今年8月、イギリスの4人組ロックバンドDeaf Havanaが7年ぶりとなる来日を果たし、東京でのワンマンライブとSUMMER SONICでは前回から大きく進化した姿でファンを楽しませた。昨年リリースした最新アルバム『Rituals』は、従来の芯のあるロックサウンドとデジタルサウンドを大胆に融合させ、ポップな路線に舵を切った。
結果として、アルバムは全英チャートトップ10入りを果たすヒットを記録したのである。

作品ごとにサウンドの方向性を変化させながら、セールス面でも着実に結果を残せている現状について、メンバーに何が要因になっているのか聞いてみると、意外な返事が返ってきた――このインタビューは、飛行機の遅延によりメンバーの日本入国から約12時間後に行われた。まさかのハプニングにメンバーはさすがに披露の色を隠せなかったが、今年の年末年始にロンドン旅行を計画している筆者がオススメの観光場所について訪ねたところ、メンバーは「メアドくれたらあとでメールするよ」と神対応。そんな穏やかなムードのなか、インタビューは始まった。

―Deaf Havanaはデビュー以降、作品ごとに音楽性が常に変化していますが、これは自然な流れなんですか。

マシュー(Gt) そうだね。俺たちは作品をつくるごとに「じゃあ、今度は全然違うサウンドにしよう」みたいな話は全くしていないね。

ジェームス(Vo、Gt) 3枚目の『Old Souls』をつくったときは、「ブルース・スプリングスティーンみたいな作品にしよう」っていう話はしたけど、それ以外は自然だよ。

―変化することが怖くはないんですか。

マシュー 少しね。曲をつくってるときは怖くないけど、リリースして人が聴く段階になって初めて、「もしかしたらリスナーは好きじゃないかも」って思うことはある。

ジェームス 俺は残りの人生ずっと同じ音楽をつくっていくことのほうが怖い。
それはすごく退屈だし、リスナーの反応はそんなに気にしてないよ。なぜなら、俺自身が自分のつくる音楽に興味を持てなくなったら悲惨だろ?

―では、つねに新しい音楽を吸収しようとしていると。

マシュー そうだね。リスナーとしても新しい音楽を聴き続けているから、それが自然とソングライティングにも影響を与えてるよ。

トム(Dr) いろんな楽器を使うことにもトライしてるし。今回のアルバムではシンセを使ったり。

マシュー あとはマンドリンとかバンジョーとか。

トム そういう新しいことに挑戦するほうが面白いよね。

―では、いつもどういうことを心がけて曲をつくっているんですか。

ジェームス 俺が思うに、歌詞だね。歌詞はすごく大事。最新作『Rituals』の歌詞のいくつかはこれまででベスト。
歌っている内容は宇宙のこととかではなくて、自分の周りで実際に起きたことを元に書いているんだよ。

―心がけていることの一番に挙がるのが歌詞だとは驚きです。なぜならDeaf Havanaはメロディが美しいバンドだと思っていたので。

マシュー 正直に言うと、サビにそれほどエネルギーを費やしているわけではないんだよ。バンドによっては、セクションごとに曲をつくっていって、最後にサビを持ってくるっていうやり方もあるけど、自分たちの場合はそうじゃなくて、歌詞が先にあった上で、それをどうやって音楽にフィットさせるか考えていくやり方なんだよね。

―最初からそういう制作スタイルだったんですか。

ジェームス 自分がボーカルになってからはそうだね(ジェームスは2作目『Fools and Worthless Liars』からメインボーカルを担当)。俺にとっては歌詞が一番大事なパートだし、コード進行とかはそこまで意識してなくて。

―サウンドは変化しつつも、楽曲そのものがいいからファンがついてきているのかと思っていたんですが、自分たちではどう感じていますか?

