喫煙対策として一定の効果を示したと施設側は評価している。その一方で、都市が個人の最も私的な空間にどこまで介入できるのかという問いも浮かび上がらせた。

事は社会が個人とどう向き合うかという問題にも行き着くのだ。

トイレの個室は社会の規律から一時的に切り離される場所であるはずだった。その空間が管理技術によって可視化されたとき、人々の行動は制約を受ける。しかし、管理の対象が喫煙行為だけでなく、居場所そのものに広がるなら、スマホ片手に個室でサボる余白さえ許されなくなってしまうかもしれない。(提供/邦人NAVI-WeChat公式アカウント・編集/耕雲)

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