夕方から降り出した雨が一旦上がり、ひんやりとした冷気に包まれたGREEN STAGEには続々と人が集結。ジュニア・パーカーによるビートルズ「Tomorrow Never Knows」のカバーが流れる中、トム・ローランズとエド・シモンズの二人がステージに登場すると、客席からは割れんばかりの歓声が上がる。ヒプノティックな音が少しずつビートに変化すると、聴こえてきたのは「Go」。2015年リリースのアルバム『Born In The Echoes』収録曲のため、フジロックの舞台でこの曲が鳴らされるのは今回が初めて。序盤から大幅にアップデートされたケミカル・ブラザーズを見せつけた。

Photo by Kazushi Toyota

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続いて、アメリカの詩人ダイアン・ディ・プリマの詩を引用した、最新アルバム『No Geography』収録曲「Free Yourself」へ。スクリーンの映像には、糸でぐるぐる巻きになった人やイスに嵌って抜けられない人など何かに縛られた人々の姿が映し出され、幾度となく「自分を解き放ちなさい」という言葉が繰り返される。ケミカル・ブラザーズのサウンドにはピッタリのメッセージだ。

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前半は『No Geography』と『Born In The Echoes』の楽曲を中心に組み立てられ、最新モードのケミカル・ブラザーズを見せつけるような構成。驚かされたのは、それらの最新楽曲がプレイされるたびにオーディエンスから大きな歓声が上がっていたこと。キャリアの長いアクトであればあるほど、代表曲やヒット曲の演奏待ちをするライトなファンが増えて、えてして最新曲に反応が薄くなるものだが、今回のケミカル・ブラザーズを見る限り、そんな不幸とは無縁。
セットが中盤に差し掛かるにつれ、最新楽曲と並んで往年の大ヒット・シングルが観客を大いに沸かせる場面も増えていく。「Star Guitar」のあのスネアが鳴り響いた瞬間には会場中から歓喜の声が漏れ、「Hey Boy Hey Girl」ではオーディエンス全体で「Here We Go!」の大合唱。フジロックでのケミカル・ブラザーズを体験したことのある人ならば、誰もがかけがえのない思い出として記憶しているだろう、あの美しい光景が今一度眼前に広がる。共に多くの体験を共有しながら、長い年月を生き抜いてきたフェスとアクトの組み合わせだからこそ生まれる化学反応がそこにはあった。
スクリーンに映し出された「HOLD TIGHT FUJI ROCK」の文字
トムとエドのハイタッチを境にして、ライブは終盤へ。感傷的なメロウネスを置き去りにするかのように、サウンドは獰猛に、ビートは太く攻撃的になっていき、完全に覚醒したダンス・モードを見せつける。ラストは「Galvanize」から「Block Rockin Beats」へと繋ぎ、ケミカル・ブラザーズの出自であるブレイクビーツへの愛で1時間半を締めくくった。

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全ての演奏が終わり、長い時間をかけてオーディエンスに手を振り続ける二人の背後には、スクリーンいっぱいに大きく「HOLD TIGHT FUJI ROCK」の文字が映し出された。懐メロ集になることなく、最新楽曲を中心に据えたセットで8年間の進化を果敢に見せつけたケミカル・ブラザーズ。その進化にしっかりと応えたオーディエンス。