英国のノッティンガム・トレント大学准教授を務める、華人建築学研究者のシン・ヤンガン氏が執筆した北東アジアにおける伝統的な暖房及び防寒法を紹介する文章が、オーストリア誌の「ザ・カンバセーション」ウェブサイト版にこのほど掲載された。シン氏は、北東アジアにおける伝統的な方法は、エネルギーがふんだんに使えなくなった英国にとっての参考になり得ると論じた。

なお、日本では古くから朝鮮半島で使われてきた床暖房が「オンドル」として知られている。中国北部ではほぼ同様の暖房が「炕(カン)」と呼ばれる。シン氏は文中で「Kang(炕)」の語を使ったが、本稿では日本人のなじみを考えて「オンドル」とした。以下は、シン氏の文章の主要部を再構成したものだ。

私が育った黒竜江省ハルビン市は間違いなく、世界で最も冬が寒い大都市の一つだ。冬の早朝に屋外に出れば、まつげが凍りつく。しかし私は、いつも暖かいオンドルの上で目を覚ました。中国北部で暮らす人々は、欧州で主流のラジエーターやガスボイラーとは全く異なる方法で、厳冬を過ごしてきた。

英国の大学で建築を研究する私は、英国は恐らく中国のこれらの伝統的な知恵から多くを学べるはずと気づいた。英国の冬季のエネルギー料金は高騰し続けており、暖房費を負担するのが困難な人もいる。また、気候変動が冬をさらに不安定にしているため、効率的で低エネルギーの暖房方式が切実に求められている。

私が子供のころに親しんだオンドルは、中国北方で数千年にわたり使用されてきた、土とレンガで作られた部屋の加熱装置だ。家具というより建築そのものの一部で、中身の詰まった台面は台所の竈(かまど)とつながっている。火を使って煮炊きをすると、熱い排気が床下の空洞部を通ることで全体が均一に昇温する。

オンドルは何百キログラムもの固められた土で作られており、いったん温度が上がると、数時間かけてゆっくりと熱を放出する。ラジエーターもなく、ウォーターポンプも必要ない。しかも、熱の多くは料理に必要なかまどの火に由来するために、燃料も節約できる。オンドルは現代の暖房システムでは達成しがたい目標、すなわち極めて少ない燃料で持続的な温かさを提供することを実現した。東アジア全域において、厳寒に対応する暖房方式は似たような原則に従っている。熱を人体に近づけ、必要な空間だけを加熱することだ。

暖房されるのはオンドルだけなので、部屋自体は寒いかもしれないが、人々は厚手の毛布をかけてオンドルの上に横になったり座ったりして体を温めることができる。

オンドルを使うには、家族総出で仕事をせねばならなかった。私の父は中学校の国語教師で技術者ではなかったが、オンドル建造の「専門家」だった。夜通し火を絶やさないよう、火の周りに石炭を丁寧に積み上げるのは母の仕事だった。今振り返ると、どれほどの技術と労力が費やされていたことか。

オンドルには手間がかかるという欠点があるが、現代の暖房システムがまだ実現するのに苦労していること、つまり、非常に少量の燃料で長時間暖かさを保つという機能を備えていた。

欧州でもかつては、同様の知恵が出現した。例えば、古代ローマ人は床下の暖房システムを利用して建築を暖めた。しかし20世紀になるとセントラルヒーティングの普及がこれらの伝統的な方法に取って代わり、よりエネルギー消費の高いパターンを生み出した。例えば家に一人しかいなくても、建物全体を均一な温度まで加熱するようになった。この方式はエネルギー価格が安価だった時代は有効だった。しかしエネルギー価格が上昇するにつれ、数千万人の欧州人はすでに住居の適切な温度を維持できなくなった。

オンドルおよびその類似の伝統的方法は、快適さは必ずしも常により多くのエネルギーを消費することでもたらされるのではなく、むしろ知恵を使った設計に由来するのかもしれないということを我々に教えてくれる。(翻訳・編集/如月隼人)

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