コクトー・ツインズやピクシーズ、ディアハンターらを世に送り出してきた名門4ADに移籍し、先行曲「U.F.O.F.」で話題を集めていたブルックリンの4人組、ビッグ・シーフが待望の3rdアルバム『U.F.O.F.』を遂にリリース。早くも「年間ベスト級の傑作」と巷で囁かれている。


サドル・クリークからの過去2作に引き続き、プロデューサーのアンドリュー・サルロとともにシアトル近郊の農場にあるベアー・クリーク・スタジオで「一発録り」を行ったという本作は、これまでよりもさらに音数が減り、研ぎ澄まされたサウンドスケープはヒリヒリとした緊張感をたたえつつも、心のひだにすっと染み渡る優しさと温もりが感じられる。トラディショナルなフォーク・ミュージックを基軸に、美しく幻想的なメロディやエクスペリメンタルなサウンド・エフェクトを散りばめた楽曲たちは、シンプルだがヴァラエティに富んでおり、まるで12篇のショート・ムーヴィーを観ているようだ。

人々が寝静まった夜更けにそっと聴きたくなるような本作は、「他者との繋がり」をテーマにしているという。ジェフ・トゥイーディー(ウィルコ)のツアー・サポートでも話題となったバック・ミーク(Gt)と共に、メイン・ソングライターを務める紅一点シンガー、エイドリアン・レンカー(Vo、Gt)に話を聞いた。

─まず、あなたの音楽的なバックグラウンドを教えてもらえますか?

エイドリアン:6歳のとき、父に教えてもらいながらギターを弾き始めたのが始まりで、8歳か9歳ぐらいから曲を作り始めたの。とにかくひたすら演奏している感じで、高校には行かずに独学でバークリー音楽大学に入学してギターを専攻した。大学ではバンドを組んでいたわ。

─ギターはアコギから始めたわけですね?

エイドリアン:そう。エレキギターを初めて触ったのは、実は4年前なの。アコギはもう、人生の一部みたいなものね。ちょっと離れていた時期もあったのだけど、きっとまた戻ってくると分かってた。なので今も、意識して「ギターを使おう」というよりは、「気づいたら演奏していた」という感じに近いかもね。
12弦ギターに関しては特にそうで、”Cattails”と”Century”では私が12弦ギターを弾いているのだけど、そこにドラムとベース、エレキを加えたアンサンブルが大好きなの。

─あなたの相棒であるバック・ミークに出会ったのは?

エイドリアン:21歳の時にニューヨークに引っ越して、バックとはそこで出会った。以来、アメリカ国内の色々な場所でライブをしているわ。同時期に自分のソロ・アルバム『Hours Were The Birds』(2014年)を作ったし、2人でデュオ・アルバム『A-Sides』と『B-Sides』(同年)も作った。そうこうしているうちにベーシストのマックス・オラーチック、ドラマーのジェームズ・クリヴチェニアと出会い、みんなでツアーをするようになったの。レーベルにも所属せず、サポート・メンバーもなし。ブッキングも自分たちだけで全部やっていたわ。

─バンドにとって音楽的なヒーロー、もしくはヒロインといえば誰になりますか?

エイドリアン:ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、マイケル・ヘッジス……それからブルース・スプリングスティーン。もうたくさんいすぎて、ここでは挙げられないくらい。他のメンバーはそれぞれ色々な音楽を聴いていて、例えばジェームズはエレクトロニック・ミュージックをよく聴いてる。アンビエント系はメンバー全員のお気に入りね。とにかく、本当にたくさんいるから今挙げた人たちはほんの一部だと思う。


