フルカワユタカが4枚目となるアルバム『epoch』をリリースした。今作は、Base Ball Bear、安野勇太(HAWAIIAN6)、ハヤシヒロユキ(POLYSICS)、原昌和(the band apart)といったミュージシャンとコラボした楽曲が多数収録されていることが話題となっているが、彼らとの共同作業を通じて再び開放されたフルカワの感覚と技術が、これまでで最も幅の広い楽曲群を送り出すことにつながった点が興味深い。
ジワジワとシーンの中心へと戻りつつあるフルカワの意識は、どういった状態にあるのだろうか――DOPING PANDAの解散から7年が経過した今、彼の現在地を探ってみた。
―音楽系YouTuberセゴリータ三世さんのチャンネルにフルカワさんが初出演したことがちょっとした話題になりましたが、フルカワさんのなかで宣伝について考え方が変わった部分があるんですか?
YouTuberのことは全然知らなかったし、興味があったわけでもないんですけど、これまでの宣伝……ただひたすらラジオや雑誌に出る、みたいなやり方にずっと疑問があったんです。もちろん、それを否定するわけじゃないけど、今、音楽を掘っているような若い子たちがそういったメディアを利用している実感があまりないんですよね。僕のファンは、僕が発信するインスタやTwitterを通じて出演情報を知ってラジオを聞いてるけど。それも確かに必要なことなんですけど、今はいろんなことが過渡期だと思うんですよ。
―なるほど。
それで、スタッフと宣伝について話し合ったときに「YouTuberのセゴリータ三世が……」っていう話が出て、「それだ!」って。それがいいか悪いかはわからなかったけど、今みたいな過渡期に試せることはなんでもやってみたかったし、少なくともこれまでやってきたようなプロモーションは今の自分にマッチしてない気がしたんです。
―過去にやってきたことではあるけれど。
ある種のルーティーンだったんですよ。そもそもプロモーションってこれまではCDを売るためにあって。
―出演した結果、いろいろな反応がありましたね。
そうですね。いいのも悪いのもいろいろ(笑)。でも、今の時代はそういうことが必要なんじゃないかな。とあるサブスクの関係者も「今、一番怖いのはYouTubeだ」って言ってましたよ。日本の中高生は本当にYouTubeを観てますもんね。
YouTuberとの共演で気づいたこと
―やってみてどうでしたか?
彼は喋れるし、頭もいい人なので、インタビューとして面白かった。あと、向こうがアマチュアだっていうことも大きくて。ライターさんとは違って、こっち側から教えることもあるし、逆に「そう見えてるのか」って教わることもあったり。普段、アマチュアの人としゃべる機会もないから新鮮でしたね。でも、見せ方に関して向こうはプロだし、面白いセッションでした。
―本来なら、しっかりとした音楽知識のある人がアーティストからいい発言を引き出すのがいいインタビューの在り方だけど、あれはまた別でしたね。言ってることがたとえトンチンカンだとしても、素直な気持ちをぶつけられることでアーティストの受け答えがいつもと変わってくるっていう。
本当にそう。ある種、ドキュメンタリーっぽくなるっていうか。知識あるもの同士のほうがフィックスした会話になってフィクションになっていくけど、あれだけ考え方が違うとむしろドキュメンタリー感が出てくるっていう。
―今、フルカワさんとしてはそういう新しいことに挑戦していくモードになっているんですか?
どうなんだろう? 少なくとも昔とは全然違うと思います。新作のタイトルは『epoch』だけど、エポックメイキングなことをしようっていう意識はないかな。
―そこと音楽活動は結びついていないけど、振り返ってみると明らかに違う。
全然違いますねえ。今日も番組の収録でスタッフにギターを倒されたけど、ひと言も怒らなかったですもん。場の空気は確実にピリッとしましたけど。
―昔だったら?
昔だったらヤバいですね。2005、6年だったら、相手の謝り方次第じゃ「もう歌わない」って言ってたと思う(笑)。
―あっはっは! それぐらい変わったんですね。
そうですね。よく周りから「丸くなった」って言われるけど、昔が尖ってただけなのかなって。
―そういう時期を経て、今が一番安定している。
うん、今は安定してると思いますよ。尖ってた頃はイライラすることだらけだったし、むしろイライラすることを探しに行ってるような状態だったけど(笑)、今はいろんな判断をマネージャーに任せられるようになったし、全然変わりましたね。
あの頃いた人たちがまた自分のライブを観に来るっていうのは否定すべきではない
―クリエイターとしての気持ちの変化は?
