OGRE YOU ASSHOLE(以下、オウガ)とコナン・モカシンによるツーマン・ライブ『DELAY』が4月13日、東京・代官山UNITで開催され満員のうちに幕を閉じた。
『DELAY』はオウガがホストを務め、これまでマーク・マグワイア(エメラルズ)やミヒャエル・ローター(ノイ!/ハルモニア)ら、海外アーティストを招いて行ってきた自主企画。
この日のパフォーマンスは各人各様で、サポート・メンバーを率いて現れたコナンはソフトサイケからR&BそしてジャズやAORまで取り入れた妖しくも煌びやかなサウンドでオーディエンスを魅了、時折「小芝居」を散りばめるなど百戦錬磨の余裕を見せた。迎え撃つオウガも、15分に及ぶインプロビゼーションを展開した圧巻の新曲をはじめ、唯一無二のアンサンブルで時空を切り裂いていった。
今回RSJでは、興奮冷めやらぬライブの翌日に出戸学とコナンによる対談を敢行。お互いのライブやサウンドのこと、「最もサイケデリックだった体験」など、様々なトピックについてざっくばらんに語り合ってもらった。
─出戸さんはコナンの『ジャズバスターズ』を、年間アルバムのベスト1位に選んでいたんですよね。
出戸:そうなんです。楽曲やバンドの演奏ももちろん素晴らしかったんですけど、シンプルにコナンの声が好きで。
コナン:アリガト!(笑)
出戸:英語の出来る友人が、「このアルバムは音楽教師と生徒の禁断の愛がテーマで、しかも男同士の話だ」と言ってたんですけど、それは合っていますか?
コナン:もともと『ジャズバスターズ』は、幼馴染のブレイク・プレイヤーと僕の兄貴と一緒に『Bostynn Dobsyn』という映像作品とコミックを作り始めたところから始まっているんだ。もう20年も前の話だけど、今回その映画版を作ることを思いついてね。
ストーリーは君の言った通り。ドブソンという成績の悪い生徒が、単位を取るため教師のボストンに色仕掛けをするのだけど、ボストンはドブソンが女性だと勘違いして本気になっちゃう話なんだ。
コナン・モカシン率いるジャズバスターズ、UNITの楽屋で撮影。(Photo by Yuki Kikuchi)
─夕べはコナンとオウガのツーマン・ライブでしたが、お互いの演奏はどうでした?
コナン:いや、それが終わってすぐ演奏を聴きたかったんだけどフロアがパンパンでさ。落ち着いて観る場所をなかなか探せなかった上に、色んな人に声をかけられたりしてちゃんと観る事が出来なかったんだ。ゴメン、次の機会を楽しみにしてるよ。
出戸:僕も出番前で準備もあって、半分ちょっとしか観られなかったんですけど、でも日本のバンドにはないテイストを感じましたね。例えば、演奏のテンションをグーっと落としてルーズにしていくところでも、アンサンブルとしてはちゃんと成り立っているのってすごいなと。あれだけ落とせるからメリハリがさらに付いているんでしょうね。「こういうやり方もあるんだな」と、すごく勉強になりました。
コナン:ほんと? 嬉しいな。
出戸:そうそう! リズム隊に散々「盛り上げろ」って煽っておいて、コナンはその間にギタープレイヤーとお喋りしていたりして(笑)。そんな小芝居やルーズなパートをアドリブで作ったりできるのは、コナンの気持ちとバンドメンバーがすごく同調しているからこそ出来るんじゃないかなと。
コナン:何だろう、テレパシーみたいなものかな(笑)。今のメンバーとはかなり長く一緒にやってきたから、言わなくても通じる部分はあるのかも知れない。演奏が終わって、「次はこの曲をやるよ」とすら言わなくても、ちょっとさわりのギターを弾き始めたら「あ、次はこれだな」ってみんな分かってくれているからね。お互いを信頼し合っているんだ。
─そういう意味ではオウガも、PAエンジニアの中村宗一郎さんとまさに「阿吽の呼吸」というか。構成など細かく決め込まず、その場のノリで中村さんが「飛び道具」的にかけたディレイなどに反応して、バンドはバンドで自由にセッションのようなことをしていますよね。
コナン:へえ! そんな事してるの?すごい。PAブースにそんな「メンバー」がいたとは(笑)。
─中盤にやっていた新曲も、途中でめちゃくちゃ長いインプロビゼーションがあって……あれって15分くらいやっていたような。
コナン:演奏しててどんな気分だった?
