連載第5回目は今泉力哉監督にお話を聞きに行きました。私が今泉監督を知るきっかけになったのは、映画『愛がなんだ』です。この映画を撮った監督に会ってみたいと思い、今回実現しました! 監督とは? コンプレックスとは? 普通とは?、仕事の話、友達の話、普段話さないようなことまで、かゆいところに手が届くような対談に。皆さんも自分と重ね合わせて読んでみてください。
ー今泉監督の作品は『愛がなんだ』を観るまで正直知らなかったんです。でも作品を拝見して「どんな監督さんが撮ってるんだろう?」と興味が湧いて今回オファーさせていただきました。
今泉:僕はBiSHの存在は知っていたけど、ちゃんと音楽を聴いたことがなくて。ただ、あるドラマの撮影現場でBiSHの熱烈なファンだという衣装さんがいて、熱く語られたりしました。そういう人は他にも何人かいましたね。もっとさかのぼるとBiSの映画を友達の加藤行宏って監督が撮ってたんですよ。『アイドル・イズ・デッド』(2012年)と『アイドル・イズ・デッド-ノンちゃんのプロパガンダ大戦争-」(2014年)の2本。加藤は映画学校行ってた頃の同級生でめちゃくちゃヤバい奴なんですけど。
ーありがとうございます!
今泉:モモコさんが「自分はめちゃくちゃ普通の人だ」って感じるコンプレックスとか自分にも当てはまるなと思って。でもあの本読んでいて思ったのは、さらけ出してる割には章ごとの締めくくりはちゃんと「いい話」になってるなと。本当はもっとムカついたこととか、いろいろあるんじゃないかなと想像しながら読みました。
ーそれは初めて言われたんですけど、まさにその通りです。
今泉:そういう部分も含めて丁寧な人だなと思いました。
ーコンプレックスの話に絡めて言うと、BiSHの今いる6人のメンバーは見た目にとどまらず個性が強くて、一人ひとり自分の世界を持ってます。
今泉:どうやってまとまるんですか? まとまらなくてもいいってことですか?
ーいい意味で全然まとまらないです。初期の頃、チェキ会で私の列だけ人が全然いない時があって、私にはこれといった特徴がないからなんだと思って、それがすごくコンプレックスだったんです。周りと比べて自分には何があるのかなと考えたこともありました。ただ、しばらく経って気づいたんです。普通って裏を返せば共感を得られやすいってことに。
今泉:僕は今までダメな主人公が出てくる恋愛映画しか作ってないんです。そういうのがウケるから作るというよりは、僕がそこに興味があるから。ダメなところがない登場人物には興味が湧かなくて。今モモコさんがおっしゃったみたいに自分が普通だってことに気づいて、自分を出していくことで「個」が生まれるやり方もあると思うし、自分の場合は完全にさらけ出すスタイルなんですよ。弱音もガンガン吐く。以前、『愛がなんだ』に出てくれた岸井(ゆきの)さんに言われたけど、「現場で監督に『ここってどういう芝居したらいいんですかね?』って言ったら、『俺もわかんないんだよね』って返ってきて、『わからない』って言う監督がいるんだ」って。岸井さんだったから良かったけど、本当に呆れられることもありますよ。
ー監督がキャストを信頼しているから言えるのかもしれませんね。
今泉:ものを作る時に頭の中にあるものを全部カタチにしたい人っているじゃないですか。でも僕は一人の人間が考えられることなんて大したことないと思っていて。

Photo by Takuro Ueno
ー最初からすんなり任せられました?
今泉:いや、全然。よく怒られたりとかしてましたよ。あるドラマの現場でクランクアップを迎えた日、助監督さんに「わかってねぇな」って言われたんです。「何もわからないので教えてください」と聞いたら、「役者には演出含めてすごく気をつかえるのに、なんでスタッフには気遣いできないの?」って言われて。「スタッフのモチベーションを上げたりして、気持ちよく仕事してもらうのも監督の仕事なんだよ」と。でも、その時は意味がわからなくて、「みんなが作品としっかり向き合っていればそれでいい」「スタッフの機嫌取ってヘンな画を撮ってもしょうがない」と思ったんだけど、そう言われる理由があったんです。
病院のセットで撮ってたんですけど、入院している画を撮れるようにスタッフが事前に準備してエキストラや美術を用意してくれたのに、隅っこの方で撮影したんですね。余計なものをあまり写したくないと思って。
「してほしい芝居」っていうのはなくて、「してほしくない芝居」っていうのがある。
ー監督が映画を撮るにあたって、ここだけは負けないと思っている点は?
