「洋平の曲は世界一だ」。大学1年の終わり、初めて川上洋平のデモを聴いた瞬間からその思いに揺らぎはなく、ベーシストとして着実にそれを証明してきた磯部寛之。
※この記事は2018年9月25日に発売されたRolling Stone Japan vol.04に掲載されたものです。
いつでも世界に行く準備はできている
ー他誌のインタビューで、この人すごいこと言うなと思ったのは「メンバーの中で[ALEXANDROS]を取り払って、何か残るのは俺が一番薄い」みたいなことをおっしゃってて。今でもそう思いますか?
思いますよ。
ーあらためてどういう部分でそう思うんですか?
[ALEXANDROS]で形成されているからじゃないですかね。
ー自分の人生が、ってことですか?
そうですね。大学1年の終わりくらいに当時[Champagne]というバンドに入って、そこからは本当にバンドのことしか考えてないんですよね。就職活動してサラリーマンをやったりもしましたけど。いろいろ考えることはあったんですが、大学で[Champagne]に入ってから今日に至るまで、すべてはバンドがどう成功するかを考えることに結びついているんです。本当に俺、このバンド以外の経験がないんですよね。初めて組んだバンドで今こういう状況なので。
ー2012年の[Champagne]時代のインタビューも読んだんですけど、その頃から磯部さんは「洋平の曲は世界一だ」って言い続けていて。どこが世界一だと思いますか?
何でしょうね。本当に感覚というか。単純に好きなんでしょうね。大学の頃、まだ[Champagne]に入る前ですけど、洋平も当時は実家暮らしだったので実家に遊びに行って、「高校のときにこんな曲を作ったんだよ」ってMDか何かを聴かされたときに、すごい衝撃を受けたんですよ。そのときに俺は、”世界一になるんだ”って自分の中で思っちゃって。そういう突発的なきっかけがないと、なかなか入り込めない世界なのかもしれないけど。今でもあいつが新曲を作ってくれる度に思うし。
ー例えば新作の曲で「ここが世界一だな」と思った場所はどこですか?
全曲思っていますよ。
ー歌詞からサウンドから?
そうです。曲が生まれた時点で、俺は本気で思っています。
ーそれは磯部さんが個人的に思っていることであって、ほかのメンバーは「どうなんだろう」と思うこともあるんでしょうか。
でも洋平は、メンバーを納得させられないような曲は持ってこないので。
ーすごい信頼関係ですね。
俺が勝手に信頼を置いてるんです。こっちが信頼することであいつが自由に曲を作れることも、バンドにとってプラスに作用すると思っているので。たまたま俺がそういう性格で良かった部分なのかな。そういう意味ではまだ、[ALEXANDROS]は世界的に爆発しているわけではないから悔しいですね。いつでも世界に行く準備はできてるのに。こっちがそういう自信を持つことが大前提として大事だと思ってて。名作って評されて残っていくものだと思うんですよ。
カッコいいものを響かせたいという欲求がある
ー4人の中での磯部さんの役割ってどういう感じなんですか? 川上さんが絶対的な中心であるとして、サポート役とか賑やかし役とかいろいろあると思うんですけど。
うちのバンドで本当にみんな上手いなと思うのは、その状況で役割が変わっても、誰かが誰かを支えるってことは全員が全員に対してやれるんです。だから、俺だけの役割っていうのは特にないのかな。心持ちとしては、クリエイターである洋平がいたときに、優秀な参謀でありたいなとは常々思っています。誰かに伝える際とか、何かをする際に間に入って俺ができることがあればすごく意味があるし。
ー2001年から今日に至るまで、バンドと川上さんに思い入れがある磯部さんにとって『VIP PARTY 2018』は最高の一夜だったのでは。
気持ち良かったですね。最終目標地点ではないので、やっとスタジアムでやれたかっていう感じが強いですけど。目指しているところに対して、進んでいる感覚を得られるのはやっぱり素直にうれしいですよね。感動というか。
ー昔の曲を演奏した後に、今回の新曲をやっていくセットリストもすごいなと思ったんですけど、あらためて昔の曲をやる中で自分たちの変化を感じた部分はありましたか?
逆に変化していないなとも感じましたね。
ー最新のモードって、自分の中でどういうものとして捉えていますか?
個人的には、自分たちの目標に対していよいよ具体的になってきたなと思っているんです。まだまだ到達はしていないけど、例えば世界中のどこでもライブがやりたいとか。世界のドームを埋めたいしスタジアムを埋めたいっていう中で、いろんな国でライブをやるっていうことに関してはちょっとずつ実現しているので。アジア各国に始まり、今度はアメリカにも行くしクアラルンプール(マレーシア)にも初めて行くし。人間ってそういう環境に身をおいて、ちょっとずつ経験を積んでいくと具体的なビジョンになっていくじゃないですか。だから本当にカッコいいものを響かせたいっていう欲がどんどん強くなってきましたね。
ーサウンドのバラエティが豊富になってきているのも、[ALEXANDROS]の変化としてあると思うんです。磯部さんはベーシストとして、メンバーの1人として、どういうふうに見てきましたか?
4人の中で俺が一番音楽のバックヤードがなくて、あまり詳しくないんです。もともとやっていたのは吹奏楽で、高校で初めてエレキと出会って、でも高校ではずっとバスケばかり。で、洋平と出会ってこのバンドに入って、洋平から教えてもらっていろいろ聴くとかそういう感じなんですよね。だから俺にわかることって、[ALEXANDROS]の雰囲気を感じ取って、それをベースに落とし込むことだけなんです。落とし込むことには自信があるんですけど、「これっぽく」ってなったときは素直に自分の頭の中でイメージしたことを弾くんですよ。だから、ジャズっぽく弾いているものを、ジャズをやっている人が弾いたら意味がわからないと思う。でも、それでいいのかなと思ってて。
ーめちゃくちゃ面白いですね。バンド・メンバーの中でギャップもあって、すごくバランスが取れているなと思って。
そうですね。聡泰(庄村)も引き出しが多くて本当に尊敬しているんですけど。
ー自分が想像できるものは、創造できるってことですもんね。最近も川上さんから何か音楽を教えてもらったりしましたか?
