ダリオ・アルジェント監督による伝説のホラー映画を、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が再構築した『サスペリア』が1月25日(金)より全国ロードショーされる。レディオヘッドのトム・ヨークが劇伴を担当。
「人間の身体が、本来あるべき方向とは違う方向へ曲がってゆく感覚に襲われる」とローリングストーン誌も評し、衝撃的すぎる内容に賛否両論が巻き起こった本作について、グァダニーノ自身が語ってくれた。

―新しい『サスペリア』はダリオ・アルジェント監督のオリジナルと設定がかなり異なっていますね。舞台がクラシック・バレエの学校からよりモダンなダンスの学校に変更されていたり……。

グァダニーノ:そうだね。オリジナル版のレプリカを求める人は、新しい『サスペリア』を気に入らないかも知れない。ダンスは言語であり、黒魔術も言語だ。2つの言語を絡ませることで、興味深いものが生まれると考えた。ダンサー達の人間関係にも魅力を感じたし、その部分を強調したかった。ダリオの映画では、実はバレエのシーンそのものはきわめて少ないけど、私はダンスを物語のひとつの軸にしたかったんだ。それにはより肉体の欲求が噴出する、モダンなダンスが相応しいと感じた。

―アルジェントの『サスペリア』は極彩色のヴィジュアルがインパクトを持っていたのに対し、あなたのヴァージョンは灰色のベルリンの壁や曇り空など、モノトーンを基調としていますが、そんなコントラストは意識したものですか?

グァダニーノ:2本の映画の違いについて会話を続けることは出来るけど、それは不毛だと思う。私の『サスペリア』はダリオの『サスペリア』を模倣したものではないし、また否定するものでもないからね。
私は2本の映画が、それぞれ独立して存在することを願っている。私の『サスペリア』がダリオのようにカラフルでないのは、彼の『サスペリア』と比較するためではない。単に自分としての表現をしたかったからなんだ。

―あなたの『サスペリア』は”リメイク””再構成””再解釈”のどれに当たるでしょうか?

グァダニーノ:どれでもない。”ルカ・グァダニーノの映画”だよ。

ルカ・グァダニーノ監督が語る『サスペリア』とトム・ヨーク、1977年のベルリンとボウイ

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―『サスペリア』以外で、もし既存の映画作品を”ルカ・グァダニーノの映画”化するとしたら、候補はありますか?

グァダニーノ:いや、幾つもの候補の中から『サスペリア』を選んだわけではなく、最初から『サスペリア』を作ることだけを考えていたよ。もし権利を獲れなかったとしたら、別のプロジェクトをやっていただろう。

―あなたの『サスペリア』では極左テロ組織のドイツ赤軍/バーダー・マインホフが重要な位置を占めていますが、それはどんな意図があったのですか?

グァダニーノ:魔女の集会と、外界の社会不安と抑圧を重ね合わせたんだ。ダリオの『サスペリア』が公開された1977年という時期を舞台にしたことで、すべてがピッタリはまった。

―『サスペリア』を作るにあたって、黒魔術やサバトを研究しましたか?

グァダニーノ:イタリアの歴史家カルロ・ギンズブルグの著作を読んだり、それなりの研究はしたよ。ただ、必ずしも正統な儀式のしきたりを踏襲はしていない。

ルカ・グァダニーノ監督が語る『サスペリア』とトム・ヨーク、1977年のベルリンとボウイ

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―10歳のときに『サスペリア』のポスターを見かけて、それ以来魅了されてきたと語っていますが、どんなホラー映画から影響あるいはインスピレーションを受けてきましたか?

グァダニーノ:1970年代のホラー映画が好きなんだ。
それとデヴィッド・クローネンバーグはいつの時代の作品も大好きだよ。彼の作品はすべてが最高だ。彼は駄作を作ったことがない。全作品が傑作だ。彼の最新作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』は直接的なホラー描写やモンスターが出てこなくても、ハリウッドを舞台にしたホラー・ストーリーだよね。

―(グァダニーノ監督が生まれ育った)イタリアには豊潤なホラー映画の歴史がありますね。

グァダニーノ:もちろんダリオ・アルジェントの作品は大好きだ。他にもいろいろ好きなものはあるけど、具体的なタイトルは浮かばないな。ルチオ・フルチの作品も見たし、とても気に入っているよ。