出戸:お客さんの前で、あの曲を演奏するのは初めてだったんですけど、おっしゃったように「15分」を目指して演奏してたから(笑)、まあなんとか上手くいったかなって思います。
コナン:僕らもたまに、1曲を延々と伸ばすような事もしてるよ。最近はやってないけど。その時、どのくらい自分が酔っ払っているかによって尺が変わるっていう(笑)。30分くらいやった事もあるかな。お客さんは退屈だったかも知れないけど。
─これは完全に僕の個人的な話なんですが、オウガとコナンがツーマンをやると聞いて、まず頭に浮かんだのは「豪雨」なんです(笑)。オウガは去年、日比谷野音でゲリラ豪雨の中ライブをやり続けました。コナンは僕、去年の「デザート・デイズ」で観るのを楽しみにしていたのですが、突然の落雷により中止になってしまいましたよね?
コナン:ああ、あの時ね! 僕は雷が大嫌いだから、中止になって本当よかったよ……(笑)。だって怖いじゃん! あの日の夜も、遠くの方からものすごい雨雲が近づいてきて。「やりたくないなあ」ってテンションだだ下がりだったから、「中止」って聞いて本当にホッとした。
「デザート・デイズ」に出演するのはあれが2回目だったんだけどさ、スタッフがみんなLSDやらマジック・マッシュルームやらでキマりまくってて(笑)。帰り、そのトレーラーまで車を運転してくれる人がずっと会場の周りをグルグル回ってて、歩いて帰れる距離だったのに一向に到着しなくて本当に参ったよ。
─オウガの雨の野音もすごかったですよね。
出戸:雷も鳴ってましたしね。怖かった(笑)。とはいえ、もう演奏始まっちゃってたから逃げるわけにもいかないし……。
コナン:嫌だよね、雷は。特に日本はゲリラ豪雨があるから大変だ。でも、それがいい演出にもなったんじゃない?
出戸:それはよく言われるんですけど、逆に雨のことしか言われないから「なんだかなあ」って(笑)。
─ところで、コナンもオウガもその音楽性を「サイケデリック」と言われることが多いと思うのですけど……。
コナン:Wikipediaには「サイケデリック」なんて書かれているけど、2010年に作ったデビュー作『フォーエヴァー・ドルフィン・ラヴ』が、僕の中では最もサイケっぽい内容だったんじゃないかなと思ってる。
そうなったのには理由があって。若い頃に一時ロンドンに住んでいたんだけど、そこのシーンに馴染まなくてニュージーランドに戻ったんだ。そうしたら母親が「自分のためのソロアルバムを、自分のためだけに作りなさい」って助言してくれて。おかげでものすごく楽しみながら、実験的なことをたくさん出来たんだよね。今までやったことないことも沢山試した。それが1stアルバムだったんだ。
─じゃあコナンにとって、今までで最も「サイケデリックな経験」というと?
コナン:実は幽霊的なものを見たことがある。自分でも何が起きてるのか、あれが一体なんだったのかよく分からないし上手く説明できないのだけど、すごく怖かったけど面白くもあって。そこはレコーディングをやっている廃屋みたいな場所で、レコーディングするにはすごくいい環境だったんだよね。ただ、窓はカッチリ閉まっていたから風は入ってこないはずなのに、いきなりドアが閉まったり、どこからともなく物音がしたり、壁に掛けてあった鏡が落ちてきたこともあってね(笑)。
─そういえば、オウガの「ヘッドライト」という楽曲のPVは、家の中の家具が勝手に動き出したり、壁にかけてあった写真が落ちてきたり。
コナン:そう、まさにそれ。あと僕には兄と弟がいるのだけど、子供の時にちょっとしたイタズラをしてさ。小型のレコーダーを、家の中の色んなところに仕掛けて録音してたんだ。あとで聞き返してみたら、「急に人の声が聞こえる!」みたいなことはないかな?ってさ(笑)。それで、ちょっとした物音が入っていただけで大騒ぎしてたら、それを聞きつけた教会から「お宅を除霊します」なんて手紙が来ちゃって母親に怒られたことがあったな(笑)。
出戸:僕はそういう神秘体験のようなものはないんですけど、最近はみんなが「お金」や「国」を信じてるとか、そういうことが神秘的というか、不思議だなあって思いますね。奇妙といってもいいと思うんですけど。
─貨幣価値も国家も、「信用」という担保があって成り立っているだけで、実際は存在していないですもんね。ユヴァル・ノア・ハラリも著書『サピエンス全史』で、人は「虚構」という概念を生み出したことで、国家、法律、貨幣、宗教といった「想像上の秩序」が成立したと語っています。人間だけができる能力というか。
出戸:そうなんです。その「虚無」に神秘を感じるんですよね。
コナン:うん、それはすごく面白いね。電子マネーとかオンライン決済とか「虚構」としか思えないよね。
─出戸さんのそういう視点が、オウガのようなサウンドを生み出していると思います?
