多数の少女らに対する性的虐待の罪に問われていたジェフリー・エプスタイン被告が、メトロポリタン矯正センター(MCC)の独房で自殺を図り死亡しているのが発見されたと報じられた。享年66歳だった。


エプスタイン被告は性的人身売買および共謀罪で起訴後勾留されていた。被告は先月ニュージャージーのテターボロ空港で逮捕された後、ニューヨークシティの拘置所で保釈金無しで拘留されていた。死の前日には、被害者の1人が起こした民事訴訟の数百ページにおよぶ資料が公開され、犯罪に関与した大勢の実力者の実名が明かされた。

死亡が報じられるや直ぐに、エプスタイン被告が自殺を果たすことができた経緯をめぐって憶測が飛び交った(現在FBIが調査にあたっているもよう)。被告は数週間前の自殺未遂をうけて自殺防止の監視下におかれていたが、ロイター通信の報道によれば、死亡当時は監視が行われていなかった。ニューヨーク東地区の元検事で、現在はタッカー・レヴィンPLLCの共同運営者であるダンカン・レヴィン氏いわく、エプスタイン被告がMCCで自殺を果たしたのはさほど驚くことではないという。「MCCには、ドラッグから携帯電話、アルコールまであらゆる違法行為がまかり通っています」と言ってレヴィン氏は、拘置所では囚人たちが囚人仲間の自殺に目を光らせるのが常識だと付け加えた(MMCにコメント取材を申請したが、記事掲載の時点で返答は得られていない)。

だが明らかに、エプスタイン被告がいかに自殺を成し遂げたかよりももっと重要な問題がある。つまり、彼の死後どうなるのか、被害者には正義が果たされるのか、ということだ。答えはイエス――ある程度ではあるが。

残念なことに、今回の刑事起訴の被告人として名前が挙がっているのはエプスタイン被告ただ1人であるため、彼に対する刑事訴訟はここで終了となる。「エプスタイン被告の自殺によって大勢の人々が、正義は果たされなかったと感じるのは当然でしょう。
ですが、刑事司法制度の観点では、手の打ちようがないのです」とレヴィン氏。エプスタイン被告の被害者の1人ジェニファー・アローズ氏も、ローリングストーン誌に宛てた声明文の中で同様のコメントをしている。「ジェフリー・エプスタイン氏が、法廷で被害者と対面せずに済んだことに怒りを覚えています。我々は彼の行いで受けた傷を一生抱えて生きていかなくてはならないのに、彼が自ら犯した罪の重みや、これだけ多くの人に与えた傷やトラウマと向きあうことはないのですから」

だが、被告の資産規模を考えれば、被害者が民事裁判で補償を得られないというわけではない(裁判資料によると、被告の資産総額はおよそ5億5900万ドル――かなりの額だが、生前本人が吹聴していた10憶ドルには及ばない)。「検察側はなにがなんでも、差し押さえた資産がエプスタイン被告の管財人の手に渡らず、政府の管理下に置かれるようにしたいでしょうね」とレヴィン氏。

被害者が管財人を相手に損害賠償訴訟を起こすことは可能

エプスタイン被告の被害者らが管財人を相手に損害賠償訴訟を起こすことは可能だ。ローリングストーン誌が取材した弁護士によれば、賠償額は「莫大な額」になるとみられる。裁判に関する報道や、名乗りを挙げている被害者の数を考えれば、民事訴訟で勝訴する可能性は非常に高いとマヤ・シメック教授は言う。ケース・ウェスターン・リザーブ大学で健康衛生および人身売買に関するリーガルクリニックを担当する彼女は、「大勢の被害者が同じ証言をしているのであれば、なんらかの補償が行われる可能性は高くなります」と語った。

だが、民事訴訟の可能性は被害者の居住州の時効によって制限される。ニューヨーク州の場合、最近承認されたばかりの児童被害者法(CVA)により、未成年時に性的虐待を受けた者は誰であれ、55歳になるまで加害者を民事訴訟で訴えることができる。だがフロリダ州では、児童性的虐待の訴訟は被害者が18歳を迎えてから7年後に時効が成立する。
10年以上前にエプスタイン被告に虐待された被害者の場合、たとえ刑事訴訟で名前が挙がっていたとしても(2002~2005年の期間の事件)、「管財人を相手に民事訴訟を起こすには、運が尽きてしまっている可能性があります」とレヴィン氏も言う。

エプスタイン被告の死後、時効のために民事訴訟に持ち込むことができないとなると、正義の鉄槌が下されるのを期待していた被害者には大きな痛手となりうる。「被害者に立ち直ったと感じてもらうには、民事であれ刑事であれ、傷を癒す権利を与えることが非常に重要です。それができないとなると、間違いなく痛手となるでしょう」とシメック氏。

とはいえ、エプスタイン被告に対する刑事訴訟が幕を閉じたからといって、事件に関与した富豪や実力者らが刑事起訴に問われないわけではない。ただし、難しい裁判になるだろう。「他の人々を起訴するには、彼が重要な証人でした。彼が亡き今、立証は難しいでしょうね」とローリングストーン誌に語ったのは、刑事裁判専門の弁護士で、元連邦公選弁護士のジョン・エリス氏だ。今後世間の目は、エプスタイン被告と関係の深い人物に向けられるだろう。被告の元恋人で、訴状でも何度となく名前が挙がり、被告に虐待対象の少女を斡旋したとみられるジスレーヌ・マックスウェル氏だ(マックスウェル氏はいまのところまだ起訴されていない。本人も容疑を全面否定している)。

刑事訴訟が幕を閉じたことを考えれば(また、彼の死によってほぼ確実に持ち上がるであろう世間の重圧を考えれば)、共謀に加担したと思われる人物への捜査は今後も継続されるだろう。
「今となっては、検察側にはたっぷりあります。追及を取り下げる可能性はほぼないでしょう」とレヴィン氏は言うが、捜査を継続するとしても、再開時期や追加の書類公開の可能性については定かではない。

だがつまるところ、エプスタイン被告の死で個々の刑事訴訟が終焉を迎えたとはいえ、彼の容疑に対する捜査――および、これら容疑に関与した人物に対する捜査――は決して終わらない。「エプスタイン被告は亡くなりましたが、正義は果たされなくてはなりません。当局には彼の共犯者や協力者に対する追及や起訴を進めていただき、被害者へ正義を果たしていただきたい」とアローズ氏は言う。エプスタイン被告が司法制度で正義を目のあたりにすることはないという事実と、そもそもなぜこのようなことが起こり得たのかという大勢の怒りや困惑を考えれば、「最終的に政府には、彼の犯罪に手を貸した人物の捜査を求めるプレッシャーがますます高まるでしょう。現時点ではその可能性が高いと思います」とレヴィン氏は言った。
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