そして、その充実した豊かな音楽性を更新するEP『SHINE』を完成させた。ライヴのフィジカルな盛り上がりにおけるピークを感じる、韻シスト流のファンキーでダンサブルなタイトル曲に始まり、オーセンティックなソウルに接近した普遍的な歌ものと現代的なプロダクションをあえて混ぜ合わせたニュータイプである”よあけの歌”まで、大きな振れ幅を持ちながら、1枚を通してしっかりとした流れとまとまりがあり、EPでフルアルバム並みの豊かな体験ができる超濃縮作品。今回はそこに込めた思いや制作過程を、BASIとTAKUに語ってもらった。
「自分たちにとって初めての試みが功を奏したことで、今回もとにかくちゃんと決めないとって、頭が固くなっていた」(BASI)
―前作の『IN-FINITY』は、それまでのキャリアで得たチャンネルや、新たに芽生えた方向性のバランスを考えて各曲を配置した作品だと、以前のインタビューでおっしゃっていましたが、今回はいかがでしょう。
BASI:『IN-FINITY』は、「幕内弁当」ってよく言ってたんですけど、メンバー同士で話し合って、おかずを考えるような感じでした。それより前は、簡単に言うと、何か起点があってそこから流動的に作っていくようなイメージだったので、『IN-FINITY』は僕らにとってはすごく新鮮なやり方だったし、それがうまくいった感触があったんです。だから、今回もデモの段階からどの曲をどこに入れるか、かなり熟考しました。
―そうして選ばれた全6曲、ということですか?
BASI:いえ、それがそう簡単にはいかなくて。何十曲とビートはあるんですけど、なかなか決まらない。何時間も机を囲んで喋っては、ビートを作る作業場に行く、みたいなことを繰り返していて、「これ埒あかんな」って。
TAKU:幕の内弁当に引っ張られて、自分たちの首を絞めたんですよね。
BASI:自分たちにとって初めての試みが功を奏したことで、今回もとにかくちゃんと決めないとって、頭が固くなっていたというか、麻痺していたというか。で、どうしようもなくなって、メンバーとマネージャーの6人で、それぞれ入れたい曲を1曲ずつ書き出して、票が集まった曲を入れることから始めようと思って。
―もう多数決しかないと。
BASI:はい。でも、それが見事に全員バラバラで。「ほらまた決まれへんやん」ってムードになったんですけど、そこでハッとしたんです。「え? これでええんちゃうの」って。ひとりひとりの挙げたこの6曲こそが、今の韻シストであり、1枚の作品なんじゃないかと。

BASI
―なるほど。となると、特に全体的なコンセプトはなかったんですか?
BASI:いえ、作品を作ろうと決めた段階で、「One for All, All for Shine」というコンセプトはあったんです。そのうえで選んだ曲がバラバラだった。それって、じつはもっとも理想的なことだなと思えたんです。
「初期衝動に回帰したわけではなく、体に染みついていることが自然と出てる感じ」(TAKU)
―「One for All」、すなわち、ひとりの個性がみんなのためにあるように選んだ曲を、「All for Shine」、みんなで輝くものにしていく。そう考えるとばっちりですね。そして完成した作品は、結果として幕の内弁当のようなものになったのか、まったく異なるものになったのか、そこはどうですか?