マシュー 音楽は変化してきているけど、みんなに馴染みのあるものに変わりはないし、全然知らない曲調だとしてもそこから自分たちらしさを感じることができるんだと思うよ。

トム 俺はそれも歌詞のおかげだと思うな。そこに自分とのつながりを感じられるからこそ、ついてきてくれるんじゃないかな。

劇的な変化の背景

―『Rituals』のリリース時に、ジェームスは「今回初めて、バンドのため、自分自身の喜びのために曲を書いた気がした」というコメントを残していましたが、この言葉についてもう少し聞かせてもらえますか。


ジェームス さっきも話したように、これだけサウンドが大きく変化したことで、ファンがどう考えるかっていうことを気にしなくなったんだよね。もちろん、前と同じようなサウンドを期待していた人もいっぱいいたとは思うけどさ。でもそうじゃなくて、自分たちが使いたい楽器を使ったりして、自分たちがつくりたいものをつくった。ある意味、自己中心的に。そういう意味で、「自分たちのためにつくった」って話したんだよ。

―今回は、いつものデモのつくり方と違っていたんですよね。

ジェームス 普段は最後まで仕上げないで、だいたいできあがった状態でメンバーに渡して、そこからみんなで仕上げていくんだけど、今回は自分でほぼつくったものをみんなに聴かせたから、そこは今までと全然違ったね。

―これまでとは違う、シンセを大胆を取り入れたポップなサウンドを聴いて、ジェームス以外の3人はどう感じましたか。

トム 最初に聴いたときからしっくりくるものもあったし、新しいとも思った。全体を通して聴くと、これまでと全く違っていて興奮したよ。でも、全然違うのにバンドサウンドって感じがして、それもすごくよかった。

リー(Ba) 俺はスタジオに入るギリギリまでデモを聴かなかったんだけど、歌詞がすごくいいと思ったし、全ての曲において、楽器の使い方が面白いと思った。
前の作品と違うところがいいなと思ったよ。

―『Rituals』は全英チャート8位を記録するヒットになりましたが、この結果は予想できましたか。

トム みんな、そんなに好きじゃないんじゃないかと思ってた。まあでも、サウンドが新しい上に、今回は曲も早くできて、前作から一年でアルバムを出すというのも自分たちにとっては新しかったから、いろんなことが早く起こりすぎて、みんなの反応を予想する間もなくリリースされて、ちょっと変な感じだったっていうのが正直なところかな。

―従来のハードなロックから『Rituals』のようなポップなサウンドまで音の幅が広くなってくると、ライブでのセットリストの組み方も大変そうですね。

トム こないだヨーロッパツアーをやったときは、しっくりくるセットリストをつくるまでに3週間もかかったよ。今は曲数が増えて、そこからセットリストを組むのは頭が痛くなる作業だったけど、その分面白いものになってるから、状況はすごくいいよ。

―ライブに来るファンからのフィードバックがきっかけで学ぶこともあったり?

マシュー 時々ね。だけど面白いもので、国や街によって人気のある曲が違うんだよ。場所によっては「これは絶対ウケるだろうな」と思って演奏して、そのとおりの反応が帰ってくることもあるし、「あ、この曲が意外とウケるんだ」っていうこともあったり。

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Photo by ハギワラヒカル

―反応の予測ができないのは大変だけど、国によってウケる曲が違うというのは素敵なことでもありますね。

マシュー そうだね。
どこも同じ反応だったらきっと自分たちも退屈しちゃうだろうけど、いろいろな国を旅して、様々な文化に触れて、その土地によって違う楽しみ方ができるのはいいね。

「何が流行ってるかとかは気にせずに、やりたいことをやり続ける」

―現在、マリリン・マンソンのカバー「The Fight Song」が配信されていますが、カバーとはいえ、初期とはまた違ったハードなナンバーです。これは今後の方向性を示していたりするんですか。

マシュー あの曲はROCK SOUNDっていうオルタナティブロックマガジン用にレコーディングしたものなんだよ。本当はもっと落ち着いたポップな曲をカバーしたかったんだけど、ヘビーな音楽を扱う雑誌だから選択肢がなくて。自分たちの好きに選べるならもっと違う曲にしてたと思う。だけど、いつもと全然違うことをやるのは楽しかったよ。

―じゃあ、今、カバーするとしたらどんな曲を選びますか?

