BJ・ザ・シカゴ・キッドの声は今日のシーンにおいて、様々な文脈を横断しながら広く求められている。ケンドリック・ラマー、ラプソディー、チャンス・ザ・ラッパー、フレディ・ギブス、スクールボーイ・Q、ケラーニ、ジョーイ・バッドアス、ソランジュ、コモン……これまでに共演してきたアーティストの顔ぶれを見れば、彼のポジションが担っている重要性がよくわかるだろう。


ソウルミュージックの名門モータウンと契約し、2016年にアルバム『In My Mind』をリリース。2017年のグラミー賞で複数の部門でノミネートされ独自の地位を築いた彼は、2019年に新作『1123』を発表。リック・ロス、アンダーソン・パーク、J.I.D.、ミーゴスのオフセットなどの参加もあり、日本でも話題になっている。

なぜ、BJ・ザ・シカゴ・キッドはここまでシーンで必要されているのか。なぜ、彼はここまで必要とされるような「歌」や「声」を手に入れることができたのか。ジル・スコット、アンダーソン・パーク、PJモートンのようなプレイヤー寄りのシンガーからも求められるその歌唱力と高度な音楽性のルーツを訊いた。


この入門編プレイリストでは、BJのフィーチャリング曲も多数セレクトされている。

―あなたは教会のゴスペル・クワイアのディレクターの家族に生まれたので、当然、子供のころからゴスペルとかをやっていたと思うんですけど、あなたにとっての最初のシンガーの先生は誰ですか?

BJ・ザ・シカゴ・キッド(以下BJ):家族だね。叔父はベースを弾いたし、別の叔父はピアノも弾いた、母親も父親も兄弟も歌っていた。祖母はギターを弾いていた。音楽をやらないってことがありえないような人生だったんだ。

―どんな音楽を演奏したり、歌ったりしていましたか?

BJ:もちろんゴスペル。
でも、それよりもテレビのCMで流れていた音楽にハーモニーをつけたりね。そういうことを家族でやっているのが日常だったんだ。音楽を通じて、家族で楽しく暮らしていたし、音楽をやりながらみんなで笑って過ごしていたよ。

―子供のころからポップソングにハーモニーをつけられるくらい音楽を理解していたんですね。

BJ:歌えない自分を知らないくらいに物心がついたころから自然に歌っていたし、歌っていない自分は想像できないくらいに歌は自分の一部だったからね。

―歌に関して、レッスンを受けたり、教育を受けたことはありますか?

BJ:家族から最高のレッスンを受けていたんだと思う。
どこかでお金を払ってレッスンを受けるより、もっと素晴らしいレッスンを家族から教わっていた。それは子供のころは気付いてなかったんだけど、他の家族やシンガーと仕事をするようになって彼らの話を聞いていると、「あれ、自分は知らない間に素晴らしいレッスンを受けていたんだな」って気付いたんだ。自分たちの家族で楽しんでいるだけって思っていたのが、うちの家族は普通とは違うってことに後から気付いた。今考えてみても、家族から受けたレッスンでベストだったと思うよ。

―ファルセットも美しい、リズム感も素晴らしい、いろんなコラボレーションに合わせていろんな歌い方ができて、どれもハイレべルですが、歌い方に関してはどんなトレーニングが良かったと思いますか?

BJ:子供のころから母親が料理をしている横で皿洗いとかをしなければいけなかったんだけど、僕は皿洗いをしながらいつも母親と一緒に歌ったりしていたし、一人でも歌っていた。一日の中で何かをしながら常に歌っていたんだ。
そうやって歌っていると自然にテクニック的に「ここの声の出し方を完璧にしたい」とかそういうディテールにものすごくこだわるようになっていった。そうやってディテールを意識して声の使い方を工夫しながら、自分で様々な歌う方をマスターしていった。

―子供にしてはちょっと意識が高すぎですよね。

BJ:ありがとう。そうかもね(笑)。

―レコードもたくさん聴いてきたと思いますが、技術的な部分を学ぶために特に研究したシンガーやアーティストがいたら教えてください。


BJ:ミッシー・エリオット、トゥウィート、ティンバランド、ブランディー、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、クラーク・シスターズ、その辺かな。

―例えば、ミッシー・エリオットはどんなところが?

BJ:僕はチャーチで育った。ブラックチャーチのクワイアの編成は3つのセクションに分かれている。ソプラノ、アルト、テナーの3つ。それぞれのセクションに5人ずつで15人でとかで歌うのが一般的なんだ。ミッシーがやったのはその5人のパートから4人を取り除いて、それぞれのセクションを1人の声でも歌えるような歌唱法を生み出して、その彼女が考え出したクワイアのサウンドを自分の音楽の中に組み込んで、新しいサウンドを作った。
その歌い方はトゥウィートも同じようなスタイルなんだけど、それを自分なりに分析して、マスターして、自分の声で、自分の音楽の中でどのように応用できるのかを追求してきた。僕はミッシーの方法論を使わせてもらっているんだ。

―そういう歌唱法や曲作りが聴こえるあなたの曲ってどれですか?

