アメリカ時間7日、自己啓発団体を隠れ蓑に性行為を強要していた「ネクセウム」の指導者のキース・ラニエール被告の裁判がスタートした。恐喝罪、強制労働共謀罪、通信詐欺罪、性的目的による人身売買罪など7件の刑事犯罪で起訴されている被告は、極刑の終身刑が求刑されている。
『ヤング・スーパーマン』の女優アリソン・マック被告を含む5人の共同被告人は、全員すでに有罪を認めた。

裁判の初日は慌ただしく、いくぶん和気あいあいとした雰囲気でスタートした。セキュリティ検査に並ぶ列では、傍聴人が互いにむつまじく挨拶を交わす姿も見られた。あまりにも大勢の人々が詰めかけたため、見物人や報道陣の大半は別室に案内され、複数のモニターで公判を見守ることとなった。

検察が描いたラニエール被告の人物像は、昨年の逮捕以来メディアで報道されているものとほぼ同じだった。自らをアルバート・アインシュタインやマハトマ・ガンジーに例え、突出したIQの持ち主だと語る一方、多くの女性メンバーを手懐けて、自らの性的欲求を満たした詐欺師だと描写した。

「これは組織犯罪です。そしてキース・ラニエールが首謀者でした」。タニヤ・ハジャール検事補は、組織が「ピラミッド型の構造」にのっとって運営されていて、ラニエール被告がその頂点ですべての権力を掌握していたと述べた。ラニエール被告がいかにして弟子たちをたぶらかし、彼らの信頼を得たかを語り、「その信頼を利用して、彼が望むもの、つまりセックス、権力、支配力を手に入れたのです」と述べた。

陪審はこのあとの裁判で、3人の娘と1人の息子を持つメキシコ人一家の証言に耳を傾けることになるだろう、とハジャール検事補は言った。ラニエール被告が4人の子どもたちの家庭教師を申し出たため、一家はネクセウムの本拠地であるニューヨーク州に引っ越した。
「代わりに彼は、三姉妹と性的関係を持ちました。そしてその目的を果たすために、家族同士、姉妹同士を仲たがいさせたのです」。検事補は、このあと姉妹の一人が証人として召喚され、ラニエール被告が言うところの「倫理違反」、つまり自分以外の男性と恋仲になることを犯した罰で2年近く監禁されていたことを証言するだろう、と述べた。

小部屋にはマットレスと紙とペンの他には何もなく、部屋の外には監視カメラが設置されていた。ハジャール検事補によると、少女は紙に何度もラニエール被告への謝罪文を書いてドアの下から滑らせたが、被告はネクセウムの従業員に命じて、身分証明書を持たせずに少女をメキシコ国境まで車で移送させたと言う。

ハジャール検事補は、ラニエール被告が組織を立ち上げたのは、自分の性的欲望を満たし、被害者たちに究極の支配力を行使するためだったと主張した。「彼は被害者のスケジュール、食事、外出先や交際相手などを管理していました」。また、女性メンバーの身体に入れられた焼印の写真を陪審に見せた。医療用レーザーペンで施された焼印は、入会の儀式の一つとして行われていたとみられる。検事補いわく、当時メンバーたちは焼印がラニエール被告のイニシャルから取ったものだとは知らなかった。

ハジャール検事補は、ラニエール被告が一部の女性メンバーの卑猥な写真を「何百も」保管していたことを明らかにした。写真はパソコンに保存されていた。
「これらの写真は、組織内での強制と支配の道具になりました」と検事補は述べた。

被告側の冒頭陳述で、ラニエール被告の主任弁護士を務めるマーク・アニフォロ氏は、検察が列挙した事実の要点については異議を唱えず、むしろ陪審に向かって、被告の行動の裏にある動機に注目するよう訴えた。「私は最後の最後まで、彼の意思を弁護します。息絶えるまで、彼の善意を擁護するつもりです」

アニフォロ弁護士は、ラニエール被告がネクセウム組織内の女性たち性行為を重ねたという主張には反論しなかった。彼いわく、陪審が「『道徳的に間違っている』と考えるのは当然です……ですが、それは罪ではありません」。アニフォロ弁護士は、被告がメキシコ人一家の三姉妹と肉体関係を持ったとする検察の主張にも反論しなかった。ただし、被告が少女を無理やり監禁したという主張には異を唱え、少女はいつでも外に出られる状態だったと主張した。また、少女に与えられた罰は他の男性と関係を持ったからではなく、彼女がネクセウム運営事務所で働いていた際に会社の金を盗んだからだと主張した。

女性メンバーの卑猥な写真に関しては、メンバーが自分の行動に「自己責任」を持ち、各自の目標達成のための手段であると述べ、それらは実際には一度も公開されなかったことを付け加えた。彼女たちが本人の意思に反して焼印を入れられたとする主張にも反論し、「スポーツ選手や友愛会の会員」にも焼印を入れている人はいると述べた。

なによりもアニフォロ弁護士が陪審に訴えたのは、ネクセウムの元メンバーの視点で判断してほしい、ということだった。彼女たちは後日召喚され、ラニエール被告に不利な証言をすることになっているが、その中には組織で楽しい時間を過ごしたと言う者もいるだろう。
この先証拠として提示されるメールやショートメッセージの中で、「こうした証人の多くが、ネクセウムは素晴らしい、ためになると言っています」とアニフォロ弁護士。さらに1万7000人近い人々がネクセウムのセミナーを受講した事実は、自己啓発組織が害を及ぼすどころか、益をもたらしていた何よりの証拠だと指摘し、「あらゆる形で成功を収めた人々」が受講していたと付け加えた。「彼らが受講したのは、そこから何かを得られるからです」

この主張を強調すべく、彼は古典小説『アラバマ物語』からの一節を引用した。彼は陪審に共感を求め、この先登場する証言をラニエール被告の視点から検討してほしいと訴えた。
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