ノースダコタ西部に多く見られるビュート(切り立った丘)のひとつに登ると、目の前には燃え上がるメタンの炎の景色が広がり、その下には1万2800カ所以上の稼働中の油井と隠されたパイプラインがある。ここノースダコタでのバッケン石油ブームは、米国が世界トップクラスの石油産出国の仲間入りをする後押しをした。
しかし、コーディ・ツー・ベアーズは全く異なる見解を持っている。「欧州人が初めてタートルアイランドに上陸した500年前、この土地の扱い方を心得ていた我々は、彼らに暮らし方を教えた」とツー・ベアーズは言う。ネイティヴアメリカンの多くは、北米大陸を”タートルアイランド”と呼ぶ。「今、世界は崩壊に向かっている。今こそ我々ネイティヴアメリカンが先人の知恵を駆使し、この国における持続可能な生き方を示すべき時だ」
スタンディングロック・インディアン居留地でダコタ・アクセス・パイプライン建設への反対運動が起きた2016年当時、ツー・ベアーズ(34)は、オセティ・サコウィン・キャンプの中心となったコミュニティのキャノンボールで部族の代表メンバーを務めていた。同キャンプは、数百のネイティヴアメリカンの部族が参加した歴史的集会で、2016年の後半まで続いた。翌2017年、彼はネイティヴアメリカンのコミュニティへの再生可能エネルギーの供給を目的とした、インディジェナイズド・エナジーという組織のアイデアを思い付く。ソーラーパワーを推進する多くのグループからの資金援助により、彼のビジョンが実現した。
そして2019年2月、スタンディングロックで初のプロジェクトが完了する。問題となっている石油パイプラインからわずか5キロ足らずの場所に、300kWのソーラーアレイ(太陽電池の集合体)を設置したのだ。
スタンディングロックの人々が、ベアーズのソーラーアレイの設置を手助けした。設備のメンテナンス方法を学んだ彼らは、今後ソーラーエネルギーの恩恵を受けることとなるだろう。「ネイティヴアメリカンにまつわる悲しい物語には飽き飽きしている」とツー・ベアーズは言う。「我々には、人々の心に伝わる感動的な物語が必要だ。我々の子どもたちには、自分たちのコミュニティに参加したいという意欲が湧くよう促すと同時に、彼らが今後250年に渡り持続可能な生活を送っていけるための足がかりを作らねばならない」
グリーン・ニューディールや国連の気候変動に関する報告書がニュースの見出しをたびたび賑わす一方で、ほとんど報道されることはないが、ネイティヴアメリカン・コミュニティの間では再生可能エネルギーを推進する動きが高まってきた。
サウスダコタのパインリッジ・インディアン居留地では、サンダーバレー・コミュニティ・ディベロップメント・コーポレーションが「世代をまたぐ貧困の克服」を目指し、ソーラーパワーを主として使用する持続可能なコミュニティを構築している。ネブラスカ州のウィネバゴ族は既に400kWのソーラー施設を設置し、今後も増やす予定だという。またウィスコンシン州のフォレストカウンティ・ポタワトミでは、強力なグリーン推進運動が盛り上がり、複数のソーラーアレイが設置された。
「ソーラーエネルギーは今、各部族の間に野火のような勢いで広がっている」とロバート・ブレイクは言う。ブレイクは、ミネソタ州に暮らすオジブウェ族のレッドレイク・バンドの一員で、ソーラー設備の設置会社ソーラーベアーの創業者でもある。

コーディ・ツー・ベアーズ(Courtesy of James Kambeitz)
ムーブメントはさらに、政治にも及んだ。2018年11月、ミネソタ州ではオジブウェ族のホワイトアース・バンド出身のペギー・フラナガンが、州副知事に選出された。ネイティヴアメリカンの女性としては米国史上最高位にある。「私たちの環境を汚染する化石燃料の使用を止めねばならない」とフラナガンは、2019年3月に述べている。彼女は州知事と共に、ミネソタ州における2050年までのクリーンエネルギーの実現計画を掲げている。
また同じく2018年11月には、シャリス・デイビッズ(カンザス州)とデブ・ハーランド(ニューメキシコ州)の2人のネイティヴアメリカン女性が下院議員に選出されている。ホー=チャンク族のデイビッズは気候変動に対する行動の強化を公約に掲げ、ラグナ・プエブロ族のハーランドは再生可能エネルギーの提唱者で、スタンディングロック居留地での抗議運動にも参加した。「地球の将来は、今私たちができる限りの事を起こすかどうかにかかっている」とハーランドは2018年、ニュース&オピニオンサイトVoxに語っている。「地球を救えなければ、私たちには何も残らない」
