デビュー以来、ほぼ同期にあたる団体のホープ、竹下幸之介と比較され続けてきた遠藤。まるで「光」と「影」のような2人の関係は、大田区総合体育館で開催される「Wrestle Peter Pan 2019」で、新たな局面を迎えようとしている。自らを”不安定”な王者と名乗る遠藤。竹下、そしてDDTに対する想いを本誌に語ってもらった。
飯伏幸太に憧れた男が直面した「光」と「影」の現実
デビュー当時のキャッチフレーズ「飯伏直撃世代の新人」からもわかるように、遠藤哲哉のプロレス人生は飯伏幸太との出会いから始まった。
遠藤 友達が持ってたプロレスゲームで遊んだり、たまにテレビやビデオで試合を観たりする程度には好きだったけど、本当にレスラーになりたいと思ったのは19歳のとき。新日本プロレスで行われた、アポロ55(田口隆祐&プリンス・デヴィッド)とゴールデンラヴァーズ(飯伏幸太&ケニー・オメガ)のIWGPジュニアタッグ王座戦を観たのがきっかけ。中学、高校時代に新体操をやってたこともあって、とにかく飯伏選手の驚異的な身体能力に圧倒されてしまって。
2010年のプロレス大賞(ベストバウト賞)に選ばれたこの試合は飯伏幸太、そして飯伏が当時所属していたDDTの名を大きく知らしめることに。さらには、遠藤哲哉をはじめとする”飯伏直撃世代”の人材たちをプロレス界へと引き込み、現在の活況を産み出す起点にもなった。

©︎株式会社DDTプロレスリング
遠藤 あの試合を観てから、すぐにDDTに連絡をしてテストを受けて入門したのが2011年で、デビュー戦は2012年の4月。その4か月後に”アイツ”がデビューするんですよね。
”アイツ”の名前は、竹下幸之介。「ザ・フューチャー」というキャッチフレーズのとおり、DDTの未来を担う逸材として、破格の扱いを受け続けている選手だ。タッグ形式で行われた遠藤の、いわゆる新人らしいデビュー戦に対し、日本武道館で行われた竹下のデビュー戦の相手を務めたのは、その後WWEでも活躍したエル・ジェネリコ(サミ・ゼイン)。翌13年には早くもプロレス大賞(新人賞)を受賞したほか、棚橋弘至とのシングル戦も経験するなど、明らかにエリートとしての道を歩んでいく。
遠藤 デビューが近いということで、どうしても比較されるわけですよ。実際、実力の差もあったから会社も必然的にアイツにチャンスを与えていたし、アイツもそれに応えていた。もちろん焦りはあったけど、だからどうする? ってところまで辿り着いていなかったのが、当時の自分だった。
新体操経験者ならではの身体能力の高さから繰り出されるアクロバティックな大技の威力が、新人時代から評価されていたとはいえ、常に話題の中心にいるのは竹下。両名の存在が「光と影」と表現される機会も多かったが、「光」はあまりにも強すぎた。竹下とのコンビで、憧れの飯伏幸太&ケニー・オメガ組からタッグ王座を奪取した際も、そこでの遠藤はやはり「光」あってこその「影」。
竹下を狙う「影」の追撃。原動力は「媚びない」心だった
皮肉なことに、竹下の飛躍と比例するかのようにDDTもまた、プロレス団体としての勢力を増していく。そうした流れの中、”面白くない”自分の存在を見直す契機となったのが、2016年7月に行われた、挑戦者として臨んだKO-D無差別級王座戦だった。対戦相手は、同王座の最年少戴冠記録を更新し、その後は最多連続防衛回数記録を更新した竹下。ライバル同士の対決として注目された試合で敗北を喫した遠藤は、その場で佐々木大輔率いるヒール・ユニット「DAMNATION」入りを表明する。
遠藤 自分を変えるための決意、みたいな捉えられ方をされてたけど、あの時は、竹下に完敗して自暴自棄な気分になってたっていうのが正直なところ。格好良い言い方をすれば、流れに身を任せるように、カリスマ(佐々木大輔)の誘いに乗っていったわけですよ。

