スティングがポリス時代を含む自身の楽曲を、新たな視点でレコーディングし直した「ベスト盤」ともいえるアルバム『My Songs』を5月にリリース。それを携えての日本ツアーが10月7日の福岡国際センターを皮切りにスタートした。
本稿は、その翌日に東京で行われたインタビューである。

「孤独のメッセージ」「見つめていたい」といったポリス時代のクラシックスから、「セット・ゼム・フリー」「フラジャイル」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」などソロ名義での名曲まで、誰もが一度は耳にしたことのある楽曲ばかりが並ぶ本公演は、文字通り「ヒットパレード」。ロックやパンクのみならず、ジャズやソウル、レゲエなどあらゆるジャンルを取り込みながら、独自のセンスでブレンドしていくそのミクスチャー感覚は、現在のヒップホップやインディーR&Bなどを通過した耳で聴くとその先見性に改めて驚かされる。会場にはリアルタイム世代のファンのみならず、次世代、次々世代の若者たちがたくさん詰めかけているのも納得だ。

音楽家としてだけでなく、環境問題にいち早く取り組んできた活動家としての側面も持つスティング。彼はグレタ・トゥーンベリ氏による先のスピーチや、福島で起きた原発事故、さらには香港でのデモなど昨今の世界情勢を、どのように捉えているのだろうか。また、「無類のラーメン好き」としての一面も持つ彼に日本への愛もたっぷりと語ってもらった。

音楽とは、大きなテーブルのようなもの

─今回は自身のベスト・アルバムともいうべき『My Songs』を携えてのツアーですが、手応えはいかがですか?

スティング:ツアーを回っていて自分でも驚くのは、「あ、これヒットしたな」「この曲も売れたっけ」みたいな感じで、とにかくヒット曲が多いことなんだ。別に高飛車になっているつもりはないのだけど(笑)、これだけの楽曲を世に出せたことに対してとても感謝しているし、それを40年近くこうやってパフォーマンス出来ていることをありがたく思っている。感謝以外の何物でもないよ。

─昨日は福岡公演だったんですよね?

スティング:そう。ものすごく若い人たちが観に来てくれて、前列にもたくさんいたのは本当にびっくりした。
もちろん、その中には僕と同世代の人も混じっていたけど(笑)、それって40年間やり続けてきたからこそ見られる光景だよね。あらゆる世代の人たちが楽しんでくれているのは、自分にとっても素晴らしい体験だよ。

思えば僕も若い頃、自分のヒーローたちの演奏をよく観に行った。主にジャズだったけど、マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズのような、今の自分よりももっと年上のミュージシャンの演奏を毎晩のようにね。今の僕は68歳で、こうやって音楽をやっている。そしてそれを、あの頃の自分と同じくらいの若い人たちが観にきてくれていることに、ある種の「責務」も感じているよ。「歴史の授業」としてではなく、ちゃんとリアルタイムの音楽として楽しんでもらっていることに対してね。

─実際、今作『My Songs』を機にあなたの音楽を知った若いリスナーも大勢いると思います。とりわけポリスは、レゲエやジャズ、プログレなどのエレメントを取り込みつつ、シンプルなパンク・サウンドへ落とし込んだその音楽性が、のちのバンドにも多大なる影響を与えました。元々は、どんなバンドにしたいと思って始めたのですか?

スティング:ポリス自体はスチュワート・コープランド(Dr)のバンドなんだよ。彼が僕の(当時組んでいたラスト・イグジットでの)ベース・プレイをものすごく気に入ってくれて、「どうしても参加してほしい」と言われて加入したのが結成の経緯でさ。当初は「パンク・バンドをやろう」ということでスタートしたのだけど、やっていくうちに元々自分が好きだったレゲエやジャズの要素を取り入れたいと思うようになったんだ。


音楽というのは、いわば大きなテーブルのようなものだと思っている。そこに、端からフォークやブルース、ジャズ、ロック、クラシックというふうに、様々なジャンルを並べていくというかさ。それを全部自分の中に取り入れたら、一体どんなことになるのかがものすごく興味があったんだ。

「見つめていたい」がヒットした理由、ベースへのこだわり

─ちなみに明日(10月9日)は、テレビ番組『スッキリ!』で「見つめていたい(Every Breath You Take)」を生演奏するそうですね。

スティング:そう。だから7時に起きなきゃ。このインタビュー終わったらすぐ寝るよ。

─(笑)。1983年にリリースされ、36年経った今も世界中で愛され続けているってすごいことですよね。

スティング:本当に信じられないよね。ちょうど先日、ライチャス・ブラザーズの「Youve Lost That Loving Feeling」を抜いて、全米のラジオで最もプレイされた楽曲になったんだ。他にもこれまで本当、ありえないくらいの功績を残してきたことに驚いているよ。


─それはなぜだと思います?