─メンバーそれぞれ違ったジャンルの音楽を聴いているんですね。

エイドリアン:そうなの。お互いの聴いている音楽が気になるから、いつもプレイリストをシェアしてる(笑)。

マイケル・ヘッジスは独特の演奏技術を用いて、フュージョン~ニューエイジの分野で活躍したアコースティック系ギタリスト。1997年死去。

─曲作りは、いつもどのように行なっているのでしょうか。

エイドリアン:ほとんどの曲は私がギターで作り始めているわ。まずはメロディが浮かんで、歌詞はギターを弾きながらインスピレーションが降りてくるのをひたすら待つ。歌っていると自然に湧き出てくるので、それを書き留めてる。私にとって、曲作りは自然なことなのよ。一旦曲が完成したらバンドに聴いてもらって、みんなで演奏してみるの。

─バンドとしての1stアルバム『Masterpiece』(2016年)はサドル・クリークからのリリースでした。
かなりローファイな手触りでしたよね。

エイドリアン:あのアルバムは自宅レコーディングで、ジェームズがエンジニアとプロデュースを担当している。翌年に2ndアルバム『Capacity』をリリースして、以来ずっと放浪生活をしているみたいなものね(笑)。

─最新作『U.F.O.F.』は、4ADへ移籍してのリリースとなります。

エイドリアン:ちょうどいいタイミングが来たと思ったの。4ADのスタッフはみんないい人たちばかりだし、繋がりも深い。単純に移籍するなら今だと思ったし、レーベルのスタッフを慕っているから自然なことだったわね。アルバムのレコーディングもとても自然な流れでできたし。

もちろん、サドル・クリークとはこれまでの歴史があったから、移籍の決断は簡単なものではなかった。ただサドル・クリークの関係も、4ADとの関係もポジティブなものだから、「プラスの状況からプラスの状況に進んだ」ということよね。これからもっと海外でライブをしていきたいし、いい変化を期待しているわ。

─作風も、これまでのアルバムとかなり趣が違いますよね。
ソングライティングのプロセスにも何か変化がありましたか?

エイドリアン:これまでの曲作りは、「降りてくる」感じというか。さっき言ったように、ギターを弾きながら出てくるままに言葉を並べて歌詞にしていくやり方が多かったのだけど、今回は”Open Dessert”を始め、いくつかの曲はメンバーみんなで曲を固めた後に、歌詞を熟考する必要があった。というのも、それらの曲は、出来た時点でどんなメッセージを伝えるべきか、よく分からなかったの。なので、色々な言葉を紙に書いて、それを床に並べてそこから詩を作っていくというやり方をしてみた。これは初めての試みだったけど、面白かったわ。

一度、居心地のいいところから脱して、今までとは違うやり方にも挑戦してみなきゃという気持ちもあったのね。上手くいかないかも知れないけど、自分が納得していない楽曲をアルバムに入れたくないし。失敗したら「いつもとは違うやり方の瞑想を試してみた」と思えばいいやって(笑)。でも実際にやってみたら、出来上がった歌詞もとっても気に入ったわ。

─ボーカルを含む、すべての演奏をワンテイクでレコーディングしたというのは本当ですか?

エイドリアン:「ワンテイク」というわけではなかったけど、今回はすべての楽曲を、パート別に録っていくのではなくバンドで「一発録り」を行なってる。全員で4、5回演奏した中から、一番いいテイクをセレクトした。曲によっては2テイクの中から選んだものもあったし、レコーディングの後のエディットはほとんどしていない。
「ワンテイク」ではなく、バンド全員での「一発録り」と、その後の編集作業を最小限にする、というところにこだわったわけ。

─なるほど。『U.F.O.F.』の中では、あなたのソロ・アルバム『abysskiss』(2018年)から2曲、「From」と「Terminal Paradise」をセルフ・カヴァーしていますね。

エイドリアン:最初にレコーディングしたのがこの2曲だった。他のソロ曲と比べても、私の心に一番近いものだったから、もう一度バンドでもやってみたい気持ちがあったの。アコースティック・ギターの繊細さを活かした、オリジナルに近いアレンジでね。それでも全く一緒というわけじゃなくて、今回のヴァージョンは世界観に広がりが出たところがとっても気に入ってる。ソロ・ヴァージョンのコンテクストも良かったし、それぞれ別の魅力を出せたと思うわ。