教えてもらうというか、あいつはけっこういろいろ聴いてるのでそれを基軸にというか。ヒップホップとかを聴いている気がしますけどね。
ーフランク・オーシャンとか?
それもそうだし、チャンス・ザ・ラッパーも好きだし。いろいろ聴いてるな。いきなりゴリゴリのロックを聴いてたりもしますけど。雑多というか、気分に合わせていろいろ変わりますね。
ーゴリゴリのロックは、今回のアルバムに反映されているのがわかるんですけど、ヒップホップは反映されているものはあまりわからないですね。
本当ですか。大いにあると思いますよ。
ーそれはどの辺に反映されていますか?
グルーヴ感の話になったとき、洋平と聡泰の言葉のキャッチボールを聴いていると、そういうのが根底にあるんだなって。もっとこう横に踊れるような感じとか。そういう単語もよく出てくるし。結果的にアレンジはヒップホップ調にはならないのかもしれないですけど、いたるところに散りばめられてると思います。
創造力が放たれる環境でのレコーディング
ー新作のアルバムはニューヨークで録音されましたが、行ってみていかがでしたか?
めっちゃ楽しかったですよ。日本に帰ってくるのが面倒くさくなっちゃって。このままニューヨークでいいやって思ってました。
ー住みたいなと思いました?
住みたいです。俺、もともとは西海岸出身なんですよ。だから最初に行くときは「えー東海岸? 西でしょ」って思ったんです。ちょっと悔しいんですけど、めっちゃ良かったですね。空気感がそもそもいいし、建物が本当に違いますし。人種のるつぼ、それは西海岸のロサンゼルスもそうだったんですけど、ニューヨークはさらに街もギュッとしてるから、人との距離も近いような気がしますし。ニューヨークの人たちはもともと、いろんな人種がいる中で育っているので。そういう意味ではすごく受け入れられやすいし、こっちもオープンになれるような空気がありますね。
ーニューヨークで録って良かったと思う部分はどういうところですか?
創造できたところですかね。創造力がすごく放たれる環境の中でのレコーディングって音にも現れると思うんです。エンジニアさんもアメリカ人らしいノリで、日本ではこんなにきっちりするのに、こんなに適当でいいんだとか。逆にここはこだわるんだっていうのもすごく面白かったですし。
ー例えばどういうところですか?
ドラムのテイクとかですね。
ーちゃんともう1回やって、みたいな。
そうなんですよ。あとはコーラスもそうかな。めっちゃ歌ったし。テイク数をとらせるんですよ。オッケー! 録れた!って思っても、「オッケー、ナイスだぜ、最高だぜ。じゃあ、もう1回やってみよう」って。終わりじゃねえのかよって。
ー出来上がったものを聴くと、やっぱりそれで合っていたんだなって思いますか?
良かったと思います。あと、何回も弾いていく中でフレーズが馴染んでくる、弾けば弾くほど馴染むし新しいアイデアが浮かんだりするので、結果的にはすごく楽しいし良かったなって。刺激的っていうのが1番大きいですね。人間は慣れる生き物なので。例えば3年とか5年ニューヨークに住んでいたら、東京でレコーディングしたくなるかもしれないし。その程度のノリでいいと思うんですけどね。ロンドンでもやってみたいしLAでもやってみたいし、今後いろいろまた話していくと思うんですけど。
ー新作について、ご自身のベース・プレイで特に気に入っている部分や昔だったらできなかったように感じる部分ってありますか?
本当に思いつきのベースなので。テクニックの部分ではそんなに俺は……。まあ上達はしてるんでしょうけど、テクニックをバキバキ練習してるぜ、でやったことはないので。だからフレーズの難しさはそんなに昔とは変わっていないと思うんですけど、気に入っているのは「LAST MINUTE」ですね。あのベースラインは好きですね。昔、向こうのプロデューサーにデモを聴かせたときに、「このベースは誰が弾いてるんだ?」ってすごく反応が良くて。自信にもなったっていう。
Photo by OGATA for Rolling Stone Japan
ー昔、ゴッチさん(後藤正文)が言ってたのかな、海外でいいと思うところはめっちゃ褒めることって。
本当にそうだと思います。日本語で言うとこっぱずかしいくらい褒めるんですけど、英語というカルチャーだとすごく自然だから受け入れられる。
ーそういうことでのびのびしてる部分もあったんでしょうね。
そうですね。もともと俺、10代の頃に向こうで育ったというのもあるかもしれないけど、心地がいいというか居心地がいいです。変な気づかいとかないし。日本のワビサビというか、気をつかい合う繊細な文化も俺はすごく好きなんですけど、まったく違う良さがあって。
ー今回の収録曲、例えば「Mosquito Bite」で気に入っている部分ってあります? ご自身のフレーズでもそれ以外でも。
そうですね、まずはリフがめちゃくちゃカッコいい。最初に聴いたときから、これはスタジアムみたいな場所で鳴らしたら超カッコいいだろうなって。すごく期待に胸が膨らむリフだし。あとは、弾きたくなるリフかなって。決して難しいリフじゃないんですけど、簡単でなおかつキャッチーで、弾きたくなるっていうのは名曲あるあるなので。
ー真似して弾けるのはいい曲っていうのはありますよね。「明日、また」はどうですか?
