アジズさんはTikTok動画の冒頭で数秒間ビューラーを使って見せた後、新疆ウイグル族――イスラム教徒が大半を占める少数民族――の強制収容についてGoogleで検索するよう、人々に呼びかけた。
この後アジズさんはさらに2つの動画をTikTokに投稿し、ウイグル族救出に役立つ情報源を紹介。また、周囲に話題を広めるよう若者らに呼びかけた。「大人世代が持っていなくて、私たちが手にしている力、それがテクノロジーです」と言い、こう付け加えた。「私たちの声には、世の中を変える力があります」
ウイグル族は中国西部の新疆地区に暮らす少数民族。人権擁護団体は以前から、中国政府がウイグル族を劣悪な環境の「再教育施設」に収容していると主張してきた。元収容者らの証言によると、施設内では集団レイプや強制的な去勢手術などが行われていたという。
GUYS NO JOKE THIS TUTORIAL HELPED ME SO MUCH PLEASE WATCH IT pic.twitter.com/BuITSebOu6— saltys backup (@soIardan) 2019年11月24日
以来アジズさんのTikTokは広範囲に拡散され、最初の動画の閲覧回数は140万回以上に上った。17歳のアジズさんはローリングストーン誌との電話インタビューに応じ、前にもソーシャルメディアでウイグル族のことを投稿したことがあると語った。「でも、誰も耳を傾けようとしない。誰も気にかけないの」 。元々彼女がTikTokを使い始めたのはイスラム系アメリカ人向けに面白コンテンツを作るためだったが、新疆での人権侵害を訴える発言の場としてアプリを活用してみることにした。
メイク講座を装った理由とは?
彼女がメイク講座を装った理由は2つある。「実際にこういうことが起きているのに、誰も全く気にしない。世間が気にするのは今何が流行っているか、最先端のファッションは何か、誰が誰と付き合ってて、どんな新しいYouTuberが出てきたか、ということだけ」と本人。「(だから)『みんなが知りたがることを話せばいいんじゃいない?』と思ったの。まつげを盛りたい人は大勢いるから、そういう人たちを狙ってみよう。
もうひとつの理由はより重要で、TikTokが――親会社は中国企業ByteDance社――現在香港で進行中の民主主義運動をはじめ、中国政府に不都合なコンテンツを削除して非難されたという報道に基づいている。アジズさんは以前、中東や中国でイスラム教徒が殺害されている事実がメディアで取り上げられないことを非難する動画をTikTokに投稿したことがあったが、何の説明もなく勝手に削除されたそうだ。
「それで考えたの。『OK、だったら絶対削除されないようにしてやりましょう』って。それでメイク講座動画を装ったら、上手くいったってわけ」
しかしそれも束の間だった。彼女の話では、TikTokから「複数の違反事項により」アカウントを一時停止したとの通知があり、投稿ができなくなったという。通知には具体的な違反の内容は記載されていなかった。フィードそのものはまだ生きているが、アカウントにアクセスすることはできないという。本人はウイグル関連の投稿が原因でアカウントが停止されたのだと考えている。「私が中国に関する動画を上げたとたんにアカウントが停止されるなんて、怪しすぎるでしょ」と本人。
China is scared of the truth spreading. Lets keep scaring them and spread the truth. Save the Muslims #chineseholocaust #muslim pic.twitter.com/GbreNFWBEc— feroza.x (@x_feroza) 2019年11月25日
ローリングストーン誌がTikTokにコメントを求めたところ、代表者はアジズさんのアカウントを一時停止したのはウイグル族の動画が拡散したからではないと否定し、10日前にも彼女がオサマ·ビン·ラディンのポスターを写した動画をアップロードしたため、複数あるアカウントのひとつを停止したと述べた。代表者曰く、TikTokのシステムがオサマ·ビン·ラディンの画像に反応してテロ関連コンテンツだと認識したために、彼女のデバイスからの投稿が規制された、ということだ。
TikTok運営は(アカウントの一時停止は)ウイグル族とは無関係とコメント
代表者が言うには、イスラム教徒ウイグル族の動画の投稿直後にアカウント停止が通知されたのは、たとえアカウントが違っていても、同じデバイスからの投稿だったからだそうだ。また、アカウントが削除される前に投稿されたウイグル族の動画は削除されずに残っている、とも述べた。
代表者は、そもそもテロ推奨コンテンツとして規制対象となった動画の詳細には言及を避けたが、アジズさんが言うには、オサマ·ビン·ラディンをティーンたちのアイドルとして描き、イスラム系アメリカ人がみなテロリストの一味だという考えを揶揄した「ブラックユーモア」だったそうだ。
「この国では、イスラム系アメリカ人はバカにされる……『テロリストと結婚すればいい、お前もテロリストなんだから』と言われ続けてきたわ」と本人。「それで考えたの、いいわ、だったら『テロリストって素敵だわ』って言う動画を作ってやろうじゃない? ちろんジョークとしてね……でも削除されちゃった。内容を正しく理解されずにね。あんな風に勘違いされる為に作ったわけじゃなかったのに」
彼女はこうも指摘する。TikTok上にはもっと生々しい映像が撮影されたコンテンツが山のように投稿されているのに、「私が日々直面している人種差別的な意見に対抗する動画を投稿すると、削除されてしまうのよね」
概してTikTokは中国政府に批判的なコンテンツを検閲しているのか、と尋ねたところ、代表者はこれを否定し、同社が「中国への配慮からコンンテンツを削除することはない」と述べた。とはいえ、TikTokは安全性に危険があるとして、最近アメリカ政府から非難を受けた。現在、海外企業の企業買収を査定する対米外国投資委員会(CFIUS)が審議を行っている。
アジズさんのメイク講座兼抗議動画が拡散したのがきっかけで、TikTokユーザーの間では、一見無害な内容に政治的な訴えを込めることがブームになっている。彼女もデスクトップから、バスケットボールのスピンの仕方を教える動画にウイグル族の抑圧を訴えるメッセージを込めたものや、ヒジャブの被り方を伝授しつつ実はパレスチナの人権問題に触れた動画など、他のユーザーのTikTokを見ている。
「正直なところ、私がこれ以上TikTokを続ければ、向こうはとことん私を黙らせようとしてくると思うの。だったらInstagramで話題を広めてみてもいいかな、って」と本人。「他のソーシャルメディアで何をしようと(TikTokは)口出しできないでしょう。彼らの言いなりになるつもりはないわ」