シドが2年ぶりのフルアルバム『承認欲求』をリリースした。バンド結成から16年目を迎え、インディーズ時代から数えて10枚目となるオリジナルアルバムである本作を聴いてみると、これまでのシドのイメージとは異なるサウンドがそこにあった。
これまでのバンドの活動の中で積み重ねてきたものを削ぎ落として、もう一度組み直したという、今のシドにインタビューを行った。

―2年ぶりのフルアルバム『承認欲求』を聴いて、全体を通して丸みがあるというか、聴きやすい印象を受けました。アルバム全体のコンセプトは最初から何か意識されて作っていたんでしょうか?

マオ:最近のシドのコンセプトとして、音も言葉も、16年で積み上げてきたものを一度削ぎ落としたり壊したりして、また組み立てようと思っていて。そういうスタイルを今4人で追求してる途中、この『承認欲求』っていうアルバムを出すことが決まったので、まさにそういうシンプルな曲たちが詰まっているんじゃないかなと思います。

シド、インタビュー「16年で積み上げてきたものを削ぎ落とし、また組み立てている」

シド最新アルバム『承認欲求』初回限定版A ジャケット写真

―具体的に楽曲を作るアプローチなどで変わってきた部分はありますか?

マオ:作り方とか、機材とかも変わってきてるんだけどね。

Shinji:今までだったらギターを3本重ねたりすることが多かったんですけど、シンプルに聴かせたいっていうところで、余分なバッキングとかは弾かず他の音で補ったりしています。シンプルなものの強さ、そこが結果として聴きやすいっていうところに繋がってるのかなって。

明希:プラスアルファの部分で世界を広げようっていう発想よりも、引き算の発想というか。ギターでできるものはギターでやろうとか、そういうところでの曲の捉え方がみんなちょっと変わってきたかな。ミックスも、何パターンかある中で、よりリアルなライブ感のあるテイクで落ち着いた曲もあって。素材感というか、楽器それぞれの音がちゃんと確立して聴こえて、且つライブっぽい曲を選んだり。一つ一つの楽器の音をみんな大事にするようになったのかなっていうのはあります。


ゆうや:昔、海外でライブやったときに、電圧の関係とかで、お借りしたアンプでは日本ほど作り込まなくても意外といい音が出たりしたんですね。それを機に日本でのアンプも新しく買ったりして。それでいい音が出せる自信があったので、シンプルな楽曲っていうのはいいなって思ってましたね。

―そうなるとバンドとしての基準の音をどこに定めるかって難しくないですか? 海外では海外の作れる音があって、日本では日本での作れる音があるわけじゃないですか。今のシドの一番軸となるサウンドってどういう音なんでしょう?

ゆうや:もしかしたら昔は曲によって、サウンドをがっつりと使い分けてはいなかったかもしれないです。今は楽曲ごとにすごくマッチする音をセレクトしていると思うんですよね。各々の趣味嗜好だけで音を決めなくなるとジャンル感も定まるし、余計な情報がない。すっきりとしたアレンジにもなってるので、それが際立って、一つのジャンルを作り出せるようになってるのかなっていう気はしていますね。

明希:機材だけじゃなくて、例えばベースならピッキングや、そのタッチだったり、手元の関係がしっかり鳴らせてないと、どこで鳴らしてもいい音にはならない。いろんなレコーディングやライブをやって気づいたんですけど、そこでやっぱり見直したのは例えばピックの種類とか材質、その楽器に対しての鳴らし方。電圧ももちろん関係してるんですけど、そもそも大元のサウンドのこだわりで言えば、自分と楽器っていう一番ミニマルな関係性がやっぱり重要なのかなって思います。

―アルバム曲の方に話を移したいと思います。
1曲目の「承認欲求」なんですが、これをアルバムタイトルに持ってきた理由っていうのは?

