中国で春節(今年は2月17日)といえば、帰省した家族が集まって料理を楽しみ、話に花を咲かせるというものだ。改革開放前は、娯楽が少なかったため、春節の集まりは、いつもと違うものが食べられ、酒もたくさん飲めるため、一種の娯楽だった。
これまでは、春節に年長者にあいさつすることは礼儀とされ、家族そろってあいさつに行くのが当たり前のことと捉えられていたが、若者にとっては、煩わしいことだ。というのは、年長者から「成績はどうだ」とか、「結婚はまだか」「子どもはまだか」といったあまり言いたくないことを聞かれるからだ。
春節のあいさつは業者にお任せ、「あいさつ代行サービス」の中身とは?
仕事で春節に帰郷できない人に向けて、河南省の配送プラットフォーム「UU跑腿」が春節のあいさつ代行サービスを今年(2026年)1月にリリースした。これは、帰郷できない顧客に代わって年長者へのあいさつ、春節の贈り物の購入などを請け負うものだ。
このサービスには三つのセットがある。一つ目は「春聯貼り代行セット」で、内容は春節の飾り付け(春聯、福の字)の代理購入・飾り付け代行、周りの掃除で、値段は69元(約1500円)。二つ目は「春節あいさつ代行セット」で、内容は春節の贈り物の代理購入・配達、年長者・友人への年始回り(1回につき3軒まで)で、値段は199元(約4400円)。三つ目は「年長者へのあいさつ代行セット」で、内容は贈り物の代理購入・配達、1分間の祝いの伝統的儀式、全過程の録画で、999元(約2万2100円)だ。
サービス内容を見ると、春節を迎えるための準備作業、迎えてからの事柄を代行するものだ。春聯貼りは筆者も経験があるが、一人で貼ると曲がったりするので、きれいに貼るのはなかなか難しく、一人暮らしの高齢者には需要がありそうだ。
「カネを払って親孝行か?」、サービスに賛否
ただ、親の立場から考えれば、見知らぬ人にあいさつされるのはあまり気持ちのいいものではない。「そこまでして帰るのが嫌なのか」と思ってしまう。また、「形式主義」のような感じがして、温かみを感じない。
これについて、ネットでは「市場に需要があるからだろう」「少し変だが、カネを使って春節のあいさつをすることも、大切にしていることじゃないのか」といった肯定的な声がある一方で、「あるものは『外注』できない」、「動画で頭下げればいいんじゃないのか」という否定的な声もあり、賛否が分かれている。
10日付の中国紙「新京報」の評論は、「(春節の)年越しに目上の人に頭を下げてあいさつするのは、カネを払って代わりにしてくれる人を探していいのか。(代行サービスを)支持する者は現代の親孝行で仕方のない補完物と見ており、反対する者は荒唐無稽なビジネス上の小細工と批判しているが、多くの人の心には説明できない不快感が漂っている」と述べているが、その「不快感」というのは、「行き過ぎた商業主義」「春節の形骸化」ではないかと思う。
前述のように、かつての「娯楽」だった春節の集まりは、すでに若者の「お年玉回収」の場と化している。筆者のような中年くらいの人も、「話すことはないけど、毎年行っているから」と「お付き合い」の感覚だ。こうしたことがあるため、全然あいさつに行かないのはまずいから、業者に代わりにあいさつしてもらおうと考えても不思議ではない。
ただ、同紙評論が述べているように、「現代社会では、サービスの『アウトソーシング』が一般的だが、核心的な人倫の情の表現に関わるものは、一般的に取引不可能な範疇(はんちゅう)とみなされる」。
こうした背景には、企業間の競争がある。周知のように、現在の中国経済はかつてのような勢いがなくなっており、人々は限られた予算でいいものを買うという「選ぶ消費」に変わっていることから、企業間の競争が激しくなっている。電気自動車(EV)産業での「内巻」と呼ばれる「内なる競争」は有名だ。
競合他社との「差別化」を図るため、特色あるサービスを生み出すことは、競争に勝つためには当然のことだ。
モノより感情!あいさつ代行サービスは消費高度化の一形態?
消費形態から見ると、春節あいさつ代行サービスは、「情緒経済」の一つといえる。13日の「央視新聞」の「央視財経評論」は、「情緒経済」とは「本質的に感情価値(エモーショナルバリュー)を主な効用の源とする消費活動であり、消費者は製品の機能よりもそれに伴うリラックス、癒し、社交的な相互作用などを重視する」と述べている。業者が提供するモノ、サービスがもたらす「感情」を重視するもので、ペットを飼うことや猫カフェに行って癒されるのはその典型だ。
「央視新聞」によると、2024年の中国の「情緒経済」市場規模は2兆3077億元(約51兆1500億円)に達し、2029年には4兆5000億元(約99兆7500億円)を突破する見込みで、中国の消費者が感情的要素を持ったものを求めており、今後有望な消費形態であることが分かる。
春節あいさつ代行サービスも、内容から考えると、「あいさつする側の気持ちを伝える」「サービスの受け手に感動を届ける」というものといえる。だが、ペットなどの「情緒経済」と違うのは、このサービスは親孝行という道徳に関わるものなので、意見が分かれた。そのため、運営会社の「UU跑腿」は11日、サービスの提供を取りやめると発表した。
サービス自体が悪いと筆者は思わない。サービスの中で、依頼者本人のメッセージを流すなど、本人が何らかの形で関わっていれば、批判されるものにはならないのではないかと思う。
このサービスは消費の高度化の一形態として捉えても良いのではないかと思う。











