Coffee & Cigarettes 07 | 大木伸夫(ACIDMAN)
ここは都内某所の隠れ家的なバー。生い茂る観葉植物と、座り心地の良いソファ。渋いソウル・ミュージックが流れる落ち着いた空間で、1人タバコをくゆらす男がいる。昨年、結成20周年を迎えたロックバンド、ACIDMANのヴォーカル&ギターを担当する大木伸夫だ。もはやトレードマークともいえるボルサリーノを被り、バンド仲間である山根敏史(toe)が手掛けるファッションブランド、「F/CE.」のロングジャケットを羽織ったその姿は、店の壁にかけられた名盤レコードのジャケと同じくらい絵になる光景である。
「タバコは割と、早い時期から吸っていましたね。親父も吸っていたし、じいちゃんもパイプで楽しんだりしていて。その様もカッコよくて”大人の嗜好品”という感じで最初からいいイメージでした」
吸い始めの頃は、煙たくて「美味しい」とは思えなかったが、「これで大人の仲間入り」という気がした。銘柄もいろいろ試したが、10年くらい前から「ナチュラル アメリカン スピリット」に落ち着いている。
ネイティヴ・アメリカンの思想に以前から興味があった大木は、そんな企業の考え方にも共感し吸い始めた。無添加で長持ちするところや、葉巻っぽい味も気に入っている。そんな彼のこと、タバコにまつわるツールにもこだわりがあるのかと思いきや、そこはまったく無頓着だった。
「昔はジッポーとかマッチとかこだわっていたけど、すぐ無くしてしまうしね」と笑う。
ACIDMANは、大木と佐藤雅俊(Ba)、浦山一悟(Dr)による3人組。ロックはもちろん、ジャズやソウル、ハードコアなど様々な音楽スタイルに影響を受け、静と動を行き来するダイナミックなバンド・アンサンブルと、美しいメロディを時に優しく、時にエモーショナルに歌い上げるヴォーカルが特徴である。結成当時ギタリストだった大木は、前任のヴォーカル脱退を機に歌詞を書き歌うこととなる。が、いざとなると何も書くことがない自分に気づいてしまう。
「そのときに思い出したのが、子どもの頃から好きだったこと、思い描いていたこと。例えば宇宙や生命、その生まれ変わりについて思いを馳せることが、僕は大好きだったんです。だったらそれを曲にして歌ってみようと。
また、薬剤師の資格を持つ大木の歌詞には、化学や科学にまつわる専門用語(”シナプス””コロイド”など)が多く用いられている。他にも宗教用語や古代ヨーロッパ文化に関連する用語など、他のミュージシャンがあまり使わない言葉が並ぶ。そういえば以前、彼にインタビューをしたとき、ノーベル化学賞を日本人が受賞したというニュースに、ひどく嫉妬していたのを思い出した。
「そんなことありましたっけ?(笑) でも、確かに僕は、この世界の仕組みを解明したいという気持ちで歌詞を書いているので、そんな気持ちになってしまったのかもしれませんね」
実際、昔の科学者は詩人からヒントを求めることもあった。「世界の成り立ちを研究していた科学者が、詩人のふとした一行に閃くなんてロマンティックだと思いませんか?」と大木は瞳を輝かせる。そんな彼はもちろん、大のSF好きでもある。最近観た映画では、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『メッセージ』に感銘を受けた。
「数年前にクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』を観たとき、”これを超えるSF映画を、俺は生きている間に観られるのだろうか?”って思ったんですが(笑)、同じくらい感動しました。音楽も映像も。オチも素晴らしかった。テッド・チャンのあの短編小説を、ここまで壮大なスケールにするなんて驚きです。