TAKU:メンバーそれぞれの感想はあると思うんですけど、僕としては幕の内弁当的なバリエーションはないと思いますね。
BASI:うん、幕の内弁当ではないかな。『IN-FINITY』は、卵焼き、シャケ、ほうれん草、みたいなノリで、「この辺にピッチの速いもの」とか「ここでレゲエ」とか「ブルージーな曲はここやろ」とか、そんな感じで作っていったんですよ。それと比べると、今回は栄養が偏ってるのかもしれないけど、ある種、そういうバランスすら凌駕した自負もあります。
TAKU:幕の内弁当に引っ張られたけどまったく決まらなくて、結局それぞれが挙げた6曲になって。その結果、謎の出汁が出ていい味になったと思います。作品をいくつ作っても、こういうことってあるんですよね。今回は特にそうだった。だから、はよ次の作品を作りたいとも思ってます。

TAKU
―最初からそれぞれが入れたい曲を挙げていったのではなく、うまくいった前例に引っ張られてしまったからこその意味があるような気がします。
TAKU:僕は勝手に、「AOR」──「アダルト・オリエンテッド・ロック」ならぬ、「アダルト・オリエンテッド・ラップ」って言ってるんです。90年代のヒップホップは自分たちの初期衝動の一ひとつですし、すごく大切にしています。でも、そこに回帰したわけではなく、体に染みついていることが自然と出てる感じ。あとは、バーンと演奏してドカーンと爆発する、若さ溢れるパンク的なエネルギーに刺激されることもありますし、先輩の背中を見て学んだこともある。そういう要素がうまく混ざったうえでの、より洗練された、ヒップホップでありラップミュージックだなと。落ち着いた丁寧な演奏とか、しっかりしたアレンジとか、そういうことはこれまででもっともしっかり出せたと思います。
「我慢している人や、ネガティヴな気持ちの人がいないまま、僕らがおもろいと思うものを、最初から最後までやらせてもらえた」(BASI)
―「アダルト・オリエンテッド・ラップ」という言葉はすごくしっくりきます。
TAKU:韻シストって、5人の個性を石だとすると、曲によって必要な部分とそうでない部分を見極めて、いらないところは削ったりしながら綺麗な形を作っていくことはしてなくて。それぞれ変な形のままなんやけど、「これとこれ、変やけど、なんか合うよな」、みたいな、妙に綺麗にはまってるところがあるんですよね。
BASI:今回は、商業的な要素がゼロっていうか……自分たちがめっちゃ好きなものの純度が高いんですよね。
―それはすごく伝わってきます。ポップだとか聴きやすいだとか、そういう耳触りからくる理屈ではなく、もっと本質的なところで、オープンな気持ちになれる作品ですよね。
BASI:着実に実績を積んできたことで、制作に関わる人たちも、僕らのフィーリングをだいぶ理解してくれてきたんやと思います。韻シストがやりたいことに、全員でトライしようってムードも感じられて。我慢している人や、ネガティヴな気持ちの人がいないまま、僕らがおもろいと思うものを、最初から最後までやらせてもらえた。それって、これまでにいろいろなすれ違いがありながら築いていった関係性があってこそなんですよ。ここまでくるのは、簡単なことじゃないから、今回すごく満足してます。
「NetflixもYouTubeもそうですけど、今はシェアする時代。時代や日常の変化が作風に大きく影響してる」(TAKU)
―そんなテーマや音楽性、制作チームの空気のなかで、曲単位のリリックはどうやって決めていったんですか?
BASI:今回は、ある意味最初から道があったんです。と言うのも、今回のビートは声ネタが多くて。
韻シスト「Just like this」MV(AL「SHINE」収録)
TAKU:フリー素材がオープンソースで山ほどあって。昔は、著作権フリーでしっかりした声ネタってほぼ拾えなかった。今、その可能性が広がったことが作品に反映されてると思います。
BASI:90年代によく聴いてたアーティストが、今になって「俺のビート使ってええで」って。最近までそれを使うことは許されへんかったから、そこから何も生みようがなかったけど、今それができるようになったっていう差は大きいですよね。
TAKU:となると、フリーのサンプルとかハーモニーに対して、「これはみんな使ってそうやなあ」とか、「このまま使うのはなしやから、こう変えてみよか」とか、そういう会話が、制作における主題として交わされるわけですよ。NetflixもYouTubeもそうですけど、今はシェアする時代。だから人々の物欲自体が減ってるとか聞くじゃないですか。今回は、音楽的に何を参考にしたとかっていうよりも、時代や日常の変化が作風に大きく影響してると思います。ちょっと優しくなったというか。
―強欲とは逆の位置にいるわけですね。
TAKU:そうそう。自分でも、トレーニングの時とか散歩の時とか、DJでかけたい曲とかも、ストリーミングサービスで作ったプレイリストを使うことが多いですし。昔は、「今月お金ないなあ。CDに使えるのは……」って、めちゃくちゃ迷ってアルバムを買って、何枚も買えないからずっと同じのを聴くしかなかったし、自然にその作者について深く知ろうとしてたけど、今は月々1000円足らずでポケットに何千万曲ですもんね。