今泉:出てもらった役者さんの代表作になるように、お芝居をちゃんと魅力的なものにするってことですかね。僕は役者の芝居に関してはこだわりがあって、そこだけは負けたくないというか、それがあるから今仕事をいただけてると思ってるので。
ーどういう芝居をしてほしいんですか?
今泉:「してほしい芝居」っていうのはなくて、「してほしくない芝居」っていうのがあります。細かく具体的に。それらを排除していくと、自然な芝居になっていくと思っていて。例えば、安易に人に触らないとか、目線を上げないとか。とぼけたいときに目線を上げると、お芝居っぽくなるんです。
ー日常で人と話してる時に観察していろいろ気づくんですか? もしくは映画とかを観て「これはおかしい」って思うんですか?
今泉:どっちもですね。今まであるものを作りたくないっていう意識がめちゃくちゃあると思うんです。誰かがやってるものだったら別に自分は作らなくていいし、将来的には変わるかもしれないけど、今自分がやりたいことは、やっぱり自然な芝居をベースにしたものなので。『愛がなんだ』もそういう温度感で芝居にしていくっていう意識がすごくあって。
ー私がBiSHで昔からやりたかったのは作詞だったんです。もともと音楽で有名になりたいとか思っていたわけじゃなかったんですけど。
今泉:モモコさんの本には、有名になりたいと思う人はどういう人なのか見てみたいっていう好奇心からって書いてありましたよね。
ーどんな人がオーディションに来るんだろうと思って、BiSHのオーディションに行ったんです。会場では歌ったり踊ったり、それぞれ自己アピールをする。
今泉:それは就活の時期とかに?
ー就活はしてなかったんですけど、採用試験を観察しに行くような感覚で。
今泉:目的が(オーディションに)受かることじゃないから、他の人たちよりは俯瞰してその場にいることになりますよね。
ーすごく俯瞰してたと思います。
今泉:どんなところに興味があったんですか?
ーずっと勉強ばかりしてきて、周りにそういう女の子がまったくいなかったんです。世の中には芸能人とかアイドルとかがこんなにもたくさんいて、オーディションの倍率だってめちゃくちゃ高いはずなのに、なぜ自分の周りには誰もいないんだろう?って。だから、そういう人を見てみたくなって。
今泉:視点が凄いですね。

Photo by Takuro Ueno
ーワクワクしながら行ったので全然緊張しなかったんですけど。
今泉:昔から運動や美術ができなくて、僕もずっと勉強ばかりしてきた人なんですよ。高校も進学校で。それで大学進学する時、もう数学とか語学とかいいやと思って、芸術系の大学を受けることにして。もちろん周りの友達は笑ってましたよ。「力哉が?」って。自分が映画好きなのはみんな知ってたけど、ダントツに絵とか描けなかったから。そしたら名古屋市立大学ってところに芸術工学部っていう出来たばかりの学部があると。面白そうだと思って、よく調べずにそこに行くことにして。芸術系の大学に行ったら、今まで会わなかった人たちと会えるかもしれないと思ってましたね。それまではモモコさんと同じように勉強が一番みたいな生活だったので。
ーすごく似てますね。私は結果的にBiSHのオーディションに受かるわけですけど、受かってからはめちゃくちゃ真剣なんですよ。BiSHが売れる売れない関係なく、自分の人生にとっていい勉強になると思って。BiSHの音楽も好きだし、メンバーも面白いし。
今泉:続けるかどうか迷った時はあります?