メロディを前面に押し出した、すごく大きな曲だと思いますね。パーカッションも入っていてグルーヴィな側面もあるんですけど。
ーグルーヴィな「明日、また」に関して、どのように弾こうと心がけたんでしょうか。
できるだけシンプルにですね。上物としてシーケンスが乗っかってきたりするので、ベースは本当に支える。だから1番もほとんど白玉というか全音。2番はちょっと動きをつけて。でも、サビは8分で刻んでいるノリをずっとキープしています。そこは変わった部分の一つかもしれない。昔はフレージングが多いベースラインだったんですよ。わりと動いてるし。最近はもっとどっしり構えて、上にみんなを乗せてあげようっていう曲が多いですね。スパークする曲はするんですけど。だから4人だけで音を出していた時代の、エッジの効いたアレンジがすべてだったっていうときより……今もそういう曲はあるけど、後ろの上の幅が広がったような気がするんです。シーケンスがたくさん乗って、大きく見せようってこともできるようになったので。ベースの役割もやっぱり変わりますね。
早い段階からイメージは描けていた
ーそういう意味で、ご自身のベース・スタイルに影響を与えた人は誰なんですか。
これは本当に難しい質問ですね。よく聞かれるんですけど、毎回「難しい」って言っちゃうんです。本当に好きなベーシストは「知らない」んですよね。いないと言うと角が立つので、本当に無知なだけなんですけど。ただ、何回も言ってるんですけどザ・ストーン・ローゼズのマニのベースは好きです。特にプライマル・スクリーム時代のマニは本当に好きですね。シンプルなんだけどカッコいいの最たる例じゃないですか。ひとつこういう存在になれたらいいなと思っています。
ーマニがいて、スタイルが変化する中で最近参考にしている人物がいるかというと別にいない?
それこそベーシストというより、ヒップホップとかいろんな曲を聴いたときのリズムの感じ、すごく気持ちいいなって自分が反応したときは素直に反応するようにしています。お酒が好きだからレコードバーに行くんですけど、そのバーではしょっちゅう70年代とか80年代の往年のロックを流してるんです。聴いたことあるな、絶対に有名なんだろうけど曲名は知らない。でも、そういう中で音像感だったりリズムの感じは吸収していると思うんですよね。新作を作っているときも、やっぱりイメージとしてそれが出てくるんですよ。こういう感じにするためには、俺はどう弾いたらいいんだろうって。
ー昔のロックっぽいベース?
もう全部がごっちゃになってます。昔のロックも最近のヒップホップも、俺の中ではカッコいいものっていう一括りに入っていて。何かをやろうとなったときに、どこから引っ張り出してきたのか自分でもわからないんですけど、イメージが湧くんですよね。それをどうやったら実現できるんだろうって感じです。
ーアウトプットも天然的というか。
そうですね。だから気持ちいいものを。言葉にするとわかりづらい説明になっちゃうことが多いんですよね。感覚でやっているので。
ーでも、感覚的っていうのは大事ですよね。全員がきっちりやっていたら、たぶん窮屈なバンドになっていたと思うんです。リズムでやっているメンバーもいる中で、ベースラインを感覚的に支えているのは実は大事なことなんじゃないかなって。
そうだといいですね。バランスはすごくいいし。確かに聡泰はいろんなものを知っていて、「こうしたらこうなる」とシミュレートしながらやるわけなので。だから尊敬できる部分もあるのかもしれない。俺に持っていないものを持っている人って。
ーそういう意味で白井さんに対してはどう思っていますか。
マーくんは、リフメイカーとしてすごく優秀なギタリストだと思っていて。洋平から「こんな感じでいいフレーズない?」って振られたときも、「例えばこんなの」って弾いて「それいいじゃん!」ってなることがけっこうあるので。そのへんのセンスが俺はすごく好きですね。知識とか引き出しという意味でも、唯一、コードをちゃんとわかっている人間なんですよね。洋平も感覚でやるタイプなので。俺も「いいのできたわ」って弾いてたら、「ヒロ、ごめん。ここだけちょっとスケールアウトしてて」って教えてくれるのがマーくん。彼のいいところは、教えてくれることもそうなんですけど、「厳密に言うとこうなんだよ」って事実を教えてくれるだけで、「それでもヒロがいいんだったらいいんじゃない」って必ず言うんです。
ー間違っててもいいよって。
そう。一応、教えてくれるっていう優しさなんですよね。そこに俺はすごく感謝しています。俺から聞きにいくこともあります。「こんなの作ったんだけど、これってアウトしてる?」って。
ー今回のレコーディングで悩んだ部分はありましたか?
時間がないことくらいですかね。でも、時間なんて常にないですよ。あればあるだけアイデアが出てくるので、そんなものはバンドをやっている以上は毎回そうなんでしょうけど。言い訳するつもりじゃないですよ。でも、それ以外はないってことですね。
ーじゃあ、めちゃめちゃ楽しい環境で、めちゃめちゃ楽しく作れたって感じですね。
そうですね。
ーそういう解放感が曲にも出ている感じがしますよね。
洋平が最初に「今度はこんな感じで行きたいんだよね」って言ったとき、メンバーがわりと早い段階からイメージを描けていたからやり取りもスムーズだったし。もちろん、悩む曲は悩んだけど。時間の話で言えば、すごく根詰めた作業もあったので。周りに迷惑をかけたこともあったけど、やっぱり妥協しないでできたものに関してはすごく愛情も生まれるし。
ー悩んだ曲とかどれですか?
一番覚えているのは「KABUTO」ですね。まず、リズムパターンからなんですよ。リフはあって。どういうパターンに乗せるのが一番カッコいいのか考えたとき、全部がカッコいいんです。そういうのが一番困るんですよね。あっちがいいかな、やっぱりこっち!って、作っても振り出しに戻って……みたいな。総じて見れば上に上がるための作業なんですけど、本当に悩ましいですね。
ーすごく微妙なところなんですね。確かにどの曲もリズムパターンが凝ってますもんね。
シンプルなように見えて、どういうふうにシンプルにしていくか?という話があるので。
ーベースの音色でこだわっている部分はありますか?
ヴィンテージを今使っているんですけど、邪魔にならない音感。気持ちいい音域がちゃんと抜けてくるっていう。ベーシストとして、いわば基本中の基本のところに一番こだわっていますね。音色はそんなにいじらないんですよね。よっぽど楽曲的にとか、歪みをかましたりしない限りは、理想の音一発あれば大丈夫という感覚が自分の中にあって。
ーいろんなロック・バンドが抱えている問題で、ヒップホップのほうがバカみたいに大きい低音ってあるじゃないですか。デカい低音を作るってことに、自分の中でテーマにしていることはありますか?