出戸:さっきコナンが、自分にとって楽しいと思える音楽を作ったら、サイケデリックと言われる1stが生まれたって言ってたけど、そのスタンスは僕らも同じところがあって。自分たちが面白いと思うことを追求しながらレコーディングしていった結果が今のサウンドなんですよね。結果的にそれが、他の人にとっては「サイケデリック」なものになっていたという(笑)。サイケデリックを目指してそうなったわけでは決してない。
コナン:同感だよ。割と最近「サイケ」という言葉を安易に使いすぎな気がするよね。よく「サイケデリック・ポップ」っていうけどさ、ポップだったらサイケなわけがないし、サイケだったらポップなわけがない。ポップっていうのはレディ・ガガみたいな音楽だろ? だから矛盾した言葉なんだよ、「サイケデリック・ポップ」というのは。なんか「サイケデリック」が何かすらよく分からなくなってくる(笑)。
出戸:ポップというのもよく分からないですよね。
コナン:僕の定義ではポップっていうのは文字通り「ポピュラーな音楽」ということだと思うんだよね。何百万人に支持される音楽。
─例えば、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は?
コナン:そうか、じゃああれが唯一の「サイケデリック・ポップ」だ(笑)。
─オウガは長野を拠点にずっと活動していますが、その環境も自分たちの音楽性に影響を与えていると思いますか?
出戸:自分たちにとっては長野が日常なので、逆にこうやって都会に出てくると不思議な気分になるんですよね。ファッションブランドのお店なんてうちの周りにはないし(笑)。 さっき話したような「虚構」として成り立っているものをより強く意識するのは、田舎に住んでいるからなのかもしれない。
─東京と長野を行き来しているからこそ、そういう視点が生まれるのかもしれないですね。
コナン:僕も元々は都会出身ではなく、人口が500人くらいの海辺の村に住んでた。でも人生の半分くらいは都会にいるね。実は今、伊豆に引っ越そうかなと思っててさ。今住んでいる東大島も、いわゆる「東京」っぽくなくて公園もあっていいところだけどね。
OGRE YOU ASSHOLEとジャズバスターズ。(Photo by Yuki Kikuchi)
─コナンもニュージーランドやロンドン、ロサンジェルスそして東京と、拠点を移しながら活動していますよね。そもそも、どうして日本に住むことにしたんですか?
コナン:パートナーのヒロミ(オオシマ・ヒロミ)との間に娘ができて、彼女はハーフなんだけど、子供が生まれたことで日本への愛郷心が強くなったんだよね。その前はロスに住んでいたのだけど、お産で彼女と一緒に日本に来たらすっかり気に入ってしまったんだ。その前から日本は大好きで、最初に来たのが確か2008年かな? 短い滞在だったのに、帰るときには寂しくて泣いてしまったんだ(笑)。なんでこんな気持ちになるんだろうってその時から不思議だった。リラックスできるんだよね、ロスなんかよりも。人はみんな魅力的だし、ものすごくきめ細かい心遣いがあって、穏やかで。
出戸:長く住んでみると、印象が変わってくるかもしれないですよ?(笑)
─(笑)。それに今後、音楽にも日本での生活が反映されることもあるかもしれないですね。
コナン:間違いなくあると思うよ。やっているときには気づかないかもしれないけど、きっと何年か経って「ああ、あれは日本にいたからあんなサウンドになったんだな」みたいに思い返すんじゃないかな。
<イベント情報>
OGRE YOU ASSHOLE Live at WWW X
2019年7月19日(金)WWW X
料金:前売 4000円(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
出演:OGRE YOU ASSHOLE
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011055.php
『DELAY』はオウガがホストを務め、これまでマーク・マグワイア(エメラルズ)やミヒャエル・ローター(ノイ!/ハルモニア)ら、海外アーティストを招いて行ってきた自主企画。
ニュージーランド出身のコナンは2010年のデビュー以来、レディオヘッドのツアーサポートやシャルロット・ゲンズブールのプロデュースなど、多岐にわたる活動でカルト的な人気を構築し、昨年は3rdアルバム『ジャズバスターズ』をリリースし話題となった。
この日のパフォーマンスは各人各様で、サポート・メンバーを率いて現れたコナンはソフトサイケからR&BそしてジャズやAORまで取り入れた妖しくも煌びやかなサウンドでオーディエンスを魅了、時折「小芝居」を散りばめるなど百戦錬磨の余裕を見せた。迎え撃つオウガも、15分に及ぶインプロビゼーションを展開した圧巻の新曲をはじめ、唯一無二のアンサンブルで時空を切り裂いていった。
今回RSJでは、興奮冷めやらぬライブの翌日に出戸学とコナンによる対談を敢行。お互いのライブやサウンドのこと、「最もサイケデリックだった体験」など、様々なトピックについてざっくばらんに語り合ってもらった。
─出戸さんはコナンの『ジャズバスターズ』を、年間アルバムのベスト1位に選んでいたんですよね。
出戸:そうなんです。楽曲やバンドの演奏ももちろん素晴らしかったんですけど、シンプルにコナンの声が好きで。
コナン:アリガト!(笑)
出戸:英語の出来る友人が、「このアルバムは音楽教師と生徒の禁断の愛がテーマで、しかも男同士の話だ」と言ってたんですけど、それは合っていますか?
