「逮捕された当時、キング死刑囚は後悔の念をまったく見せませんでしたし、今夜もその様子はありませんでした」と、故バード氏の姉、クララ・バード・タイラー氏は声明を発表した。「今夜の執行は、彼のおこないに対する当然の罰です」
キング死刑囚は、バード氏殺害で逮捕および起訴された3人のうちの1人。バード氏はが最後に目撃されたのは1998年6月6日、キング、ローレンス・ラッセル・ブリュワー、ショーン・ベリーの3人と軽トラックの荷台に座っている姿だった。3人の男は彼を殴り、顔にペイント缶をスプレーした後チェーンでトラックにつないで、テキサス州ジャスパーの道路を3マイルほど引きずった。キングとブリュワーはともに死刑を宣告され(ブリュワーは2011年に死刑執行)、ベリーは終身刑を言い渡された。
事件のあまりの無残さに世界中が衝撃を受け、議会は彼を偲んで反ヘイトクライム規制法を草案。2009年にヘイトクライムを禁止する連邦法が可決した。これはバード氏と同じ1998年、ワイオミング州のララミーで激しく殴打された末、フェンスに縛られたまま放置されて死亡したゲイのマシュー・シェパード氏にちなんで、「マシュー・シェパード、ジェーズ・バード・ジュニアヘイトクライム禁止法」と名付けられた。
自他ともに認める人種差別主義者だったキング死刑囚は、有色人種に対する嫌悪を大っぴらに公言し、首に縄をかけられた黒人男性といった人種差別的なタトゥーをいくつも入れていた。だが彼は何年間も、事件の最中に自分は現場にいなかったこと、バード氏の殺害は人種差別が理由ではなくドラッグの取引のトラブルが原因だったことを何度となく仄めかし、自分は無実だと主張し続けた。ブリュワー死刑囚は死刑執行の直前、これを否定。
今年に入ってからアメリカ国内でおこなわれた死刑執行は、キング死刑囚で4件目。テキサス州では3件目となる。1976年に連邦最高裁判所が死刑を合憲と認めて以来、テキサス州では他のどの州よりもはるかに多い、561件の死刑が執行されている。
故バード氏の親族は、ブリュワーとキングの死刑執行を支持していたわけではない。故人の息子ロス・バード氏はブリュワーの死刑執行の際、自分はキリスト教の信者だから父を殺した殺人犯の死刑を支持しない、とワシントンポスト紙に語り、「殺人に殺人で立ち向かうことはできない」と述べた。だが罪の残忍さを考えると、死刑は十分正義を果たしていないと感じている者もいる。「死刑と言っても、眠らせるわけでしょう」と、故人の妹ルヴォン・バード・ハリス氏はキングの死刑執行前にこう述べた。「でも、彼らがジェームズにした仕打ち、ジェームズが受けた苦悩の半分にもならない。私には、彼らがラクな逃げ道を与えられたようにしか見えません」