ー本にも書いたんですけど、一度だけ辞めると言いました。もともと有名になりたかったわけじゃないから、人前に幅広く出ていくのが苦痛になってしまって。歌が下手っていう意見を目にしたり、テレビとかで歌わなかったら歌わなかったで、「モモコ全然歌ってないじゃん」って言われるし
今泉:でも想像していた以上の広がりがあると、それまで聞こえなかった声が聞こえるようになったり、いろんなことがが起きますよね。
ーサークルでわいわい楽しくやっていたのが、いつの間にか人が増えて、その感じが最初は馴染めなかったんですよね。
今泉:周りはもっと大きくなることを求めてたり。
ーしてたと思いますし、他のメンバーも歌で有名になりたい!って気持ちを持って活動してただろうし、将来のこと考えたら絶対有名になるべきなんですけど、私は階段の入口の時点で「無理かも」と思ってしまって。
今泉:昔、『たまの映画』(2010年)っていうドキュメンタリー映画を撮った時、たまの人たちは「さよなら人類」(1990年)で大ブレイクしたわけですけど、メジャーに行って有名人になって活躍するっていうのは、本人達の気質的には嫌なことだったんですよ。話してみると、普通に音楽がやりたいだけなんです。バンドは解散しましたけど、皆さん今も音楽だけで生活できてますし、楽しいっていうのは別に拡大することだけじゃないんだなって。
楽しみながら面白いものができた方がいい
ー今泉監督は注目を集めることについてはどう思ってるんですか?
今泉:僕は広がることの怖さはもうないというか、そこに関してはどうでもいいですね。自分の作品が面白くないものになっていってるなぁとか、作りたくないものを作ってるなぁみたいなことが起きたら、たぶん監督を辞めるか時間を置いて戻ってくるとかはあるかもしれない。ただ、昔から作ってるものを変えずに大きい場所でやらせてもらってるので、その点は今のところ大丈夫ですね。個人差もあると思うんですけど、ディスとかボロクソに言われるのも全然平気で。なんでかっていうと、最初から自分を上に置いてないからだと思う。だから批判する人がいるのも当たり前だなと思うし、ムカつくことはありますけど、結局はその人の意見ですし自由じゃないですか。僕も他の人の作品に関して意見を言うこともあるし、むしろそういうのを言えない方がキツくないですか? みんな褒め合ってる方が気持ち悪いし、ただ面白かったですの感想よりも、具体的なダメ出しの方が気づくこともある。面白かったです!って一言の方が「薄っ」っていう場合もあるし、しかもそれが後乗りだったりすると、自分の意見で正直に言えばいいのにと思っちゃいますね。
ー映画や音楽って人と共有しやすいですいからね。
今泉:面白いものを作ります! 面白いものを届けます!っていう感じじゃなくて、お客さんが観て完成……って言うとカッコよすぎるかもしれないけど、今も自分は映画のことを分かってないんですよね。以前、若手監督のトークショーに呼ばれた時に「脚本を書いてる時点のイメージと完成形に差はありますか」みたいな話題になって、若い監督さんは作風が違うからというのもあるけど「頭で考えた通り作ってます」と話してて、だけど僕はそうなったことがないんです。自分の映画でも、完成したのを観て「これとこれが繋がって、ちょっとグッとくる映画になったな。そういうことだったのか」みたいに、最後までどうなるかわかってないんですよ。だから超つまらないものになる可能性もあるんですね。脚本読んでる時は全然そんなこと思わなかったけど、出来上がったのを観て「これって感動する映画だったんだ」みたいな。毎回そんな感じです。

Photo by Takuro Ueno
ーでもそっちの方が面白いですね。
今泉:そうそう。自分も楽しみたいっていうのはあります。あと、よく「めちゃくちゃ苦労して大変な思いをすれば、面白いものができる」みたいな言葉があるけど、自分は撮影現場も楽しみたいですし、楽しみながら面白いものができた方がいいじゃないですか。苦労したのにつまらないものができたら、本当に最悪なわけで。だから現場も楽しい方がいいなと。
ーその考え方、新鮮です。
今泉:さっきの芝居の話もそうですけど、「これが正しい」って言われてるものを疑いたくて、その感覚の延長線上にありますね。
ー私はBiSHの中だとダンスが苦手な方なんですけど、メンバーのアイナ・ジ・エンドがいつも振り付けをしてくれて、アイナは踊る人の立場になって振りを考えてくれるんです。私のために元々のダンスを簡単にして、振りをつけてくれる。だから私も「楽しみながらできる」んだと思います。
今泉:やるかどうかが頑張りじゃないと思うし、よりいいものにするために振り付けを簡単にするっていう話で、そのアレンジにも時間がかかるだろうし、頑張りの方向が違うだけですよね。お客さんがどういうものを見たいかってことが大事なわけで。
ー自分の身近な友達がすごく落ち込んでる時、頑張れとは言わずに「生きてるだけでラッキーなんだから、何もしなくていいんだよ」って声をかけれるんですけど、自分に向かってとなるとなかなか言えないんですよね。
今泉:友達はたくさんいるんですか?
