今年3月にリリースされたサード・アルバム『BLUEHARLEM』からわずか9ヶ月、彼らの新作『to the MOON e.p.』の発売日当日に開催された本イベントのゲストはSuchmos。2015年に東京・新代田FEVERで開催された、〈Dreamin Night vol.2〉でnever young beachと共演して以来、彼らにとってはおよそ4年ぶりの出演となる。チケットはゲストの告知解禁がされる前からすでにソールドアウトだったが、ブレイク前から親交の深い両バンドによる久しぶりの共演とあって、フロアにひしめく満員のオーディエンスたちの溢れる熱気は、開場前から並々ならぬものがあった。
トップバッターはSuchmos。今年3月に意欲作にして「問題作」となった通算3枚目のアルバム『THE ANYMAL』をリリースし、9月には地元、横浜スタジアムでのワンマン公演を成功させた彼らの、いわば「凱旋ライブ」だ。まずはその『THE ANYMAL』から「In The Zoo」を披露。ブルーノートをふんだんに使ったソウルフルなメロディを、ヘヴィなリズムの上で高らかに歌い上げるYONCE(Vo.)の姿に、まるで吸い込まれるように茫然と立ち尽くすオーディエンスたち。哀愁たっぷりのブルース・セクションからジャジーなブリッジを経て、サイケデリックなカタルシスを迎えるこの曲のプログレッシヴな展開は、『THE ANYMAL』の世界観を象徴するものだ。

Photo by Naruki Yamaguchi
「Suchmosですよろしく」とYONCEが短く挨拶し、湧き上がる歓声の中で続けて演奏されたのは、ハマスタでも披露した新曲「藍情」。YONCEのカウントに導かれ、3声(4声?)のアカペラから始まるこのワルツは、『THE ANYMAL』の世界観を受け継いだ壮大かつスピリチュアルな楽曲である。続いてTAIHEI(Key.)の弾くジャジーなエレピに乗せ、「お久しぶりです。Suchmosっていいます」とYONCEが即興でソウルフルに歌い上げていく。
「ヨギー、リリースおめでとう。今日呼んでくれてありがとう」とYONCEがお祝いの言葉を述べ、馴染み深いドラムフレーズが繰り出されると会場からは歓声が沸き上がる。2017年にリリースされたセカンド・アルバム『THE KIDS』からのリード曲「MINT」である。音源よりも、ひなびたメロトロンのコード・バッキングが強調され、ここ最近のSuchmosのサウンド路線へとマイナーチェンジがなされていたのが印象的だった。自然発生的なハンドクラップと共に、<調子はどうだい? 兄弟、徘徊しないかい?>というサビのコール&レスポンスを全員で行い、回るきらびやかなミラーボールのライトの下で、会場は一体感に包まれた。

Photo by Naruki Yamaguchi
さらに『THE ANYMAL』からのヘヴィ・チューン「Hit Me, Thunder」、2015年のEP『Essence』から「Life Easy」と矢継ぎ早に演奏し、ステージを後にしたSuchmos。新作『THE ANYMAL』で音楽性を大きくシフトさせ、賛否両論を巻き起こしたSuchmosだが、そんな騒ぎなどものともせず「今、自分たちがやりたいこと」をストイックにやり切る姿に大きな感動を覚えた。
続いて登場したYogee New Wavesのステージは、ベースアンプに置かれたバンドロゴ入りのネオンサインと、ステージ後方にセットされた夜のビル群がロマンティック。ビリー・ウッテンのヴィブラフォンをフィーチャーしたザ・ウッドゥン・グラスによる、カーペンターズ「Weve Only Just Begun(愛のプレリュード)」のインスト・カヴァーをバックにメンバー4人とサポート・メンバーの高野勲(Key.)が現れると、フロアからは割れんばかりの大歓声が鳴り響く。
続いて角舘の力強いカウントダウンと共に、同じく『PARAISO』から「Summer」。角舘と竹村によるオクターヴ・ユニゾンのボーカルが、艶やかな響きと共に会場を包み込んでいく。<ピカピカピカピカ光る/銀色のミラーボールよ/くるくるくるリと回って>という歌詞に合わせ、STUDIO COASTの天井に吊るされたミラーボールが回り始めると、その美しくもきらびやかな光景にフロアからはため息が漏れた。

