ボーイスカウトアメリカ連盟はもうずいぶん前から児童の性的虐待疑惑に悩まされているが、被害の全容についてはほとんど知られていなかった。

だがアメリカ時間23日、被害者の権利を訴えるジェフ・アンダーソン弁護士が記者会見を開き、「不適格なボランティア」の氏名の公表を求めた。
これはボーイスカウトの隊員を性的に虐待した、あるいは虐待の疑いがある指導者の氏名を記載したデータベースで、アンダーソン弁護士によれば1万2000人以上の被害者と、7000人以上の加害者が掲載されているという。虐待被害のなかには1940年代にまでさかのぼるものもあるという。

データベースの存在は以前から知られていたものの、被害者や容疑者の人数は明らかにされていなかった。今回ファイルが浮上したのは、児童性的虐待の研究者であるジャネット・ウォーレン博士の証言がきっかけ。ウォーレン博士は、ボーイスカウトアメリカ連盟に雇われて1944年から2016年の性的虐待疑惑の対応評価をおこなった人物で、今年1月、ミネソタ州の児童館で起きた性的虐待事件の裁判で証言台に立った。

「この数字は今日まで誰も知りませんでした。ボーイスカウトアメリカ連盟から公表されたこともありません」と、記者会見でアンダーソン弁護士は述べた。

ファイルに掲載されている氏名の公表を迫る声は、ボーイスカウトアメリカ連盟の元被害者に代わって3つの法律事務所が起こした集団訴訟により高まった。USA Today紙によると、ボーイスカウトアメリカ連盟が破産申告手続きを進めていると報道されたのを受け、法律事務所は昨年末からオンライン広告やテレビCMを出し、被害者に名乗り出るよう呼びかけた。以来、200名以上の男性が在団中に性的虐待を受けたと名乗り出た。そのうちの1人ケンダル・キンバー氏は、1970年代に所属していた隊の隊長から性的虐待を受け、性行為を強要されたと証言した。家族に打ち明けたところ、キンバー氏の他の兄弟も同じ男性から被害を受けていたと告白した。
兄弟のうち1人はのちに自殺した。キンバー氏いわく、秘密を重んじる組織の文化ゆえ告白することができず、名乗り出れば「除名されるのではないか」と恐れ、打ち明けられなかったという。

「性倒錯ファイル」と呼ばれていたファイルの存在は、過去にも報道されていた。2010年、陪審はボーイスカウトアメリカ連盟に対し、元隊長から性的虐待を受けた男性に1850万ドルを支払うよう命じた。ちなみにこの元隊長は17人の少年を犯したとボーイスカウトの職員に告白したが、その後も組織に残って任務を続けていたという。また2012年には、オレゴン州最高裁判所の裁判所命令で1万4500ページを超える書類が一般公開された。書類には新聞の切り抜きや被害者の手書きの陳述書が含まれていた。表向きは、小児性愛者と思われる人物が組織のリーダー格ポジションに就くのを防ぐために作成されたが、地元支部の職員の圧力で、小児性愛者と疑わしい人物がその後もスカウトを続けていた事実も残されている。

だが、組織内での性的虐待被害の規模と実際の被害者の数は、今まで全く表に出てこなかった。今回公開された裁判資料によれば、虐待を受けた児童の数は1万2200人にのぼり、7800人以上の加害者がリストに掲載されているという。さらにアンダーソン弁護士いわく、加害者のうち130人は現在ニューヨークに在住しているという。最近ニューヨーク州で可決された児童被害者法では容疑者の公訴時効を延長しているため、彼らを刑事事件として起訴することも可能だという。


アンダーソン弁護士いわく、このファイルで最も衝撃的なのは、ボーイスカウトアメリカ連盟が組織内部の虐待者を匿っていた事実が判明したことだ。「今回の件で驚かされるのは、数字だけではありません」と、記者会見でアンダーソン弁護士は述べた。「事実、ボーイスカウトアメリカ連盟はどんな形であれ一般市民に知らせることができたのに、これらの氏名を公表しませんでした。彼らを除名したかもしれません。性倒錯リストに載せたかもしれません。ですが、地域社会に注意を呼びかけることは全くしませんでした」

1910年に設立されたボーイスカウトアメリカ連盟は、100年以上の歴史を誇るアメリカの団体。近年は入団率が減少しているものの、現在まで延べ1億500万人の青少年が入団している。

ローリングストーン誌がコメントを求めたところ、ボーイスカウト連盟からは次のような声明が送られてきた。「我々はあらゆる児童虐待の被害者の方々に心を砕いています。また、スカウト在籍中に被害を受けた皆さんに心からお詫びいたします。我々は被害者の皆さんを信じ、皆さんをサポートします。我々は、皆さんがご希望のカウンセラーのもとで、無期限の無料カウンセリングを提供しております。
我々にとって何よりも重要なのは、スカウトの子どもたちの安全と保護です。個人が当組織を悪用して純真無垢な子どもたちを虐待した時期があったことは、大変遺憾に感じております」 。声明はまた、ニューヨーク州在住の容疑者のリストを一般公開したこと、また「虐待疑惑が浮上した場合はいかなる場合も、警察当局に通報いたします」とも述べている。
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