コナン:もともと『ジャズバスターズ』は、幼馴染のブレイク・プレイヤーと僕の兄貴と一緒に『Bostynn Dobsyn』という映像作品とコミックを作り始めたところから始まっているんだ。もう20年も前の話だけど、今回その映画版を作ることを思いついてね。
ストーリーは君の言った通り。ドブソンという成績の悪い生徒が、単位を取るため教師のボストンに色仕掛けをするのだけど、ボストンはドブソンが女性だと勘違いして本気になっちゃう話なんだ。
幼馴染がドブソンを、僕がボストンを演じていて、「ジャズバスターズ」というのはボストンが組んでいるバンドの名前なんだよ。で、このアルバムは『Bostynn Dobsyn』と連動した作品ということで、このバンド名とタイトルにした。なので、アルバムのレコーディングはいつも1人でやっているんだけど、今回は初めてツアー・メンバーとスタジオに入ったんだよ。

コナン・モカシン率いるジャズバスターズ、UNITの楽屋で撮影。(Photo by Yuki Kikuchi)
─夕べはコナンとオウガのツーマン・ライブでしたが、お互いの演奏はどうでした?
コナン:いや、それが終わってすぐ演奏を聴きたかったんだけどフロアがパンパンでさ。落ち着いて観る場所をなかなか探せなかった上に、色んな人に声をかけられたりしてちゃんと観る事が出来なかったんだ。ゴメン、次の機会を楽しみにしてるよ。
出戸:僕も出番前で準備もあって、半分ちょっとしか観られなかったんですけど、でも日本のバンドにはないテイストを感じましたね。例えば、演奏のテンションをグーっと落としてルーズにしていくところでも、アンサンブルとしてはちゃんと成り立っているのってすごいなと。あれだけ落とせるからメリハリがさらに付いているんでしょうね。「こういうやり方もあるんだな」と、すごく勉強になりました。
コナン:ほんと? 嬉しいな。
いつも僕ら、セットリストとかあまり細かく決め込まずに、その場でやりたいことを選んで演奏しているんだよね。曲の構成もそれと一緒で、尺とかちゃんと決めてないからこそ「小芝居」なんかも挟む事ができるんだ(笑)。
出戸:そうそう! リズム隊に散々「盛り上げろ」って煽っておいて、コナンはその間にギタープレイヤーとお喋りしていたりして(笑)。そんな小芝居やルーズなパートをアドリブで作ったりできるのは、コナンの気持ちとバンドメンバーがすごく同調しているからこそ出来るんじゃないかなと。
コナン:何だろう、テレパシーみたいなものかな(笑)。今のメンバーとはかなり長く一緒にやってきたから、言わなくても通じる部分はあるのかも知れない。演奏が終わって、「次はこの曲をやるよ」とすら言わなくても、ちょっとさわりのギターを弾き始めたら「あ、次はこれだな」ってみんな分かってくれているからね。お互いを信頼し合っているんだ。
─そういう意味ではオウガも、PAエンジニアの中村宗一郎さんとまさに「阿吽の呼吸」というか。構成など細かく決め込まず、その場のノリで中村さんが「飛び道具」的にかけたディレイなどに反応して、バンドはバンドで自由にセッションのようなことをしていますよね。
コナン:へえ! そんな事してるの?すごい。PAブースにそんな「メンバー」がいたとは(笑)。
─中盤にやっていた新曲も、途中でめちゃくちゃ長いインプロビゼーションがあって……あれって15分くらいやっていたような。
コナン:演奏しててどんな気分だった?