BJ:ほとんどすべての曲に入っているといっても過言ではないね。あまりにそのテクニックを使いすぎていて、まるで自分のシグネチャーみたいになっているんだ。

ーミッシー・エリオットくらい影響を受けた人って他にいますか?

BJ:いないね。ゴールドを見つけてしまった後にシルバーを探しに行くわけないだろ?

―スティーヴィーの名前も挙がりましたが、彼のどんなところから影響を受けましたか?

BJ:ボーカルのトーンがリッチなんだ(スティービー・ワンダー「Happy Birthday」を当然歌いだす)。彼のボーカルはリフもいらないし、ただ歌っているだけでまるでエフェクトがかかっているみたいに響く素晴らしい声を持っている。それに彼が書く曲は、自分の声が最も効果的に出るようにデザインされている。彼が歌うことによってその曲がタイムレスになり、クラシックスになる。曲の素晴らしさは言うまでもないけど、彼が歌うことで曲の寿命が延びる。彼こそ真のミュージカル・アーキテクチャー(建築家)だよ。

―あなた自身も自分の声と歌い方に合わせて書かれた歌があって、それに合わせてふさわしい歌を載せていて、すごくデザインされていると思うけど、どうですか?

BJ:僕はそういうことを意図しながらやってはいないけどね。でも、自分の目標は伝説的な存在にならなくても、それに準ずるようなベストな状態の自分を常に表現したいと思っているから、そう言ってもらえるのは嬉しいことだよ。

―意図してないんですか? あなたの歌って、「BJと言えばこのスタイル」って感じよりも、曲に合わせていろんな歌い方をしてますし、そのバリエーションも豊富ですよね。あれはその楽曲にふさわしい歌い方をすごく考えて選んでいるのかと思っていました。

BJ:自分がやり終わるまで、どんな歌い方をするのか、どんな歌い方をしているのかとかは全く考えてないんだ。自分の中で創作において一番大事なのは考えすぎないこと。考えすぎずにその時に思ったことや感じたことを素直に表現している。でも、出来上がってから聴いてみると、さっき君が言ったみたいなことを後から自分でも感じるんだ。

―ちなみに、なんでこんなにもいろんな人にフィーチャーされると思いますか? すごい顔ぶれと人数ですよね。

BJ:自分の音楽性が幅広いっていうのが前提にあると思う。それを理解している人が自分を求めてくる。アフロジャック、トラヴィス・スコット、カニエ・ウェスト、ソランジュが一緒にやりたいって言ってくるのは、僕がひとつのスタイル以上のことができるシンガーだってことを理解しているし、それをすることで僕も彼らもお互いに成長できると思っているんじゃないかな。そして、僕はそれをやることで、さらに音楽の幅が広がっていくから、確実に成長の助けになっているんだよね。彼らはみんな僕の音楽がどういうものなのかわかってくれているんだ。それは嬉しいことだよ。

―今、シンガーとして目標とか、課題とかありますか?

BJ:音楽的にはないね。演技に関してはあるかな(笑)。

―ははは、ステージでも俳優みたいに見えるくらいかっこいい振る舞いをしていましたよね。

BJ:そう? ステージではありのままだよ。隠し事なく全部さらけ出してる。ちょっとズルして適当に歌ってみたりとかそういうのができたら楽なんだけど、僕にはそれができないんだよね。

BJ・ザ・シカゴ・キッドが明かす、カニエからケンドリックまで求める「声」の秘密


BJ・ザ・シカゴ・キッドが明かす、カニエからケンドリックまで求める「声」の秘密

Photo by Yuma Totsuka

―ライブで曲間にしっかり曲のストーリーを説明したり、客席に話しかけたりする姿勢にはすごく説得力があるし、その振る舞いもかっこよくて。チャーチでの牧師とか、コンテンポラリーゴスペルのアーティストとか、そういうものと繋がっているのかなとか思っていました。あなたはもともとコンテンポラリーゴスペルのシーンでも活動してましたし。

BJ:チャーチみたいにしようとは思ってないけど、それを言われるのは嬉しいね。僕がチャーチに行くことで元気になったり、勇気づけられたり、愛を感じたりしたように、ポジティブな気持ちを自分のショーに来た時も感じてほしいというのは常に思っている。僕は神じゃないし、牧師でもないけど、僕は自分のショーに来た人たちにはエネルギーをチャージしてほしいんだ。

BJ・ザ・シカゴ・キッドが明かす、カニエからケンドリックまで求める「声」の秘密

BJ・ザ・シカゴ・キッド
『1123』
発売中