ーたくさんってわけじゃないですけど、高校時代からの友達とは今も仲良しです。女の子で2人親友がいるんですけど、私が生きてるだけで肯定してくれるだろうなっていうのはその2人ですね。
今泉:自分は昔からの友達がいないっていうのもコンプレックスなんですよ。たまに地元に帰って一緒に飲んだりするような人はいるけど。小学生や中学生の時、休み時間になると、僕の席には誰も来ないみたいな。でも、ヤンキーとも学級委員長みたいな人とも全員と話せるタイプで。要領よくやれるけど、例えばクラスでアンケートを取ることになって、「このクラスで一番の友達の名前を書きなさい」っていったら、たぶん誰も僕の名前は書かないだろうなと思ったこともありました。でも大学に行ったらワケわからないヤツがいっぱいいて、その時に初めて特定の男友達、2~3人くらいと仲良くなったという感じで。
ーそういう友達ができると世界が変わりますよね。私がずっと仲よくしてる友達って最初はその場にいるだけですごくムカつく女だったんですよ。でも今は親友で。
今泉:どういうムカつきなんですか?
ーそれがわからないんですよね。別に何が奇抜ってわけでもなくて、こいつとは絶対仲よくなれないなって。でもある時、音楽の授業中に先生の発言がツボにハマってしまって、皆がシーンとしてる時に声を出して笑ってしまったことがあって。そしたらその子も笑ってたんですよ。あとから2人で怒られたんですけど、そこからですね。私、嫌いだった人とすごく仲良くなることが多いです。
今泉:わかりますね。興味がない人は好きにも嫌いにもならないじゃないですか。簡単にひっくり返らないかもしれないけど、どこか気になってるってことは間違いないですからね。
監督の下積み時代について
ー話は変わるんですが、監督の下積み時代ってどんな感じだったんですか?
今泉:お金だけの話で言うと、監督業だけで食べられるようになったのは去年くらいです。『カメラを止めるな!』を作ったENBUゼミナールっていう専門学校があって、事務員として働いてたんですよ。授業のスケジュールを組んだり、講師を決めたり。そこにいながら自主映画を作りつつ、自分もいろんな授業に潜り込んで、好きな監督や演出家がどうやって芝居をつけるのか勉強してました。監督って特殊な仕事なんですよ。俳優やアイドルもそうかもしれないけど、何か資格があるわけじゃないので。映画一本撮ったら誰でも監督になれるし。自分は助監督は一切やってなかったので、そういう意味ではずっと監督ですね。学生時代とか、持ちつ持たれつで誰かが監督する時に助監督を手伝ったりすることもあるんですけど、自分は助監督の能力が無さすぎてぜんぜん使えない。たぶん他人の映画に興味がないというか、友達の映画を面白いと思えないんですよね。で、面白いと思ってないヤツが現場にいるのってマイナスでしかないから。

Photo by Takuro Ueno
ーなるほど。
今泉:持ちつ持たれつでお互いやってるのに、僕がそんな態度だったら「じゃあ今泉のは手伝わないから」ってなってもおかしくないじゃないですか。だから手伝ってもらうためには面白い映画を撮るしかなくて、そしたら「あいつの映画は面白いから手伝いたい」ってなる。それだけでなんとかやってましたね。お金がないとか人手が足りないとか、どんなに難しい状況でも面白いものを作るっていうのは大事だと思っていて。でも今になって思うけど、周りの人には恵まれてました。みんな手伝ってくれたし。
ー人柄なんですかね?
