まずは開演1時間ほど前に、今回、どんな楽器や装置を持ってきたのかチェックしようと思いRED MARQUEEをのぞいたのだが、既に前方には多くの人々が詰めかけていて会場の1/3ほどが埋まっている状況。驚いた。
思えばフジロック3日目の会場には朝から、前日までには見られなかったような”襟付きのシャツ+綿パンツ”といった「街着」スタイルの人や、これまたフジロックではあまり見ない、普通の鞄を斜めがけにした人が散見されたから、おそらく平沢を観るために初めてロック・フェスティバルに来た人も多いのであろう。ファンであればこの特別なステージをベスト・ポジションで見届けたい思いは同じ。その抑えきれない興奮は、開演前のテストでライトが光ったり、わずかな音が出たりする度に「おーっ!!」という歓声が沸いていたことにも現われていた(ちなみに ”フジロッカーズ”はその光景に驚いていた)。

ライブは「TOWN-0 PHASE-5」でスタート。壮麗さをたたえたエレクトロニックなサウンドに乗せて、平沢の朗々とした声が伸びやかに響き渡る。
両脇に伴う会人(ペストマスクを被ったマルチ奏者で、近年の平沢ライブには欠かせない存在)は、今日はいずれもギターを抱えており、平沢と合わせるとトリプルギターになる濃厚な編成だ。当然、音も普段よりエッジが増大していて、聴衆はまず、サウンドそのもののカッコよさと平沢の歌の力に度肝を抜かれたようだった。
そしてサウンド同様、もしくはそれ以上にインパクトを与えたのは、ステージ後方に設置された「テスラコイル」。曲中、放電して紫の稲妻がビリビリと現われる度に聴衆のボルテージは上昇の一途を辿るばかり。
もう一つ、ひときわ目を引いていたのは舞台中央に設置された「レーザーハープ」。これは機材の間を横断するレーザー光線を手刀で切って音を出す仕組みの楽器である。演奏する際、手を大きく振りあげるため、ちょうどオーケストラの指揮者のような格好になり、その「万能感」に溢れた平沢のオーラもライヴの見どころの一つになっている。ところが、ファンには見慣れたその光景も、初めての人にはとびきりビザールなものに映ったらしく、隣で見ていたカップル(の女性の方)はしきりに怖がっていた(笑)。”怖カワイイ”会人の出で立ちといい、奇妙な機材といい、そしてそれらを束ねる平沢のマッドサイエンティストのような風貌(白髪のウィッグにリムレスメガネ、スタンドカラーのロングスーツ)といい、小さな空間にシュールレアルが渋滞しているので無理もないが、一度圧倒されてしまえば、あとは虜になるのみ。

セットの中には「フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ」「ジャングルベッド」といったP-Model(つまりロック・バンド時代)の曲も。いずれもアレンジはオリジナルと随分と変わっていたが、これらを演奏すること自体が最近では珍しく、複雑なリフや変拍子、あるいは「ホー!」という咆哮を伴う曲からは平沢のプログレ、そしてパンクのルーツがくっきりと感じられた。
また、平沢といえばライブそのものをストーリー仕立てにしたり、観客のその場での反応を取り込んでライブを進行させていく「インタラクティヴ・ライブ」を行なうことで知られているが、この日はその要素はなく、MCもなし。終盤に披露したドライブ感抜群のインスト曲(おそらく新曲)に顕著だったが、ロックのクリシェを嫌い、そうしたイメージとは距離を置いたスタンスを貫いている彼も、この夜ばかりは、彼の中にある荒ぶるロック魂をためらわず表出させた印象だ。しかしその一方で、尚、どのシーンにも属さない「異質さ」もきっちり保っていたことは、さすがとしか言いようがない。
聴衆には外国からの参加者も多くいたが、日本にこんな革新的で途方もないアーティストがいることを、フジロックという場で示すことが出来た意義は大きい。案の定、終演後は実際にその場にいたファンはもちろん、リアルタイム配信を見ていた人も含めて凄まじい反響がいまだに続いている。
次はグリーンステージに立つ平沢を見たい。
〈セットリスト〉
1. TOWN-0 PHASE-5
2. Archetype Engine
3. フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ
4. 聖馬蹄形惑星の大詐欺師
5. アディオス
6. アバター・アローン
7. 夢みる機械
8. ジャングルベッド
9. Instrumental(※おそらく新曲)
10. Nurse Cafe
11. オーロラ(※ヴァージョン違いの「オーロラ3」の可能性あり)
12. 白虎野
ENCORE
13. 回路OFF回路ON
※記事初出時、本文に事実誤認がありました。訂正してお詫びいたします。