スティング:なぜだろう……自分でもよくわからないな。ただ一つ考えられるのは、この曲のテーマが一方向じゃなかったこと。ロマンティックなラブソングのようで、実はそこに執着的な感情表現も盛り込まれている。そのアンビバレンツな部分が人々を惹きつけたように思う。楽曲自体はシンプルだけど、演奏スタイルや僕の歌い方など、色んな要素が上手く混じり合って、この曲を魅力的にすることが出来たのかもしれないね。

スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い

スティング、2019年10月7日の福岡公演にて(Photo by 田中紀彦)

─あなたはベーシストとしても、素晴らしい名演、名フレーズを数多く残してきましたよね。元々はどんなきっかけで弾き始めたのですか?

スティング:学校で、友達が「木工」のクラスでベースを作ってさ。当時の僕はギターでジャズやブルースを演奏していたから、ベースなんてどうせ退屈だと思ってたんだ。弦は4本しかないしギターなんかより簡単だろうってね。でも、その友達が「いいから弾いてみろよ」と言うので試しに演奏してみたら、その魅力というものにあっという間に取り憑かれてしまった。

─どんな魅力にですか?

スティング:例えばギターでCのコードを弾いたら、Cの響きにしかならない。でも、ベースの場合はそこでルート以外の音を鳴らせば、(分数コードとして)全く違う響きに変えることが出来るだろう? ベースという楽器の「真の力」をそこで思い知った。
ハーモニーをコントロールしグルーヴを引っ張っていく……しかも表立ってパワーを発揮するのではなく、楽曲を下から支える形でね。

ただし僕は、「歌いながらベースを弾く」のが得意なだけで、歌だけ歌ったり、ベースだけ弾いたりするのはそんなに上手くない(笑)。両方を同時にやるのが、他の人よりも少しだけ上手かっただけなんだ。

今は世界中が「空虚」に苦しめられている

─70年代半ばから活動を始め、40年近く第一線で活動し続けていますが、そのモチベーションはどこから来ているのでしょうか。

スティング:音楽を辞めるというのは、すなわち「死ぬこと」だと思っている。まだ死にたくないからやり続けているということだよ。それに、こうやって昔のヒット曲を演奏しながら、常に「新しいこと」を探し続けている自分にも気付くんだ。心の中に大きな穴がぽっかりと空いていて、それを埋めるものを常に探し求めている気がする。そして、その「空虚」があるからこそクリエイティビティが生まれてくるのかも知れないな。

それとね、楽曲というのは「花」のようなものだと僕は思っているんだ。花って毎日水をあげないと綺麗に咲かないし枯れてしまうだろう? つまり僕は、曲という花に水をあげ続けているガーデナーだ。しかも、とびきり優秀なね(笑)。


─とても素敵な喩えです。では、音楽以外で興味があるのは?

スティング:やっぱり政治問題だね。特にUKのブレグジットとUSのトランプ問題は常に関心を持っている。というか恐怖すら感じるね、「なんということが起きているんだ」って。当たり前のことだけど、インターネットに溢れている情報も全て正しいとは限らない。実際、政治的に操作されたこともあるし、気をつけないといつ自分が騙されるかわからない状況だ。

紙媒体が主流だった頃は、幅広い情報を取り扱いつつもちゃんとメディアごとに芯が一本通っていたし、ちゃんとそこから文化が生まれていたと思う。でもインターネットが登場し、玉石混交で「真実」が埋もれてしまった今は「リテラシー」というものが非常に重要になっている。しかも今は、ジャーナリストの命が危険に晒されているんだ。彼らが真実を語り、その結果命を奪われるという事件が実際に起きているからね。良心的なジャーナリストやジャーナリズムを守るため、我々に出来ることはないかを最近は考えているよ。

─香港で起きている、大規模なデモ運動についてはどう思っていますか?

