2019年は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』や『キャプテン・マーベル』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』といった興行的に大成功を収めた超大作のおかげでマーベルは大儲けをしたが、マーティン・スコセッシ監督からそういった作品は「本物の映画」としての妥当性を否定され、見下された。
1.『アイリッシュマン』

Netflix
77歳のマーティン・スコセッシは、今でもアメリカの偉大なる生きたフィルムメーカーであるが、マーベル映画は映画ではないと発言したことで、今年の1年を揺るがした。「あの映画にないものは、新たな気づきや、神秘性、もしくは純粋な感情がもつ危うさなんだ」と主張したスコセッシは、そういったことにはとどまらない要素が散りばめられた映画を今年発表。その映画は2019年の最高作であるだけでなく、歴史に残るキャリアを総括し、煽情的で忘れられない作品だ。本作で、スコセッシは『カジノ』以来25年ぶりに、演技の比類なき神であるロバート・デ・ニーロやジョー・ペシと再びタッグを組んでいる。また、デ・ニーロ演じる殺し屋のフランク・シーランが殺すよう命じられるチームスターのリーダーのジミー・ホッファを演じるのは、精力的なアル・パチーノだ。
2.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

Andrew Cooper/Sony Pictures
クエンティン・タランティーノのハリウッドの末端に対する熱狂的な愛情は、非常に緻密で美しく語られる物語を映し出すフレームすべてに浸透している。時は1969年。光り輝くハリウッドに不吉なことが忍び寄っている。残忍なマンソン・ファミリーが物語の背景で忍び寄りながらも、バディーもののコメディを作ろうとするのは、タランティーノぐらいしかいない。レオナルド・ディカプリオの演じる男はうまく立ち回っているが、酒に浸り、落ち目のスターとしてテレビの悪役を演じ、自分のスタントを演じる相棒(この役で初のオスカーを狙うブラッド・ピット)からのサポートにかなり頼っている。そして、そう、隣に住んでいるのはマーゴット・ロビーが演じる無邪気さの象徴である女優のシャロン・テートだ。『イングロリアス・バスターズ』でヒトラーを殺したタランティーノは、今回もご多分に漏れず、自分の倫理観に合わせるために歴史を改変した。最後に、映画の中のセリフを言いかえさせてもらおう。「あいつがクエンティン・タランティーノ様だ! 忘れるなよ」。
3.『パラサイト 半地下の家族』

韓国映画界の巨匠ポン・ジュノ監督に感謝しよう。常識を覆した『パラサイト 半地下の家族』はアメリカ人の字幕に対する嫌悪感を癒しているかのようだ。貧しいキム一家は裕福なパク一家にじわじわと紛れ込む。最初は家庭教師としての地位を確保し、その次に使用人を装う。この映画は、階級に関する社会風刺を辛辣な笑いで描くことから始まり、誰もが持っている貪欲さの寄生的な本質を問うホラーへと構築されている。ポン監督のテクニックは強烈に素晴らしい。映画を見る際には、この映画の力に畏怖の念を持ってほしい。
4.『マリッジ・ストーリー』

Wilson Webb/Netflix
チャーリー(アダム・ドライバー)とニコール(スカーレット・ヨハンソン)はお似合いの夫婦だ。ただし、ニコールはロサンゼルスに引っ越したく、チャーリーはニューヨークに留まりたいと思っている。8歳の息子ヘンリー(アジー・ロバートソン)は、その2人の間の焦土化したような空間にたたずむ。離婚につながりかねない無数の事柄をベースにして、脚本家兼監督のノア・バームバックは、自身最高の映画を作り出した。この映画には、自分の身につまされる結婚生活の中の場面が次々に描かれている。
5.『Little Women(原題)/ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

Wilson Webb/Columbia Pictures
『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバックのパートナーであるグレタ・ガーウィグが、聖なる結婚生活がとんでもない重荷となるかもしれないという題材に取り組み、脚本と監督を務めたこの映画は楽しく見ることができる。ルイーザ・メイ・オルコットが1860年代に書いた小説『若草物語』のプロットで主に扱われているのは、4人のマーチ姉妹の1人、激情の持ち主であり、駆け出しの作家であるジョー(シアーシャ・ローナン)であるのは間違いない。メグ(エマ・ワトソン)とベス(エリザ・スカンレン)は、エイミー(素晴らしいフローレンス・ピュー)が自分の得意分野でジョーに挑む姿を見守る。『若草物語』はこれまでに8本の映画になったが、今回の『Little Women』はその中でも最高の出来栄えであり、ガーウィグはアルコット自身の人生と反抗的な性格を映画の中に混ぜ込んだ。その結果、あらゆる年齢の女性の自立を称え、気分を爽快にさせる映画を観客に届けている。(※2020年3月日本公開予定)
6.『1917 命をかけた伝令』

