東京から新幹線で3時間。
16時少し過ぎ、金沢駅からタクシーで10分ほどで会場の「金沢AZ」に着く。会場のスタッフの方に名前を告げると、楽屋に案内してくれた。正直、開演前の楽屋にお邪魔するのは気を遣う。本番前のアーティストは、極端にナーバスになっていたり、集中するために話しかけられるのを嫌がる人もいる。そんな風に開演前の楽屋は独特の緊張感に満ちている場合がほとんどだからだ。
しかも今回のツアーは、毎年の過密スケジュール以上の”超過密スケジュール”を縫っての全国ツアー。8月にリリースしたニューアルバム『2019』をひっさげての全国ツアーなのだが、その『2019』のリリース時のインタビューでINORANは「流石にちょっと疲れているね」と珍しく表情を曇らせた。それもそのはずで、今年はLUNA SEAが結成30周年で、大きな記念ライブの他にもシングルのリリースが続いたし、12月には待望のニューアルバムのリリースが決まっている。
そうしたスケジュール下での全国ツアー。開演前の楽屋がピリピリしていても何の不思議もない。だが、ノックをして楽屋の扉を開けた瞬間に、思わず笑顔になった。ニルヴァーナが爆音で流れ、INORANもメンバーもご機嫌に歌っている。そして、テーブルにはテキーラのボトルにショットグラス。大学の部室、否、海外バンドの楽屋という感じだ。
入室に気が付くと、INORANがハグで出迎えてくれた。そして、早速楽屋にいた全員でテキーラのショットの乾杯。まるで、海外アーティストのドキュメンタリー映画のようだ。聴けば、ツアーでは当たり前の光景だそうだ。
とはいえ、ノンストップのスケジュールは続いているはずだ。「スケジュール? もちろん忙しくはしているよ。でも、今日は大好きなみんなと一緒にロック出来るライブだよ。こんなに幸せな時間はないからね。楽しみたいし、楽しませたいんだ。もちろん、楽しんでいってね!」と嘘のない笑顔で話してくれた。
楽屋では、変わらずニルヴァーナが流れ、INORANもメンバーもリラックスしながら時を過ごしている。本番30分ほど前になった時、INORANが語りかけてきた。「そうだ! せっかく東京から来たんだから、前説やってくださいよ。前説で盛り上げてください!」と。
いろんなものを巻き込むINORANのライブ空間
ふと、アルバム『2019』でのインタビューを思い出した。このアルバムの曲にはレコード会社のスタッフがコーラスで参加している曲が何曲かある。そうした発想に対して「そのほうがこのアルバムに愛着が湧くと思うんですよ。皆に自分のものって思ってほしいし、自分と思ってほしい。それが理想だと思うんですよね。だからみんなに参加してほしい」とINORANは語っていた。ライブも同じなんだと思う。そこにいる全員が自分のライブだと思い、全力で楽しむ。その時初めて二度と訪れない奇跡のような瞬間が訪れる。
定刻少し過ぎ。メンバーとINORANが円陣を組み、気合を入れる。メンバーの登場前に、筆者と東京から旅を共にしたラジオDJのDAVE FROMM氏と二人でMCとしてステージに上がり前説をさせてもらった。前説の締めはDAVE氏のツアータイトルのコール。DAVE氏の「INORAN TOUR 2019 COWBOY PUNI-SHIT !!」のコールでメンバーがステージに登場した。
ライブはニューアルバムの1曲でもある「Gonna bteak it」からスタート。ハードな演奏にオーディエンスも身体を揺らし、ライブハウスも揺れた。続いて「COWBOY PUNI-SHIT」「Youll see」とアルバムの曲順通りに最初の3曲を演奏し、ニューアルバムをひっさげてのツアーを堪能するINORAN、メンバー、そしてオーディエンス。
3曲目の演奏後にMCを挟み、金沢に来ることができたことへの感謝を告げ、4曲目に突入。このパートでは過去の曲も披露し、会場に一体感を生んだ。そして、M7の「One Big Blue」の後、長いMCを挟んだ。

Photo by ヤマダマサヒロ

Photo by ヤマダマサヒロ
その後はニューアルバムからミドルテンポで少し切ないナンバー「Dont you worry」を演奏。
セッションタイムを挟み怒涛の後半戦へ
が、その後に急展開が待っていた。ドラムのRyo Yamagata、ギターの村田有希生、ベースのu:zoによる怒涛のセッションタイム。オルタナロックを敬愛する3人によるとてつもない激しいセッションは、見ごたえ充分だった。特に最年長の村田の狂ったギタープレイは圧巻だった。そんなメンバーによるセッションタイムを挟みライブは後半戦へ。

Photo by ヤマダマサヒロ

Photo by ヤマダマサヒロ

Photo by ヤマダマサヒロ
後半戦はハードな新旧の曲を織り交ぜての展開で、オーディエンスは汗だくになりながら踊り叫び狂っている。INORANも演奏を、ライブ全体を全身全霊で楽しんでいる。確かにこれがライブだ。今を楽しむこと。この日のMCの言葉を借りれば”今が全霊だ”。
ライブの最後、19曲目に演奏されたのは、ニューアルバムに収録された7分超えの壮大なバラッド「Long Time Comin」。INORANもメンバーも汗をぬぐいながらこのバラッドを演奏し、オーディエンスに届けている。オーディエンスも全員汗をぬぐいながらサビの”long time”を合唱している。それは、まるで映画のエンディングロールを観ているような演奏だったし、景色だった。
この日のライブはまるで映画のようだった。激しい曲で煽ったかと思えば、バラッドで会場を包みこむ……ジェットコースターのような展開も映画みたいだ。ただ、映画は何度でも観られる。だが、ライブは一度だけの生ものだ。そう、”今が全霊だ”。ツアーはまだ続いている。是非、今しかない時を体験してみて欲しい。
「B-DAY LIVE CODE929/2019」
9月29日(日)TSUTAYA O-EAST SOLD OUT!!
[OPEN/START] 17:15/18:00
http://inoran.org/