─本当に。『abysskiss』も素晴らしいアルバムでしたよね。

エイドリアン:私はいつも、楽曲をドキュメンタリーのように自然な形で作りたいと思っているの。特に『abysskiss』は、すべてのプロセスを1週間で終わらせているから、長い時間をかけて作り込んでいくアルバムに比べてよりパーソナルというか。
私がやりたいことを、そのままカタチにしたようなアルバムになったと思う。ビッグ・シーフとの違いはそこかも知れないね、私自身の「楽しみ」のための楽曲集という感じ。

─話を『U.F.O.F.』に戻します。このタイトルは、”UFO” と ”Friend” の ”F” を合わせたもので、「未知の存在と友達になる」というアルバムのテーマを象徴しているものだそうですね。そもそもこのテーマは、どんなところから着想を得たのでしょうか。

エイドリアン:私たちの人生は謎に満ちている。自分がどこから産まれ、死んだらどこへいくのか誰も分からないからこそ、様々な信仰が存在しているわけで。しかも私たちは常に変化しているから、自分とは違う存在……違う国の人や、違う宗教、文化を持つ相手を恐れている。でも実際には同じ人類であって、宇宙規模のマクロな視点で見てみれば、同じ要素から出来ている生命なのよね。それなら、他者を拒絶したり終わりの見えない戦争を続けるよりも、お互いちゃんと向き合い、その存在に感謝する方が理に適っているのよ。

─タイトル曲「U.F.O.F.」は、その「未知の存在」を宇宙人に見立てているわけですね。

エイドリアン:そう。テーマは「ミニチュア・サイファイ(Miniature Sci-Fi)」なの。子どもの頃に星空を見上げ、未知なる存在に想いを馳せていた記憶が、今になって蘇ってきたことがキッカケね。「彼らが自分の眼の前に現れたらどうしよう?」「地球に偵察にやってきたら?」「もし有害な存在だったらどうなるんだろう」って。実際、映画などでは恐ろしい存在として描かれていることが多いから、地球外生命体との交流は魅力的であると同時に、とっても怖くもあった。今言ったように、人は分からないものに恐れを抱くものだからね。でも、私たちもその「未知の存在」も、宇宙の一部という意味では同じ。そんなことを考えるのが大好きなの(笑)。

─UFOや宇宙人を信じますか?

エイドリアン:まず宇宙人に関しては、地球外生命体をまごうことなき存在と思っているから答えは「イエス」ね。彼らはきっと、私たちが想像もしていなかったような外見をしていると思う。UFOに関してもそう。よく描かれるような円盤型の宇宙船とは限らないし、目に見える大きさとも限らない。すでにこの空間や、電子の狭間に存在しているんじゃないかしら。

例えば海洋生物だって、海底の生物は地球外生命体と同じくらい変な見た目をしているでしょう?(笑)すでに認識している地球上の生命体にだって、人類の理解を超えるようなものが沢山いるのだから、宇宙人やUFOは尚更よね。とにかく、私はUFOも宇宙人も100パーセントその存在を信じているわ。

─もし遭遇したら、どうやって友達になりますか?

エイドリアン:どうしよう(笑)。……そもそも、彼らに友達という概念があるかどうか分からないし。友達になるのは不可能だと思っているわけではなくてね。状況によると思うな。個人的には、彼らが広い心も持ち主であってほしい。だって、人間には生命体として、酷い部分が沢山あるじゃない? 好奇心はあるけど、人間には「生き残りたい」という本能と、さっきも言ったように「未知なるもの」への恐怖心も強く持っているし。もちろん、彼らが私たちの「生死」に関わる存在である可能性だってある。

まあとにかく、友達になれたら最高でしょうね。彼らの脳がどうなっているのかとか、何を考えているのかとか、知りたい気持ちでいっぱいだし、私たち人類の「存在意義」についても何か分かるかもしれないわよね。

