音楽業界の主な収入源となりつつあるストリーミングサービスだが、新たに公開された経済的推移を示すデータは、各プラットフォームに対するミュージシャンたちの不信感を再燃させるかもしれない。

Spotifyはミュージシャンたちの支持を得ようと努力し続けている。
そのビジネスモデルと再生回数に応じてアーティストに微々たる額を支払うシステムが、トム・ヨークをはじめとするミュージシャンたちに公然と非難されて以来、Spotifyはショーン・メンデスやカミラ・カベロ、ジャスティン・ティンバーレイク等、数多くのアーティストたちと親密な関係を築き上げてきた。

アーティストとの関係改善はSpotifyによる必死のPRの成果であり、それはライバル企業にも恩恵をもたらした。しかし、新たに公開された経済的推移に関するデータは、ストリーミングサービス対するミュージシャンたちの不信感を再燃させることになるかもしれない。

イギリスのBritish Phonographic Institute (BPI)、そしてアメリカのRecorded Music Association of America (RIAA)の両団体は最近、注目すべき統計を発表した。Spotify、Apple Music、Amazon Music、Pandora、TIDAL等のストリーミング企業の成長により、音楽業界が前年比12パーセント増となる98億ドルの収益を上げたというRIAAの発表を含め、その統計は明るい兆しを示しているように思われた。しかしその内容を掘り下げてみると、実はアーティストたちにとって深刻な事態がもたらされつつあることがわかる。

音楽業界の収益をめぐる議論において、最大の争点は蓄音機の時代から変わっていない。それは発生したお金の行き先についてだ。半ば予想されたことだが、音楽業界が出資するRIAAとBPIの両組織による発表は、メジャーレーベルが受け取る金額と彼らがアーティストに支払う額の関係性を明らかにしていない(参考までに触れておくと、ワーナー・ミュージック・グループによる最近の発表によると、所属アーティストがSpotifyのストリーミングから受けとる印税は全体の約25パーセント程度とされている)

しかし、RIAAとBPIによる発表の内容を詳しく見てみると、そこにはSpotifyやApple Music等のユーザーが支払ったお金のうち、レーベルやアーティストに支払われる分ではなく、各ストリーミング企業の取り分が示されている。注目すべきなのは、その数字が過去数年で大幅に増加している点だ。

RIAAの発表は、アメリカの市場における「小売」と「卸売」の数字を示している。端的に言えば、前者は消費者が音楽ソフトに支払った額であり、後者はレコード会社とアーティストが受け取った額ということになる。
RIAAの統計では、小売と卸売の差額は各フォーマット(ストリーミング、CD、レコード、ダウンロード等)においてのみ公開されている。

それによると、2018年のアメリカの音楽産業の総収益98億ドルのうち67.3パーセント、つまり66億ドルが各レコード会社とアーティストに支払われている。言い換えれば、残りの32.7パーセントを各レコード店、ダウンロード販売サイト、そしてストリーミングサービスが受け取っているということだ。その数字は2017年からはほぼ変わっていないが、業界全体の収益(76億ドル)のうち68.4パーセント(52億ドル)がアーティストと各レコード会社に支払われた2016年とは差が見られる。

言い換えると、アメリカの消費者が「小売業者」(現在はストリーミングサービスが大部分を占めている)に支払ったお金のうち、2018年にアーティストと各レーベルが受けとった分のパーセンテージは、2016年と比べて1.1パーセント下がっているということだ。その数字だけを見れば微差に思えるかもしれないが、アメリカにおける音楽産業の総収益98億ドルの1.1.パーセントは、実に1億800万ドルに相当する。

この変化をもたらした主な要因のひとつは、2017年の前半にSpotifyが各メジャーおよびインディーレーベルと交わした契約だ。その内容は各レーベルがSpotifyから受け取る利益を、全体の約55パーセントから52パーセントに下げるというものだった。Spotifyが経済的により安定した企業へと成長するためにより多くのマージンを得ることを、レーベル各社が同意した形だ(この点が重要なポイントとなるので覚えておいてほしい)。

ストリーミングサービスはどの程度の額を受け取っているのか? イギリスに拠点を置くBPIが発表した内容と、Entertainment Retailers Association(ERA)が公開している売り上げに関するデータを照らし合わせると、ダウンロード販売およびレコードやCDのセールスを切り離し、Spotifyをはじめとするストリーミングサービスが手にする収益が見えてくる。