今泉:話は変わりますが、自主映画を作ってる時、仲間のスタッフとかキャストとか、みんな一緒にはプロになれないなって気づいたタイミングがあって。メインどころの役者と監督はプロになれるけど、それ以外は難しいかもって思った時に、自主映画でもギャラはしっかり払おうと決めて、それからは大したことない金額でも絶対に払ってました。ノーギャラで手伝ってもらって、そのまま自分だけプロになるみたいなのが一番嫌だと思ったんです。もちろん、その時の仲間で今はプロになってる人たちもいっぱいいるんですけど。
ーお客さん側から見えるものって、俳優さんと監督さん、あとは原作者くらいですよね。
今泉:映画に携わってる人はめちゃくちゃいるのにね。今はそういう類の話ってたくさんありますよ。チラシにスタッフの名前が載ってないとか、監督の名前ですらすごく小さい文字とか。日本の場合、映画監督の名前でお客さんが映画を観ることって少ないだろうし、そもそも監督の名前を聞いても誰か分からない人って多いと思う。それは普通の感覚だと思うし、でも自分は監督の名前で劇場にお客さんを呼べる人になりたいです。難しいことかもしれないけど。モモコさんは好きな映画って何ですか?
ー映画についてそんなに詳しいわけじゃないけど、私は矢口史靖監督がすごく好きです。『ひみつの花園』(1997年)とか『ウォーターボーイズ』(2001年)も好きだし、『スウィングガールズ』(2004年)とか。
今泉:映画学校に矢口さんがいらっしゃった時、授業で話していたのは、お客さんが押してほしいツボは全部押して、さらに他に気持ちいいツボも押すんですと。求められてることを「肩透かし」にするんじゃなく、みんなが求めてることはきっちりやって、その上でお客さんが思ってもないことをやれるといいという話をしていて、すごく勉強になりました。

Photo by Takuro Ueno
ー矢口監督の作品はコメディっぽいのに、日常のなんでもないことがちゃんと映画になってるのが私は好きで。『愛がなんだ』でもそういう部分をすごく感じました。私は日常にないものがたくさん出てくる映画が苦手で、例えば拳銃とか。
今泉:北野武の映画ってヤクザが出てくるのが多いんですけど、日本で拳銃を出すならヤクザが一番リアリティがあるみたいなことらしいです。拳銃って適当に出せないじゃないですか。難しいですよね。そういう点で今泉批判もあるんですよ。映画っていろんなことができるのに、なんでこんな日常のことをわざわざ映画にするんだとか。
ー私はそこがいいなって思っていて、『愛がなんだ』でも動物園のシーンとかめっちゃ好きで、テルコさんが泣いちゃうところもすごく共感できて。
今泉:あそこで共感できるのだいぶヤバいですよ。あれ逆ですもんね、ってみんなに言われた。ナレーションでは説明してるけど、普通は悲しい側からの泣きに見えるらしい。まさか幸せからの泣きだとは思わない。どうやっても説明できないと思ったから原作の角田光代さんの言葉を使いましたけど。
緩い覚悟でものづくりして良かったとも思ってる
ー今泉監督はこれから自分はどうしていきたいとかありますか?
