米国はイランへの軍事作戦を理由にトランプ大統領の訪中を延期したが、米中首脳会談にどう響くのか。また、ウクライナ戦争への影響はあるのか。

新たな貿易摩擦要因も

周知の通り米中首脳会談は当初3月末から4月初めの予定だったが、5月14、15日に延期された。この新たな日程が米側から公式発表される少し前、パリで米中の閣僚級貿易協議が開かれた。協議には米側からベセント財務長官とグリア米通商代表部(USTR)代表が、中国からは何立峰副首相がそれぞれ出席、昨年10月韓国でのトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談後の“貿易戦争休戦”を踏まえ米中首脳会談への地ならしが行われた。同協議では融和ムードが維持され、新たな首脳会談実現へと順調にステップが進むと思われた。

しかし、首脳会談の延期で米中関係進展へのモメンタムがいったん止まった印象は否定できない。両国間では追加関税の引き下げや中国のレアアースなどの輸出規制強化の1年間停止で合意が成立していたが、首脳会談延期の期間は今から約1カ月もあり、この間に新たな摩擦要因が起きる可能性が指摘される。トランプ政権は米最高裁での相互関税に関する違憲判決を受け通商法122条に基づき一律10%、その後15%の関税を導入した上、中国をも対象に新たな関税措置の発動に向けた動きを見せており、これに習近平政権が反発することも考えられる。

米中とも首脳会談への思惑外れるか

イラン戦争をめぐっても米中間の対立が表面化しないとも限らない。中国は米国のイラン攻撃について「国際法違反」とする立場をとっているものの、米中首脳会談を控えトランプ政権への直接的批判は避けてきた。

だが、中国はイランと「包括的協力協定」を結び、同国産原油の8割以上を輸入してきたという事実がある。トランプ大統領はホルムズ海峡の事実上の封鎖の解除に向け中国が協力しないと文句をつけたこともあるだけに、習近平主席との会談で中国への不満を口にする可能性は否定できない。また、トランプ大統領、習近平主席は共に今度の米中首脳会談を成功させ、国際社会に向け2大国としての存在感をアピールしたかったはずだ。

しかし、両者の思惑通りにはならないかもしれない。イラン戦争でトランプ政権に対する国際的批判が広がりつつある一方、習近平政権は「覇権主義への反対」を掲げてきたにもかかわらず、友好国イランの積極的な支援に動かず、新興国の間では中国への疑念が生じているとも伝えられる。

こうした状況では米中首脳会談で成果が出たとしても、双方にとってはそれを大々的に宣伝できるような国際環境にはないといえるだろう。

ウクライナへの武器供与に支障説

ウクライナ情勢にはイラン戦争の影響が既に及んでいる。米国の仲介によるロシアとウクライナとの3カ国協議の開催予定に狂いが生じた。3カ国協議は1-2月、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで2回、2月中旬にスイスのジュネーブで3回目が行われた。第4回は3月上旬、再びアブダビで開催の予定だったが、イラン戦争のため実現しなかった。仲介役の米国のウィトコフ中東特使とトランプ氏の娘婿クシュナー氏がイランへの対応にも直接かかわっていたからだ。

もう一つ見過ごせない点は、米国がイラン戦争に戦力を集中するため、ウクライナ向けの武器供給に支障が出るとみられることだ。米有力メディアはウクライナへの弾薬やパトリオットなどの防空ミサイルの供給が今後数カ月間滞る恐れがあると米国防総省内で懸念が増していると報じている。特にパトリオットはロシアの弾道ミサイルを迎撃するためにウクライナには不可欠であり、供給がストップすればロシアとの戦争でウクライナが決定的に不利になるとの軍事専門家の指摘もある。

さらにウクライナにとって懸念されるのは、トランプ政権が原油高騰対策としてロシアに対する制裁を緩和し、各国によるロシア産原油などの購入を一時的に容認したことだ。これによりロシアは新たに100億ドルの戦争資金の入手が可能になるとの試算もあり、継戦能力を向上させることが可能になるとの見方も出ている。米国とイランの間で2週間の一時停戦で合意したとはいえ、イラン戦争の行方次第では国際情勢にさらに影響が出てくるだろう。

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