非ネイティヴアメリカンのリーダーたちにとってスタンディングロックは、再生可能エネルギーを推進するきっかけとなった。
ハワイ州の下院議員で2020年の大統領選への出馬を表明しているトゥルシ・ガバードは、現職下院議員として唯一2016年の抗議運動に参加した。1年後、彼女は「Off Fossil Fuels for a Better Future Act(より良い未来のための脱化石燃料法案)」を立案した。同法案はグリーン・ニューディールと同様の目的を持ち、多くの環境団体の支持を得ている。「スタンディングロックは、集団的意識におけるひとつの転換点だった」とサウスダコタ州選出の下院議員で、ラコタ族とナバホ族の血筋を引くレッド・ドーン・フォスターは2018年12月、ネイティヴニューズに語っている。「スタンディングロックは、人々の殻を打ち破った」とツー・ベアーズは言う。「自分たちのコミュニティにとって神聖なるものを守るため、世界中で人々が声を上げ始めた」
それでもネイティヴアメリカンのリーダーらは、他の有色人種のコミュニティと同様、自分たちのコミュニティが化石燃料業界の汚染被害をまともに受けてきたと主張する。化石燃料の抽出により土地は傷付き、汚染を撒き散らす発電所やダコタ・アクセスのような大規模パイプラインが彼らの住む土地や周辺に多く建設されている。さらにネイティヴアメリカンのコミュニティは、非ネイティヴアメリカンの住民よりもかなり高い燃料費を負担している場合が多い。例えばキャノンボールでは、電力1kWhあたり約14セント(約15円)なのに対し、北へ約1時間のビズマークでは約半額だ。
「スタンディングロックは人々の目を覚ました。しかし我々は昔から、入植者の持ち込んだ資本主義による企業モデルがこの世界を攻撃するのを見てきた」と、ソーラーベアーのブレイクは言う。
「私のコミュニティ内の不均衡には本当に悩まされた」とブレイクは言う。また「この国に展開するエネルギーシステムは、ネイティヴアメリカンの価値観とは一致しないと私は認識した。そうして私の導き出した結論は、ネイティヴアメリカンが自ら再生可能エネルギー源を利用するエネルギー企業を立ち上げねばならない、というものだ」という。さらに重要なステップとして、連邦政府レベルの部族公益事業委員会を創設し、ダコタ・アクセス・パイプラインのようなエネルギー施設プロジェクトに対するネイティヴアメリカンの声をもっと聞き入れる仕組みを作るべき、とブレイクは主張する。

キャノンボール(ノースダコタ州)でソーラーパネルの設置を支援するコルト・タイガー(Photo by James Kambeitz)
2019年3月、ブレイクはビズマークのユナイテッド・トライブズ・テクニカル・カレッジで、4日間に渡るソーラー関連の職業訓練コースを開講した。コースには定員以上の応募があったという。「スタンディングロックでの抗議運動後、修復すべきことが多く出てきた」とソーラーテクノロジー企業のライトスプリングの共同創業者であるジェームズ・カムバイツは言う。同社はノースダコタに本社を置き、同職業訓練コースも後援した。「あらゆる違いを乗り越え、この地球上で生きていくための持続可能な方法を見出すべきだ」
バッケン油田の中心部に、ネイティヴアメリカンの3種族が暮らすフォート・バートホールド・インディアン居留地がある。同居留地では、リサ・ドゥヴィルが夫ウォルター・ドゥヴィル・シニアと共に環境保護団体フォート・バートホールド・プロテクターズ・オブ・ウォーター・アンド・アース・ライツの運営を支援している。2014年7月、100万ガロン(約3万1500トン)の石油産業の廃棄物がパイプラインから漏れ出し、渓谷を通って部族が飲用水を採取する主要な貯水池に流れ込んだ。
「我々の言い伝えによると、その昔ある呪術師の集団が会合を開いた」と、気候変動問題活動の若きリーダー的存在で、活動団体インディジャナイズド・ユースを率いるケンドリック・イーグルは言う。「呪術師は、今後7世代の内に世界中の若者が結束してひとつのムーヴメントを立ち上げ、変化を巻き起こすと予言したという。それは正に我々のことだ」