昨年5月にデビューから25周年を迎えたことが一区切りになったんじゃないか、と思わせる新境地を打ち出した新作『ザ・ジュース』がGラヴ(Vo,Gt)から届けられた。Gラヴ&スペシャル・ソース名義でリリースした前作『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』(2016年)から約4年ぶり。今回は、ソロ名義のリリースとなる。
デビューから10年過ぎた頃から、彼の活動が、自らフロントマンを務めるトリオ、Gラヴ&スペシャル・ソースだけにこだわらないものになっていったことは、ファンならご存じだろう。たとえば、『フィクスィン・トゥ・ダイ』(2011年)で共演したノース・カロライナ州のフォーク・ロック・バンド、アヴェット・ブラザーズもそうだが、そんなふうに新たに出会った仲間たちも巻き込みながら、Gラヴの活動は年々、自由度を増していき、そんな活動の中からスペシャル・ソース名義のアルバムとともに『ハッスル』(2004年)、『レモネード』(2006年)、前述した『フィクスィン・トゥ・ダイ』というソロ名義のアルバムが生まれていった。
もっとも、ソロ名義のアルバムでもスペシャル・ソースのメンバー――ジミー・プレスコット(Ba)、ジェフリー・クレメンズ(Dr)が参加していることもあるから、ソロとスペシャル・ソース、その境はファジーなのだと思うが、4作目のソロ・アルバムとなる『ザ・ジュース』には興味深いことにスペシャル・ソースのメンバーは参加していない。それは今回、プロデュースを担当したケブ・モがこれまでとは違う作品にしたいと考え、レコーディングの参加メンバーを、ケブ・モ人脈のミュージシャンで固めたからなのだが、ケブ・モにプロデュースを任せたとき、Gラヴも「ケブ兄さん、それなら俺のことを好きに料理しちゃってください」と腹を括ったようだ。
「(最初は)”デュオ・アルバムを作らないか?”って話になったんだけど、ケブは”ちょうどタジ・マハールのアルバムを手掛けたところだから、俺がプロデュースをやるよ”と言ったんだ。ぶっちゃけ、プロデューサーとしてケブに何を期待したらいいのかわからなかったけど、俺はチャンスに賭けてみたかった。そして、俺が得たものは、望んでいたことを遙かに超えていたんだ」(以下の発言は筆者によるオフィシャル・インタビューより)
ケブ・モによるプロデユースと聞いて、「おおっ」、あるいは「ほぉ~」とちょっと身を乗り出した読者は、昔からのGラヴのファンか、かなりのブルースマニア、あるいはその両方だろう。そして、Gラヴとケブ・モの共演と聞き、かつて2人がレーベルメイトだったことに加え、2人のデビューが黒人音楽専門の名門レーベル、オーケーの25年ぶりの復活を飾る鳴り物入りのものだったことを思い出したに違いない。
「俺たちは一緒に契約を結んだんだ」と、それぞれ『Gラヴ&スペシャル・ソース』『ケブ・モ』というセルフタイトルのアルバムでデビューした94年当時のことを振り返るGラヴとケブ・モはレーベルメイトということで、デビュー直後はよく一緒にツアーしたという。
しかし、やがてデルタ・ブルースにラップ/ヒップホップを掛け合わせたラグモップなる唯一無二のスタイルが歓迎されると同時にベン・ハーパー、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、ベックとともに新世代ブルース四天王に数えられたことで、オルタナ・ロックのファンにもアピールしていったGラヴと、モダンなブルースをアコースティックな表現を基調に奏でながら、ブルースの王道を歩き始めたケブ・モの活動がその後、交わることはなかった。
それから20年、2人の再会は2014年、ダブル・ヘッドライン・ツアーという形で突然、実現し、旧交を温めあう中で前述したようにデュオ・アルバムを作ろうという思いつきが今回の『ザ・ジュース』に発展していった。
『ザ・ジュース』にはラグモップの一言には収まりきらない全11曲(「ザ・ジュース(Reprise)」も含む)が収録されているが、それは、後述するように曲作りから曲のアレンジを含めたレコーディングまで、ケブ・モによる導きが大きかったんじゃないか――と想像していたら、Gラヴを待っていたのは、ケブ・モによるまさにシゴキだったんだからちょっとびっくり。