「そんなに深く考えんでもわかるような言葉の並べ方を意識して、1回書いたらもう引き返さない」(BASI)
―とは言え、単なる曲の寄せ集めで、作品に流れがないわけではないですよね。「One For All,All For Shine」というテーマがあったとおっしゃっていたように、10数曲のアルバムが6曲のEPになっただけで、特にリリックからは全体としてストーリー性を感じました。
BASI:曲ごとのテーマは声ネタが引っ張ってくれたと言いましたけど、そのうえで意識したのは、一発書きに近いものにすること。立ち止まって捻ったり、比喩的な表現を使ったりするのではなく、そんなに深く考えんでもわかるような言葉の並べ方を意識して、1回書いたらもう引き返さないで封じ込めようと思いました。僕らは話し合ってリリックを書くタイプではなく、お互いの言葉を投げ合う感じなんで、サッコン(MC)がどう思ってたかはわからないですけど。
―個人的な話なんですが、昨晩すごい雨で、ちょっと悩み事も重なってもやもやしてたんですけど、起きたら晴れてて、そこに1曲目の”Shine”から”Come Around”の流れが重なったこともあって、「よっしゃ、行こう」と思って今ここにいるんです。この流れ、自由にやりたいようにやろうと思って、出ていった先にはすごく楽しいことがある、と私は解釈したんですよ。生活のなかで背中を押される感じが素敵だなって。
BASI:「めっちゃ雨やったけど晴れなたあ、いこか!」って、おしゃったような感覚になってくれてたのであれば、わかりやすい言葉で真っすぐ書き切ることにトライした意味はあったと思います。前作の『IN-FINITY』は20周年の作品で、キャリアを通して起こったことを踏まえてリリックを書くようなモードが確かにあって、そこにはヘヴィーなこともディープなことも含まれてました。でも、今回はそこを経てのことなんで、そういうモードがないんですよね。
―”Shine”のサウンドは、これまでにない感触が強い今作のなかにおいて、これまでの韻シストのスタイルを踏襲するディスコナンバーととらえていいのでしょうか。
TAKU:”Just Like This”のようなゆったりした曲がリードで、”Smile”もそうなんですけど、あまり力んでないようなものが世界観の中心にあるなかで、”Shine”は、韻シストの新曲っぽくて、なおかつライヴでエンジンがかかりやすいものをイメージした曲です。「One For All, All For Shine」を実現するためには、必要な曲だと思います。
「フレッシュ重視なものが流行ってきて市民権を得た今やからこそ、じっくりと作りこまれたラップっていうものに注力した」(TAKU)
―そこから、次の”Come Around”からレイドバックしたムードになって、最後の”Get out my head”まで、アッパーな曲がない。そこはマネージャーさん含む6人が選んだ曲ということで、意図的ではないんですよね?
TAKU:そこは選んだ曲がこうやったってだけですね。
―リズムも”Come Around”以外は跳ねないですし、しかし、のっぺりした印象はなくて、すごくグルーヴしてます。
BASI:ビート選びに関しては、最後はノリみたいなところはあったんですけど、それとは真逆で、リズムに対してのメロディや言葉の乗り方は、めちゃくちゃ精密にやりました。この一音、一句、一文字は拍の表なのか裏なのか、何拍目なのかとか、このコーラスはこのままいったらどこに当たるのかとか。全曲に対して時間の使い方は相当細かくやりました。どうやったらもっと抜けがよくなるか。そこにこだわったことは鍵になってますね。
TAKU:ライムの被る場所が一拍前やったらどうかとかね。そこが「アダルト・オリエンテッド・ラップ」と言ったことにも繋がってるんです。ラップって、フリースタイルとかもそうですけど、フレッシュ重視なものが流行ってきて市民権を得た今やからこそ、じっくりと作りこまれたラップっていうものに注力したというか。
―そして異色の存在が”よあけの歌”。オーセンティックなソウルに接近した、もっとも背景がはっきりしていて時代感が古い曲。そこにオートチューンのヴォーカルのマッチングがすごく印象的でした。
TAKU:いろんなヒップホップクルーがいると思うんですけど、韻シストの大きな特徴のひとつは、Carol KingやStevie Wonder、The Beatlesだと”Hey Jude”や”Let It Be”みたいな、音楽の教科書に載りそうな、コードとメロディと歌詞が「普通にすごくいいもの」を、ヒップホップバンドが作れる力があるってこと。ヒップホップMCが作詞家として詞を書いて、トラックメイクというよりは「曲」をバンド隊が作れる。物事を斜めから斬って人と違うことをするのではなく、カヴァーしやすい、歌いやすい、そういうスタンダードになるような曲をヒップホップアーティストが目指すのって、ありそうでなさそうだなって。
―この曲、歌もTAKUさんが歌われてるんですよね?