マオ:特に若い方たちの中心にあるSNSについては、いつか書きたいなと思っていて。元々SNS世代じゃないけど、今はSNSを使っている俺たち世代が書ける歌詞っていうものを今書いてみたいと思って。今の時代に、しっかりシドの『承認欲求』ってアルバムの曲たちを刻みたいという思いからタイトルにしました。将来振り返ったときに、あの時代の作品だよね、っていうのがわかるようなもの。アルバム10枚目っていう区切りもあるし、ここで一回時代に刻みたいなっていうのはありましたね。

―「承認欲求」で愛して欲しいけど見て欲しくもないみたいな矛盾したところがあって、最後10曲目の「君色の朝」になると「愛した人たちの全てから愛されることを望んでみた」っていう歌詞がすごい印象的で。アルバム全体を通して、様々な愛情を経験して、最終的に再び愛されることを望む結果にたどり着くのかなって思いました。途中の曲順も、皆さんそれぞれ思いがあって決められたんじゃないかなって思うんですが、いかがでしょうか?

マオ:まさにその通りです。例えば途中に明るめの「ポジティブの魔法」があったり、「承認欲求」からの流れで「Trick」っていうちょっとだけダークな承認欲求の方の世界観も入ってたり。最後には、「君色の朝」で、少しだけ希望の光が見えたところで終わっていくアルバムにしたくて。ツアーも含めて、最後は希望の光が欲しいなっていうのはずっとあったんですよね。だから、自然とこの曲順になりました。


―楽曲制作については、Shinjiさんが「承認欲求」と「手」、「see through」、「淡い足跡」を作られていますが、これらの曲で意識された部分はありますか?

Shinji:曲を先に作っているんですけど、すごく意識して作った曲は「手」ですね。「承認欲求」は割とスーッと出てきたんですけど、「手」に関してはゲームの中の広大なフィールドを歩いてる序盤の風景。そういうイメージからどんどん広げていった曲で、サビとか割と壮大な感じになるんですけど、結構時間をかけて作りましたね。

―「承認欲求」を聴かれて、マオさんは先ほどおっしゃってたSNS社会の歌詞がすぐに閃かれたんですか?

マオ:逆でしたね。こういうポップな曲なので、ポップな歌詞を最初は載せたくなった。けど、そのまんまポップな歌詞にするのは自分の今やりたいことと違うなって思って、何回も何回も聴いてたら、出てきましたね。

―全体的に柔らかい曲が多いアルバムの中で、明希さんは2曲目の「Blood Vessel」と8曲目の「Trick」を作られています。これらの曲は疾走感のあるアッパーチューンですけど、他の楽曲とちょっと違う曲風にしようと考えたんでしょうか?

明希:曲のできた時間軸が結構バラバラなので、他の曲との兼ね合いを考えてっていう感じでもなかったんですよね。例えば「Blood Vessel」は、シドの持ってる楽曲のスリリングさとか緊張感というのが、こういうジャンルで出せるんじゃないかなと思って作りました。ラウドミュージックみたいなスリリングさよりも、こういう早いシャッフルのスイングの曲、迫り来る狂気な感じの方がシドらしいのかなって思って。H ZETT Mさんっていう素晴らしいピアニストの方の力も借りて、さらにスリリングさが増しました。

シド、インタビュー「16年で積み上げてきたものを削ぎ落とし、また組み立てている」

シド最新アルバム『承認欲求』通常盤 ジャケット写真

―「Trick」はいかがでしょう?

明希:「Trick」で聴いて欲しいのは、コード感や転調感で押し切るところですね。
その上にステイなリフがずっと乗ってるっていうような感じです。今までの作り方だと、メロディを基準にコードを合わせることが多いんですけど、今回はコードを推した中にメロディを合わせていきました。メロディで考えたら、他のコードの方がいいのかなっていう部分も、あえてオケ寄りのメロディにしたり。こういうアプローチはあんまりなかったかもしれないですね。

―明希さんって、80年代とか90年代のハードロックがお好きですけど、ご自身作曲の楽曲では、結構ピアノのサウンドとかも入ってますよね。

明希:元々楽器を始めたきっかけがピアノなので。曲にピアノを入れるっていう発想は自分の中では王道というところはありますね。「君色の朝」とかは、最初のピアノのフレーズとかはなんとなくイメージして作っていましたし。「涙雨」に関しては、割と初期からあった曲だったりするんですよ。それを今の自分たちの表現の仕方でやってみたらどうかなって思って。アレンジをもう一回考え直してメンバーに提示したら、この形になったみたいな。過去に作った曲と最近作った曲と混在してますね。