トム ロビー・ウィリアムスの「Let Me Entertain You」かな。

ジェームス 俺は自分たちがこれまでやってこなかったような音楽をカバーしたいな。例えば、ビョークの「Hyperbalad」とか「Army of me」。ビョークならどれでもカバーしてみたい。

マシュー あとはアークティック・モンキーズかな。
彼らの新作(『Tranquility Base Hotel & Casino』)はそこまでよくなかったから、自分たちでカバーしてよくしたい(笑)。

―常に新しい音にチャレンジしたいという気持ちが伝わってきます。

マシュー うん、そのほうが面白いからね。俺は飽きっぽいから、自分自身にとっても面白いものがいい。

―ところで、ジェームスとマシューは兄弟ですよね。マシューは後から加入してきましたが、このバンドを客観的に見てどう思いますか。

マシュー あ~。

トム 気をつけて発言しろよ(笑)。

マシュー 笑いの絶えない、いいバンドだよ(笑)。

―加入してからバンドの印象って変わりましたか。

マシュー 加入したとき自分はまだ若かったから、バンドがどうっていう以上に、音楽活動っていうもの自体がどういうものなのかよくわからなかったんだよね。地元の小さいバンドにはいたことあったんだけど。だから、このバンドに入ってみて初めて、ツアーがどういうものかっていうことも学んだんだ。

―『Rituals』は日本ではA-Sketchからリリースされています。邦楽のイメージが強いレーベルですが、彼らを選んだ理由は?

トム 彼らはすごく評判がよかったし、スタッフがいい人たちなんだよ。

ジェームス 彼らは俺たちのライブを観にわざわざイギリスまで来てくれたしね。他のレーベルはなかなかそんなことしてくれないよ。

―それはすごいですね。ONE OK ROCKとレーベルメイトになるわけですが、彼らの音楽は聴いたことありますか?

マシュー あるよ! カッコいいよね。

トム 俺たちの友達がONE OK ROCKのプロデュースをしたことがあるんだよ。

―そうだったんですね。ところで近年、世界的にロックの人気が落ちていますが、イギリスや他の国でもそういう変化を感じることはありますか?

マシュー イギリスでは確実にそうだね。ロックの勢いがなくなってしまったことでいいロックバンドが減ったし、昔からいるいいバンドもリリースを控えたりしているよ。

トム でも、音楽業界ってそういうもので、入れ替わりが激しいところだから、自分たちは何が流行ってるかとかは気にせずに、やりたいことをやり続けることしかできない。それに、人の好みのサイクルはまた戻ってくると思ってるよ。

―音楽業界の先行きを悲観してない?

トム 少しね。今は、音楽そのものよりもインスタグラムのほうが成功するために大事な要素になってるよね。すごく残念ことだけど。

マシュー そういう意味では俺たちはちょっと不利なんだよ。なぜなら、俺たちは他のロックバンドよりもちょっと年上で、インターネットの時代とともに生きてきたわけじゃない。だから、バンドの宣伝ツールとしてソーシャルメディアを活用していないんだよ。そういうものをうまく使う人は注目を浴びるし、それができない人は消えていってしまう。残念なことだよね。

―Deaf Havanaでうまく使おうとは思わないんですか。

トム やりたくないっていうよりも、やり方がわからないんだよ。忙しすぎるしね。

マシュー うまく言えないけど、自分の頭のなかにそれが存在していないというか。例えば、こうやって日本に来て、美味しいものを食べたりいい時間を過ごしたりしているけど、その間はそのことに夢中で、インターネットでそれをどう見せようかっていうことが浮かんでこないんだよね。

トム まあ、俺たちがもっとイケメンだったら「もっと使おう」っていう話にもなってたかもしれないけど、そうじゃないからやらないっていうのもあるね(笑)。

―でも、そういったツールを使わなくても、全英トップ10に作品を送り続けているわけで、それは純粋に音楽の力ですよね。

ジェームス それはそうだね!

―最後に、音楽と関係ない質問をさせてください。来年、東京オリンピックが開催されますが、ロンドンオリンピックを経験している立場から何か日本人にアドバイスできることはありますか?

トム 出勤時間とか、どこか店に行きたいときは、会場付近を避けるほうがいいよ。すごく時間がかかるから!

ジェームス 俺もオリンピック中は会場付近には近寄らなかったよ。街には観光客がいっぱいいるし。だから開催期間中はそこに行かないことだね。交通渋滞にハマるし、イライラするから、家でテレビでも観てな!

英国発4人組が語る「SNSを活用していない」ロックバンドがトップ10入りできた理由

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