スティング:香港はずっと身近に感じている国だ。
日本に来ると、必ずと言っていいほど香港でもライブをしてきたからね。同時に「後ろめたさ」も感じている。かつて香港はイギリス領で、1997年に中国へと返還された。そうやって振り回されてきた彼らの歴史に、僕らは深く関わってきたからね。今、香港の人たちが自由を求めているのは当然のこと。なのに中国政府がコントロールしようとしている。これ以上、暴力が行使されないことを本当に願っているよ。

さっき僕は、自分の中の「空虚」について話したけど、今は世界中が「空虚」に苦しめられているんじゃないかな。政治的にも社会的にも文化的にも「物足りなさ」を感じていて、それを埋めようともがき苦しんでいるとしか思えない。その穴を埋める強力なリーダーが現れてほしいという気持ちが、みんなの中にある気がする。

─とても興味深い意見です。

スティング:カルチャーと世界は、常に影響し合っている。カルチャーは世界を映す鏡であり、その逆もまた然りだ。僕としては音楽でその「空虚」を埋めたいと思っているし、そのことで世界が少しでも良くなっていくことに貢献できたら嬉しいよ。

グレタ・トゥーンベリと環境問題、日本への想い

─あなたは環境問題に、いち早く取り組んできたミュージシャンとしても知られています。先日はグレタ・トゥーンベリさんの国連気候行動サミットでのスピーチが世界中に大きな衝撃を与えましたよね。

スティング:本当に感銘を受けたよ。彼女のような若者たちが、環境問題に対して真剣に関心を持っていることにね。でも、同時に恥ずかしさも感じた。僕らの世代は失敗したから。世界をより良くしていくべきなのに、環境問題についてやるべきことをやらず、しくじったのは自分たちの世代だということを痛感させられ、身を切られるような思いであのスピーチを聞いた。

個人的には出来る限りの努力をしてきたつもりだ。でも結果的に過ちを犯してきた。これから僕らがやるべきことは、世界中のリーダーたちがこの問題に真剣に取り組むよう、さらに訴えかけていくことだと思う。相変わらず政治家たちは、目先の問題で汲々としている。でも、本当に大切なことってなんだろう。呼吸する空気はきれいかどうか、飲む水がきれいかどうかじゃないのかな。それはグレタだけじゃなくて、分かっている人は分かっているのにね。とにかく世界のリーダーたち、トランプのような人物にそれを分からせないといけない。というか、早く彼を追い出さないと駄目だよ(笑)。

─日本では311以降、エネルギー問題でも転換期に来ています。CO2削減が国際的に叫ばれている中、大部分の原発を止めている日本としては火力に頼らざるを得ない状況で、かといって新しいエネルギーが主力になる見込みも当分ありません。当面は、原発再稼働するか否かの議論が続いている状況なのですが、そのような状況について、どう思われますか? 環境問題と原発問題、両立させていく道はあるのでしょうか。

スティング:まず、この問題に関しては本当に慎重に議論がなされるべきだと思っている。福島で被災された方々のことを、何よりも真っ先に考えなければならない。その上で、あの事故は世界中の人々の目を覚ますきっかけになった。我々現代人にとって「電力」は必要不可欠であり、24時間供給され続けているその恩恵を受けて生きているが、何か万が一のことが起きた場合とてつもなく危険であるということを、とことん思い知らされたからね。

今は、新しい電力を発生させる技術が必要だよね。注目されている「核融合発電」(21世紀半ばの実用化を目標に世界的に開発が進んでいる新しいエネルギー)は夢のような技術だし、個人的には是非とも実現して欲しいけど、まだまだ非現実的だとも思われている。一方、ドイツのように「脱原発」を始めた先進国もあるが、依然「原子力がベスト」という意見があまりにも多い。確かに原子力はパワフルだ。けれどもそのリスクを我々は思い知ったわけだから、やはり原子力に代わるエネルギーを見つけていくことが課題だと思う。特に日本は海にも囲まれていて、豊富な水と風、そして太陽もあるからね。

スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い

Photo by 田中紀彦

─日本に対する、細やかな心遣いに感激しました。

スティング:日本は本当に好きな国で、思い出もたくさんあるんだ。中でも富士山の近くにある温泉に行ったことが印象に残っている。古くからの建物が周りに残っていて、それがとても良かった。自分は島出身で、島にはたくさんのミステリーがある気がしていて、それを日本にも感じるんだよね。

