スレンダーマンの伝説から、洗剤ボールをほおばるちびっこに至るまで、ぞっとするようなインターネット・チャレンジはずいぶん前から数多く存在し、親たちを震えあがらせてきた。こうした昔から続く悪習に、最近新たに加わったのがMomoだ。Netflixの『ブラック・ミラー』という作品の「秘密」というエピソードと、Blue Whaleを足して2で割ったようなものだと言われている。Momoは幼い子どもたちをターゲットに定め、WhatsAppで携帯番号を送信するようにそそのかし、一連の指令が書かれたメッセージを送り付ける。一風変わった指令は徐々に危険度を増し、はじめはホラー映画を見るというものだったのが、やがて自傷行為や自殺を命じるようになる。
Momoチャレンジの噂は当初、インターネット上の片隅でひそかに出回っていただけだったが、北アイルランド警察(PSNI)がFacecbookの投稿で、保護者らに子供たちのWhatsApp使用履歴をチェックするよう警告を発信したことで、最近になって再び注目を集めた。またインターネットの荒らし屋が、Momoの画像と自傷行為を促すメッセージを盛り込んだ子ども用動画を作成して、YouTubeにアップしているという報告もある。
北アイルランド警察
**子どもをターゲットにした自殺ゲーム**
最近、Momoゲーム最新版が出回っているとの情報あり
このゲームは、他の無害な子ども向けゲームに紛れています! ゲームの一部がYouTubeで公開されているとの情報もあります……
Momoとは何か? どこで生まれたのか?
たしかにMomoの画像は恐ろしいが、実際にはMomoチャレンジとは直接関係がない、と知っても誰も驚かないだろう。昆虫のような目をした、乱れ髪の亡霊のような少女の画像がMomoとセットになっているが、その正体は、ホラー映画の小道具や特殊効果を製作する日本の会社リンク・ファクトリーの相蘇敬介氏による彫刻作品。2016年8月、東京・銀座のギャラリー現(現在のヴァニラ画廊)で展示されていたものだ。鳥のような鉤爪は、出産中に死んだ女性が姿を変えるといわれている、姑獲鳥(うぶめ)の伝説から構想を得たものと思われる。
この画像はInstagramに投稿されるや、Redditの「r/creepy」というサブフォーラムでとくに話題となり、何千件ものupvoteやコメントが寄せられた。
Momoチャレンジの起源についてははっきりしていないが、噂によれば、最初はスペイン語圏で広まったといわれている。メキシコ当局の見解では、Facebookのとあるグループに端を発しているという。だがGoogleトレンドによれば、Momoチャレンジが英語圏で勢いを増したのは、ReignBotというYouTuberが2018年7月に作成した、Momo現象の全貌を明らかにする動画がきっかけだ。動画によれば、「Momoの」電話番号にメッセージを送ると、一連の奇妙な指令をコンプリートするよう指示をうける。指令は、深夜にホラー映画を見ろ、という無邪気なものから始まって、どんどん危険なものへと移っていき、しまいには自傷行為、さらには自らの命を絶つよう強いるようになる。指令を達成できなかった場合は、個人情報が暴露されたり、危険な目に遭ったりする。
ReignBotの動画はMomo現象の正体を暴き、これが比較的たわいもないきっかけから生まれたものであると示した。にもかかわらず、英語圏ではMomoチャレンジの危険を報じるニュースが広がりつつある。インターネットの安全性に関する「専門家」らの言葉を引用し、自分の子供がMomoをプレイしていないか、あやしい兆候に目を光らせるよう親たちに呼び掛けている。なかでもよく耳にするのがブエノスアイレスで自殺した12歳の少女のニュースで、彼女が自殺したのはMomoチャレンジが原因ではないか、というものだ。だがこのような噂は根拠に欠け、事実確認もとれていないようだ。
また、ペッパピッグのような子供向けキャラクターや、スプラトゥーンのゲーム画面をMomoの画像と編集して、子どもたちに自傷行為を指示する動画がYouTubeにあがっているという噂も浮上している。こうした動画は、ネット住民らが子どもを怖がらせる目的で作成したものとみられる。「再生をストップする見子どもいるでしょうが、影響されやすい子どもは見続けてしまうでしょう」と、全米自殺研究協会の理事メンバーで臨床心理士のエイプリル・フォアマン博士は言っている。
実際のところ、注意するべきか?