「ケブが”一番偽りのない5曲を送ってくれ”と言ったんで、ちょうど取り組んでいた曲の中から一緒にやるのにふさわしい曲を送ったんだ。”感想は?”って訊いたら、”おまえはソングライターと一緒にやるべきだ”って言われて、クソっと思ったけど、改善の余地があるんだったらそれもいいかなと思った。そもそも、彼と一緒にやりたかったのは、それが理由だったんだからね。”わかった。提案は?”と尋ねたら、”ナッシュビルに来い。ソングライターを紹介してやるから”と彼は言ったんだ」
そして、ナッシュビルに行き、改めてケブ・モのソングライティング・パートナーであるゲイリー・ニコルソンと曲を書き始めたところ――。
「ケブが気に入ったものもあれば、手直ししたいと思ったものもあった。歌詞に関しても、ケブがそのままでいいと思ったものと、”これはブルースじゃない”と思ったものがあった。
ソングライティング同様、ボーカルのレコーディングも、ケブ・モによるダメ出しの連続だったという。因みにデビューは同期でもケブ・モはGラヴの21歳年上。しかも、「ブルースの世界で彼は大御所だ。グラミー賞も獲りまくってるしさ!(グラミー最優秀コンテンポラリー・ブルース賞を4度受賞している)」とGラヴもそのキャリアを認めているんだから、覚悟を決めた以上は、彼の言うことに従うしかない。
「”違う。こうだ””わかった。やってみるよ”の繰り返しが延々続いたんだ。毎日午前3時くらいまでね。なんてこった、俺は2人の年寄りと一緒にいて、彼らは70歳なのに午前3時までレコーディングしている! どうなってるんだ⁉って思ったね。
ロックンロールの「シェイク・ユア・ヘア」、オーセンティックなブルース・ナンバーの「フィックス・ユア・フェイス」、デルタ・ブルース風の味付けを加えたノスタルジックな「シャイン・オン・ムーン」、そして、ニューオーリンズ・ファンクな「ドリンキン・ワイン」といった新境地と言える曲も含む全11曲は、ブルースの鬼と化したケブ・モのシゴキに耐えた成果と言ってもいい。
そして、新境地と言えば、もう1つ。それは「ドナルド・トランプとその政権に対するプロテスト・ソングなんだ」と語る「ザ・ジュース」をはじめ、ニュースを見るのが好きだというGラヴが日々の暮らしの中で感じる危機意識に基づいて、ぐぐぐっと現代の社会にアプローチしながらメッセージを訴えかけているところだ。
「「ザ・ジュース」が重要なのは、これが俺たちの国、そして世界中の愛と結束のメッセージだからだ。そして、環境を保護したり、女性の権利のため、参政権のため、そして貧しい人々や移民のために戦ったりしたりしている人々を力づけることができるからなんだ。この曲には目的がある、と俺は感じている。今、ライブで最も重要なのは、この曲を歌うこと。俺に目的を与えてくれる気がするんだ。
長々と彼の発言を引用したが、もちろん、今回のアルバムが政治一色というわけではない。
「このアルバムには2つの面がある。1つは俺たちが住んでいるこの世界に対する俺の気持ちと、もう1つは俺たちの家庭生活の、とてもパーソナルな部分。それはとてもいいことだ。いろいろなことがあったんだもの。俺は昨年、結婚したし、都会から田舎の海辺(マサチューセッツ州ケープ・コッド)に引っ越したし。3歳の子供がいて、もうすぐ赤ん坊が生まれるんだ。俺のプライベートはとても充実している。それも今回のアルバムで祝いたかった。(カントリーっぽいところもあるポップ・ナンバーの)「シーズ・ザ・ロック」っていう曲は妻のために書いたんだ。俺のプライベートは幸せでいっぱいだから、それがアルバムにも出ているんだよ」
友達と言えば、「ザ・ジュース」にブルージーなギターを加えているマーカス・キングをはじめ、今回のアルバムには多くの友人たちが参加している。
マーカス・キングも今年1月にソロ・デビューアルバム『El Dorado』を発表したばかり
ファンクとゴスペルの要素を加え、ラグモップをアップデイトした「ソウル・B・キュー」でスティール・ギターを演奏しているルーズベルト・コーリアーは、マイアミ出身の若手スティール・ギター奏者。セイクリッド・スティール(スティール・ギターで演奏する教会音楽)からキャリアをスタートさせたのち、ブルース/ソウル/ファンク/ジャズが交差するシーンでめきめきと頭角を現してきた。サーフ・ロックとも言えるリラックスしたアコースティック・ナンバーの「ディギン・ルーツ」に参加しているロン・アーティスト・ザ・セカンドは、カルフォルニア生まれ、ハワイ育ちのシンガー・ソングライター。