©︎株式会社DDTプロレスリング
しかし、この自暴自棄なチョイスが、遠藤を劇的に変えることになる。コスチュームや髪形、さらには過去の遠藤ならあり得なかったメイクまで。誰もが目を見張り、そして膝を打った容姿の変貌はもちろん、何より大きかったのは、試合に対する意識の変化だった。
遠藤 DAMNATION入りする前の自分を振り返ると、観客を意識するあまり、リング上で思い通りの試合ができてなかったんですよね。
「媚びるな」。DAMNATION入りを果たした際、リーダーの佐々木大輔から受けたアドバイスは、この一言だったという。
遠藤 観客の声援や応援を意識して闘っていると、反応が薄かったときに戸惑いや隙が生じてしまう、っていうことだと思うんですよね。だから勝つためには、観客に媚びずに自分のやりたいようにやれ、と。実際、カリスマの教えを受けてから、試合のペースや組み立てかたも変わったし、媚びないことで逆に観客を惹きつける存在になれたと思ってるから。
2016年8月にはKO-D6人タッグ王座、10月には佐々木とのコンビでタッグ王座、翌年6月にはKING OF DDTトーナメント優勝。さらに、竹下が保持していた無差別級のベルトにも挑み、奪取には失敗したものの時間切れ引き分けの熱戦を繰り広げるなど、DAMNATION入り直後から始まった、遠藤の猛追撃。2019年4月には師匠格の佐々木大輔を破り、念願のシングル王座戴冠も果たした。
「影」が「光」を潰すことで生まれるDDTの未来とは
しかし、遠藤の”面白くない”気分が解消されたわけではない。なぜなら、それでもなおDDTの「光」は竹下幸之介に当たっているからだ。
「ここで俺が負けたらDDTは終わる」
2019年7月15日、大田区総合体育館で開催される「Wrestle Peter Pan 2019」のメインイベントとして行われるタイトルマッチを前に発した遠藤のこの一言は、挑戦者である竹下のみならず、団体に対する不満をも端的に表している。
遠藤 企業の傘下に入ってから、ぶっちゃけて言えば、会社も選手も以前に比べ格段に”安定”したムードになっているんですよね。俺らの生活とか団体の成長って意味では、歓迎すべきことだけど、そうした”安定”から生まれる展開が面白いかどうかで言えば、俺にとっては面白くない。たとえば、無差別級のベルトにしても、本気で獲りに来ようとする選手が、今のDDTにいるとは思えないし。だから竹下を担ぎ出すしかないわけで。大田区のタイトルマッチだって、どうせ竹下が獲り返すんでしょ? みたいな空気が会社やファンの間にもあるじゃないですか。もし、その通りになってしまったら、少なくとも俺が好きだったDDTは終わってしまうだろうなって。
竹下幸之介がDDTの「光」であり”安定”のシンボルだとすれば、現在の遠藤が目指すのは、まさにDDTの「影」であり”不安定”のシンボルだ。
遠藤 DDTに限らず、プロレスの面白さって常識とは違う不安定さにあると思っていて。だから、俺は”不安定”な王者になりたい。別にアイツみたいに連続防衛記録を伸ばしたいとか、絶対王者になりたいとか、そういうわかりやすい安定路線じゃなく、誰にも明日がわからないような存在であり続けたいんですよ。かつてのDDTがそうであったようにね。

©︎株式会社DDTプロレスリング
負傷欠場という形で流れてしまった、6月30日のメインイベントで予定された竹下との前哨戦。
遠藤 俺の考えだと、タイトルマッチって挑戦者が主役であるべきなんです。だから、自分のこれまでの防衛戦はすべて、敢えて挑戦者に「光」が当たるように見せかけながら、最後に勝つ展開を心掛けてきたつもり。もちろんリスキーだけど、そういう試合がいちばん面白いと思ってる。でも、アイツの試合はいつだって竹下が「光」を独り占めしちゃってるでしょ。アイツが勝ったって記録は残っても、誰と闘ったのかっていう記憶が一切残らないから。結局、今回のタイトルマッチも、アイツは挑戦者という意識すらない。勝負に対する貪欲さは認めるけど、挑戦者という最大の利点を活かせない以上、俺に勝つことはできないですね。
勝つのは「光」を産み出す「影」なのか、それとも「影」をも消し去る「光」なのか。団体の”安定”を左右する勝負の結末は、もうすぐ訪れることになる。
■大会情報
Wrestle Peter Pan 2019
2019年7月15日(月・祝)東京・大田区総合体育館 開場12:30 開始14:00
※全席無料(DDT公式FC「DDT UNIVERSE」への加入が必要)
【遠藤哲哉選手参戦カード】
○メインイベント BLACK OUT presents KO-D無差別級選手権試合
<王者>遠藤哲哉 vs 竹下幸之介<挑戦者>
【その他主要カード】
○セミファイナル 総研ホールディングス presents KO-Dタッグ選手権試合 60分一本勝負
<王者組>佐々木大輔&高尾蒼馬 vs HARASHIMA&ヤス・ウラノ<挑戦者組>
○ドラマティック・ドリームマッチ 30分一本勝負
青木真也 vs 男色ディーノ
○初代O-40王者決定戦~ウェポンランブル 60分一本勝負
高木三四郎 vs スーパー・ササダンゴ・マシン
他全11試合予定
【団体公式サイト】
DDTグループの生中継&過去の試合はこちら。
DDT UNIVERSE(月額900円で初月無料)
https://www.ddtpro.com/