「30代からは、深めていく作業をしていきたい」という想いから始まった、SixTONESの京本大我によるクリエイティブ・プロジェクト「ART-PUT」。30歳の誕生日には写真集『Retrace,』を発売、プロジェクトスタートから半年後には写真展『視点と始点』を開催と、いろいろな角度から”京本大我の表現”を刻んできた。


【写真】京本大我、Zepp Haneda公演の様子(全3枚)

そんな彼の”ライブならではの表現”が結実したのが、全国3都市4会場で行われた『BLUE OF LIBERTY』だ。タイトルにこめられているのは、「青く自由な感情をいつまでも忘れたくない」という想い。自らが作詞作曲を手掛けた楽曲の数々に、思い出深いナンバーを織り交ぜて、セットリストを構築。自身のルーツであるロックとこれまでのアイドルというキャリアをハイブリットに掛け合わせ、京本大我ならではのライブエンターテイメントを作り出したのである。本稿では、6月17日に行われたZepp Haneda(TOKYO)公演をお届けする。

開演時刻3分前になると、場内の照明が落ちて、ブルーの光を浴びたミラーボールがクルクルと回り始めた。あまりにもムーディーな雰囲気は、まるでダンスホールに紛れこんだかのよう。自然と沸き起こったクラップに誘われる形で、バンドメンバーが登場。ピンスポットに照らされ京本が姿を現すと、いよいよショータイムの始まりだ。

オープニングを飾ったのは、艶やかな歌声が映える「Die another day」。アイドルのライブともなると、登場するやいなや本人をスクリーンに映してもおかしくないものだが、『BLUE OF LIBERTY』は一味違う。まずは逆光を活かして、シルエットだけで魅せていく。
「まだかまだか」とファンを焦らし、”イエーイ”と声を張り上げるタイミングを狙って、顔面カットを投下。その瞬間、どんどん濃度が増していった興奮が爆発したかのような歓声が、場内に響き渡った。

掻き鳴らされるギターに導かれ、「WONDER LAND」へ。勢い止まらぬロックサウンドが、オーディエンスを丸っと飲みこんでいく。歌わないセクションが来るたび、メンバーと視線を交わす京本は心底楽しそうで、バンドというフォーマットへの愛が伝わってきた。レーザービームの群衆が幻想的な空間を作りだす「Over Dub」、MVと共に言葉の矢を放っていく「酒と映画とナッツ」、サビで花火が吹き上がる「RAY」と、バラエティに富んだ演出を展開。アイドル的な魅せかたとロックバンドたる魅せかたを共存できるのは、どちらの魅力も知っている京本だからなのだろう。どの楽曲も”ライブとしての最高”が考え抜かれており、芸術性の高いショートフィルムのような没入感を観る者に与えていた。

スティーヴィー・ワンダー「To Feel The Fire」のカバーでは、立ちこめるスモークのなかに佇みながら、祈るように歌声を響かせていく。どこか厳かなムードに包まれたのも束の間、シームレスに「終わらせぬ世界」をドロップし、一瞬にしてパワフルモードへ。さすがファンとの繋がりを歌った1曲、熱量が桁違いだ。「準備はいいか!」という焚き付けに、観客が特大のシンガロンで応えると、京本は嬉しそうに口角をあげていた。


「盛り上がってますか!」「暑いですか!」「体調大丈夫ですか!」という問いかけから、MCタイムはスタート。京本の一挙手一投足には熱い視線が注がれ、ステージドリンクを飲むだけで「可愛い~!」と声があがる。バンドのメンバー紹介を経て、ラジオにとっておいたという韓国旅行のエピソードが繰り広げる。活き活きとした語り口にファンは瞳を輝かせ、すべてを話しきった京本が「どうだった?」と尋ねた際には、至るところからOKサインが掲げられていた。「俺のMC、なんとか今日も乗り切ったな~!」と安堵の表情を浮かべた京本は、衣装チェンジのためにバンドメンバーにバトンタッチ。メンバーは自身の楽器から、マラカスやピアニカ、リコーダーなどに持ち替え、この日限りのセッションを作り上げた。

いよいよ『BLUE OF LIBERTY』も後半戦へ。20代半ばで作った大切な曲だという「孤言」で折り返しの幕を開けた。彼から発せられる言葉が、鮮烈な鋭さと重みを放っているのは、歌詞がスクリーンに表示されていることだけが理由ではないだろう。前向きではないかもしれないが、嘘はひとつもない――。そんな京本の美学が、音楽に説得力を持たせているのだ。「KOYOI」の間奏では軽やかなステップを披露し、「Blue night」では感情をぶつけるように言葉を撃ち放つ。
ロックの枠内でジャンルレスに編み上げられていく、固定観念に捉われないステージングは「アイドルだから自由度を高くやれる」という彼の言葉を体現していた。

この日2度目となるMCでは、フロアから溢れ出てくる「大好き!」を受けて、思わず「俺……」とこぼす京本の姿が。その後には、「ミスったな。言わなきゃいけなくなっちゃうよね。そういうのを言いたくなくて、曲を作ってんのに!」と話しながらも、腹をくくったように「大好き!」と口にして、黄色い悲鳴を巻き起こす。続けて「そういうのを言わないようにライブハウスにしてるんだけどね。しょうがないか。楽しくなっちゃったってことで」と零し、照れくさそうに頬をかいた。

京本大我が描く「ART-PUT」の世界観、Zeppで作り上げたライブエンターテイメント


再びライブセクションへ戻ると、ずっと大切に聴いてきた曲だというthe pillowsの「ストレンジカメレオン」をカバー。歌詞を描くように、共に過ごしてきた日々をなぞるように、リスペクトたっぷりに歌い上げる。流れるように繋がれたVCRでは、京本が写真を撮ったり、曲を作ったりする様子が映し出された。そして、映像を現実に引っ張り出してきたかのように、舞台のうえでドラムをソロプレイ。
力強い打音は、彼のなかで躍動する燃えたぎるエネルギーを感じさせる。熱量そのままに、「-27-」「Prelude」とラストスパートをかけていく。本編最後を飾ったのは、『PROT.30』のリード曲である「滑稽なFight」。ギターをかき鳴らしながら、真っすぐかつ力強くメッセージを伝えぬく。締めには”そう、僕なりのFightで”とアカペラで声を紡ぎ、堂々たる佇まいで幕を下ろした。

華やかなクラップと「大我!」コールに呼び戻され、ほどなくしてアンコールへ。マイクへ丁寧に言葉を落としこんでいく「灯り」、客席でタオルがクルクルと天を舞う「ヒペリカム」とパフォーマンス。人間性を全開にした等身大の音楽を、これでもかというほどに届けきり、人々の心に宿っている初期衝動を呼び起こしたのだった。

「ART-PUT」の世界観をライブというフォーマットに昇華して魅せた『BLUE OF LIBERTY』。柔軟な思想を持ちながらも、こだわりを持って取り組んでいく京本大我の姿勢が色濃く反映されていた公演だったように思う。歩んでいく道の先々で、いろんなものに感性を震わせながら、自分ならではの色を追求していく――。そんな京本が次はどんな色を魅せてくれるのか、刮目せずにはいられない。
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