ベーシストとしては、そこらへんはあまり気にしていなくて。ベースで出しうる、気持ちのいいロー感が出ればいいのかなと思っているんですけど。楽曲的に、今後そういうウルトラローが必要な場合は俺がキーボードを弾いたり、シーケンスを叩いてもいいなと思っています。弾く楽器がベースなだけが俺の仕事じゃなくてもいいかもしれないし。
Photo by Azusa Takada
ー「川上さんの曲は世界一だ」という話がありましたが、世界一を目指し続けているというのは[ALEXANDROS]のストーリーにおいて一貫している部分だと思うんですけど、そもそも世界一のバンドって、2018年においてどういうものを指すと思いますか?
それはすごくいい質問ですね。もともと音楽って勝ち負けがある世界じゃないので、何をもって世界一かは難しい問題だと思うんですけど、俺の中でこれを成し遂げたら世界一と言っていいかなと思っている指標があって。それはグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナー。それはずっと変わらないです。2018年においてグラストンベリー・フェスティバルの価値が世界的に見てどうなのかはわからないですけど。でも、そこでヘッドライナーを務めることが、自分をそう評せることにつながっているので。
根源は夢であり、気持ちが大事
ーグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーっていうのは、いま現在自分たちの中で現実的な目標であり続けていますか?
もちろん。まだまだ道のりは長いですけど。世界中でライブがしたいという目標を達成できないと、そもそもそのステージに上がれないので。でも、絶対に行きます。早く行きたいですね。純粋な欲として。
ー「バンド=人生」だとおっしゃっていたので、この質問が成り立つのかわからないんですけど、磯部さん個人としての目標はどこにあるんですか。
同じですね。グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナー。それは個人の俺とバンドの俺を分けているわけではないので。磯部寛之という人間が[ALEXANDROS]のベーシストである以上は、俺があってのそっち。ひとりの人間として、純粋にやってみたいんでしょうね。
ーいい光景でしょうからね。
たまらないと思いますね。サラリーマン時代、パソコンのデスクトップ画面がずっとグラストンベリーのステージからのバックショットだったんですよ。誰だったか忘れたんですけど、ステージからお客さんを撮っていて。今でもそのパソコンの画面が忘れられないくらいですから。
[ALEXANDROS](Photo by OGATA for Rolling Stone Japan)
ーカルチャーにまつわる質問なんですけど、音楽以外で最近好きなものってありますか?
前々からなんですけど、お酒ですかね。本当にお酒が好きで毎日飲みに行くんですけど、そこで会う人とかレコードバーで聴く音楽だったりが自分にとってすごく刺激になっていると思います。面白いのは、赤ちょうちんのボロボロの焼き鳥屋みたいなお店がすごく好きで。そういうお店って昼間の2時半とか3時から開いてるんです。オフの日はたまにその時間から飲んだりするんですけど、行くと大体おじいちゃんか、むちゃくちゃいいスーツを着たおじちゃんとかが呑んでいたりするんですよね。たぶんどこぞの会社の役員クラスで、そういう人たちと話ができるんですよ。「お兄ちゃん若いね」って話しかけてくれたり、「いい飲みっぷりだ」とか昭和世代の酒呑みに呑みっぷりを認められると、何か肯定されたような気がしますね。
ー自分の同世代の友達から、今もバンドをやっていることに対して何か言われたりします?
すごいねって言ってくれますね。音楽をやるって言ってサラリーマンと会社をやめたとき、成功は願ってくれていたけど、具体的にこういう状況になるとうれしく思ってくれているんだろうなと。
ーバンドでずっと夢を追いかけられるっていうのは、いいことですね。
目標に向かってキャリアを積んでいくっていう、現実的な段階に入っているとは思いますけど。根源は夢であり、気持ちが大事なんですよね。
Interviewed by Toshiya Oguma
HIROYUKI ISOBE (磯部寛之)
[ALEXANDROS]のベース、コーラス担当。愛知県出身。大学在学時、川上に誘われてバンドに加入し、柔軟なベースプレイを得意する。高校入学直前までの4年間は米国で生活し、吹奏楽(ユーフォニウム)の経験を持つ。「バンド内で、酒への愛情は俺が1位」と本人も語るように、ひとりで毎日呑み歩くほどのお酒好き。今回のニューヨーク滞在中も、現地で行きつけのアイリッシュバーを開拓したという。
「Pray」
[ALEXANDROS]
※映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』日本版主題歌
ユニバーサルJ
配信中
Sleepless in Japan Tour
5月18日 愛知県 ポートメッセなごや 3号館
6月15日 埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
6月16日 埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
・Asia Tour
Sleepless in Shanghai
6月21日 上海 MODERN SKY LAB
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6月23日 北京 Beijing Omni Space
Sleepless in Jakarta
6月28日 ジャカルタ To be Announced
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6月30日 バンコク Moon Star Studio 1
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7月19日 クアラルンプール Bentley Music Auditorium
Sleepless in Seoul
7月21日 ソウル MUV HALL
[ALEXANDROS] オフィシャルHP
https://alexandros.jp
Rolling Stone Japan vol.04掲載
ロジックやひけらかすような技巧に頼ることなく、天性の感覚から紡ぎ出されるベースラインは、巨大なサウンドスケープを描く[ALEXANDROS]の音楽において非常に重要なファクターと言える。磯部寛之が思う[ALEXANDROS]というバンドについて、メンバーについて、そしてこれまで以上の手応えを感じているという新作『Sleepless in Brooklyn』について語ってもらった。
※この記事は2018年9月25日に発売されたRolling Stone Japan vol.04に掲載されたものです。
いつでも世界に行く準備はできている
ー他誌のインタビューで、この人すごいこと言うなと思ったのは「メンバーの中で[ALEXANDROS]を取り払って、何か残るのは俺が一番薄い」みたいなことをおっしゃってて。今でもそう思いますか?