Jonathan Prime/Universal Pictures
あらゆるレベルで納得のいく素晴らしい業績が成し遂げられた映画。監督のサム・メンデスと撮影監督の想像力豊かなロジャー・ディーキンズは、2人とも最高レベルの才能を放ちながら、ワンカット(少なくともそのように見える)で第一次世界大戦の物語を語ることを試みている。2人の若き英国兵士のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン・チャールズ=チャップマン)は、ドイツ軍が1,600人以上のイギリス軍兵士の命を奪いかねない罠を仕掛けているというメッセージを伝えるために、敵陣を越えるという不可能な任務に挑む。メンデスとディーキンズのアプローチには、受け狙いものはない。2人とも技術的な奇跡を起こしているが、それに勝るのは、感情面を深く追求していることだ(マッケイの演技には胸が張り裂けてしまう)。
7.『ジョジョ・ラビット』

ニュージーランドのフィルムメーカー、タイカ・ワイティティはワイルドな男であり(『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』や『マイティ・ソー バトルロイヤル』を見てほしい)、簡単には怖がらせてくれない。そして、賛否両論の『ジョジョ・ラビット』は彼の最大のヒット作であり、悲劇を絡めたコメディ作で、ワイティティが面白半分にヒトラーを演じている。10歳のジョジョ(素晴らしいローマン・グリフィン・デイビス)はヒトラーユーゲントの一員であるが、母親(スカーレット・ヨハンソン)によって家にかくまわれていたユダヤ人の少女(『足跡はかき消して』に出演したトーマシン・マッケンジー)を見つけたことで、その状況に折り合いをつけようとするが、そこから何が起きるのか? ワイティティは、相手を理解していくことになるこの若きヒーローの旅が私たちの旅でもあると確信している。そして、対立とヘイトクライムに今も飲み込まれている世界では、彼が正しいことを望みたい。(※2020年1月17日公開予定)
8.『アンカット・ダイヤモンド』

A24
ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟の映画は常に情熱を持って作られている。さらにこの作品では、自らの命を危険にさらしてまで珍しいオパールを求めたり、一か八かのバスケットボールに賭けたりするニューヨークの宝石商をアダム・サンドラーが演じ、このタッグは猛烈なまでに最高な組み合わせだ。サンドラは間抜けではない役を演じると、真剣に演技に取り組める。サフディ兄弟のために総動員した今作での演技は、名刺代わりになるものだ。(※日本では、Netflixで2020年1月31日からNetflixにて配信)
9.『フェアウェル』

A24
知性と機知からなる力強い核が、脚本家兼監督のルル・ワンの描く文化間の対立の物語を特徴付けている。主人公のビリーは、余命いくばくもない祖母のナイナイ(崇高なチャオ・シューチェン)と会うために中国へ帰郷するニューヨーク在住の作家。その役を演じたオークワフィナは重厚な演技で観客の心を動かす。
10.『ジョーカー』

Niko Tavernise/Warner Bros.
ホアンキン・フェニックスが観客を仰天させた演技は、これから何年にもわたって解読されることになるだろう。フェニックス演じるアーサー・フレックは、道化師の仕事をしながらスタンドアップコメディアンを目指すが、残忍な復讐者に変身してしまう。フェニックスと監督のトッド・フィリップスは、ジョーカーの独自のオリジン・ストーリーを作り出した結果、映画の中の暴力に関して大きな論争を巻き起こし、この映画はR指定映画の中で歴史上最も成功したものとなった。彼らはインスピレーションの拠り所として、このリストのトップにいるレジェンドのマーティン・スコセッシに目を向けた。その結果として、フレックの中に、スコセッシの『タクシードライバー』のトラビス・ビックルや『キング・オブ・コメディ』でのルパート・パプキンの苦しめられた形跡が見られる。幸せを手に入れようともがく人物の姿を数々の傑作映画が映し出してきたこの1年を締めくくるのは、『アイリッシュマン』と『ジョーカー』の2作品だ。人生を模した芸術作品について話し合ってほしい。