そういえば先日、ウドー音楽事務所のトミー(重冨章二社長)と、「俺たちどれくらいの仲かな」「もう40年だよ」って話をしていた。40年間お互いを知っていて、日本に来るたび常に一緒に仕事をしている。こうやって長い間、継続的に関係性を築けているのは本当に素晴らしいことだ。いつ来ても気持ちよく滞在できるし、どの都市へ行っても親しみを感じる。自分が今暮らしているところとは全く違う環境なのに、心からリラックス出来るのは本当に彼らのおかげだと思っているよ。

─40年は長かった?

スティング:初めて日本に来たのは息子が2歳のときだった。彼は43歳でもう父親だよ(笑)。本当に時代は過ぎているのだけど、まるで昨日の出来事のようにも感じるな。ありきたりのことかもしれないけど、時間はあっという間に過ぎ去っていく。だからこそ、すべての瞬間を豊かに感じることが出来るんじゃないかな。僕はもう人生の折り返し地点をとっくに過ぎて、これまでと同じ年月は生きられない。それを考えると一瞬一瞬を本当に大切に思うし、一緒にいる人たちとそれを共有して生きていきたいんだ。

─あと、あなたにとって「日本」といえばラーメンですよね?

スティング:いつでも最高のラーメン店を求めて歩いている(笑)。それも、観光客が行くようなところじゃなくて地元のサラリーマンが通っているようなところがいいね。実は昨日も福岡で美味しいところを見つけたんだ。作業後を着た人たちが、美味そうに食べてる最高の店だった。これから東京、仙台、大阪と行く中で、そういうラーメン屋を見つけるのが本当に楽しみだよ!

この投稿をInstagramで見るStingさん(@theofficialsting)がシェアした投稿 - 2019年10月月7日午後8時50分PDT

<来日公演情報>

スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い


STING MY SONGS

10月7日(月)福岡国際センター
10月9日(水)幕張メッセ (7・8ホール)
10月10日(木)幕張メッセ (7・8ホール)
10月12日(土)ゼビオアリーナ仙台
10月15日(土)丸善インテックスアリーナ大阪

チケット
S:¥18,000
A:¥17,000
(全席指定・税込)
https://udo.jp/concert/Sting

〈リリース情報〉

スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い

『マイ・ソングス – スペシャル・エディション』
スティング
発売中

【来日記念盤】【SHM-CD】
■10月に来日公演を行うスティングの最新アルバムにしてベスト・アルバム『マイ・ソングス』のデラックス盤
■ポリスとスティングの名曲を現代にアップデートした『マイ・ソングス』に、現在進行中の同名ツアーの最新ライヴCD(11曲収録)を付けた2枚組

詳細:
https://www.universal-music.co.jp/sting/products/uica-1072/

スティングが日本で語るポリスからの40年、グレタ・トゥーンベリと福島への想い

『エヴリ・ムーヴ・ユー・メイク: ザ・スタジオ・レコーディングス』
ポリス
2019年11月8日リリース

■昨年、デビュー・アルバム『アウトランドス・ダム―ル』発売40周年を記念してリリースされたLPボックスと同内容の6枚組CDボックスがリーズナブル価格で登場。
■『アウトランドス・ダム―ル』(1978年)から『シンクロニシティー』(1983年)までの5枚のスタジオ・アルバムに加え、A&MのシングルB面からアルバム未収録のスタジオ・トラックをセレクトした12曲入りのボーナス・ディスクをセット。大ヒット曲「見つめていたい」のUK7インチ2枚組に収録されていた「トゥルース・ヒッツ・エヴリバデイ」のリミックスは、1993年リリースのCDボックス「メッセージ・イン・ア・ボックス~ポリス・ヒストリー」にも未収録だった、今作で初CD化となるレアなトラック。
■全ディスク、昨年のLPボックス用にアビイ・ロード・スタジオで新たにリマスターされた音源を収録。ジャケットはフルカラー・ゲートフォールドのデジパック仕様。
■日本盤のみSHM-CD仕様/解説・歌詞対訳付

詳細:
https://www.universal-music.co.jp/the-police/products/uicy-79024/
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