思いますよ。
ーあらためてどういう部分でそう思うんですか?
[ALEXANDROS]で形成されているからじゃないですかね。
ー自分の人生が、ってことですか?
そうですね。大学1年の終わりくらいに当時[Champagne]というバンドに入って、そこからは本当にバンドのことしか考えてないんですよね。就職活動してサラリーマンをやったりもしましたけど。いろいろ考えることはあったんですが、大学で[Champagne]に入ってから今日に至るまで、すべてはバンドがどう成功するかを考えることに結びついているんです。本当に俺、このバンド以外の経験がないんですよね。初めて組んだバンドで今こういう状況なので。
だから、[ALEXANDROS]を取っ払ったときに俺に何が残るのかな?と考えたら、自分の存在意義とかそういうことになってくるとちょっとわからないなって。
ー2012年の[Champagne]時代のインタビューも読んだんですけど、その頃から磯部さんは「洋平の曲は世界一だ」って言い続けていて。どこが世界一だと思いますか?
何でしょうね。本当に感覚というか。単純に好きなんでしょうね。大学の頃、まだ[Champagne]に入る前ですけど、洋平も当時は実家暮らしだったので実家に遊びに行って、「高校のときにこんな曲を作ったんだよ」ってMDか何かを聴かされたときに、すごい衝撃を受けたんですよ。そのときに俺は、”世界一になるんだ”って自分の中で思っちゃって。そういう突発的なきっかけがないと、なかなか入り込めない世界なのかもしれないけど。今でもあいつが新曲を作ってくれる度に思うし。
ー例えば新作の曲で「ここが世界一だな」と思った場所はどこですか?
全曲思っていますよ。
ー歌詞からサウンドから?
そうです。曲が生まれた時点で、俺は本気で思っています。
デモテープを作っても作っても売れなかったときから、あいつが書く曲に関しては2001年からいつ世界中でヒットしてもおかしくないと思ってるんです。今でもアルバム曲だろうがシングル曲だろうが、「これをシングルにしよう」という話し合いはもちろんするんですけど、どの曲も今でもそう思っています。
ーそれは磯部さんが個人的に思っていることであって、ほかのメンバーは「どうなんだろう」と思うこともあるんでしょうか。
でも洋平は、メンバーを納得させられないような曲は持ってこないので。
ーすごい信頼関係ですね。
俺が勝手に信頼を置いてるんです。こっちが信頼することであいつが自由に曲を作れることも、バンドにとってプラスに作用すると思っているので。たまたま俺がそういう性格で良かった部分なのかな。そういう意味ではまだ、[ALEXANDROS]は世界的に爆発しているわけではないから悔しいですね。いつでも世界に行く準備はできてるのに。こっちがそういう自信を持つことが大前提として大事だと思ってて。名作って評されて残っていくものだと思うんですよ。
作り手側は全部名作でいいんです。
カッコいいものを響かせたいという欲求がある
ー4人の中での磯部さんの役割ってどういう感じなんですか? 川上さんが絶対的な中心であるとして、サポート役とか賑やかし役とかいろいろあると思うんですけど。
うちのバンドで本当にみんな上手いなと思うのは、その状況で役割が変わっても、誰かが誰かを支えるってことは全員が全員に対してやれるんです。だから、俺だけの役割っていうのは特にないのかな。心持ちとしては、クリエイターである洋平がいたときに、優秀な参謀でありたいなとは常々思っています。誰かに伝える際とか、何かをする際に間に入って俺ができることがあればすごく意味があるし。
ー2001年から今日に至るまで、バンドと川上さんに思い入れがある磯部さんにとって『VIP PARTY 2018』は最高の一夜だったのでは。
気持ち良かったですね。最終目標地点ではないので、やっとスタジアムでやれたかっていう感じが強いですけど。目指しているところに対して、進んでいる感覚を得られるのはやっぱり素直にうれしいですよね。感動というか。
ー昔の曲を演奏した後に、今回の新曲をやっていくセットリストもすごいなと思ったんですけど、あらためて昔の曲をやる中で自分たちの変化を感じた部分はありましたか?
逆に変化していないなとも感じましたね。
曲の話に戻っちゃうんですけど、「当時からスタジアムでやれる曲ばかりだったじゃん」っていうのが証明されたなって。メロディだったりアレンジも、けっこうきわどいアレンジが多くて。でも最近もそういう曲はやっているし、どちらかというと大きな曲になってきた部分はあるかもしれない。でも、根底にあるものは一緒だから。昔の曲をやったときも、ちゃんと最先端のものとしてできているし。最新の曲はもちろん最新のモードで作っているので。
ー最新のモードって、自分の中でどういうものとして捉えていますか?
個人的には、自分たちの目標に対していよいよ具体的になってきたなと思っているんです。まだまだ到達はしていないけど、例えば世界中のどこでもライブがやりたいとか。世界のドームを埋めたいしスタジアムを埋めたいっていう中で、いろんな国でライブをやるっていうことに関してはちょっとずつ実現しているので。アジア各国に始まり、今度はアメリカにも行くしクアラルンプール(マレーシア)にも初めて行くし。人間ってそういう環境に身をおいて、ちょっとずつ経験を積んでいくと具体的なビジョンになっていくじゃないですか。だから本当にカッコいいものを響かせたいっていう欲がどんどん強くなってきましたね。
ーサウンドのバラエティが豊富になってきているのも、[ALEXANDROS]の変化としてあると思うんです。磯部さんはベーシストとして、メンバーの1人として、どういうふうに見てきましたか?