出戸:お客さんの前で、あの曲を演奏するのは初めてだったんですけど、おっしゃったように「15分」を目指して演奏してたから(笑)、まあなんとか上手くいったかなって思います。
コナン:僕らもたまに、1曲を延々と伸ばすような事もしてるよ。最近はやってないけど。その時、どのくらい自分が酔っ払っているかによって尺が変わるっていう(笑)。30分くらいやった事もあるかな。お客さんは退屈だったかも知れないけど。
─これは完全に僕の個人的な話なんですが、オウガとコナンがツーマンをやると聞いて、まず頭に浮かんだのは「豪雨」なんです(笑)。オウガは去年、日比谷野音でゲリラ豪雨の中ライブをやり続けました。コナンは僕、去年の「デザート・デイズ」で観るのを楽しみにしていたのですが、突然の落雷により中止になってしまいましたよね?
コナン:ああ、あの時ね! 僕は雷が大嫌いだから、中止になって本当よかったよ……(笑)。だって怖いじゃん! あの日の夜も、遠くの方からものすごい雨雲が近づいてきて。「やりたくないなあ」ってテンションだだ下がりだったから、「中止」って聞いて本当にホッとした。
すぐ控え室のあるトレーラーに避難したよ。もちろん、来てくれたファンには申し訳なかったけど。
「デザート・デイズ」に出演するのはあれが2回目だったんだけどさ、スタッフがみんなLSDやらマジック・マッシュルームやらでキマりまくってて(笑)。帰り、そのトレーラーまで車を運転してくれる人がずっと会場の周りをグルグル回ってて、歩いて帰れる距離だったのに一向に到着しなくて本当に参ったよ。
─オウガの雨の野音もすごかったですよね。
出戸:雷も鳴ってましたしね。怖かった(笑)。とはいえ、もう演奏始まっちゃってたから逃げるわけにもいかないし……。
コナン:嫌だよね、雷は。特に日本はゲリラ豪雨があるから大変だ。でも、それがいい演出にもなったんじゃない?
出戸:それはよく言われるんですけど、逆に雨のことしか言われないから「なんだかなあ」って(笑)。
─ところで、コナンもオウガもその音楽性を「サイケデリック」と言われることが多いと思うのですけど……。
コナン:Wikipediaには「サイケデリック」なんて書かれているけど、2010年に作ったデビュー作『フォーエヴァー・ドルフィン・ラヴ』が、僕の中では最もサイケっぽい内容だったんじゃないかなと思ってる。
そうなったのには理由があって。若い頃に一時ロンドンに住んでいたんだけど、そこのシーンに馴染まなくてニュージーランドに戻ったんだ。そうしたら母親が「自分のためのソロアルバムを、自分のためだけに作りなさい」って助言してくれて。おかげでものすごく楽しみながら、実験的なことをたくさん出来たんだよね。今までやったことないことも沢山試した。それが1stアルバムだったんだ。
─じゃあコナンにとって、今までで最も「サイケデリックな経験」というと?
コナン:実は幽霊的なものを見たことがある。自分でも何が起きてるのか、あれが一体なんだったのかよく分からないし上手く説明できないのだけど、すごく怖かったけど面白くもあって。そこはレコーディングをやっている廃屋みたいな場所で、レコーディングするにはすごくいい環境だったんだよね。ただ、窓はカッチリ閉まっていたから風は入ってこないはずなのに、いきなりドアが閉まったり、どこからともなく物音がしたり、壁に掛けてあった鏡が落ちてきたこともあってね(笑)。
─そういえば、オウガの「ヘッドライト」という楽曲のPVは、家の中の家具が勝手に動き出したり、壁にかけてあった写真が落ちてきたり。
ポルターガイスト現象みたいなことが起きる内容でした。
コナン:そう、まさにそれ。あと僕には兄と弟がいるのだけど、子供の時にちょっとしたイタズラをしてさ。小型のレコーダーを、家の中の色んなところに仕掛けて録音してたんだ。あとで聞き返してみたら、「急に人の声が聞こえる!」みたいなことはないかな?ってさ(笑)。それで、ちょっとした物音が入っていただけで大騒ぎしてたら、それを聞きつけた教会から「お宅を除霊します」なんて手紙が来ちゃって母親に怒られたことがあったな(笑)。
出戸:僕はそういう神秘体験のようなものはないんですけど、最近はみんなが「お金」や「国」を信じてるとか、そういうことが神秘的というか、不思議だなあって思いますね。奇妙といってもいいと思うんですけど。
─貨幣価値も国家も、「信用」という担保があって成り立っているだけで、実際は存在していないですもんね。ユヴァル・ノア・ハラリも著書『サピエンス全史』で、人は「虚構」という概念を生み出したことで、国家、法律、貨幣、宗教といった「想像上の秩序」が成立したと語っています。人間だけができる能力というか。
出戸:そうなんです。その「虚無」に神秘を感じるんですよね。
コナン:うん、それはすごく面白いね。電子マネーとかオンライン決済とか「虚構」としか思えないよね。
─出戸さんのそういう視点が、オウガのようなサウンドを生み出していると思います?
