※2020年1月10日追記
当日の音源をまとめたライブアルバム『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』を1月15日に配信リリース。詳細は記事末尾にて。
「遂に浜スタか!」と喜ばせてくれてからライブ当日を迎えるまでの道のりは、思いのほか険しいものになった。ツアー中、予期せぬHSU(Ba)の体調不良及び手術によって一部の公演が延期・中止に。それを乗り越えて浜スタ公演の準備に取り掛かると、今度は台風15号が日本に急接近。不測の事態が次々と行く手を阻む。
9月11日深夜、J-WAVE「SPARK」でYONCE が後日談として明かしたところによると、浜スタでの最終リハーサルは本番以上に雨足が強く、ステージを降りる頃にはずぶ濡れになっていたという。彼と共にHSUやTAIKING(Gt)が語ったメンバーの緊張ぶりを今は笑い話として聞けるけれど、実際のところ公演前日の9月7日はライブ開催を危ぶむファンの声がSNSに溢れ、台風の猛威を伝えるニュースが不安を煽り続けていた。「果たして本当にやれるのか?」……そう思いながら夜を明かしたのはメンバーやスタッフも同じだろう。
しかし翌日、奇跡的に天気はどうにか持った。フェスシーズンの終わりと共に一旦しまったポンチョを引っ張り出し、Suchmosと心中する覚悟で関内駅へ向かう。
浜スタに入って周囲を見渡すと、場内はビッシリ満員。

Photo by Shun Komiyama
ライブはほぼ定刻通りにスタート。1曲目には、狙いすましたようにミドルテンポのファンク・チューン「YMM」(横浜みなとみらいを略したタイトル)を持ってきた。こらえ切れない様子で、YONCEの口から早くも「Yokohama baby!」という叫びが飛び出す。HSUのベースをエンジンにして突き進むうちに、曲はよりホットな「WIPER」へと突入。心地いいテンポで踊らせながら、徐々に体温を上昇させていく鮮やかなオープニングだ。
「こんないつ降り出すかわからない中、来てくれて本当にありがとう。パンパンじゃん! もうすでにメチャクチャ楽しいです」とYONCEが挨拶し、次もミドルテンポの「Alright」。軽快にクルーズしつつ、間奏のギターリフ&スクラッチで飛び切りのスリルを運ぶ。この破綻こそが、Suchmosと”シティポップ”とを隔てるポイント。
YONCEがレスポールJr.を抱えて「DUMBO」を演り始めると、それまでおとなしく観ていた隣席の女性客が身をよじり「カッコイイ~ッ!」と絶叫。この日、久々にジャージを着たYONCEは短く髪を刈り込み、口ヒゲもさまになる精悍な顔つきでマイクに向かっていた。もともとセクシーなフロントマンだが、武骨さが加わったハードボイルドな風情も悪くない。

Photo by Shun Komiyama
ここまで絶好調のバンドは、再びYONCEのMCを挟む。「本当にやるかやんないか、お客さんの中には帰れるか帰れないかっていう人もいる中、こんなに来てくれてよかった。じゃあ、懐かしい曲をやります」と前置きして始めたのは、Suchmosの原点となった最も古い曲のひとつ、「Miree」だ。「終電で繰り出して/渋谷で待って」という一節を「関内」に変えて歌ったところで、客席から即座に歓声が。粋なサービスであるだけでなく、彼らを初期から応援してきたホーミーたちへの感謝の意味もあっただろう。
そしてこの「Miree」から、間髪入れずに「STAY TUNE」を投入。早めのクライマックス到来に客席がどよめく。序盤の展開はまったく澱みがない。
しかし、本当の見せ場はここからだった。YONCEがアコースティックギターを抱えると、始まったのは「In The Zoo」。グッとテンポを落としてリフが流れ始めると、それを合図にするように、今までパラついていた雨が次第に強さを増していく。「どしゃ降りのClouds」と歌われる頃には雨が間断なく降り注ぎ、歌詞の通りの光景に。Suchmosは自然現象も演出に巻き込む魔法を会得したのか。
前曲の余韻の中、ほぼ同じテンポでヘヴィなリフを弾き始めたのは、ステージ上でマルチプレイヤーとして存在感を発揮しているKCEE。ここで披露された新曲は『THE ANYMAL』と地続きのサイケデリックな雰囲気をまとったワルツで、セットリストには「藍情」というタイトルが記載されていた。同作の内省的な詞世界からさらに一歩奥へと進み、イメージの断片や自己嫌悪とも取れる言葉を、海辺の風景に溶け込ませながら展開していく。シュールで映像的な歌詞と、メンバーのコーラスワーク、そして情感豊かなギター・ソロが新鮮だ。賛否両論分かれた野心作『THE ANYMAL』の後に、それすら上回る壮大なスケールの新曲を用意してきたことに驚かされる。「STAY TUNE」の焼き直しや生ぬるい温度調整なんて、彼らのヴィジョンにはまるでないのだ。

