昨年のクリスマスイブに開催された京セラドーム大阪公演の終了直後、暴力的なまでの低音やレーザー/パイロを駆使した演出など、大バコ映えするショウとしての完成度の高さに度肝を抜かれた筆者は「このままコーチェラのSAHARAに出てもおかしくない」なんてツイートを投稿していたのだが、いやはや、まさかマジで実現するとは夢にも思わなかった。

Coachella Festival 2019のラインナップ・ポスター
BLACKPINKがコーチェラのポスターで2列目のスロットに配置されたことの凄さ。それがいまいちピンと来ないという読者には、韓国映画がアカデミー賞にノミネートされることと同レベルの快挙だと言えば分かりやすいだろうか(なお、「SAHARA」とはコーチェラ最大規模の屋内ステージで、EDMやヒップホップの大物アクトが多数出演)。どんな妄想さえ現実に変えてしまう彼女たちの八面六臂の活躍は、「FOREVER YOUNG」の歌詞に登場するセリフを借りるならば、ポップ・カルチャーにおける「革命(Revolution)」なのかもしれない。
鮮烈なカムバEP『KILL THIS LOVE』でコーチェラをロックオン
アメリカ進出の足がかりとしてユニバーサル・ミュージックの傘下インタースコープと契約し、2月には『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』への出演を含むTVデビューを果たしたBLACKPINKだが、4月12日のステージは米国内で初のフル・パフォーマンスであり、またコーチェラにK-POPのガールズ・グループが出演することも史上初。さらに通常のYouTube中継に加え、NY・タイムズスクエアの大型電光掲示板でもライブが生中継されるとあって、彼女たちに賭けるYGエンターテインメントの本気度が伺い知れる。今年1月にLISAの故郷タイ・バンコクでキックオフしたアジア・ツアーも、4月5日にドロップされた約10カ月ぶりのニューEP『KILL THIS LOVE』も、すべてはコーチェラの晴れ舞台に向けて照準を定めていたことは疑う余地もないだろう。
そして、YouTube史上最速の1億再生突破が話題となった新曲「Kill This Love」のMVも衝撃的だった。『スーサイド・スクワッド』のハーレクインを思わせるLISAのヘアメイクや、『トゥームレイダー』のララ・クロフトをパロったJENNIEの衣装など触れるべきポイントは多々あるが(4日間も徹夜して撮影されたのだとか)、けたたましいホーンとマーチングドラムに導かれる終盤のフォーメーション・ダンスは、明らかに昨年のコーチェラで最大のハイライトとなったビヨンセのステージ=ビーチェラを意識したもの。そのルーツをたどれば当然、社会的不平等や人種差別に訴えたジャネット・ジャクソンの「Rhythm Nation」もあるわけで、BLACKPINKの全曲を手がけるプロデューサーのTEDDYが、青春時代に韓国人として辛酸をなめたアメリカのショービジネス界にガチで殴り込みをかけた1曲だと考えると胸が熱くなる。「DDU-DU DDU-DU」のキリング・パートでは二丁拳銃を撃ちまくっていたBLACKPINKの4人が、ショットガン(大砲という説も)に持ち替えた殺傷力の高いダンスの振り付けも強烈だ。
かつてはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン復活の舞台としても選ばれる「硬派」なロック・フェスという印象を持たれていたコーチェラだが、史上4人目の女性ヘッドライナーに抜擢されたアリアナ・グランデと並んで、BLACKPINKの出演そのものがコーチェラの歴史をひっくり返し、これからの女性アーティスト躍進の追い風となる――。
グローバル&ジェンダーレスなファンを前に、満を持してバンド・セットを披露
うだるような暑さも和らぎはじめたフェス当日の18:30ごろ(BLACKPINKの出番は20:00)、メインの屋外ステージ「COACHELLA STAGE」でケイシー・マスグレイヴスの包容力たっぷりな歌声を堪能した後、筆者は裏のエラ・マイもロザリアも諦めて早々と移動し、BLACKPINKのひとつ前に出演したジェイデン・スミスのライブ途中から「SAHARA」で待機することにした。テスラの高級車を天井に吊り下げ、一生懸命スワッグなラップを繰り広げるジェイデンの姿は微笑ましくもあったが、VIPエリアでは出番直前のROSÉとJENNIEもぴょんぴょん飛び跳ねながらエンジョイしていたようだ。
転換のタイミングに乗じてステージ上手の2列目あたりを確保すると、ドラムセットが見えて思わずガッツポーズ。件のアジア・ツアーでもバンコクやジャカルタなど一部の都市でバンド・セットがお披露目されていたが、BLACKPINKのバックを務めたのは事務所の兄貴分=BIGBANGのワールドツアーにも参加したThe Band Sixという、アフリカ系アメリカ人を中心とした凄腕集団だ。バンマスでキーボード奏者のギル・スミス IIは、これまでにエミネム、クリス・ブラウン、レディー・ガガ、ブリトニー・スピアーズ、リル・ウェインといったトップ・アーティストのツアーやアワードで演奏した経験があり、EDM~トラップ以降のシーンで「生音回帰」がトレンドとなりつつあることをYG(というかヤン・ヒョンソク社長)が見越していたのだとしたら、その嗅覚の鋭さには心底恐れ入る。

