控えめに言っても、マリアン・ウィリアムソン氏はやや物騒な見解の持ち主だ。ベストセラー作家にしてスピリチュアルアドバイザー、そして米民主党の大統領候補指名を狙う彼女は、ワクシンからジェームズ・キャメロンの代表作『アバター』熱まで、ありとあらゆる過去の発言で批判の矢面に立たされている。
だが、前回の討論会終了後にウィリアムソン氏への注目と非難が集中した理由は、こうした発言のうちのひとつ、抗うつ剤に対する彼女の姿勢が大勢の人々の反感を買ったからだ。

多数メディアが報じたところでは、ウィリアムソン氏は抗うつ剤を批判するツイートをいくつも投稿し、抗うつ剤はしかるべき精神疾患の治療目的ではなく、「痛みを麻痺させる」ために過剰に処方されている、と主張した。2014年に投稿されたツイートでは、俳優ロビン・ウィリアムスの死を、死亡時に体内から抗うつ剤が発見された事実と関連付けるような発言を投稿した。

アンダーソン・クーパー氏とのインタビューの中で、ウィリアムソン氏は被害を最小限にとどめるべく、コメントの真意を明確にしようと試みた。抗うつ剤による精神疾患治療に関して「麻痺」や「隠ぺい」という表現を使ったことについて、またこうしたコメントにより、現在危機に直面している人々が本来必要な薬物療法と距離を置くのではないか、という質問に対し、ウィリアムソン氏はこう答えた。「あれは適切な発言とは言えませんね。私は一度もあんな発言をした覚えはありません。私の言い方とは全く違いますし、私の発言を完全に誤解しています」

彼女曰く、抗うつ剤に対する自分の批判はうつ病やその他精神疾患に悩む人々に向けたものではなく、「平均的水準の失望」状態にある人々に向けたものであり、人間の多様な感情を経験することは「価値がある」と付け加えた。その後彼女はメンタルヘルス業界に矛先を変え、むやみにうつ病の診断を下していると責めた。「時々、どんな診断をしているのか疑わしくなる」ことがある、とも言った。

抗うつ剤を使用した精神疾患治療に対するウィリアムソン氏の発言は、医師免許を持ったメンタルヘルスの専門家の大多数が間違っているというだろう。そうした点で、彼女の発言は非常に重い。
すべての処方投薬の例にもれず、抗うつ剤にも様々な種類があり、副作用もそれぞれ異なる一方、プロザックのようなSSRIは市場に出回って久しいため、科学業界では、多くの場合患者には害を及ぼす危険性はかなり低い、という見方が確立している。

大うつ病性障害の患者には抗うつ剤が効果的だと実証されている

さらに言えば、大うつ病性障害の患者には抗うつ剤が効果的であることも実証されている。アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)によれば、アメリカではおよそ700万人の成人が大うつ病性障害を患っているという。現時点で最大規模の総合研究のひとつ、11万6000人以上の患者と21種類の投薬を使って行われた522件の治験を分析した2018年のメタアナリシスによると、大うつ病性障害の患者に抗うつ剤を投与した場合、偽薬を投与した患者とくらべて効果が一様に表れたことが分かった。効力や受容性(効果をはるかにしのぐ副作用が出たかどうか)の幅もごくわずかだったということだ。

抗うつ剤が万能薬と言っているわけではない。事実そうではないし、抗うつ剤単体で治療するよりも、従来の会話セラピーと組み合わせたほうがはるかに効果的だと推奨する研究団体もかなりの数にのぼる。すべての抗うつ剤がすべての人々に効くというわけでもないし、危険性がまったくないわけでもなければ、うつに悩む人が全員抗うつ剤を飲めばよくなるというわけでもない。ただ、非常に大勢の人々に恩恵をもたらしているのは確かだ。彼らの多くはTwitterでウィリアムソン氏のコメントをフォローし、INeedMyMedsMarianne(マリアン、私は薬が必要なの)というハッシュタグを使っている。火付け役は作家兼活動家のイマーニ・バルバリン氏。彼女がウィリアムソン氏の障害や慢性疾患に対する見解を批判する記事を書いた際、ウィリアムソン氏が反論したのでこのタグを使い始めたところ、またたくまにネット上に拡散した。


うつ病や不安症はよくある病気であり、全世界の若年世代では自殺が死因の第2位にあがっていることを考えれば、精神疾患で助けを求めるのはよくないと大々的かつ執拗に反対する行為は、誤っているばかりか、有害といってもいいだろう。あえて言うならば、ソーシャルメディアで暴言を吐きまくって波風を立てた別の規格外候補者の言葉を借りれば、これこそまさに「フェイクニュース」だ。
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