10代のシャロン・ストーンはツアーに参加しておらず、ディランが顔を白く塗ったのは、KISSのコンサートを観たからではない? など、マーティン・スコセッシが製作したNetflixの新作映画『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』について、ローリングストーン誌が事実検証をしてみた。

「仮面を被っていればそいつは真実を語るだろう」と、ボブ・ディランが言う。
これはマーティン・スコセッシが製作したNetflixの新作映画『ローリング・サンダー・レヴュー:マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』の中盤を過ぎたあたりで登場する場面である。ディランは続ける、「そいつが仮面を被っていなければ真実を伝えない可能性が高い」と。そう言っているディラン自身は明らかに仮面を被っていない。さらに、俳優を使ってツアーの様子を効果的に伝えていて、真実から大きく逸れた部分が散見されるドキュメンタリー作品に彼は出演している。これは多くの人々を困惑させるための意図的な戦略だ。ここでは同作品に使用された多数のフィクション要素をいくつか挙げてみる。

1. ローリング・サンダー・レヴュー・ツアーに10代のシャロン・ストーンは参加していない

ボブ・ディランと同世代のロックスターの多くは若い頃に10代のファンと関係を持っていた。もちろん1970年代の話だが、現在そういう出来事の詳細が暴露されると、当事者にとっては大きな痛手であり、汚点となることだろう。しかしディランは芸術のためであれば、そういう恋愛関係の捏造をまったく気にしない図太い神経を持った数少ないアーティストである。映画の後半に入ったところで、シャロン・ストーン(本人役)が、当時住んでいた町にローリング・サンダー・レヴューがやってきたのが19歳で、学生だった彼女はディランに気に入られたあと、少しの間このツアーに参加していたと語っている。これはまったくのデタラメで、彼らの写真はどれも偽物だ(当時の彼女は17歳だったが、未成年者だと冗談にならないので年齢に下駄を履かせている)。

2. ディランはクイーンズでキッスのコンサートを観ていない

映画では、クイーンズで行われたキッスのコンサートにスカーレット・リヴェラに連れて行かれたときに、ローリング・サンダー・レヴューで顔を白塗りするアイデアを得たと、ディランが言っている。
しかし、キッスが活動を始めた1973年2月以外、キッスはクイーンズでライブを行ったことが一度もない上に、1973年はディランがリヴェラと知り合う何年も前だ。さらにキッスがクイーンズでライブを行った当時、彼らはまったくの無名バンドで、会場も小さなクラブばかりだった。ディランがそんな彼らを観に行くはずもないし、当然、白塗りのアイデアを彼らから得たはずもない。あの白塗りは1945年のフランス映画『天井桟敷の人々』からインスピレーションを受けたと推測する人がほとんどだ。

3. ステファン・ヴァン・ドープという名のミステリアスな男はオリジナル映像の撮影を監督していない

1975年に行われたローリング・サンダー・レヴュー・ツアーの間中、ディランはツアーの共演者たち全員を使って映画『レナルドとクララ』の撮影を行っていた。この映画のために撮影された記録映像が今回のドキュメンタリーの源だが、この作品では一度も『レナルドとクララ』に言及していない。その代わり、ステファン・ヴァン・ドープという名の同ツアーの映像作家らしき人物が、すべて自分が撮影したにもかかわらず、その功績をちゃんと認められていないと、カメラに向かって独白している。もちろん、そのような人物は実在しない。ステファン・ヴァン・ドープを演じているのは、1970年代に人気のあったパフォーマンス・デュオ、ザ・キッパー・キッズの片割れマーティン・ヴァン・ハーゼルベルクだ。映画の初めの方でグリニッジ・ヴィレッジでベット・ミドラーがディランと一緒にいるシーンがあるのだが、ミドラーはハーゼルベルクの妻だ。

4. ジャック・タナー議員は実在しない

映画の終盤に、ミシガン州の議員と思しきジャック・タナーが、ナイアガラの滝でのローリング・サンダー・レヴュー公演を実現するために、自分が持っていたジミー・カーターのコネを使ったと話す場面がある。ジャック・タナーを演じているのは俳優のマイケル・マーフィーだ。
役名のジャック・タナーは、ロバート・アルトマンがミシガン州の選挙戦の裏側を描いた1988年のモキュメンタリー『Tanner 88』から。この作品の脚本はギャリー・トゥルードーである。

5. ジム・ジアノプスはこのツアーを宣伝していない

ジム・ジアノプスは数多くの偉業を成し遂げた男だ。制作会社フォックス・フィルムド・エンターテイメント社に共同議長として12年間勤務し、現在はパラマウント・ピクチャーズのCEOだ。しかし、彼はローリング・サンダー・レヴューの宣伝は行っていなかった。当時の彼はフォーダム大のロースクールに在学していた。ただ、この作品で見せた彼の演技は驚くほど上手である。

ここまで挙げたフィクション要素は、決してこのドキュメンタリーの魅力を削ぐものではない。この物語はこれまでも多くのメディアに取り上げられ、何度も語られてきたのだから、未公開のレア映像で作られたでキュメンタリーに多少のフィクションが混じった方が面白さも増すというものだろう。「映画の中に隠されているさまざまなイースターエッグを見つけるために、みんなが何度もくり返し観てくれることを期待している」と、ディランに近い関係者がローリングストーン誌に語ってくれた。「ドキュメンタリーの記録映像というものは、語りたいストーリーに応じて映像作家が自由に使うことが可能だ。この作品のどこに楽しさを感じるのかを、観る人それぞれが見つけてくれることを願っている」と。
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