TAKU:最初はサッコンが歌ってたんですけど、ほかでラップしてる曲の世界観と、ちょっと離れすぎてるとか、いろいろあって僕が歌ったんです。で、そうなると、タイプ的にこういうスタンダードな魅力のある曲を、ハイファイなピアノと生感のあるドラムとともに表情を付けて歌う、シンガーってタイプでもないんで、クラップとか808の音とかを入れて、声にはオートチューンをかけてみたら馴染むんじゃないかと思って。結果、ルーツを感じる曲やのに、エフェクティヴなものがうまく溶け合ってて、いい感じになったと思います。
「あらゆるやり方にオープンなバンドでありたい」(TAKU)
―そういう生演奏やバンドのサウンドと、エレクトロニック、テクノロジーに、今や境界線はない時代。ただ、韻シストはまぎれもないバンドなわけで、そうであることの価値って何でしょう? それこそ結成当初の、ヒップホップバンドってほとんどいなかった頃とは、周囲の見方も変わってくると思うんですけど。
TAKU:「バンドだからこそ」とか、ほとんど考えたことがないですけど、ライヴにおいてはバンドは強いとは思います。レンジもぜんぜん違いますし。そこで、ライヴ用の生演奏ミュージシャンを揃えてっていうやり方もありますけど、パーマネントにやってるからこその呼吸があるんです。でも、生演奏至上主義で、オケは認めないとか、そういう考えは絶対に持ちたくないですね。そうなったら僕らが進化していける可能性は消えてしまう。これから、パソコンだけでとか、サンプラーを駆使してとか、そういうスタイルでライヴをする人たちは、どんどん増えてくると思うんです。そんなあらゆるやり方にオープンなバンドでありたいです。
―価値観が多様化するなかで、不毛だとわかっていながら、隣の芝生が青く見えたり、自己都合で他者の存在を否定したくなることって、人には少なからずあると思うんですけど、そういう感情が湧いてしまうことはないんですか?
BASI:ナチュラルに入ってくるものに感じることはありますけど、そういう気持ちは一切ないですね。なぜこれがウケて僕らがウケないのかとか、人と違うことがしたいとは思ってますけど、他と比べて優劣を決めることには興味がないんです。それは最初から。
TAKU:歯を食いしばってカウンターを打つようなタイプでもないし、流行り云々の前に、人と同じことはしたくないっていうのは、たぶんメンバーみんなが思ってて。本当は、もっと外部で起こっていることに敏感なほうがいいのかもしれないですけど、自分たちの畑を耕しててもいっこうに実らないからって、雨を追い掛けたところで追いつきませんしね。僕らがそこに着く頃にはもう止んでる。そんなんやったら、自分とこの畑をひたすら耕して、雨がくるのを持ってるほうが、結果的に降らんかもしれんけど、よっぽといいじゃないですか。
BASI:たとえばトラップに雨降ってたらなんでそこだけって思ったり、ブーンバップに降ったらあっち行ってみようと思ったり、最近の若い奴らはとか、そんなこと言うてる暇なんてないですから。僕らは僕らのやりたいことをやるだけですね。

Edited by Aiko Iijima
<INFORMATION>

『SHINE』
韻シスト
発売中
韻シスト TOUR 2019” SHINE旅行”
9/13(金) 愛媛 松山 SALONKITTY
9/14(土) 香川 高松 黒船屋
9/22(日) 東京 町田 CLASSIX
9/23(祝月) 静岡 静岡 Freakyshow
9/27(金) 三重 四日市 Advantage
10/5(土) 兵庫 神戸 NICE GROOVE
10/12(土) 福岡 福岡 kawara CAFE
10/13(日) 山口 防府 印度洋
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11/3(祝月) 北海道 札幌 BUDDY BUDDY
11/16(土) 佐賀 佐賀 RAG-G
11/17(日) 熊本 八代 7th Chord
11/23(土) 東京 キネマ倶楽部
11/24(日) 愛知 名古屋 JAMMIN
11/29(金) 大阪 千日前味園ユニバース
2020.1/12(日) 沖縄 那覇 桜坂セントラル
韻シスト オフィシャルHP
http://www.in-sist.com/