Photo by Naruki Yamaguchi
「Good Night Station」ではサポートメンバーの松井泉(Per.)が加わり、グルーヴィーなリズムの上でデイレイとリヴァーブをたっぷり使ったダビーなギターが伸びやかなソロを展開。楽曲後半では両手を宙にかざしたオーディエンスたちによる、<YA YA YA YA~>の大合唱となった。さらに、件の新作から「to the moon」が繰り出され、その軽やかなギター・カッティングが重心低めのリズムトラックの上でシルキーな軽やかに鳴り響いてゆく。<ここは新木場 いかれた気分さ>とリリックの一部を替え歌にするなど、遊び心が随所に散りばめられたパフォーマンスも印象的で、駆けつけたオーディエンスはその演奏に皆酔いしれていた。
長い中国ツアーから戻ってきたばかりのヨギー。「ただいま東京!」とフロアに呼びかけた角舘は、「冷凍しておいたシチューを帰国して食べたら、めっちゃ美味かったです」と話して笑いを誘ったあと、「Climax Night」「HOW DO YOU FEEL?」とミドルチューンを続けて披露。タイトなリズム隊と、のびやかなギター・オーケストレーションが鮮やかなコントラストを描き出した。
「Suchmos最高でしたね。まさに"Hit Me, Thunder"って感じ」と角舘。「中国ツアーから帰ってきて、Suchmosの連中といつも通り喫煙所でタバコを吸ったり、くだらない話を一緒にしたりして。幼なじみってこういう感じなんだろうな」と感慨深げに話す。そしてかつて、自分たちが「シティポップ」というジャンルにカテゴライズされていた時のことを振り返り、「Suchmosはシティポップじゃなくて”神奈川のおしゃれラスタ”ですよ。シティポップは俺ら。これマジっす」と話して大きな笑いを取っていた。「シティポップというのは、ある意味では都会に対するニヒリズムというか。都会に住んでいるからこそ知っている、都会の『美しくない』ところをFuck You! と思いながら歌にしているのがシティポップなんっすよ」と、彼なりのシティポップの定義を投げかける角舘。「都会って本当、苦しくないですか? 電車とかいつインフルエンザが移るか分かんねえなと思うし。でも、音楽をやっている時だけは、そんな都会の窮屈さを逃れられると気づいたんですよね。それを聴いたみんなが少しでも、都会での”抜け出しテクニック”を身につけて、『今日の山手線はつまらなくなかった』と思えたらすげえ最高だなと思って音楽やってます」と、自らの矜持を熱く語った。

Photo by Naruki Yamaguchi
そしてバンドは、新作『to the moon』からモータウン調のリズムが心を躍らせる「あしたてんきになれ」、疾走感あふれる「Bluemin Days」と立て続けに演奏。途中、<花束をあげよう、Suchmosに>と歌詞を変えてオーディエンスを沸かせ、ビル・ウィザースの「Lovely Day」を彷彿とさせる「Ride on Wave」で本編を終了。鳴り止まぬ拍手の中、ミドルバラードの「Like Sixteen Candles」、トライバルなリズムとキラキラしたギターがキュアーを思わせる「Good Bye」をアンコールに演奏し、この日のイベントに幕を閉じた。
今や日本のインディー・ロックシーンを牽引する存在となった2組、Yogee New WavesとSuchmosの共演というゴージャスな企画が実現した、両者のファンにとっても夢のような一夜だった。

Photo by Naruki Yamaguchi
<公演情報>
〈Dreamin Night vol.2〉
2019年12月4日(水)
出演:Yogee New Waves、Suchmos