歌詞と同様、曲の作り方も大木はユニークだ。「なるべく、他の音楽から影響を受けたくない」という理由で、例えばミュージシャン仲間からもらったCD以外、普段はまったく音楽を聴かない。唯一聴くのはアイスランド出身のバンド、シガー・ロスで、それは楽曲というよりもサウンドの響きや質感に惹かれるから。
「アイスランドが好きなんですよ。数年前に行ったことがあるのですが、素晴らしい体験でした。レイキャヴィクという小さな首都に滞在したのですが、そこからクルマで30分くらい行くと、地球がまさに生まれた46億年前の姿がむき出しになっていたり、一面苔に覆われた幻想的な場所があったり。まさにファンタジーの国でした」
余談になるが、大木はそこで不思議な体験もしている。たまたま入った小さなライブハウスでロウ・ロアーの演奏があり、終演後に楽屋へ挨拶に行ったところ彼らのスタッフから呼び止められた。
「『お前、ACIDMANだろ? お前たちが10年前に出したアルバム、ずっと好きで聴いているんだ』って。ビックリしましたね。そんなこともあるんだって」
楽曲ではなくサウンドの響きや質感を求める大木は、最近レコードだけは聴くようになったという。
再び目を輝かせる大木。耳で聴き取れない波長を肌で感じるのが心地よく、毎日、何時間も聴いている。「最近は、ウィスキーを家で1人チビチビ飲んでいる」そうだが、アナログを聴きながらのウィスキーはまた格別だろう。
「チェイサーを用意して、喉を痛めないよう気をつけながら飲んでます(笑)」
元々は日本酒が好きで、赤提灯みたいなところで仲間たちと飲みに行くのが定番。ライブの後、メンバーやスタッフ、対バンしたメンバーたちと飲むことも多いが、ミュージシャン以外の交流も多岐にわたる。
「外で飲むときは、もっぱら日本酒です。よく磨かれた、甘味のしっかりする純米大吟醸が好きですね。最近だと新政の『瑠璃(ラピス)』という、秋田のお酒が美味しかったな。ウィスキーはまだ覚えたてなのですが、『イチローズ・モルト』という埼玉県・秩父市のウィスキーが良かった。僕は埼玉出身なので親近感も湧きますね」
ここへきて、ウィスキーやアナログ・レコードにこだわり出したのは「高校生の頃から好きだった村上春樹の影響もあるかも」と明かす大木。

「あらためて良さに気付かされ、やはり自分の表現の原点は、ここにもあるなと感じました」
さて、今年でACIDMAN結成から21年目に突入し、8月には41歳を迎えた大木。これからの展望についてはどのように考えているのだろうか。
「去年のアニバーサリーで、自分たちは本当にたくさんの人たち、ファンに支えられてここまで来たんだなということを肌で感じて。しかも、まだまだやれることは山ほどあるし、もっともっと自分たちを知ってもらいたいという気持ちがあるんです。いい曲を作って、いいライブをしたいという気持ちが、結成当時と同じくらい強くなっているのが自分でもうれしいんですよね」
タバコをくゆらすその表情に、重ねてきた年齢の深みを感じさせ、かと思えば好きな映画や本、レコードの話では、まるで少年のように無邪気な笑顔を見せる。そのギャップこそが大木の魅力であり、ACIDMANの原動力なのだろう。

『ACIDMAN LIVE TOUR ”Λ” in 日本武道館』
ACIDMAN
ユニバーサルミュージック
初回限定盤【Blu-ray】(TYB T-19025/6)
初回限定盤【DVD】(TYXT-19016/7)
111月28日発売
ACIDMAN LIVE TOUR ”ANTHOLOGY 2”
2019年3月2日(土)沖縄・桜坂セントラル
2019年3月11日(月)福島・いわき芸術文化交流館アリオス中劇場
2019年3月15日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
2019年3月21日(木)香川・高松オリーブホール
2019年3月23日(土)宮城・仙台Rensa
2019年4月6日(土)福岡・Zepp Fukuoka
2019年4月7日(日)岡山・岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2019年4月13日(土)石川・金沢EIGHT HALL
2019年4月21日(日)愛知・Zepp Nagoya
2019年5月10日(金)北海道・サッポロファクトリーホール
2019年5月17日(金)東京・Zepp Tokyo
料金:前売り4800円