「音楽の下地がある街という点が重要でした。福岡のオフィスも、ライブハウスがいっぱいある音楽の街・親不孝通りに作ったんです。東京のスタジオに関しては、UKプロジェクトの跡地ということで、機運とか音楽の歴史が詰まっている。そういう流れを受け継ぎつつ、やれたら一番いいかなと思っています」
本スタジオを作るにあたって、一番重視したのは「機能性」だと松隈は語る。
「昔のスタジオは何億円もする大きな卓が目玉だったけど、今の時代、パソコンで処理できるようになったので、いらないものは完全に省きました。ただ、スピーカーは構造上おそらく100年経っても変わらない。そこで、今回ちゃんとしたものを買おうと、メインスピーカーに、レイオーディオという高級スピーカーを導入しました。このモデルは普通の楽器屋では手に入らないし、他のスタジオにもなかなかないです。それによって、SCRAMBLESにしかない音が出せるし、その音で調整するので他で作っている音と差別化できる。先週、実験がてら、BiSのアルバムの歌録りをしたんです。

新スタジオのメインコントロールルーム、中央にあるスピーカーがレイオーディオ

左からAPIのイコライザー、A-Designなどのマイクプリ、EMPIRICAL LABSのコンプレッサー などを用意している
このスタジオがおもしろいのは、「SCRAMBLES」のオフィスが併設されているところだ。13人のクリエイター、エンジニアが机を並べて楽曲制作を行っている。楽曲制作から、録音、ミックス、マスタリングまで、この空間ですべて行うことができる。こうした有機的な設計についても松隈は意識的だ。

SCRAMBLESのクリエイターたちが机を並べて楽曲制作を行っている
「前のスタジオは狭くて愛着があってよかったんですけど、逃げ場がないところがネックになっていて。歌い手さんがのびのび歌える環境が作りたかった。待合場所も別々にあるので、歌い手さんとレーベルの人だったり、お互い気を使わなくていい。これまでの経験でサイズ感も含めかなり考えて作りました。音作りまで含めてSCRAMBLESなので、録った音をすぐに修正したり、ギターのコードを変えることもできる。ここだけで曲作りから発売まで完結できるんです。

スクランブルズサウンドのほぼ全てのミックスを手がけているエンジニアの沖悠央氏
それって、時代とはかなり逆行しているんですよ。家で1人のクリエイターが完パケする時代だから。
松隈は、音楽クリエイターの居場所を作ることを誰よりも大切にしている。その原動力は、松隈自身がバンド、クリエイターとして活動してきた中で味わった苦労や、想いによって生み出されている。
「自分がバンドマンとか作家の駆け出しだったとき、とにかく食えなかった。音楽は人を喜ばせるためのエンターテイメントなのに、実は作っている人たちが1番貧乏なんです。アーティストたちは、やっぱり売れたくて、モテたくて、金持ちになりたくて、何万人もの前で歌いたくて、ステージに立っている。それに対して夢を観れなくなっているのが嫌で。少しでも食えるような状況を作りたい。おこがましいけど、憧れるようなものを見せていかないと、音楽業界はマジでやばいと思っていて。
新スタジオは、楽曲をレコーディングするためだけの場所ではない。クリエイターが楽曲を生み出す場所であり、レコーディングする場所であり、ミックス、マスタリングする場所でもある。音楽制作に携わるクリエイターが一堂に会し、コミュニケーションを図ることで、よりよい楽曲を生み出すための居場所なのである。徹底的にクリエイター視点で作られたスタジオがオープンした初日、松隈はすでに今後の目標を語ってもみせた。
「SCRAMBLESの音楽に興味はないけど、僕らのやっていることに賛同してくれる人たちに向けて、シェアオフィスのような形で新しいスタジオを作りたい。5個くらいスタジオがあって、100人くらいクリエイターが並んでいて、みんなでシェアしながら音楽を作るみたいな。
こうしてオープンしたSCRAMBLESの新スタジオ。ここでクリエイターたちが有機的なコミュニケーションをとりつつ、どんな楽曲が生まれるのか。まさに期待が高まるばかりの新スポットの誕生である。

代沢スタジオ
〒155-0032
東京都世田谷区代沢5-2-14
小田急線/京王井の頭線下北沢駅より徒歩7分
・SCRAMBLES HP https://scrambles.jp/