中国人の間で、定年退職後の東南アジアへの移住が現実味を帯びた「戦略的選択」になっている。中国メディアの南方週末はこのほど、移住先として選ぶ人が最も多いタイ、マレーシア、シンガポールについての状況を紹介する記事を発表した。

定年退職した、あるいは定年退職を控えた中国人にとって、大きな心配は中国国内の大都市における生活コストの高騰だ。このことが、東南アジアへの移住を考える大きな理由だ。すなわち、単に温暖なリゾート地での安逸な隠居を求めるのではなく、限られた蓄えや年金を最大限に活用し、家族の教育や個人の生活の質を再設計しようとする知的な生存戦略だ。

東南アジア各国も、高い消費力を持つ中国の退職層を引きつけるために多様な長期滞在ビザを打ち出し、外貨獲得と経済活性化を図っている。タイでは、50歳以上を対象とした「非移民O-Aビザ」が導入された。取得するための重要な条件は、80万バーツ(約400万円)の預金があることを証明することで、手続きの簡便さが大きな魅力だ。特にチェンマイのようなタイ北部の都市は冬になれば温帯地域の秋のような気候で物価も安いために、冬の数カ月を過ごす「季節的な定年後生活」の場として、60歳以上の層から圧倒的な支持を得ている。

マレーシアでは、「マイ・セカンド・ホーム・プログラム(MM2H)」が運用されている。現在では資産や不動産投資額に応じて4カテゴリーに細分化されており、取得の条件が厳しい「プラチナ」では、最長20年の滞在や経済活動も自由であるなど、他国にはない待遇が特徴だ。

シンガポールでは、現地で就労する子の親を対象とした「長期探訪許可(LTVP)」の制度がある。同国では高度な都市機能と治安の良さにより富裕層が家族で暮らすことに向いているが、際立った物価高が家計の懸念材料だ。

中国人が移住先に東南アジアを選ぶ動機は多岐にわたるが、共通しているのは「政策の寛容さ」「往復の利便性」「物価の安さ」「文化の近さ」だ。

特に注目すべきは、子や孫の留学に同行することと、自らの老後生活を両立させるスタイルだ。マレーシアは東南アジアでは唯一、小学校から大学まで完全な中国語教育システムが存在する国であり、東洋と西洋の教育体系の利点を併せ持つ国際学校が多い。クアラルンプールのモントキアラ地区のように、治安が良く教育資源が豊富なエリアには、多くの「留学付き添い家庭」が定住している。

タイでも「祖父母と孫のペア」による滞在が急増している。タイには広東、福建、海南などをルーツに持つ華人が多く、食文化の親和性が高いことも心理的障壁を下げている。中国ブランドの店舗が現地に根を下ろしていることも、異国での生活に安心感を与えている。

しかし東南アジアへの移住には多くの問題も付きまとう。例えば医療面では「私立病院は診察代が高く、公立病院は受診が困難」というジレンマが深刻だ。多くの移住者は年間数万元相当(5万元は約110万円)を投じて民間保険を利用することで自衛している。いずれにせよ病気のリスクは、越境定年後生活についての最大の懸念事項だ。

経済面では、現地通貨の対元為替相場の上昇が、「家計の計算」を狂わせる要因になり得る。また、一部のビザを除き現地での経済活動が禁止されているため、限られた資金で個人や家族の生活を長期間保障するための徹底した長期財務計画が不可欠だ。

さらに、公共交通網の未発達な地域での移動の不便さや、マナーの違いによるストレスなど、日常生活の細部における適応能力も問われることになる。

東南アジアでは、中国人移住者を対象にする教育、医療、保険、不動産などによる巨大産業群が形成されつつある。マレーシアのチョン・キン・シン観光・芸術・文化相によれば、2024年6月のMM2Hの改定後わずか1年余りで約3000件の申請があり、8億リンギ(約310億円)を超える大きな経済効果がもたらされた。

移住を成功させるには、一時の熱狂に流されず、ノービザ期間などを活用して現地の生活を実地に体験し、自身のライフスタイルとの整合性を冷静に見極める必要があるという。

東南アジアにおける中国人越境定年後生活は、個人の人生設計と受け入れ国の誘致政策が合致した結果だ。今後もこの流れは進行し、現地の関連産業の一層の成熟を促すものと考えられる。ただし、その背景には、故郷を離れてまでも安定した老後を確保せねばならないという、現代中国社会が抱える構造的な圧力が存在することも見逃せない。移住者らは、異国の地で現地の文化に溶け込みながらも、自身のルーツである中華の習慣を維持し、新しいアイデンティティを形成しつつある。このダイナミックな人口移動は、東南アジア諸国の社会構造や経済に長期的な影響をもたらし続けるはずだ。(翻訳・編集/如月隼人)

中国で退職後のタイ、マレーシア、シンガポールなどへの移住が注目―中国メディア
チェンマイ

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