Photo by Shun Komiyama

Photo by Shun Komiyama
サイケ/プログレッシヴ・ロック的な要素を作品に持ち込みながら、しかし古典にひれ伏するようなやり方をSuchmosはしていない。
この日KCEEがピンク・フロイドのシャツを着ていたのを覚えている人も多いはず。彼らのフロイド観はかなり独特で、シド・バレット在籍時の酩酊感とエッジも、デヴィッド・ギルモア加入後のブルージーさも、1曲の中で当たり前に共存させてしまえるから面白い。昔のプログレ純粋主義者たちにはそれらをミックスするという発想がなかった。

Photo by Shohei Maekawa

Photo by Shun Komiyama

Photo by Shun Komiyama

Photo by Shun Komiyama
9曲演奏したところで、ドラマーのOKによるメンバー紹介を経て、やや長めのMCタイムに。OKが前日のリハ後に居酒屋でファンと交流した件を話し、「俺らもここに立っているからといって、特別とかそういうわけじゃなくて、この3万人の中の一部。共に引き寄せあった仲間っていう風にみんなが見てくれたら本当にうれしいなと思ってます」と、しみじみ語る。その言葉は建前じゃなくて、そうした基本姿勢、親しみやすさが熱心な固定ファンを生んできた理由でもあるだろう。ロックンロールを継承しながらも、ロックスター的なふるまいとは距離を置く街育ちの庶民派バンド。その”味”を愛しているファンは、些細なことで彼らから離れたりしないのだ。
続いてOKから振られたHSUが「お待たせいたしました、お待たせし過ぎたのかもしれません」と『全裸監督』のキャッチフレーズで一部を笑わせてから、「本当に不思議な、おかしな人生をこの6人で歩んでいます」「ガキの頃からずっといた連中とこんな所に立っているなんて、本当に信じられないよ」とメンバーに語りかける。それを受けて答えたOKの「腹の中にいるときから俺たち喫煙所仲間じゃん」という言葉も秀逸だった。
後半は雰囲気を変えて、再びファンキー・モードに戻り、「MINT」からスタート。「孤独な夜があってもいい/何も無くても/笑えていればいい」と歌うこの曲の終盤で、感極まったようにYONCEは「歩き疲れてもまだまだ行こう、歌えよBaby!」と客席を煽る。冷静に考えてみると、YONCEの歌詞は孤独や疎外感と向き合う曲が少なくない。愛すべき仲間に囲まれて過ごしているのに、どうにもぬぐえないブルースにつきまとわれている。
続く「TOBACCO」の冒頭、YONCEが即興のトーキングブルースを唸り出す。
「そうさ、俺たちはニコチンフリーク/世知辛いね/さびしいね/どこでも喫えるわけじゃないのよ/だけど…キース・リチャーズはスタジアムの通路とかで喫ってた」
この曲と次の「WHY」でフィーチャーされるTAIHEIのジャジーなエレピは絶品。そのまま流れをキープして「BODY」へとつなぎ、次曲のために一旦短いブレイクが入る。

Photo by Shun Komiyama

Photo by Shun Komiyama
ここからは長尺曲が2つ続く。「Hit Me, Thunder」が始まるのとまったく同時に、またしても曲に誘われるように雨が強くなってきた。イントロのジャムでビートルズ「アイ・ウォント・ユー」のフレーズを一瞬聞かせ、ヘヴィなムードの中で曲は進行。
続く「Pacific Blues」の冒頭でYONCEが「横浜に雷が落ちて、それからどうしたって?」と縁起でもないことを歌うので、思わず笑ってしまった。スクリーンにはオフステージのメンバーを撮った映像が。場面が次第に燃える夕陽へと移るにつれ、TAIKINGのギター・ソロもエモーションの頂点へと向かって行く。映像の演出とバンドの表現力がぴったり合致、後半のハイライトは間違いなくこの曲だった。

Photo by Kayo Sekiguchi

Photo by Shun Komiyama
「がっつりやってやったぜ横浜スタジアム! ラストスパート、一緒に行こう」というYONCEの号令に続いて、ファンファーレを思わせるギターに先導され「A.G.I.T.」がスタート。ここでギアチェンジしたバンドは「Burn」「808」と続けて場内の熱気をグッと高める。YONCEが「めちゃくちゃになろう!」と呼びかけて始まった「GAGA」でも、「茅ヶ崎から5分で」を「横浜から5分で」に変えて歌う念の入りようだ。
本編のラストは「VOLT-AGE」で全力疾走。スタジアムのLEDヴィジョンを駆使して徹底的に盛り上げる。この日、映像演出を一手に手掛けていたのは、yahyelの一員でもある山田健人。ロケーションや時間帯を念頭に入れた抜群の演出で、ライブのクライマックスをバンドと共に作り出していた。
そして、アンコールに答えて披露されたのは「Life Easy」。TAIHEIの柔和に包み込むようなピアノ独奏に続き、ゆったりとしたテンポで進むこの曲は、YONCEのヴォーカルがドラマティックな絶唱へと達し、激動の一日を見事に締め括った。

