ブロードウェイミュージカル『The Cher Show』でトニー賞初ノミネートとなったファッションデザイナー、ボブ・マッキー。象徴的な12着のドレスをデザイナー本人が振り返った。


この50年間、マッキーは歌手のシェールと仕事を続けてきた。今回、シェールの半生を描いたブロードウェイミュージカル『The Cher Show』でもマッキー節が炸裂。の手の込んだ自己主張の強いデザインがさながらファッションショーのように登場する。彼はこの舞台の衣装で、トニー賞に初ノミネート。最優秀衣装デザイン部門に選ばれている。

マッキーはシェールの他にも、伝説的ポップ・アーティストの衣装を手がけてきた。エルトン・ジョンからピンクまで、自分の個性とマッチする服を求める野心的なパフォーマーたちの御用達デザイナーとなった。

「彼らはみな強烈な個性の持ち主。ただ単に着飾って終わりじゃない」と、マッキーはローリングストーン誌の取材に答えた。「ショウを特別なものにするにはどんなルックスで、どんな仕掛けが必要か。そういうことを常に考えている。パフォーマー本人をカッコよく見せるのと同時に、観客を視覚的に楽しませることも大事なんだ」

彼のキャリアを代表する「伝説の12着」を本人に解説してもらった。


・アン=マーグレット:金のスパンコールのフリンジ

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

1978年の彼女のラスベガス公演の衣装。アン=マーグレットはグラマラスでセクシーだった。とにかく素敵だった。それに彼女は出演映画のイメージをそっくりラスベガスのステージで再現した。超セクシーな女性として有名だったし、実際あの赤髪が見た目にも華やかだった。踊るときはワイルドなんだよ。彼女が動きやすいものがいいと思って作った。たしか一時期、この衣装を着た彼女の巨大ビルボードがサンセット大通りに飾られていたと思う。

・ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームス

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

とにもかくにもパフォーマー重視。TVだろうと、アカデミー賞だろうと、ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームスの特別番組だろうとね。この衣装は1969年の特番用。彼女たちはグラマーなのが売りだったし、アメリカの他の女性グループよりもおしゃれだった。
そうした魅力で彼女たちは有名になったんだ。ダイアナがリーダー格だったから、まずは彼女に気に入ってもらわないといけなかった。当時はダイアナ・ロス&ザ・シュープリームスという名前だったね。ダイアナが脱退してソロになる直前で、この特番のすぐ後に脱退した。

・マドンナ:アカデミー賞授賞式「スーナー・オア・レイター」での衣装

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

このドレスのサンプルを着た彼女の写真があるよ。当時の僕のコレクションの1着で、それを着た写真がヴァニティフェア誌の表紙を飾った。彼女から「アカデミー賞に着ていくドレスが欲しいの」って言われてね。作品は『ディック・トレイシー』で、彼女は髪型から何から全部マリリン・モンローっぽい雰囲気だった。彼女が「これいいわね」って言うと、スタイリストが「ボブ・マッキーに電話なさいよ、彼なら1着作ってくれるわよ」って言ったらしい。僕らはマドンナ用に1着用意して、彼女はそれを着て式に出席した。いろんなパーティでも着てくれたよ。その日彼女の同伴はマイケル・ジャクソンだったから、いろんな媒体で取り上げられたね。


・ピンクからフレディ・マーキュリーへ敬礼

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

彼女はクイーンとフレディ・マーキュリーへの追悼として、メドレーをやった。僕はフレディの衣装をいくつかチェックして、そこからインスピレーションを得た。彼はこんな感じのジャケットを着てたね。市松模様のプリントものも着てた。これはそのコンビネーション。たしか彼女はこれを着て宙吊りをしたんじゃなかったかな。宙づりとか、いつも彼女がやるようなワイルドなことをね。ショウの後半では、すごく大きな白黒のオストリッチのフェザースカートを履いてたよ。ショウの進行とともに、衣装全体が七変化していったんだ。

・グラミー賞でのピンク(「グリッター・イン・ジ・エアー」)

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

彼女がグラミー賞に出演したときの衣装だ。彼女は宙づりになって、そこでドレスを脱ぎ捨てると、このストライプ風の衣装が現れる。空中で回転したあと、巨大なプールにダイブして、水ぶきがあたり一帯に広がる。
よくある月並みな歌やダンスとは全然違ってたよ。宙づりでパフォーマンスするときは相当神経を使わなきゃいけないんだ。僕にとっては本当に恐ろしいよ。すべてが完璧じゃないといけない。ひとつのミスも許されない。あんな風に宙づりになった状態では、ほんのささいな衣装の不具合で、たちまち大惨事になりかねないからね。実際に現場で彼女を見たら肝をつぶすね。