―ゆうやさんは4曲目「デアイ=キセキ」と6曲目「ポジティブの魔法」を作曲されていますね。「デアイ=キセキ」はハンドクラップとかも入っていて、9月から始まるホールツアーを考えたときにすごく映えそうな曲だなって思うんですけども。

ゆうや:意識してますね。そのノリもそうですけど、サビでずっと同じこと言ってたり。意味の多さを置きすぎないサビだと、考えたりする間も無く、自然と身体を動かせる曲になるのかなっていうイメージで作りました。

―「ポジティブの魔法」は、一転してアコースティックな編成でしっかり聴かせる曲ですね。

ゆうや:これはライブとかは何も考えてなかったです(笑)。オリジナル音源の段階でアコースティックな曲がシドになかったので、あったら面白いかなーって。

―そういったアコースティックな曲を持ってこられた時は、皆さん驚いたりされたんですか?

マオ:今までもっといろんな変わった曲がいっぱいがあったので、そんなに驚きはしなかったですね。逆に景色が見えたなっていうか。曲順はこの辺にしようとか、こういう感じで演奏したいねとかイメージが湧きました。

―アルバムをリリースするまでの間、各々ソロの活動もありましたが、そこで学んで持ってきたものっていうのがあったりします?

明希:ソロに関しては、ミックス、マスタリングも自分でやったので、今回もベースのサウンドの作り方は今までとはちょっと違うようにできました。
僕はサウンド面で、ベースをレコーディングして、その時に録れた音と、最終的に音源として世に出るのを予想しながらいろんな風に録ったんです。ライブのサウンドも、やっぱりエンジニアさんとも毎日毎日顔合わせて、PAさんと作っていったので。その辺はやっぱり勉強になりましたね。

マオ:僕はみんなをもっと近くに感じたい、みんなも僕のことを近くに感じて欲しいっていう思いをソロのコンセプトにしているんです。あの経験が、ファンのみんなが求めてる物のヒントにも繋がっていて。逆に何を求めてるかとかわからないと、ファンの予想を裏切るサプライズもできないというか。「承認欲求」っていうタイトルでこの曲が来たらファンのみんなはびっくりすると思うし、そういうサプライズをいっぱい仕掛けていくにはやっぱり、直接ファンのみんなの声は大事にしていきたいですね。

―ちなみに今回のアルバムの収録曲を選ぶ基準っていうのは明確にあったんですか?

マオ:選曲の時点で新旧たくさんの曲があるんですよ。その中からアルバムとして選ぶので、かなりバランスは意識していますね。今回のタイミングはこれだっていうのをシビアに選んで残った曲たちっていう感じですかね。

明希:今回の中で言ったら、引き算ありきで選ばれてる曲も多くて。当時の選曲の基準に合わなかったけど、今の感じだったらこれめちゃくちゃ合うじゃんって感じで、新曲として蘇ったというか。

シド、インタビュー「16年で積み上げてきたものを削ぎ落とし、また組み立てている」


シド最新アルバム『承認欲求』初回限定版B ジャケット写真

―ちょっと大きな質問になってしまうんですが、今は全世界的に見て、ヒップホップとか打ち込みの作品の方が、チャートで多く上がってくるような時代かなと思うんです。その中で、シドはバンドとして背負っているものもあるのかなと思って。今の時代にどういう思いを持ってバンドとして活動されているんでしょう?