そして、ファンキーなロックンロールの「バーミングハム」にケブ・モと参加しているロバート・ランドルフは、ルーズベルト・コーリアー同様、セイクリッド・スティールの出身だが、現在は、ファンクとソウルを演奏するロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドのフロトマンとして活躍中。スティール・ギターのジミ・ヘンドリックスと謳われている。
「スペシャル・ゲストはみんな、収録した曲のレベルを上げてくれた。エキサイティングだったよ」とGラヴも友人たちの演奏には大満足。スタジオでゲストの演奏を聴きながら、相好を崩す彼の姿が目に浮かぶようだ。
「コラボレーションっていいことだと思うんだ。特に俺みたいに長年やっているアーティストだと、別のアーティストとコラボレーションによる相互交流はみんなのキャリアのためになると思う。俺はコラボレーションが好きだよ。とても大切なことなんだ」
ところで、Gラヴがサーフ・ミュージック界隈でも人気を集めるようになったきっかけは、その第一人者、ジャック・ジョンソンのペンによる「ロデオ・クラウンズ」を、Gラヴ&スペシャル・ソース名義の『フィラデルフォニック』(99年)で取り上げたのち、2004年からジャック・ジョンソンのレーベル、ブラッシュファイアーの所属になったことが何と言っても大きいと思うのだが、『ザ・ジュース』はそのブラッシュファイアーではなく、新たに設立した自前のレーベル、フィラデルフォニックからのリリースだ。ブラッシュファイアーがしばらくジャック・ジョンソン以外のアーティストの作品をリリースしないことになったため、それならと自前のレーベルを持つという長年の夢を叶えたということらしい。
そんなことも新境地を思わせるが、デビューから25年経ってもなお、Gラヴの活動意欲はこれっぽっちも衰えてはいない。いや、むしろアルバム・タイトルに倣って、ますます脂が乗ってきたと言うべきかもしれない。
彼はスペシャル・ソースとともに東京、大阪、名古屋を回るジャパン・ツアーを4月21日、22日、23日に行うことがすでに決まっている。前回の来日から4年ぶり。進境著しいGラヴの雄姿を、自分の目と耳で確かめる絶好の機会だ。見どころはいろいろあるが、スペシャル・ソース抜きで作った『ザ・ジュース』の曲が、ライブではどんなふうに再現されるのか気になるところ。アルバムとはまた違ったものになるに違いない。
「もちろん! 良くも悪くも、俺はアルバムを、ライブでそのまま再現することに興味はない。だから、個人的には、どうレコーディングされていようがあんまり関係ない。バッキング・ボーカルが入っていようが、ピアノが入っていようが、ライブでは俺は自分の曲をトリオかアコースティックでやりたいんだよ。ツアーではもちろん、昔のヒット曲もやるし、新曲もやる。そうすることによって、昔の曲も生きてくるしね。だから、『ザ・ジュース』の曲もスペシャル・ソースが独自の形で解釈するよ。ジムとジェフが曲をどう解釈するか、俺も楽しみにしているよ」
Gラヴは、すでにやる気満々だ!

Gラヴ
『ザ・ジュース』
2020年1月22日(水)発売
初回紙ジャケット仕様 / 初回のみポスター封入
国内盤ボーナス・トラック3曲収録
配信リンク:https://lnk.to/GLOVE_TheJuice
日本公式ページ:https://www.sonymusic.co.jp/artist/GLove/
Gラヴ&スペシャル・ソース
JAPAN TOUR 2020
2020年4月21日(火)東京・渋谷クラブクアトロ
2020年4月22日(水)⼤阪・梅⽥クラブクアトロ
2020年4月23日(木)名古屋・TOKUZO
料金:¥6,800(税込み・前売り・スタンディング/ドリンク代別途)
https://www.smash-jpn.com/live/?id=3329
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