・ベット・ミドラーのオウムの衣装

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

これは彼女のツアー用の衣装。ベットの場合、とてもじゃないけど普通のドレスなんか作れない。この衣装は、最初胸のあたりを覆うようになっていているんだ。オウムがタイトスカートを履いている感じ。覆いがぱっと取り払われると、こんな感じの衣装が現れるって寸法。
彼女は当時ニューヨークに住んでいて、僕はLA在住だった。彼女はこのドレスの色違いを作ったけど、最初の1着は僕の作品だ。

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

シェール(左)、ボブ・マッキー(右) ニューヨークのニール・サイモン劇場でのブロードウェイミュージカル『The Cher Show』こけら落とし公演にて。(Photo by Evan Agostini/Invision/AP/REX/Shutterstock)

・悪魔になったエルトン

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

彼には天使の衣装を作ったこともあるんだ。ものすごく大きなスパンコールの羽根がついたやつ。新作映画『ロケットマン』を見て気づいたんだけど、映画のほうでも「悪魔」の衣装を作ってたね。全く同じじゃないけど、確かにこれをもとにしている。

・ドナルド・ダックになったエルトン

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

彼はおしゃれが大好きで、コスプレも大好きだった。この衣装にも喜々としていた。彼はコンサートの間ずっとピアノの前に座りっぱなしだから、おそらく「シェールみたいな衣装を着たら面白いんじゃないか?」と思ったんだろうね。スパンコール製のドジャーズのユニフォームを作ったこともある。最初から最後まで、ミニー・マウスの衣装でやったコンサートもあったよ。
僕が「ドナルド・ダックはやらないの?」って言ったもんだから、実際に作ることになった。後ろのほう、しっぽのあたりには全体的に詰め物をしている。あれを着たまま、椅子に座ってピアノを引くのは一苦労だったみたいだけど、彼はユーモアのセンスで笑い飛ばした。うまくいかないことがあっても、彼は何とかこなしてたね。

・金の翼とフリンジ姿のティナ

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

あれは70年代後半、元夫のアイクと別れたころだった。2人は解散して、彼女はナイトクラブ周りをしていた。ミック・ジャガーとロックの巨大スタジアムツアーをやる前の話だよ。これはいかにもティナって感じの衣装だ。彼女はこういう羽モノやフリンジ系を喜んできてくれた。本当に面白い女性だよ。もちろん今もね。ミュージカル『ティナ』は面白かったな。舞台で描かれる出来事を、僕も彼女と一緒に実際に経験していたんだから。

・シェール:「ターン・バック・タイム」

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

この衣装は何年もの間に、いろんなバージョンがあるんだ。その都度ちょっとずつマイナーチェンジしてるんだよ。だけど、基本的にはこの形。僕らはこれを「ダイヤモンドを埋め込んだスイスチーズ」って呼んでた。人前で言ったことはなかったけどね。肌のところに穴が開いててダイヤが埋まっている感じがスイスチーズみたいだと思ったんだ。

・ダイアナとエルトンと共演するシェール

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

これは彼女のために特別に作った衣装。とくにお気に入りの1着だよ。チューブビーズも、ダイアモンドも、全部。当時彼女は時の人だったから、本当に何を着てもさまになった。面白いことに、ある時期エルトンとダイアナ・ロスとシェールが一緒に共演することがあったんだ。どんなイベントかは覚えてないけど。とくにイベント用に作ったわけじゃなかったけど、彼女はこの衣装がふさわしいと思ったんだろうね。もちろん、ダイアナはいい顔をしなかった。彼女は当時妊娠してたからね。

・シェール:オスカープレゼンターの衣装

エルトンやピンクも御用達のファッションデザイナー、ボブ・マッキーが語る「伝説の12着」

Courtesy of Bob Mackie

あの年(1986年)、オスカーの出演者はみな、オスカーにふさわしい服装のガイドブックを渡されたんだ。彼女のリアクションが想像できるだろう(笑) 彼女はこう言ったよ、「あらまあ、じゃあ私がいつも着てる服でいいのね」って。彼女はそれまでいろんな映画で、しゃれっ気ゼロの野暮な女性の役を演じてきた。きっとノミネートされるだろうと思っていたんだろうけど、実際はノミネートされなかった。「じゃあ、せめておしゃれして楽しみましょう」って彼女は言って、本当にそうしたってわけさ! この写真はいまも毎年雑誌で取り上げられているね。当時の衣装と同じものが『The Cher Show』にも登場する。まったく同じ、瓜二つの衣装を作ったんだ。あれだけの年月が経っても、いまだにオーディエンスがあの衣装を覚えているなんて素晴らしいよね。ステファニー・J・ブロックがあれを着て登場すると、会場から拍手が沸き起こるんだ。ものすごく愉快だよ。
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