4人の中で俺が一番音楽のバックヤードがなくて、あまり詳しくないんです。もともとやっていたのは吹奏楽で、高校で初めてエレキと出会って、でも高校ではずっとバスケばかり。で、洋平と出会ってこのバンドに入って、洋平から教えてもらっていろいろ聴くとかそういう感じなんですよね。だから俺にわかることって、[ALEXANDROS]の雰囲気を感じ取って、それをベースに落とし込むことだけなんです。落とし込むことには自信があるんですけど、「これっぽく」ってなったときは素直に自分の頭の中でイメージしたことを弾くんですよ。だから、ジャズっぽく弾いているものを、ジャズをやっている人が弾いたら意味がわからないと思う。でも、それでいいのかなと思ってて。
ーめちゃくちゃ面白いですね。バンド・メンバーの中でギャップもあって、すごくバランスが取れているなと思って。
そうですね。聡泰(庄村)も引き出しが多くて本当に尊敬しているんですけど。
引き出しが多くて、どこから何が飛んできても必ずそれを出せるんですよ。逆に俺はポンッて「俺」という引き出しを開けるだけ。裏を返せば何でもできるんですけどね。自分の想像外というものがそもそも存在しないので。
ー自分が想像できるものは、創造できるってことですもんね。最近も川上さんから何か音楽を教えてもらったりしましたか?
教えてもらうというか、あいつはけっこういろいろ聴いてるのでそれを基軸にというか。ヒップホップとかを聴いている気がしますけどね。
ーフランク・オーシャンとか?
それもそうだし、チャンス・ザ・ラッパーも好きだし。いろいろ聴いてるな。いきなりゴリゴリのロックを聴いてたりもしますけど。雑多というか、気分に合わせていろいろ変わりますね。
ーゴリゴリのロックは、今回のアルバムに反映されているのがわかるんですけど、ヒップホップは反映されているものはあまりわからないですね。
本当ですか。大いにあると思いますよ。
ーそれはどの辺に反映されていますか?
グルーヴ感の話になったとき、洋平と聡泰の言葉のキャッチボールを聴いていると、そういうのが根底にあるんだなって。もっとこう横に踊れるような感じとか。そういう単語もよく出てくるし。結果的にアレンジはヒップホップ調にはならないのかもしれないですけど、いたるところに散りばめられてると思います。
創造力が放たれる環境でのレコーディング
ー新作のアルバムはニューヨークで録音されましたが、行ってみていかがでしたか?
めっちゃ楽しかったですよ。日本に帰ってくるのが面倒くさくなっちゃって。このままニューヨークでいいやって思ってました。
ー住みたいなと思いました?
住みたいです。俺、もともとは西海岸出身なんですよ。だから最初に行くときは「えー東海岸? 西でしょ」って思ったんです。ちょっと悔しいんですけど、めっちゃ良かったですね。空気感がそもそもいいし、建物が本当に違いますし。人種のるつぼ、それは西海岸のロサンゼルスもそうだったんですけど、ニューヨークはさらに街もギュッとしてるから、人との距離も近いような気がしますし。ニューヨークの人たちはもともと、いろんな人種がいる中で育っているので。そういう意味ではすごく受け入れられやすいし、こっちもオープンになれるような空気がありますね。
ーニューヨークで録って良かったと思う部分はどういうところですか?
創造できたところですかね。創造力がすごく放たれる環境の中でのレコーディングって音にも現れると思うんです。エンジニアさんもアメリカ人らしいノリで、日本ではこんなにきっちりするのに、こんなに適当でいいんだとか。逆にここはこだわるんだっていうのもすごく面白かったですし。
ー例えばどういうところですか?
ドラムのテイクとかですね。
ーちゃんともう1回やって、みたいな。
そうなんですよ。あとはコーラスもそうかな。めっちゃ歌ったし。テイク数をとらせるんですよ。オッケー! 録れた!って思っても、「オッケー、ナイスだぜ、最高だぜ。じゃあ、もう1回やってみよう」って。終わりじゃねえのかよって。
ー出来上がったものを聴くと、やっぱりそれで合っていたんだなって思いますか?
良かったと思います。あと、何回も弾いていく中でフレーズが馴染んでくる、弾けば弾くほど馴染むし新しいアイデアが浮かんだりするので、結果的にはすごく楽しいし良かったなって。刺激的っていうのが1番大きいですね。人間は慣れる生き物なので。例えば3年とか5年ニューヨークに住んでいたら、東京でレコーディングしたくなるかもしれないし。その程度のノリでいいと思うんですけどね。ロンドンでもやってみたいしLAでもやってみたいし、今後いろいろまた話していくと思うんですけど。
ー新作について、ご自身のベース・プレイで特に気に入っている部分や昔だったらできなかったように感じる部分ってありますか?
本当に思いつきのベースなので。テクニックの部分ではそんなに俺は……。まあ上達はしてるんでしょうけど、テクニックをバキバキ練習してるぜ、でやったことはないので。だからフレーズの難しさはそんなに昔とは変わっていないと思うんですけど、気に入っているのは「LAST MINUTE」ですね。あのベースラインは好きですね。昔、向こうのプロデューサーにデモを聴かせたときに、「このベースは誰が弾いてるんだ?」ってすごく反応が良くて。自信にもなったっていう。
Photo by OGATA for Rolling Stone Japan
ー昔、ゴッチさん(後藤正文)が言ってたのかな、海外でいいと思うところはめっちゃ褒めることって。
本当にそうだと思います。日本語で言うとこっぱずかしいくらい褒めるんですけど、英語というカルチャーだとすごく自然だから受け入れられる。
ーそういうことでのびのびしてる部分もあったんでしょうね。
そうですね。もともと俺、10代の頃に向こうで育ったというのもあるかもしれないけど、心地がいいというか居心地がいいです。変な気づかいとかないし。日本のワビサビというか、気をつかい合う繊細な文化も俺はすごく好きなんですけど、まったく違う良さがあって。
ー今回の収録曲、例えば「Mosquito Bite」で気に入っている部分ってあります? ご自身のフレーズでもそれ以外でも。
そうですね、まずはリフがめちゃくちゃカッコいい。最初に聴いたときから、これはスタジアムみたいな場所で鳴らしたら超カッコいいだろうなって。すごく期待に胸が膨らむリフだし。あとは、弾きたくなるリフかなって。決して難しいリフじゃないんですけど、簡単でなおかつキャッチーで、弾きたくなるっていうのは名曲あるあるなので。
ー真似して弾けるのはいい曲っていうのはありますよね。「明日、また」はどうですか?