マオ:一番は4人ともバンドしかできないからやっているっていうことですね。今からシドを聴いてくれる新しいファンの人がどうやって知ってくれるかなとか、そういうのは常にアンテナ張らなきゃダメだと思っていて。そこに対して俺たちは、常に新しい要素だったり、世の中の流れは組み込んでいきたいんですけど。でも、やっぱり俺たちはこれからもバンドサウンドでいくと思うんで。そこはブレずにやっていきたいし、もうそれしかやれないから。一生懸命みんなでやりたいです。

―9月から全国ホールツアーが始まりますが、意気込みをいただけますでしょうか。

ゆうや:今作は音数を減らして減らして、自分たちに近い度量で作り上げたアルバムだと思ってて。あとは自分たちの力で、ツアーまでにどこまで高められるか次第だと思ってます。アルバムの世界観をちゃんと伝えられるツアーにしたいなと思っています。

Shinji:アルバムは妥協なく作れたので、やっぱりライブでは「ライブの方がいいよね」って言ってもらえるようにしたいです。演奏も音源通り弾くのではなく、その世界観は崩さないようにカッコよく。ライブがカッコいいっていうのはシドの売りだと思うし、やっぱりカッコいいと言われるような演奏がしたいですね。

マオ:16年もやっていると、俺たちをずっと見てくれてるファンの子たちにシドに対する新しいイメージを持ってもらうのはなかなか難しいことだと思うんです。でも、また新しいシドが見れたねとか、シドってどうなっていくんだろう、楽しみとかちょっと怖いとか、未来のシドもしっかり見せれるようなステージにしたいですね。あとはしっかり支えてくれてるファンがいて成り立つライブ、ファンとのコミュニケーションを大事にしてライブをやってるので、そこはブレずに、お互いがライブ楽しかったねって気持ちになれるようなツアーにしたいですね。

明希:このアルバムは間違いなく今の僕らの象徴でもあるし、すごく賛否両論巻き起こって欲しいなっていう個人的な願望があって。その中でライブは賛否両論を覆すような、熱のある、エナジーのあるライブにしたい。それが一番強い想いですかね。



<リリース情報>

シド、インタビュー「16年で積み上げてきたものを削ぎ落とし、また組み立てている」


シド
『承認欲求』

発売日:2019年9月4日(水) 
・初回生産限定盤A(CD+DVD)
価格:3611円(税抜)

=DVD収録内容=
承認欲求 -Music Video-
承認欲求 -Photo Session-
・初回生産限定盤B(CD+写真集)
価格:3611円(税抜)32P撮り下ろしフォトブック付
・通常盤(CD)
価格:2870円(税抜)

=CD収録曲=
※初回生産限定盤、通常盤、共に同様の内容となります。

1. 承認欲求
2. Blood Vessel(アプリゲーム「イケメンヴァンパイア」第2章主題歌)
3. 手
4. デアイ=キセキ
5. see through
6. ポジティブの魔法
7. 淡い足跡
8. Trick
9. 涙雨
10. 君色の朝

<ツアー情報>

『SID TOUR 2019 -承認欲求-』

2019年9月13日(金)千葉 / 松戸・森のホール21 ~ID-S限定LIVE~
2019年9月14日(土)千葉 / 松戸・森のホール21
2019年9月23日(月・祝)群馬 / ベイシア文化ホール(群馬県民会館)
2019年9月25日(水)神奈川 / カルッツかわさき
2019年10月5日(土)宮城 / 東京エレクトロンホール宮城
2019年10月12日(土)埼玉 / 大宮ソニックシティ
2019年10月14日(月・祝)岡山 / 岡山市民会館
2019年10月19日(土)大阪 / 大阪国際会議場 メインホール
2019年10月20日(日)大阪 / 大阪国際会議場 メインホール
2019年10月22日(火・休)福岡 / 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2019年11月2日(土)愛知 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2019年11月3日(日・祝)愛知 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2019年11月5日(火)東京 / 中野サンプラザホール
2019年11月6日(水)東京 / 中野サンプラザホール
2019年11月9日(土)新潟 / 新潟テルサ
2019年11月13日(水)北海道 / カナモトホール(札幌市民ホール)

チケット料金:7500円(税込)全席指定
※4才以上有料

チケット先行販売
ローソンチケット:https://l-tike.com/sidtour2019/
イープラス:https://eplus.jp/sid2019/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/sidtour2019/
受付期間 2019年8月14日(水)18:00~8月15日(木)18:00

チケット一般発売日
2019年8月17日(土)
※9月13日の松戸公演は除く

シド オフィシャルサイト:http://sid-web.info/
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