―イタリアでは数多くのホラー映画の名作が作られてきましたが、時に”ジャーロ映画”と偏見を持たれたり、低く見られたりもしてきました。『君の名前で僕を呼んで』でアカデミー賞候補となったあなたが”ジャーロ映画”を作った!?と驚きの声もありましたが……。

グァダニーノ:「俺はアカデミー賞ノミネート監督様だ」なんて天狗になるぐらいなら、ビルの屋上から飛び降りるよ。
そんなことより、自分の作りたい映画を作る方が重要だ。

―1977年のベルリンといえばデヴィッド・ボウイが滞在していたことでも知られていますが、作中にボウイのポスターが一瞬出てきますね。

グァダニーノ:うん、オリヴィア・アンコーナが演じる登場人物(マルケータ)がボウイのファンという設定なんだよ。実は女の子たちがボウイのコンサートに行くというシーンも撮影したんだ。最終的に収録されなかったけど、”裏設定”としてボウイは作品内に存在するんだ。

―あなたはボウイの音楽のファンですか?

グァダニーノ:羞恥というものを知っている人間ならば、ボウイのファンでないなんて言うことは出来ない。彼の才能の前に頭を垂れるのみだ。 ボウイのように人間を超越した存在の偉大さに対して、私は疑問を抱くことなどない。

―音楽界でボウイ以外に”人間を超越した”アーティストを挙げるとしたら?

グァダニーノ:ケイト・ブッシュはその1人だろうね。

―『サスペリア』の音楽にトム・ヨークを起用した経緯を教えて下さい。

グァダニーノ:レディオヘッドは我々の世代において最も重要な音楽グループのひとつだ。トムはバンド外でも素晴らしい才能を発揮しているし、彼に頼むことは最も理性的な行為だった。
彼とコンタクトを取って、数回会って、どんな音楽を作るか話し合った。類型的なホラー映画の音楽にはしたくなかったんだ。より独自性がある、トムのパーソナルな面が現れた音楽にしたかった。トムはもちろんダリオの『サスペリア』のファンだったし、話は早かった。あの映画は世界中、特にイギリスのミュージシャン達には多大な影響をおよぼしたんだ。

―もしトム・ヨークがやりたくないと言ったら、どうしていましたか?

グァダニーノ:おそらく既存の曲を使っていただろうね。シェーンベルクを使っていたかも知れない。幸いトムは快諾してくれたよ。

―あなたは仕事から疲れて帰ってきて、どんな音楽を聴きますか?

グァダニーノ:そういう時は音楽は聴かない。すぐにベッドに入って眠るよ。それから朝起きて、美しい1日が始まる。その日によって、聴く音楽は異なるんだ。
最近聴いたのはジョン・アダムズだった。

―『胸騒ぎのシチリア』(グァダニーノ監督による2015年作)ではラルフ・ファインズがローリング・ストーンズの「エモーショナル・レスキュー」に合わせて踊るシーンが印象的ですが、どんな思いが込められているのでしょうか?

グァダニーノ:ローリング・ストーンズが退廃的だった時代のノスタルジアを表現したかった。でもありきたりのストーンズ・ナンバーは使いたくなかったし、彼らのポピュラーでない曲を使うことにしたんだ。『エモーショナル・レスキュー』はアルバムとしても決して愛されていないけれど、良い作品だと思うよ。

―あなたの次回作はボブ・ディランの『血の轍』を基にしたものになるのだそうですが、どのような映画になるでしょうか?

グァダニーノ:『血の轍』からインスピレーションを得た、独自のストーリーのある作品になる。ドキュメンタリーではないし、俳優がボブ・ディランを演じるわけではない。アメリカを題材にした映画をずっと作りたかったんだ。ディランの精神はアメリカに深く根差していると考えている。

―『君の名前で僕を呼んで』と『サスペリア』、そして『血の轍』には主題の連続性はあるでしょうか?

グァダニーノ:それは映画を見た皆さんがどう考えるか、だよね。どんな結論が導き出されるか、私自身興味がある。ぜひ『サスペリア』を見て、その答えを教えて欲しい。

ルカ・グァダニーノ監督が語る『サスペリア』とトム・ヨーク、1977年のベルリンとボウイ


『サスぺリア』
1月25日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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監督:ルカ・グァダニーノ『君の名前で僕を呼んで』
音楽:トム・ヨーク(レディオヘッド)
出演:ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ルッツ・エバースドルフ、ジェシカ・ハーパー、クロエ・グレース・モレッツ
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