メロディを前面に押し出した、すごく大きな曲だと思いますね。パーカッションも入っていてグルーヴィな側面もあるんですけど。
ーグルーヴィな「明日、また」に関して、どのように弾こうと心がけたんでしょうか。
できるだけシンプルにですね。上物としてシーケンスが乗っかってきたりするので、ベースは本当に支える。だから1番もほとんど白玉というか全音。2番はちょっと動きをつけて。でも、サビは8分で刻んでいるノリをずっとキープしています。そこは変わった部分の一つかもしれない。昔はフレージングが多いベースラインだったんですよ。わりと動いてるし。最近はもっとどっしり構えて、上にみんなを乗せてあげようっていう曲が多いですね。スパークする曲はするんですけど。だから4人だけで音を出していた時代の、エッジの効いたアレンジがすべてだったっていうときより……今もそういう曲はあるけど、後ろの上の幅が広がったような気がするんです。シーケンスがたくさん乗って、大きく見せようってこともできるようになったので。ベースの役割もやっぱり変わりますね。
早い段階からイメージは描けていた
ーそういう意味で、ご自身のベース・スタイルに影響を与えた人は誰なんですか。
これは本当に難しい質問ですね。よく聞かれるんですけど、毎回「難しい」って言っちゃうんです。本当に好きなベーシストは「知らない」んですよね。いないと言うと角が立つので、本当に無知なだけなんですけど。ただ、何回も言ってるんですけどザ・ストーン・ローゼズのマニのベースは好きです。特にプライマル・スクリーム時代のマニは本当に好きですね。シンプルなんだけどカッコいいの最たる例じゃないですか。ひとつこういう存在になれたらいいなと思っています。
ーマニがいて、スタイルが変化する中で最近参考にしている人物がいるかというと別にいない?
それこそベーシストというより、ヒップホップとかいろんな曲を聴いたときのリズムの感じ、すごく気持ちいいなって自分が反応したときは素直に反応するようにしています。お酒が好きだからレコードバーに行くんですけど、そのバーではしょっちゅう70年代とか80年代の往年のロックを流してるんです。聴いたことあるな、絶対に有名なんだろうけど曲名は知らない。でも、そういう中で音像感だったりリズムの感じは吸収していると思うんですよね。新作を作っているときも、やっぱりイメージとしてそれが出てくるんですよ。こういう感じにするためには、俺はどう弾いたらいいんだろうって。
ー昔のロックっぽいベース?
もう全部がごっちゃになってます。昔のロックも最近のヒップホップも、俺の中ではカッコいいものっていう一括りに入っていて。何かをやろうとなったときに、どこから引っ張り出してきたのか自分でもわからないんですけど、イメージが湧くんですよね。それをどうやったら実現できるんだろうって感じです。
ーアウトプットも天然的というか。
そうですね。だから気持ちいいものを。言葉にするとわかりづらい説明になっちゃうことが多いんですよね。感覚でやっているので。
ーでも、感覚的っていうのは大事ですよね。全員がきっちりやっていたら、たぶん窮屈なバンドになっていたと思うんです。リズムでやっているメンバーもいる中で、ベースラインを感覚的に支えているのは実は大事なことなんじゃないかなって。
そうだといいですね。バランスはすごくいいし。確かに聡泰はいろんなものを知っていて、「こうしたらこうなる」とシミュレートしながらやるわけなので。だから尊敬できる部分もあるのかもしれない。俺に持っていないものを持っている人って。
ーそういう意味で白井さんに対してはどう思っていますか。
マーくんは、リフメイカーとしてすごく優秀なギタリストだと思っていて。洋平から「こんな感じでいいフレーズない?」って振られたときも、「例えばこんなの」って弾いて「それいいじゃん!」ってなることがけっこうあるので。そのへんのセンスが俺はすごく好きですね。知識とか引き出しという意味でも、唯一、コードをちゃんとわかっている人間なんですよね。洋平も感覚でやるタイプなので。俺も「いいのできたわ」って弾いてたら、「ヒロ、ごめん。ここだけちょっとスケールアウトしてて」って教えてくれるのがマーくん。彼のいいところは、教えてくれることもそうなんですけど、「厳密に言うとこうなんだよ」って事実を教えてくれるだけで、「それでもヒロがいいんだったらいいんじゃない」って必ず言うんです。
ー間違っててもいいよって。
そう。一応、教えてくれるっていう優しさなんですよね。そこに俺はすごく感謝しています。俺から聞きにいくこともあります。「こんなの作ったんだけど、これってアウトしてる?」って。
ー今回のレコーディングで悩んだ部分はありましたか?
時間がないことくらいですかね。でも、時間なんて常にないですよ。あればあるだけアイデアが出てくるので、そんなものはバンドをやっている以上は毎回そうなんでしょうけど。言い訳するつもりじゃないですよ。でも、それ以外はないってことですね。
ーじゃあ、めちゃめちゃ楽しい環境で、めちゃめちゃ楽しく作れたって感じですね。
そうですね。
ーそういう解放感が曲にも出ている感じがしますよね。
洋平が最初に「今度はこんな感じで行きたいんだよね」って言ったとき、メンバーがわりと早い段階からイメージを描けていたからやり取りもスムーズだったし。もちろん、悩む曲は悩んだけど。時間の話で言えば、すごく根詰めた作業もあったので。周りに迷惑をかけたこともあったけど、やっぱり妥協しないでできたものに関してはすごく愛情も生まれるし。
ー悩んだ曲とかどれですか?
一番覚えているのは「KABUTO」ですね。まず、リズムパターンからなんですよ。リフはあって。どういうパターンに乗せるのが一番カッコいいのか考えたとき、全部がカッコいいんです。そういうのが一番困るんですよね。あっちがいいかな、やっぱりこっち!って、作っても振り出しに戻って……みたいな。総じて見れば上に上がるための作業なんですけど、本当に悩ましいですね。
ーすごく微妙なところなんですね。確かにどの曲もリズムパターンが凝ってますもんね。
シンプルなように見えて、どういうふうにシンプルにしていくか?という話があるので。
ーベースの音色でこだわっている部分はありますか?