自信はないですけどね。今のほうが歌もギターも自分で納得できる。でも、今は若い子の音楽がヤバいんで。彼らの音楽には洋楽と区別がつかないぐらいミックスのクオリティが高いものもあるし、言葉の選び方からコードのはめ方まで、「これ、どこで学んでこうなったんだろう?」「最初からこれができちゃうの?」っていう子ばかり。そういう子たちがまだ新宿WARPを埋められてないとか、ブッキングの何番目だっていう話を聞いてびっくりしてますよ。そういう子たちと自分が戦うべきなのか考えると、変にソワソワしてきますね。ちょっと世代の近いthe telephonesとか9mmに対しては、「自分とは違うよさはあるけど負けてない」っていう気持ちがあるんだけど、世代が離れ過ぎちゃうとね。
―あはは!
こないだ、渋谷のディスクユニオンに用事があって行ったんですけど、そのとき店内でMy Hair is Badがかかってたんですよ。でも、俺は彼らのことを全然知らなくて。スタッフが言うには彼らの代名詞的な楽曲とは全然違うらしいんですけど、そのとき流れてた曲は文系ラップで、歌詞の世界感とかトラックがすごくよくて、有名な曲かどうかはわからないけどいい曲だったんですよ。
―ああ、それは新作『boys』に入ってる「ホームタウン」ですね。あれは確かにいい曲です。
あのクオリティにはびっくりしました。だから、「ここと勝負するのか」って考えると不可能だと思っちゃう。イギリスかどこかの研究で、新しい音楽を掘る熱っていうのは27、8歳ぐらいで冷めちゃうんですって。だから、普通の人はその年齢までに得た知識と感性だけでよくて、そのあと新しい音楽が本能的に必要じゃなくなるらしいけど、職業でDJやミュージシャンをやってる人は頑張って掘り続けなくちゃいけない。すごくしんどい戦いですよね。僕の周りには若づくりした音を一生懸命探している人もいるけど、そういうのって昔、自分がJ-POPを聴いてたときに急に小室サウンドみたいになってる大御所を見て吐き気がするほど寒いと感じたことを思い出しちゃって。
―今は安定してるし、『epoch』みたいにいい曲が揃った作品ができたけど、この先どうやって歩んでいくかというところまでは見えてない。
でも、ひとつ確かなことは……これを言うと否定する人が周りにけっこう多いんですけど、これまで一緒に音楽を聴いてきた世代、感性ができあがってる世代、つまり2005年前後にフェスにいた人たちをどう楽しませるかっていうのが大事なんじゃないのかなって。あの頃、みんなの琴線に触れた歌詞とメロディっていうのは今も必ず存在していて、そういう人たちに向けたメッセージがある歌詞……今作でいうと「クジャクとドラゴン」みたいな曲は今も必要だし、あの頃いた人たちがまた自分のライブを観に来るっていうのは否定すべきではないんじゃないかと思うんですよね。
―僕もそう思います。
でも、それはあまりクリエイティブなことではない。だからみんな、絶対あの頃の人たちを呼び戻すための作業をしてるクセにしてないフリをするんですよ。
―ふふふ。
「そういうことをやってると尻すぼみになるよ」ってレコ屋の人からも言われるし、それが正しいのはわかるけど、必ずしもそう言い切れないところもあるから僕はそれを否定しないです。
ソロになって6年経った今、改めて大事なことに気付いた
―フルカワさんを見ていて思うのは、今は自分がシーンに戻ってきた姿を改めて見せるタイミングで、様々なチャレンジをするのはそのあとなんじゃないかと思うんですよね。
そうです。そこからですね。
―逆に、今のうちから同世代のバンドから敢えて距離をおいて、若いバンドと積極的に絡むことで突破口を見出すというのもどうなのかなっていう。
とっても難しいです。「(対バンに)入れて!」っていつもお願いして、たくさんの若手のなかに「フルカワユタカ」が毎回いるっていう(笑)。胡散臭さしかないですよね。時にはそういうことも必要だけど。
―あくまでもフルカワさん自身がどう思っているかが大事で、今はクリエイティブに見えなくても、先をしっかり見通せているならいいと思います。
うん、かつてのファンにもう一回聴いてもらうっていうのはすごく真っ当なことだと思っています。その上でまたジャッジしてもらうっていう作業は全然後ろ向きじゃない。
―そうですよね。フルカワさんにはそれなりに空白の時間があるし、フルカワさんの存在を一番に思い出してもらうべきなのはかつてのファンなのかなとは思います。
でも、みんな嫌がるんですよね。違うフィールドに行きたがる。僕もバンドを解散したあと、歌謡ロックっぽく、歌モノっぽくなろうとしたけど、ソロになって6年経った今、改めて大事なことに気付いたと思ってます。
―そして、『epoch』にたどり着いたと。
うん、だからこの作品でやってることはすごくわかりやすいと思う。
―つくってみて手応えは?