Momoチャレンジと、そこから生じる集団パニックは、Blue Whaleチャレンジの時と同様、なんとも気味が悪い。Blue Whaleは昨年ロシアを中心に広がった現象で、ロシアのマスコミの報道によれば、10代の若者たちが50日間にわたって一連の指令をこなし、最終的には自殺するよう促される、というものだ。
ネットで広まるチャレンジでよく見られるように、Blue Whaleチャレンジの噂の中には真実も含まれている。ロシアでは10代の自殺率が急増(過去最高の自殺率を記録)、フィリップ・ブデイキンという男性が逮捕され、ソーシャルメディア・ゲームを作成してブームを扇動したとして起訴された。だが嫌疑の大半はのちに取り下げられ、噂では、その後ブデイキンはいくつかのグループを結成して、音楽活動に専念するつもりらしい。
Blue Whaleと10代の自殺を結びつける別の噂も持ち上がったが、サンアントニオ在住の15歳の少年イザイア・ゴンザレスのように、そのほとんどは裏付けが取れていない。「(Momoチャレンジのようなゲームには)事実無根ですし、脅威を与えるという証拠もありません」というのは、民俗学者のベンジャミン・ラドフォード氏。CSI(懐疑主義的研究のための委員会)の研究員でもある彼は、Blue WhaleやMomoチャレンジのような現象は、「子どもの行動を知りたがる親心が引き起こした集団パニック」だと言う。
まっさきにMomoに対する警告を発した北アイルランド警察でさえも、人々がかなり過敏になりすぎていると感じているようで、Facebookにこのような投稿を掲載した。「オープンソースをざっと調査したところ、Momoを運営するのは個人情報を狙うハッカー集団であることがわかってきました。見た目はたしかに恐ろしいですが、Momoが携帯電話から這い出して、子どもたちを襲うということはありません」
とはいえ、メンタルヘルスの専門家らは、こうしたヒステリックな報道が逆に害を及ぼし、場合によってはコピーキャットを生む可能性があると警告している。例えば、親友をナイフで刺し殺そうとしたウィスコンシン州の12歳の少女らは、のちに、インターネット上の架空の人物スレンダーマンをなだめるためにやったと主張した。スレンダーマンが実在する証拠はなにもないが、ラドフォード氏はこの事件が「ひとつの教訓」だと注意を促す。「人々が殺人を実行するのに、スレンダーマンが存在する必要はないわけですから」
Momoチャレンジにまつわる危険性が誇張されているとしても、子どもたちがネット上で悪人の食い物にされる危険性がないわけではない。2017年、ITライターのジェイムズ・ブリドルが書いた記事によれば、YouTubeなどのプラットフォームには、アルゴリズムを悪用して、気分を害するしばしば暴力的な動画を作成するクリエイターであふれかえっているという。こうした動画はとくに子どもたちに狙いを定め、往々にして子どもに人気のキャラクターが使われているという。明らかにYouTubeは、こうしたコンテンツの摘発に消極的だ。さらに最近では、小児性愛者がYouTubeのコメント欄にたむろして、コメントにまぎれて児童ポルノのリンクをアップしていると報道されたのを受け、YouTubeの広告件数が減少している。
すべての都市伝説がそうであるように、「サイバー犯罪がたしかに存在し、性的倒錯もたしかに存在するという意味では、(インターネット上の自殺チャレンジにも)一理あるといえます」とラドフォード氏。「これらは現実です、実際に起きているのです。保護者や学校関係者が信じるのもうなずけます」
子どもがソーシャルメディア上の不快な画像にさらされるのを案ずる保護者らは、インターネットの使用について子どもと率直に会話をするべきだ、とフォアマン博士も言う。「親御さんたちには改めて申し上げたいのですが、道の反対側からキャンディを配って回る不審者の類は、新たなメディアにも存在しています」 子どもが使うデバイスすべてに閲覧制限やフィルター機能をかけたうえで、「(子どもに向かって)『これを解除したら、おかしなものを見るかもしれない。その時はちゃんと言ってね』と伝えるべきです」と博士。
ソーシャルメディア上で不快なコンテンツを目にする危険性は確かに存在するものの、ITに長けた社会病質者が謎の秘密結社を組んで、WhatsApp経由で子供たちとつながり、自殺を促すという考えはあまりにもバカバカしく、信じるには無理がある。「よく考えてみてください、大人が子供に自分の部屋を片付けさせるのも一苦労なんですよ。ばかげた指令を50日間連続でやらせるなんて、もっと大変だと思いませんか」とラドフォード氏は言う。
結局のところ、インターネットは子供にとっては恐ろしい場所であり、親たちは恐れてしかるべきだ。身の毛もよだつ日本の鳥女の彫刻をわざわざ持ち出す必要もあるまい。
追記:YouTubeでは、Momo現象が詐欺行為だと広く認知されたのを受け、今後Momoに関する動画から一切金銭をとらない形、つまり再生前、再生中、再生後に広告を掲載しないと発表した。権威ある報道機関によるMomo現象のニュース動画も含まれる。