6月22日からスタートしたHYDEの国内ツアー『HYDE LIVE 2019』。Zepp Tokyoから幕開けしたこのツアーは、仙台、福岡、広島、大阪、名古屋、札幌と各地の会場で複数公演が行われるHYDEが得意とする”籠城型”スタイルで実施される。
ツアーは9月1日まで計26本続くこともあり詳細なセットリストの記載は控えるが、本稿ではこのうち東京セミファイナルとなった6月28日公演の模様をお伝えする。

会場に入ると、まず目につくのがステージを覆う暗幕に表示された時刻だろう。この時計が開演時間6分前……つまり「6:60(=19時)」を表示すると、場内が暗転し無機質なビートが流れ始める。時計が1分、また1分と刻むごとにSEは徐々に盛り上がりを見せ、これに合わせてフロアのオーディエンスもテンションを高めていく。そして、時計が「6:66」(※HYDEファンにはおなじみ、彼の好きな数字「666」にちなんだもの。2003年には同タイトルのアルバムも発表している)になると同時に幕が開き、近未来感漂うステージセットが登場。マスクを付けたバンドメンバーがステージに登場し、最後に全身黒ずくめのHYDEが現れるとともに、「WHOS GONNA SAVE US」にてライブはスタートした。

逆光による照明演出により、HYDEの姿はシルエットでしか確認できないものの、その佇まいからは神々しさすら伝わってくる。低音と高音を巧みに使い分ける彼の歌声はエモーショナルそのもので、その場にいた者すべてが一瞬にして彼の力強い歌声に心をわし摑みにされたのではないだろうか。

曲中のシンガロングパートでは、まるで指揮者のようにリズムに合わせて腕を振るHYDE。黒ずくめでフードをかぶり、顔半分をマスクで隠したその姿は、ここから始まる至福の時間へと導く先導者のように見えた。

1曲目にして早くもクライマックスのような熱気に包まれたフロアに向け、「Are you fuckin ready, Tokyo?」と煽るHYDEは、以降も最新アルバム『ANTI』収録曲を中心にライブを展開。
最初のMCで「(Zepp Tokyoは)ホームだからね。好きにしていいんだぜ? 飛んだり跳ねたり、叫んだり暴れたり、自由だから」と観客に笑顔で語りかけるも、その後はひたすらエネルギッシュなボーカル&パフォーマンスで『ANTI』の世界観を表現していく。合間には「INSIDE OF ME」などVAMPS時代の楽曲も披露されたが、改めて『ANTI』で示したスタイルやHYDEが目指すべき方向性がVAMPS時代と地続きであることが存分に理解できたはずだ。

ライブ中盤ではピアノソロを挟んで、美しい音色のスローバラード「ZIPANG」が披露された。あれだけステージ中を縦横無尽に動き回りながら、激しく歌い続けるHYDEだったが、この曲が持つ繊細さと壮大さをライブでも見事に表現してみせた。ヘヴィな楽曲を中心に展開されるこの日のライブの中で、「ZIPANG」が果たす役割は非常に大きなものがあったのではないだろうか。

バラードで一呼吸置いたところで、HYDEは「このツアーは想像以上に楽しい。『やっぱりこれだよな?』と思う」と満足げに語る。そして、「もっとポップな曲を作ってりゃいいって声もあるけど、そしたらこんな光景見れないだろ?」「『ANTI』っていうアルバムは設計図みたいなもので、みんながライブに来て初めて完成する。俺たちで『ANTI』を完成させようぜ! 俺たちならできるよな?」と改めてライブの重要性を訴えかけると、フロアからは割れんばかりの声援と拍手が沸き起こった。

オーディエンスとぶつかり合うHYDEの魂、「刹那」の美学に酔いしれる

Photo by OGURUMA TOSHIKAZU

オーディエンスとぶつかり合うHYDEの魂、「刹那」の美学に酔いしれる

Photo by OGURUMA TOSHIKAZU

この言葉に続いて始まった最新シングル「MAD QUALIA」では、激しいヘッドバンギングで楽曲の持つハード&ヘヴィなテイストに立ち向かうHYDE。LArc~en~Ciel、VAMPSを含め90年代半ばから彼がステージに立つ姿を目にしてきた筆者だが、ライブで見せる攻めの姿勢や彼から放たれるエネルギーは年々増しているように感じる。
と同時に、心底ライブを楽しんでいる様子も年を追うごとに増しているのではないか……この日のライブで見せる彼の一挙手一投足から、そう感じたのはきっと筆者だけではなかったはずだ。

そして、気づけばステージ上手に設置されたスピーカーの上によじ登ったり、客席に向けて背面ダイヴを試みたりと、相変わらずのやんちゃぶりで観る者の視線を釘付けにするHYDE。ライブ終盤、彼は観客に向けて「悔いを残すなよ!」と何度か叫んだが、先の突発的な行動といいこの発言といい、いかに彼と彼を支持するファンとの間に強い絆が築かれているか、その関係性の強さを再認識するよいきっかけになった。

アンコールではとある海外ヘヴィロックバンドのカバーを、そのバンドにふさわしい演出を交えて披露するといううれしいサプライズも用意。さらに、2000年代半ばに発表したソロ楽曲やVAMPS時代のヒットシングルなども用意され、ある曲では本公演中でHYDEが唯一ギターを抱える場面もあった。このへんは是非、今後各地で行われるライブにて直接確認してもらいたい。

ライブも残すところあと1曲。HYDEは「今日も楽しい幸せをありがとう」と感謝の言葉を伝えると、スマホのライトを付けてほしいと呼びかける。そして「普通の日常を楽しみましょう」という一言を添えて、ラストナンバーとともに2時間近くにわたるライブをドラマチックに締めくくった。

年々激しさが増しているHYDEのステージを観ると、正直このクオリティを保ち続けるのには体力的、精神的にも相当なものがあるだろうと誰もが思うはずだ。彼は最近のインタビューでよく、「残された時間」について言及している。これは主に海外への挑戦に対しての言葉だったが、そこには「こういったヘヴィな音楽を続けるのにも、タイムリミットは用意されている」という意味も含まれている。
この日ステージに立ったHYDEは、一瞬一瞬を無駄にすることなく、常に魂を燃やし続けオーディエンスとぶつかり合っていた。アンコール中、彼は観客に向けて「出し惜しみするなよ!」と叫んだが、それは自分自身に向けての言葉でもあったのかもしれない。

オーディエンスとぶつかり合うHYDEの魂、「刹那」の美学に酔いしれる

Photo by OGURUMA TOSHIKAZU

だからこそ、我々も彼がステージで灯す炎を一瞬たりとも見逃したくないし、その彼に対して本気でぶつかり合いたいし、そんなHYDEのステージを見逃さないでほしいと多くの人に伝えたい……そんなことを思わずにはいられない、圧巻で唯一無二のステージだった。

オーディエンスとぶつかり合うHYDEの魂、「刹那」の美学に酔いしれる

『ANTI』
HYDE
Universal Music Japan
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