スパイダーマン最新作の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が、世界最速で6月28日から日本での公開がスタートした。ローリングストーン誌の名物映画評論家、ピーター・トラヴァーズによる映画評を掲載する。
ーー『アベンジャーズ/エンドゲーム』の後に続く作品として、十分に満足できるものとなったのは主演を務めたトム・ホランドの役割によるものだろう。

スパイダーマンには、エンドゲームが見えない。身軽な少年らしいはしゃぎぶりと恋の悩みを抱える年頃なイギリスの神童トム・ホランドが演じるスパイディは、かつてないほどに空高く飛んでいる。だからといって、2017年公開の『スパイダーマン:ホームカミング』の続編である本作がバカバカしさや過剰なCGIに陥るのを免れているわけではない。(ネタバレ:そういったことに陥っているのは間違いない。)それでもやはり、子ども向けの明るさが、悲劇的な側面のある『アベンジャーズ/エンドゲーム』のあとでは、救いとなる。生き延びたスーパーヒーローはサノスの指パッチンのせいで、5年を失うことになった。マーベル・シネマテック・ユニバース(MCU)で震撼させたこの出来事を『ファー・フロム・ホーム』は正面切って扱っているが、それがゆえに観客の大切な楽しい時間が台無しにされると考える必要は全くない。楽しさがこのシリーズの基本であり、今年のアカデミー賞でアニメーション『スパイダーマン:スパイダーバース』が受賞したことで実写の本作に注目が集まった中で、今作では期待に応えられるくらいに面白さが盛りだくさんとなっている。

ピーター・パーカー(ホランド)は、映画の冒頭でスパイダーマンとして街の治安を守ることを頭から追いやり、ヨーロッパへの修学旅行で浮き足立っている。そこで、ピーターは普通のティーンエイジャーへと戻り、MJ(ゼンデイヤが演じ、頭脳明晰かつ今まで一番魅力的となっている)に自分の気持ちを伝えようとする。だが、またしても、任務の呼び出しを受け、恋愛は後回しにせざるを得なくなる。
こういった緊急時のために、ピーターのメイおばさん(マリサ・トメイ)はスパイディのスーツをカバンに入れておいた。また、睨み顔をしたアベンジャーズの世話人ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)はピーターが電話を無視していることにカンカンに怒る。撃退すべきヴィランが徘徊しているからだ。

高校の行事としてヨーロッパで休暇を過ごすことで、このシリーズがNYのクイーンズから飛び出せたのは実に喜ばしいことだが、スパイダーマンは土、水、火、風の形態をとるモンスターの冷酷なエレメンタルズと戦わなくてはならない。ヴェネチアの運河が水位を増して猛威を振るう時には、ピーターはクラスメイトから今回も不審がられないように変装をして戦う。親友のネッド(かつてないほど素晴らしい演技を見せるジェイコブ・バタロン)はすでにピーターの秘密を知っている。ありがたいことに、いじめっ子のフラッシュ(トニー・レヴォロリ)はスパイディの大ファンだが、ピーターのことを情けない奴だと思っている。そして、学校で口達者なブラッド(レミー・ヒル)はほらを吹いてピーターを押しのけて、MJを口説きにかかる。まさかと思うだろう。見ていて楽しいのは、フューリーのチームが全身黒づくめのステルス・スーツをピーターのために用意したことだ。ピーターが新しいスパイディの姿を見せると、ネッド(そして、メディア)はその姿を「ナイト・モンキー」と冗談めかして呼ぶ。

ピーターは、師匠のトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)を亡くした今、目標を失ってしまう。
スタークは愛弟子のピーターにとてつもなく高額なハイテクのサングラスを残していった。それは、思いのままに力を利用できるヴァーチャルな音声アシスト機能だ。だが、ピーターはそのサングラスをうまく使えずに、危うく人を殺しそうになってしまう。ピーターが自分を導いてくれる年上の賢明なリーダーを求めていると、クエンティン・ベック(ジェイク・ギレンホール)が現れる。その男は異世界からの訪問者と自ら名乗り、金魚鉢のようなものを頭に被りスーパーヒーローに変装した魔法使いのミステリオに変身する。この新入りキャラはヴェネチアを始めプラハ、ベルリン、ロンドンでエレメンタルを叩きのめす。彼はまさにピーターが求めていた”代理父”的な存在だ。だが、果たしてそうなのか? ギレンホールはこの役に皮肉に満ちたウィットをもたらし、スターの存在感を示してはいるが、アイアンマンではない。それならば誰なのか?

そして、ピーターのクラスメイトたちを追いかけることが最後の切り札となると、特殊効果に重点が置かれる。一体どうしてしまったのか。監督のジョン・ワッツと脚本家のクリス・マッケナとエリック・ソマーズが前作から引き続き仕事をこなし、物語を進めていく。だが、登場人物を特徴づけるためにアクションを使うことはなく、人としての成長を見せるべきことを、コンピューターで作られた大掛かりなトリックを見せることに差し替えている。
それによって、映画は瞬く間に愛想を尽かされてしまう。これは、マーベルのフェーズ4へとなだらかに移行することを目的とする映画としては、おかしな選択だ。そのフェーズでは、多くのお気に入りであるアベンジャーズはもはや存在していない。我々がこの作品で将来を期待できるのはホランドだ。23歳の彼は5年間の成長期を失った10代の若者を演じるのに理想的な選択だ。彼の大きな瞳の無邪気さは本物であり、観客の心に入り込んでくる。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』には、不自然なデジタルのまやかしはない。ホランドの演技に見合うものとなっている。彼は、MCUにもう一度フレッシュさをもたらしている。

★★★★☆
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』
2019年6月28日(金)より全国ロードショー中
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
マーベル・コミック・ブック原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
出演:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、J・B・スムーヴ、ジェイコブ・バタロン、マーティン・スター、マリサ・トメイ、ジェイク・ギレンホール
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.spiderman-movie.jp/
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