Photo by Yosuke Torii

Photo by Yosuke Torii
この日のセットリストを見渡すと、デビューEP『Essence』(2015年4月)と1stアルバム『THE BAY』(2015年7月)から6曲、「STAY TUNE」を含むEP『LOVE & VICE』(2016年1月)~『THE KIDS』までから6曲、そしてEP『FIRST CHOICE LAST STANCE』(2017年7月)と『THE ASHTRAY』(2018年6月)から4曲、という配分。最新作『THE ANYMAL』からは3曲(+シングルに収められた「Pacific Blues」)と、意外に少ない。ここに新曲「藍情」を加えた計21曲、実に2時間40分を超える圧倒的なパフォーマンスは、2枚組のベスト盤を一気に聴き通したのとほぼ同じヴォリュームだ。まさにベスト・オブ・ベスト、ここまでの全てをギュッと詰め込んだ感じの内容で、デビューからわずか4年の間に驚くべき速度で進化を遂げたバンドの多面性を、これでもかと見せつけてくれた。
前述したJ-WAVE「SPARK」で、メンバーはセットリストの選曲についても明かした。実は『THE ANYMAL』から11分超の大曲「Indigo Blues」を披露することも検討していたという。同作からは他にも「You Blue I」「ROMA」が最初の候補リストに入っていた。他にも「ONE DAY IN AVENUE」や「Get Lady」「Fallin」などが候補に挙がっていたそうだが、そこから削ぎ落としていった結果が当日の21曲だったわけだ。
公演当日は「ここまで集大成的な内容のライブをやる意図は? 今後の活動はどうなるんだろう」とも思ったが、「SPARK」に出演したメンバーの発言を聞く限り、バンドはこれからの活動についても引き続き意欲的で、余計な心配をする必要はまったくなさそうだ。
それにしても、他に類を見ない、不思議な幅広さを持つバンドだ。従来のダンサブルな曲と、最近の長尺かつヘヴィなロック・チューンとの間にギャップがあるのは確かで、「STAY TUNE」と「藍情」を演奏しているのが同じバンドとはとても思えないが。どちらも当たり前に演奏できてしまう双頭のモンスターがSuchmosである、とも言える。初期からのレパートリーを一旦全タイプ並べ、今のバンドに紐付け直していくという意味でも、やる意義のあるライブだった。
単に地元でノスタルジーに浸るのではなく、未来へ歩みを進めるための総決算。近い将来、2019年9月8日の横浜スタジアムを振り返ったときに、この特別なライブに立ち会えたことを誇りに思う日がきっと来るはずだ。彼らの旅はまだまだ終わらない。

Photo by Shun Komiyama

Photo by Yosuke Torii
〈セットリスト〉
01. YMM
02. WIPER
03. Alright
04. DUMBO
05. Miree
06. STAY TUNE
07. In The Zoo
08. 藍情
09. OVERSTAND
10. MINT
11. TOBACCO
12. WHY
13. BODY
14. Hit Me, Thunder
15. Pacific Blues
16. A.G.I.T.
17. Burn
18. 808
19. GAGA
20. VOLT-AGE
アンコール
21. Life Easy

『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』
配信日:2020年1月15日(水)
形態:ダウンロード & ストリーミング
https://fcls.lnk.to/live_album
<収録曲>
01. YMM
02. STAY TUNE
03. In The Zoo
04. MINT
05. TOBACCO
06. Hit Me, Thunder
07. Pacific Blues
08. VOLT-AGE
09. Life Easy
Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2020
2020年3月9日(月)神奈川県 KT Zepp Yokohama
出演:Suchmos / 松任谷由実
2020年3月10日(火)神奈川県 KT Zepp Yokohama
出演:Suchmos / 松任谷由実
2020年3月17日(火)新潟県 NIIGATA LOTS
出演:Suchmos / 浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS
2020年3月18日(水)新潟県 NIIGATA LOTS
出演:Suchmos / 浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS
2020年3月23日(月)福岡県 Zepp Fukuoka
出演:Suchmos / The Birthday
2020年3月24日(火)福岡県 Zepp Fukuoka
出演:Suchmos / The Birthday
2020年3月26日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
出演:Suchmos / ペトロールズ
2020年3月27日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
出演:Suchmos / ペトロールズ
2020年4月2日(木)北海道 Zepp Sapporo
出演:Suchmos / cero
2020年4月3日(金)北海道 Zepp Sapporo
出演:Suchmos / cero
2020年4月9日(木)宮城県 SENDAI GIGS
出演:Suchmos / and more
2020年4月10日(金)宮城県 SENDAI GIGS
出演:Suchmos / and more
2020年4月13日(月)愛知県 Zepp Nagoya
出演:Suchmos / GRAPEVINE
2020年4月14日(火)愛知県 Zepp Nagoya
出演:Suchmos / GRAPEVINE
2020年4月16日(木)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
出演:Suchmos / GLIM SPANKY
2020年4月17日(金)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
出演:Suchmos / GLIM SPANKY
2020年4月20日(月)東京都 Zepp Tokyo
出演:Suchmos / and more
2020年4月21日(火)東京都 Zepp Tokyo
出演:Suchmos / and more
https://www.suchmos.com/