以下の表を見ればわかるように、ERAの発表によると、各ストリーミングサービスのイギリス国内における2018年の総売上は8億2910万ポンドにのぼる。一方BPIは、同年における各ストリーミング企業(ここでもアーティスト/レーベルへの分配率を公開している)の卸売総額を4億6760万ポンドとしている。


音楽業界の財源となったストリーミングサービス、利益分配に関する新事実


これらの数字は、イギリス国内におけるサブスクリプション型ストリーミングサービス各社が、総売上の56.4パーセントをレーベルとアーティストに支払っていることを示している。その数字は前年の57.6パーセントからやや下落しており、2016年の58.9パーセントからは2.5パーセント下がっている。この変化には、Spotifyが各レーベルと交わした先述の契約が大きく影響している。

業界標準とされているIFPIの年間レポートによると、昨年2018年にイギリスの音楽産業の市場規模は、アメリカと日本に次いで世界第3位となっている。イギリスが欧米の音楽産業の中心地のひとつであるという事実を前提に、同国における各収入源のトレンド傾向を前年のアメリカ市場に適用してみることにする。RIAAの発表によると、アメリカ国内における2018年度のストリーミングの「小売」収入は54億ドルであり、その他のフォーマットを含めた総収益の半分以上となっている。54億ドルの2.5パーセントは1億3500万ドルだ。

この変化は決して小さくない。言うまでもないが、アメリカはあくまで市場のひとつに過ぎない。レコード会社の同意を得てSpotify(およびその他の企業)が2017年に受け取ったマージンが、9桁におよぶ昨年のストリーミングサービスの総収益に反映されることは間違いない。

アメリカにおける作曲家が受け取る印税レート向上の決定に対し、異を唱えた4つの大企業のひとつがSpotify(その他はAmazon、Pandora、Google)であることが発覚し、先月同社が大きな批判にさらされたことを踏まえると、この事実はまた違った意味を持ってくる。著名作曲家や弁護士たちはこぞってSpotifyを「恥知らず」であり、「企業の存続を可能にしている人々に対する明確な攻撃だ」と非難した。
それに対し、同社は遠回しな表現を多く含む回答をブログに掲載し、そこには以下のようなくだりが登場する。「小売業者、アーティスト、作曲家、そして株主たちの収入源が同一である以上、自分の取り分を少しでも多くしたいという考えは皆同じです。しかしそのことが、ストリーミングサービスが支える音楽産業の成長を妨げてはなりません」

Spotify側の主張はこう言い換えることができる。「レーベルとアーティストたちへの支払いは我々のビジネスモデルを強く圧迫しており、作曲家(および彼らの出版権保有者)に対する支払いの増加はとどめの一撃になりかねない。アーティストとレーベルが受けとる割合を下げることで、作曲家と出版権保有者がより多くの額を受け取るようにするなど、全体のバランスをより公平なものに見直す必要があると我々は考える」

先述の統計を見れば、その提案にレコード会社をはじめとする業界の各団体が反対するのは必至だ。世界で最も有名なエレクトロニックミュージックプロデューサーの1人のマネージャーを務める人物は、先日「Spotify vs. 作曲家」というテーマについて筆者にこう語った。「Spotifyはこっそりとレジを開けようとしているところを見つかって、企業イメージを著しく悪化させた。でも音楽業界の人間は、Spotifyがこの産業を死の淵から救ったという事実を忘れてしまいがちだと思う」

彼の主張は事実だ。IFPIが発表した最新の統計によると、録音物を対象とする世界全体の市場は4年連続で成長しており、Napsterから始まった違法ダウンロードが横行する事態は完全に沈静化した。その原動力が、Spotifyをはじめとするストリーミングサービスであることは紛れもない事実だ。それらの企業が業界全体の利益からより多くのパーセンテージを受け取っているとしても、結果的にアーティストたちが受けとる額は増えている。

ストリーミングというテクノロジー、そしてSpotifyやApple Music等による巨額の投資によって、音楽業界は再び利益を生むことができるようになった。
しかし今も昔も、そのお金を誰が受けとるかという点が大きな問題になることは変わらない。

・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。
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