Photo by Natt Lim/Getty Images for Coachella
半円形にせり出した巨大なステージの前には、コーチェラのマーチャンダイズ・ストアでも売っていた公式グッズのピコピコハンマーを光らせたBLINK(BLACKPINKファンの愛称)が大挙しており、韓国語や英語はもちろん、スペイン語、イタリア語、フランス語まで飛び交う現場のグローバル&ジェンダーレスな客層は壮観。最前列を陣取ったニコルというLA在住の女性ファンは、「日本旅行の後にフェリーで釜山に渡って、ソウルでBLACKPINKを見たことがあるの。でも、バンド・バージョンは私も初めて見るから超ヤバいよ!」と興奮した様子で筆者に話してくれた。かくいう筆者も5年ぶりにコーチェラ参加を決意したわけだが、BLACKPINKには人生を狂わせる魔力があるようで、『Vulture』にこの日のレポートを寄稿したジャーナリストのイヴ・バーロウ氏は、「私はもはやBLINKのひとりです」と告白していた。

Photo by Rich Fury/Getty Images for Coachella
定刻の20:00を少し過ぎて場内が暗転すると、波打つようにド派手&高解像度なLEDスクリーンにBLACKPINKの4人のアー写と名前が次々と表示され、怒号のごとき歓声と共に「JISOO!」「LISA!」「ROSÉ!」「JENNIE!」の掛け声が響き渡る。名刺代わりの「Kill This Love」でぶちかますだろうという予想は見事に外れ、ライブは定番の「DDU-DU DDU-DU」でスタート。
BLACKPINKがコーチェラで成し遂げたものとは?
セットリストはざっくり分けて二部構成となり、バック・ダンサーは全8名。「FOREVER YOUNG」ではJENNIEのラップに一字一句漏らさず追従するファンに圧倒されたし、惜しげもなく披露された「STAY (Remix version)」の合唱も感動的だったが、「Kiss and Make Up」(コーチェラなので期待したけど、デュア・リパの飛び入りはありませんでした)の後には、「SAHARA」に集まった大観衆に驚いたROSÉが「一体どれだけの人がここにいるの? こんなのCGに違いないって(笑)!」とMCでその嬉し恥ずかしな本音を吐露していた。コーチェラの1週目と2週目の間には現地のラジオ番組や『レイト×2ショーwithジェームズ・コーデン』などに出演していたBLACKPINKだが、今回の北米ツアーでは4人中もっとも英語が堪能なROSÉのリーダーシップに感銘を受けたBLINKも多いだろう。