出戸:さっきコナンが、自分にとって楽しいと思える音楽を作ったら、サイケデリックと言われる1stが生まれたって言ってたけど、そのスタンスは僕らも同じところがあって。自分たちが面白いと思うことを追求しながらレコーディングしていった結果が今のサウンドなんですよね。結果的にそれが、他の人にとっては「サイケデリック」なものになっていたという(笑)。サイケデリックを目指してそうなったわけでは決してない。
コナン:同感だよ。割と最近「サイケ」という言葉を安易に使いすぎな気がするよね。よく「サイケデリック・ポップ」っていうけどさ、ポップだったらサイケなわけがないし、サイケだったらポップなわけがない。ポップっていうのはレディ・ガガみたいな音楽だろ? だから矛盾した言葉なんだよ、「サイケデリック・ポップ」というのは。なんか「サイケデリック」が何かすらよく分からなくなってくる(笑)。
出戸:ポップというのもよく分からないですよね。
コナン:僕の定義ではポップっていうのは文字通り「ポピュラーな音楽」ということだと思うんだよね。何百万人に支持される音楽。
─例えば、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は?
コナン:そうか、じゃああれが唯一の「サイケデリック・ポップ」だ(笑)。
─オウガは長野を拠点にずっと活動していますが、その環境も自分たちの音楽性に影響を与えていると思いますか?
出戸:自分たちにとっては長野が日常なので、逆にこうやって都会に出てくると不思議な気分になるんですよね。ファッションブランドのお店なんてうちの周りにはないし(笑)。 さっき話したような「虚構」として成り立っているものをより強く意識するのは、田舎に住んでいるからなのかもしれない。
─東京と長野を行き来しているからこそ、そういう視点が生まれるのかもしれないですね。
コナン:僕も元々は都会出身ではなく、人口が500人くらいの海辺の村に住んでた。でも人生の半分くらいは都会にいるね。実は今、伊豆に引っ越そうかなと思っててさ。今住んでいる東大島も、いわゆる「東京」っぽくなくて公園もあっていいところだけどね。

OGRE YOU ASSHOLEとジャズバスターズ。(Photo by Yuki Kikuchi)
─コナンもニュージーランドやロンドン、ロサンジェルスそして東京と、拠点を移しながら活動していますよね。そもそも、どうして日本に住むことにしたんですか?
コナン:パートナーのヒロミ(オオシマ・ヒロミ)との間に娘ができて、彼女はハーフなんだけど、子供が生まれたことで日本への愛郷心が強くなったんだよね。その前はロスに住んでいたのだけど、お産で彼女と一緒に日本に来たらすっかり気に入ってしまったんだ。その前から日本は大好きで、最初に来たのが確か2008年かな? 短い滞在だったのに、帰るときには寂しくて泣いてしまったんだ(笑)。なんでこんな気持ちになるんだろうってその時から不思議だった。リラックスできるんだよね、ロスなんかよりも。人はみんな魅力的だし、ものすごくきめ細かい心遣いがあって、穏やかで。
出戸:長く住んでみると、印象が変わってくるかもしれないですよ?(笑)
─(笑)。それに今後、音楽にも日本での生活が反映されることもあるかもしれないですね。
コナン:間違いなくあると思うよ。やっているときには気づかないかもしれないけど、きっと何年か経って「ああ、あれは日本にいたからあんなサウンドになったんだな」みたいに思い返すんじゃないかな。
<イベント情報>
OGRE YOU ASSHOLE Live at WWW X
2019年7月19日(金)WWW X
料金:前売 4000円(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
出演:OGRE YOU ASSHOLE
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011055.php
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