楽曲に対してはかなりあります。1枚目(『emotion』)と2枚目(『And Im a Rock Star』)は本当に手探りだったし、前作(『Yesterday Today Tomorrow』)でTGMXさんと一緒に作業したことで思い出した部分があって。ドーパン(DOPING PANDA)時代に比べて雑にもなってたし、忘れてる部分もいっぱいあったなって。そういうことを思い出す作業を経て、今回はドーパンのときみたいにアレンジやメロディを緻密に考えたんですよ。曲の内容もいいし。
―今作に収録されているコラボ曲から得るものはありましたか?
ありましたね。あったけど、実はコラボ以外の曲の評価が高いんですよ。それは純粋にうれしいし、アーティストとしてはそうじゃないとマズい。なので、自分としては満足のいく評価を全体的に得られてます。
―僕は「セイギとミカタ」が好きです。ああいうちょっとコミカルな曲はフルカワさんにとって新しいですよね。
そうですね。元々、僕はユニコーンがすごく好きで、バンドに興味を持ったのはユニコーンがきっかけだったぐらいで。この曲、実はハヤシくんとのセッションで最初に提案したデモだったんですよ。ハヤシくんも「これ、いいね」って言ってくれてたんですけど、結局は「インサイドアウトとアップサイドダウン」になって。でも、これはすごくいい曲だったのでいつか形にしようと思ってました。
―そうだったんですね。
で、ハヤシくんも僕もウルトラマンとユニコーンが好きで、セッション中もその話で盛り上がってたんで、「ユニコーンの『大迷惑』みたいにコミカルな感じで、歌詞はウルトラマンがいいな」ってガワから考えました。今までそういう作り方はしたことがなかったんで、それがグーッとうまくまとまっていったのは気持ちよかったですね。だから、この曲は特に達成感があります。
―今作の幅を広げるのに一役買った曲になってると思いました。
これは本当にハヤシくんとやったからですよ。「インサイドアウトとアップサイドダウン」がニューウェーブっぽくて、メッセージ性もない空を掴むような曲じゃないですか。あのふざけた感じがあったからこそ「セイギとミカタ」を入れられたところはあります。
1人で曲を書く方法がやっと出来上がった
―『epoch』を聴いて、フルカワユタカはこれからだなという印象を受けました。この作品が”ホップ・ステップ・ジャンプ”の”ホップ”で、次の”ステップ”につながっていくのかなって。
ああ、そう言ってもらえるとうれしいですね。今回1人で曲を書く方法がやっと出来上がった感じがあって。言い方は悪いけど、「量産しろ」って言われたらできそうなぐらい、自分の工場の設備が整った感じがしてます。もちろん、下手な量産はするつもりはないですけどね。そういう意味では”ホップ”っていう表現は合ってると思います。でも、それと同時に、今回がこれまでの集大成みたいなものになった感覚もあるんですよ。まだ自分の中でどっちなのかわかってない。「ついにここまで来たな」っていう気持ちと、「これからだな」っていう気持ちと。もちろん「これからだ」って思いを強めたいですけど。
―作品が出来上がったばかりだからそういう気持ちになるのも無理はないですよ。だから、言い換えると今回は「やりきった」ってことなんでしょうね。
環境もいろいろ変わったんですよ。マネージャーが変わって、ツアーのドラマーも変えて。活動をちゃんと続けてると、偶然なのか必然なのかはわからないけど、そういう変化が重なるもんだなっていうのはありますね。
―自分では意識してないだろうけど、フルカワさんが変わったからこそ周りも変わるし、フルカワさん自身が今日話したような意識を持ち続けていれば、今後もポジティブにいろいろ変えていけるんじゃないかと思います。
そうですね!
<INFORMATION>

『epoch』
フルカワユタカ
NIW
発売中