Photo by Scott Dudelson/Getty Images for Coachella
LISAとROSÉがステージを端から端まで駆け抜けてオーディエンスのウェーヴを巻き起こすと、ROSÉの「ミス・ジェニー・K!」を合図にJENNIEの見せ場「SOLO」へ。フェスの尺の都合上、ソロ・コーナーが用意されたのは彼女だけとあって相当な緊張が伺えたが、リアーナとテイラー・スウィフトが同居したような挑発的&ガーリーな仕草でファンを魅了。The Band Sixによるシンフォニックかつ壮大なジャム・セッションを挟んでの後半戦では、パイプオルガンを模したホーンの映像が映し出され「待ってました!」と言わんばかりの喝采を呼んだ、「Kill This Love」からの新曲3連発だ。とりわけ、ROSÉの艶のある歌声とJISOOの美声コーラスが軽やかに飛翔していくEDMソング「Dont Know What to Do」の「SAHARA映え」は目を見張るものがあり、JISOOがアジア公演のソロ・コーナーで(同じくコーチェラに出演していた)ゼッドの「Clarity」をカバーしていたのは布石だったのかもしれない。続く「Kick It」は、リトル・ミックスの「Shout Out to My Ex」を彷彿とさせるサビの突き抜けっぷりが原曲以上に多幸感をもたらしてくれたし、客席から投げ込まれたハットをJENNIEとROSÉが被ってみせるキュートな一幕も。

Photo by Scott Dudelson/Getty Images for Coachella
「韓国からやって来た私たちは、まったく異なる文化を持つこの国で何を期待したら良いか分からなかった。でも今夜、音楽が私たちをひとつにしてくれるんだと学べたわ」というROSÉのMCに続き、JISOOが「今日という日を一生忘れないよ!」と告げると、LISAが「ラスト2曲!」と叫んで「BOOMBAYAH」と「AS IF ITS YOUR LAST」でクライマックスへ。場内を埋め尽くした数万人のオーディエンスによる「BLACKPINK in your area!」のコールは信じられないほど尊い瞬間だったし、4人がその長い手足や美しいロングヘアを振り回す一糸乱れぬシンクロには、周囲のBLINKからの絶叫が止むことはなかった。

Photo by Scott Dudelson/Getty Images for Coachella
振り返ってみれば、PAエリアにもカメラクルーにもローディーにも「BLACKPINK」のロゴ入りマスクを装着した韓国人スタッフが総動員だったし、舞台裏では一流のヘアメイクとスタイリストとマネージャーが見守っていたわけで、BLACKPINKのプロフェッショナルなパフォーマンスは、JISOO、LISA、ROSÉ、JENNIEの血の滲むような努力はもちろん、そんな「裏方」のチームワークの賜物でもある。時間も演出も制約だらけのフェスの舞台だけど、彼女たちの輝かしい挑戦は韓国の……ひいてはアジアに生きるすべてのアーティストに勇気を与えてくれたはずだ。
ちなみに、今年のコーチェラにはソウル出身のジャンビナイや、日本でも絶大な人気を誇るヒョゴといった韓国のバンドも名を連ねていたのだが(アジアという括りでは野口オロノ率いるスーパーオーガニズムやPerfumeも)、2020年のコーチェラにはBTSやNCTのようなボーイズ・グループが出演しても何らおかしくはないだろう。BLACKPINKがコーチェラ出演で成し遂げた功績は、目に見える部分でも、見えない部分でもあまりにも大きい。

Photo by Natt Lim/Getty Images for Coachella
コーチェラの楽屋では、ディプロやジェイデン・スミスらと交流する姿がインスタグラムで話題となっていたBLACKPINKだが、4月17日にイングルウッドのザ・フォーラムで行った単独公演には、ハリー・スタイルズ、DJスネーク、ベニー・ブランコ、レイニー、ファレル・ウィリアムスといった錚々たるセレブリティが顔を出したという(コーチェラの2週目では遂にアリアナと対面を果たせるのか?)。既にフィーチャリングやプロデュースのオファーは星の数ほど殺到しているだろうし、JENNIE以外のソロ・プロジェクトも未だ待機中という状態ではあるが、もはや彼女たちの行く先には明るい未来しか待ってない。
そして、BLACKPINKがますます遠い存在になってしまったと嘆く日本のBLINKに朗報。12月4日の東京ドームを皮切りに、3都市全4公演で20万5000人を動員予定のジャパン・ツアー「BLACKPINK 2019-2020 WORLD TOUR IN YOUR AREA in JAPAN」の開催が決定したのだ。夏には「サマーソニック2019」への出演も決定しているが、北米、ヨーロッパ、オーストラリア・ツアーを経て文字通りワールドクラスとなった彼女たちの「今」をどうかお見逃しなく。