ヴィンテージを今使っているんですけど、邪魔にならない音感。気持ちいい音域がちゃんと抜けてくるっていう。ベーシストとして、いわば基本中の基本のところに一番こだわっていますね。音色はそんなにいじらないんですよね。よっぽど楽曲的にとか、歪みをかましたりしない限りは、理想の音一発あれば大丈夫という感覚が自分の中にあって。
ーいろんなロック・バンドが抱えている問題で、ヒップホップのほうがバカみたいに大きい低音ってあるじゃないですか。デカい低音を作るってことに、自分の中でテーマにしていることはありますか?
ベーシストとしては、そこらへんはあまり気にしていなくて。ベースで出しうる、気持ちのいいロー感が出ればいいのかなと思っているんですけど。楽曲的に、今後そういうウルトラローが必要な場合は俺がキーボードを弾いたり、シーケンスを叩いてもいいなと思っています。弾く楽器がベースなだけが俺の仕事じゃなくてもいいかもしれないし。
Photo by Azusa Takada
ー「川上さんの曲は世界一だ」という話がありましたが、世界一を目指し続けているというのは[ALEXANDROS]のストーリーにおいて一貫している部分だと思うんですけど、そもそも世界一のバンドって、2018年においてどういうものを指すと思いますか?
それはすごくいい質問ですね。もともと音楽って勝ち負けがある世界じゃないので、何をもって世界一かは難しい問題だと思うんですけど、俺の中でこれを成し遂げたら世界一と言っていいかなと思っている指標があって。それはグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナー。それはずっと変わらないです。2018年においてグラストンベリー・フェスティバルの価値が世界的に見てどうなのかはわからないですけど。でも、そこでヘッドライナーを務めることが、自分をそう評せることにつながっているので。
根源は夢であり、気持ちが大事
ーグラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーっていうのは、いま現在自分たちの中で現実的な目標であり続けていますか?
もちろん。まだまだ道のりは長いですけど。世界中でライブがしたいという目標を達成できないと、そもそもそのステージに上がれないので。でも、絶対に行きます。早く行きたいですね。純粋な欲として。
ー「バンド=人生」だとおっしゃっていたので、この質問が成り立つのかわからないんですけど、磯部さん個人としての目標はどこにあるんですか。
同じですね。グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナー。それは個人の俺とバンドの俺を分けているわけではないので。磯部寛之という人間が[ALEXANDROS]のベーシストである以上は、俺があってのそっち。ひとりの人間として、純粋にやってみたいんでしょうね。
ーいい光景でしょうからね。
たまらないと思いますね。サラリーマン時代、パソコンのデスクトップ画面がずっとグラストンベリーのステージからのバックショットだったんですよ。誰だったか忘れたんですけど、ステージからお客さんを撮っていて。今でもそのパソコンの画面が忘れられないくらいですから。
[ALEXANDROS](Photo by OGATA for Rolling Stone Japan)
ーカルチャーにまつわる質問なんですけど、音楽以外で最近好きなものってありますか?
前々からなんですけど、お酒ですかね。本当にお酒が好きで毎日飲みに行くんですけど、そこで会う人とかレコードバーで聴く音楽だったりが自分にとってすごく刺激になっていると思います。面白いのは、赤ちょうちんのボロボロの焼き鳥屋みたいなお店がすごく好きで。そういうお店って昼間の2時半とか3時から開いてるんです。オフの日はたまにその時間から飲んだりするんですけど、行くと大体おじいちゃんか、むちゃくちゃいいスーツを着たおじちゃんとかが呑んでいたりするんですよね。たぶんどこぞの会社の役員クラスで、そういう人たちと話ができるんですよ。「お兄ちゃん若いね」って話しかけてくれたり、「いい飲みっぷりだ」とか昭和世代の酒呑みに呑みっぷりを認められると、何か肯定されたような気がしますね。
ー自分の同世代の友達から、今もバンドをやっていることに対して何か言われたりします?
すごいねって言ってくれますね。音楽をやるって言ってサラリーマンと会社をやめたとき、成功は願ってくれていたけど、具体的にこういう状況になるとうれしく思ってくれているんだろうなと。
ーバンドでずっと夢を追いかけられるっていうのは、いいことですね。
目標に向かってキャリアを積んでいくっていう、現実的な段階に入っているとは思いますけど。根源は夢であり、気持ちが大事なんですよね。
Interviewed by Toshiya Oguma
HIROYUKI ISOBE (磯部寛之)
[ALEXANDROS]のベース、コーラス担当。愛知県出身。大学在学時、川上に誘われてバンドに加入し、柔軟なベースプレイを得意する。高校入学直前までの4年間は米国で生活し、吹奏楽(ユーフォニウム)の経験を持つ。「バンド内で、酒への愛情は俺が1位」と本人も語るように、ひとりで毎日呑み歩くほどのお酒好き。今回のニューヨーク滞在中も、現地で行きつけのアイリッシュバーを開拓したという。
「Pray」
[ALEXANDROS]
※映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』日本版主題歌
ユニバーサルJ
配信中
Sleepless in Japan Tour
5月18日 愛知県 ポートメッセなごや 3号館
6月15日 埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
6月16日 埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
・Asia Tour
Sleepless in Shanghai
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6月23日 北京 Beijing Omni Space
Sleepless in Jakarta
6月28日 ジャカルタ To be Announced
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Sleepless in Taipei
7月7日 台北 Legacy Taipei
Sleepless in Kuala Lumpur
7月19日 クアラルンプール Bentley Music Auditorium
Sleepless in Seoul
7月21日 ソウル MUV HALL
[ALEXANDROS] オフィシャルHP
https://alexandros.jp
Rolling Stone Japan vol.04掲載
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