今泉:あんまり変わらずに今と同じようなものを作りつつ、ちゃんと食べていければいいなと思います。あとギャラの単価を上げていきたいですね。そうすれば作品をたくさん作らなくてもいいじゃないですか。僕は多作でありたいわけじゃないし、日々作らずにはいられないとか、アイデアがいっぱいあって困るみたいな人間じゃなくて、基本的には寝てたいんです。だから作るものは面白いものにしたいし、お仕事な感じにならないようにしたい。それが一番ですかね。自分には今家庭があって子供もいるんですけど、嫁が監督だったんですよ。昔は自主映画とか作ってベルリン映画祭で賞を取ったりしてて。でも、二人とも監督してたら収入が不安定だから、看護師の仕事をして家庭を支えてくれているんです。だから子供が大きくなって僕の収入も安定したら、嫁もどこかのタイミングで映画に戻れるだろうから、いつかまた映画を撮ってほしいなと思っています。
ものづくりって難しいですよね。映画館のバイトをしてた時に監督志望が3人いて、俺が一番フットワーク軽く短編をたくさん作ってて、もう1人はのんびりしたペースで作ってて、もう1人は全然作ってなかったんです。そいつは映画っていうものを凄いものだと思ってるから、1本作るのに考えすぎてしまって、おいそれとは撮れないわけですよ。「今泉みたいに緩い覚悟でやってんのいいな」って言われたけど、緩い覚悟でものづくりして良かったとも思ってて。

Photo by Takuro Ueno
ー私も本を出す時に「本なんて私ごときが出せるわけがない」と思ってたんですけど、そこで考え過ぎたら出せなかったんだろうなって思います。今日は本当にお話しできてよかったです。ありがとうございました!
=あとがき=
今泉監督が、自分の作品は完成するまでどんな作品になるかわからないと言っていたのが印象的だった。監督といえば現場の一番偉い人で、作品に関する全てを牛耳る存在というイメージを持っていたので、今泉監督のようにいい意味で周りの人を頼り、自分一人で決めないというスタンスがとても新鮮だった。映画監督とBiSHのメンバー、共通点は自分やグループというものを通して何かを世間へ発信しているということ。グループで活動する時も自分一人の頭の中で物事を完結させないということはとても重要だと思った。どんなことでも自分一人の力には限界がある。自分だけの力で物事を進めたり、自分の意見を押し通したりするのは気持ちいいかもしれないが、相手に任せる部分を作ったり、他の意見を受け入れられるように自分の頭に余裕を持ったりすることも仕事をする上で大切だろう。今泉監督のような仕事の仕方が自然とできるような人間になりたいと思った。
今泉力哉
1981年生まれ。福島県出身。数本の短編映画を監督した後、2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。翌2011年『終わってる』を発表後、2012年、”モト冬樹生誕60周年記念作品”となる『こっぴどい猫』を監督し、一躍注目を集める。2013年、こじらせた大人たちの恋愛群像劇を描いた『サッドティー』が第26回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品。『知らない、ふたり』(2016)、『退屈な日々にさようならを』(2017)も、それぞれ、第28回、第29回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品されている。他の長編監督作に『鬼灯さん家のアネキ』(2014)、深川麻衣を主演に迎えた『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)など。監督最新作、伊坂幸太郎原作&三浦春馬主演の『アイネクライネナハトムジーク』が現在公開中。

『愛がなんだ』
Blu-ray(特装限定版)&DVD
バンダイナムコアーツ
10月25日発売
レンタルDVD&配信同日リリース
デジタルセル配信1カ月先行リリース
モモコグミカンパニー(BiSH)
https://twitter.com/gumi_bish
2015年3月、BiSHのメンバーとして活動を開始。2016年5月のシングル「DEADMAN」で早くもメジャーデビュー。2017年12月には、結成からわずか3年で『ミュージックステーション』に出演し、”楽器を持たないパンクバンド”として強烈な個性を見せつける。2018年12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて1万7,000人を動員した単独ライブ「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE”」を開催した。2019年7月に全国ツアー「LiFE is COMEDY TOUR」を実施。7月3日には最新アルバム『CARROTS and STiCKS』をリリース、9月23日には大阪城ホールワンマン『And yet BiSH moves.』、10月からは全国19カ所23公演をバンド編成でまわるホールツアー「NEW HATEFUL KiND TOUR」が決定。最新シングル「KiND PEOPLE / リズム」を11月6日にリリースする。現在BiSHのメンバーはモモコグミカンパニーの他、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人。
https://www.bish.tokyo/
Edited by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)