─人は「他者」によって自己を認識しますからね。地球外生命体という「他者」を通して、私たちはどんな自己認識をするのか興味津々です。

エイドリアン:私にとっては、彼らが地球にやってくる恐怖よりも「もう二度と戻ってきてくれなくなるかも知れない」という恐怖の方が断然大きい。今はまだ起きていないことだけど、これから起こりつつある。そう感じるの。もし彼らが地球にやってきたら、留まれるように手助けしたいなと思っているわ。

ビッグ・シーフに幻想的な傑作をもたらした、地球外生命体との知られざる物語

Photo by Michael Buisha

─それと今回、あなたはアルバムの中で「さまざまな女性が登場する物語を、曲ごとに表情を変えながら歌う」というテーマを課してレコーディングに臨んだと聞きました。

エイドリアン:それについては、意図して始めたことではなかったの。バンドを結成してから2枚目のアルバムを作るまでの間、私たちはほとんどツアーというものをしたことがなかったのだけど、ここ3年くらいはずっとツアーに出ていて、メンバー同士がようやく友人として近い存在に感じられるようになってきて。音楽性も徐々に固まってきたし、演奏自体もとても自由に楽しめるようになった。レコーディングにおけるスタジオワークも、前よりずっとリラックスして出来るようになったのよね。

─なるほど。

エイドリアン:それで、歌入れの時にいつもとは違う声で歌ってみた。半分冗談のつもりだったんだけど、みんなも「これ、使えるな」って。そこから色んな歌い方を試してみることにした。それをまとめたのが本作というわけ。なので、レコーディングの時の私たちの気分やモード、影響を受けていたものなどがよりダイレクトに反映されているわね。さっき話した「ドキュメンタリーのような楽曲作り」に、より近づいたともいえる。

─例えばどの曲で、どういった女性たちを演じているのでしょう?

エイドリアン:どの曲で、というよりは……私自身の中の、色々な側面を表現しているの。それと同時に、女性たち皆が持っている多面的な性格を表そうとした。「脆さ」や「寛容さ」、女性の「柔らかさ」などを具現化するというか。ひょっとしたら、私が表現したのは女性ではなくて「男性」だったかもしれない。なぜなら私の中には、父親や恋人の側面もあって、彼らの視点から物事を見ていることだってあるかも知れない。そう、私の中には本当にたくさんの人格が混在していて、人生のそれぞれの場面でその時々の精神性が現れていると思うの。

─とても興味深いです。

エイドリアン:友情にしてもそうよね。その時々で新しい人に出会っていく。他人と繋がることが、どうしてこんなにいい気分になるものなのか。人間関係がうまくいかなかったら、どうして傷ついてしまうのか。それはきっと、人はどこかで繋がっているものだからじゃないかしら。誰もが被害者でもあり、加害者でもあるというか。戦士のような強い側面も持っているし、傷ついて堕ちていく人間の側面も持っている。明るく活き活きした側面もあれば、死人のように影のある側面だってある。

さっきも言ったように、私たちはまだ見たことのないもの、経験したことのないことを勝手に想像して恐れてしまう。でも、私たちはみな同じ一つの生命体で、たまたま違う側面が表出しているだけなのかも知れないわよね。

─ところで、現在のブルックリンで、注目しているバンドなどあったら教えてください

エイドリアン:.michael.というバンドがいるの。彼らはすごいわ。あとはtwainと、マサチューセッツのバンドだけどPale Handsも好き。ブルックリンでは相変わらず面白いことがたくさん起こっていると思う。さっきも言ったように4年ぐらいツアーに出ていたのだけど、戻るたびに刺激を受けるわ。すごいキャリアを持ったアーティストたちが、街角やその辺のバーで普通に演奏しているしね。全く違うキャリアを持つ様々なジャンルの人々が一緒くたになり、常に新しいものが生み出され続けている。ヒエラルキーも存在しないし、色んな人に出会えるチャンスがある。とても美しい環境よ。

─今日は時間を取っていただいて、ありがとうございました。近いうちに来日公演が叶うことを楽しみにしています。

エイドリアン:ありがとう。私も早く日本に行きたいわ!

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