クイーンのドラマー、ロジャー・テイラーは初めてアダム・ランバートが歌うのを見た時のことを鮮明に記憶している。それは2009年前半のことでその27歳のシンガーはアメリカン・アイドルでの信じられないようなパフォーマンスで世界中のニュースの見出しに取り上げられた。「アメリカにいる俺の友達から『アメリカン・アイドルに出てるやつをチェックした方がいい』って言われたんだ。そしてグーグルで検索してみた。彼の声は驚異的だったよ。彼はどこかエルヴィスのような雰囲気があって『わお、なんて声なんだ!なんて音域なんだ!』って思ったんだ」と2014年、テイラーはローリングストーン誌に語った。
テイラーはクイーンのギタリスト、ブライアン・メイと共にロサンゼルスに向かった。その時の彼はまだ知らなかったがアメリカン・アイドルのシーズン・ファイナルで『ウィ・ウィル・ロック・ユー』をランバートと演奏するためだ。それを持ってしてもクリス・アレンを負かすには至らなかったがクイーンにそれが特別な何かの始まりになるのではないかと考えさせるきっかけとなった。この2年前クイーンはポール・ロジャースとの関係を解消していたため新しいシンガーを探しているところであった。アメリカン・アイドルのツアーやその後のソロデビューの準備があったためその時ランバートはすぐにクイーンとの活動ができる状態ではなかったが、2011年にMTVヨーロッパ・アワードでクイーンと3曲の演奏し、さらにその先の具体的な話をし始めた。
プロジェクトのトライアル的な意味合いで2012年夏に短いヨーロッパツアーが行われることとなり、大規模なAIDS慈善コンサートの一環として6月30日にウクライナのキエフで始まった。
クイーン+アダム・ランバートは2014年まで正式なツアーを行うことはなかったがそれ以降は毎年ツアーを行っている。ポール・ロジャースには失礼になってしまうがフレディ・マーキュリーの時代以降、ファンがこれほどまでクイーンのライブに満足したことはなかった。フレディの代役を果たすことは不可能であるが、ランバートは”彼以上の適役は考えられない”と言える初めてのシンガーである。今のところ次のライブ日程は出ていないがクイーンの新作映画『ボヘミアン・ラプソディ』によって新しい世代のファンが生まれるであろう。そんな機会を十分に生かさず、もしランバートとのツアーを行わないとしたら彼らはどうかしていると言ってもいいだろう。