2015年にバンドとして初来日を果たし、翌年には「GREENROOM FESTIVAL16」に参加した後、東名ツアーを敢行しサマーソニックにも出演するなど、ここ日本でも精力的にライブを行い、着実にファンベースを広げてきた彼ら。紅一点のヴォーカリスト、ナオミ・ネイパーム・ザールフェルトは2017年、「ネイ・パーム」名義でのソロ・アルバム『Needle Paw』をリリース。アコースティック楽器を主体としたロウな手触りのサウンド・プロダクションと、トライバルな要素をちりばめたソウルフルなメロディが各方面で話題を呼んだのも記憶に新しい。
ネイ以外のメンバーも、スウーピング・ダック名義のプロジェクトで2018年に日本デビューを飾るなど、サイド・プロジェクトの活動も順調な彼ら。メンバー4人揃ってのライブも同年6月にTAICOCLUBにて行われてはいるが、フジロックへの参加は今回が初。そのため場内は、開演前から大きな期待に包まれていた。
後方に、日の丸をモチーフにバンドのロゴとコヨーテをあしらった巨大なバックドロップが張られている他は、メンバーそれぞれの機材が最小限配置されただけのシンプルなステージ。そこに、まずはペリン・モス(Dr、Pe)、サイモン・モノシリ(Key)、ポール・ベンダー(Ba)が姿を現し、軽くジャムセッションを開始。サイモンが奏でるスペイシーなシンセフレーズと、ペリンの繰り出すトリッキーなリズム、そして、トレードマークの青いボンゴ6弦ベースを背負ったポールが放つシンセのノイズ音が有機的に交わっていく。もう、その段階で苗場の湿度が20パーセントくらい下がった気がしていると、満を持してネイが登場した。

Photo by Kazushi Toyota
「こんにちはー! みんなとっても美しいわ!」
キューピーの人形を数個ぶら下げたピンクのミッキー(ミニー?)帽子を被り、バーガンディーのブラウスとピンクの網タイツというド派手な衣装。

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「この曲は、宮崎駿からインスパイアされた曲です」と紹介された、その名も「Laputa」(2015年『Choose Your Weapon』収録)からライブはスタート。日本のアニメや音楽に深い関心を持っていることでも知られている彼らだが、この曲はネイが宮崎の「引退宣言」を聞き、映画『天空の城ラピュタ』のシーンにインスパイアされて完成させた曲だという。宮崎へのリスペクトと『ラピュタ』への思いが歌詞にも込められた、この曲のシンプルかつスピリチュアルなメロディを、ハスキーかつソウルフルな歌声で歌い上げるネイ。まるで重力を解き放たれたかのように、ふわふわと舞うシンセのコードバッキングがたまらなく心地よい。続いて演奏された新曲は、切なくも夢見心地なエレピに乗せた、ジャジーなメロディにうっとりしていると一転、複雑なシンコペーションを繰り返すドラムとメロディックなベースが、強靭なグルーヴを生み出していく。
病み上がりとは思えぬネイの生き生きとしたパフォーマンス
続いても新曲で、バッハのフーガを彷彿とさせる旋律をハイトーンで弾くポールに、予測不能なフィルを絡めながら変拍子で絡んでいくペリン。ネイはジャクソンの白いVギターを抱え、サイモンのシンセとともに「ここぞ」というタイミングでカウンターフレーズを散りばめる。そんなプログレッシヴなアンサンブルに身を任せていると、やがてエレピによる馴染みのフレーズが。力強いソウルフルなメロディと美しいコード進行、そしてグルーヴィーなリズムで人気の高い名曲「Molasses」(『Choose Your Weapon』)に、会場からは大きな歓声が湧き上がった。

Photo by Kazushi Toyota

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間髪入れず、ヘヴィ・ファンク・チューン「Swamp Thing」(『Choose Your Weapon』)へ。つんのめるようなビートとうねるディストーション・ベース、鋼のようなエレピが組んず解れつのサウンドスケープを構築し、その上でネイがパワフルに上げる。さらに「By Fire」では、抑揚たっぷりの超絶スキャットを披露するなど、病み上がりとは思えぬ彼女の生き生きとしたパフォーマンスに、会場のヴォルテージも上がる一方だ。
以降も「Building a Ladder」(『Choose Your Weapon』)など既存曲に新曲を織り交ぜながら、チルな演奏を展開。それにしても、メンバー全員が全く異なるタイム感で演奏するという、一歩踏み外せばあっという間に破綻してしまいそうなほどギリギリのバランスで成り立つポリリズムを、涼しい顔をしていとも簡単にプレイしている4人の姿は「圧巻」の一言だった。そして何より、ネイの元気な姿を確認できたことに心から安堵。途中で取り出し、仰いでいた扇子に「必勝」の文字が書かれていたのも印象的だった。

Photo by Kazushi Toyota
「Thank you very much Fuji Rock, ありがとうございます!」
フジロック最終日の穏やかな昼下がりに、まさにうってつけのハイエイタス・カイヨーテ。彼らの音楽を、再びこの地で聴ける日を願う。