2019年12月、indigo la End(以下、インディゴ)が初の中国ツアーを実施し、北京と上海の2会場でライブを行なった。

10月にリリースされた最新作『濡れゆく私小説』に収録されている「小粋なバイバイ」と「結び様」が、2012年に台湾のエミー賞で最多7部門を受賞したドラマ『イタズラな恋愛白書』を日本でリメイクした『僕はまだ君を愛さないことができる』の挿入歌とエンディングテーマとして使用されるなど、アジアでのバンドの認知が高まる中、Zeppライブの招聘によって、今回のツアーが実現。
インディゴにとって初の海外ライブというだけでなく、川谷絵音個人としても初の海外ライブだというのは、近年SNSやストリーミングサービスの発展によって、アジア間のバンドの交流が盛んになっている中にあって、少し意外な気もする。

それにしても、相変わらず川谷は多忙な日々を過ごしている。10月から11月にかけて、インディゴのワンマンホールツアーがあった一方で、11月27日にはジェニーハイの1stアルバム『ジェニーハイストーリー』が発表され、そのプロモーションでも稼働。中国ツアーの前後には、ゲスの極み乙女。のワンマンライブが東阪で行われてもいる。今回のツアーでも、長田カーティス、後鳥亮介、佐藤栄太郎と、サポートメンバーのえつこ、ささみおがライブ前日の12月11日に北京入りした一方で、その日川谷はジェニーハイとして『FNS歌謡祭』に出演し、BiSHのアイナ・ジ・エンドとコラボした話題曲「不便な可愛げ」を披露。そのまま深夜に日本を立ち、翌朝に北京に到着した。尋常ではないスケジュールのようにも思うが、川谷にはもはや日常なのかもしれない。

僕がバンドの所属レコード会社であるワーナーの担当者とカメラマンとともに初日の会場・北京のOmni Spaceに到着したのは、ちょうどこれからリハが始まるという16時ごろ。西城区天桥にあるPerforming Arts Centerの地下にあるOmni Spaceは、もともと別の場所にあった小さなバーが、音楽熱の高まりを受けて移転し、2016年12月にオープンしたという比較的新しい会場で、コンクリート打ちっぱなしの内装からはクールな印象を受ける。キャパは600人で、周囲はやや殺風景だが、近くに世界遺産の天壇(Temple of Heaven)があり、交通の便もよく、日本人アーティストも多数出演している。自らのレーベルを立ち上げ、後方のお客さんも見えやすいように、フェスを参考にステージを高く設置するなど、中国の中でも先進的な試みをしているライブハウスだと言えよう。


リハーサルはリズム隊の入念なサウンドチェックから始まり、長田がテキパキとエフェクターを踏み変えて様々な音色を試し、サポートの2人のコーラスとキーボードのチェックを挟んで、最後に川谷がギターとヴォーカルを確認。通しリハは3曲目の「はにかんでしまった夏」からスタートし、最初は細かくモニターをチェックしていたが、同行した日本人クルーとのコミュニケーションはスムーズで、初めての海外とはいえやりにくさはなさそう。淡々とした進行に多少の緊張感も感じられるが、この平熱具合が普段のインディゴのトーンだ。

途中で栄太郎が革ジャンを脱いで半袖になり、徐々に演奏が熱を帯びると、「煙恋」と「瞳に映らない」をカットし、「蒼糸」と「夏夜のマジック」を1コーラスで終わらせた以外は、ラストの「結び様」までセットリストを一気に演奏。一度ステージから捌けて、オープニングのSE(アウスゲイルの「Lazy Giants」)を流し、入場を確認して、最後に1曲目の「花傘」の演奏を終えると、メンバーが楽屋に戻って行く中、栄太郎がスタッフとともに残って、インスタ用の演奏動画を撮影し、リハーサルを滞りなく終えた。

ホーム感に包まれた初日の北京公演

「中国のファン一同より」と書かれたカードが添えられたスタンド花が目に付く入場口には、熱心なファンが列を作り、開場とともに最前列へ。開演時間の20時半前には、ほぼほぼフロアが埋まっていた。客層は10代後半から20代前半の若い女性客が目立ち、開場時間中に何人かに話を聞いてみると(簡単な英語での会話は全く問題ない)、やはりWeiboやストリーミングサービス、ネットで見る音楽番組などを通じて日本の音楽をチェックしているそうで、好きな日本のアーティストを聞くと、RADWIMPSONE OK ROCK、King Gnuといった名前が挙がる。初期の重要曲である「素晴らしい世界」をきっかけにインディゴが好きになったという日本語も堪能なコアファンは、開演を待ちきれない様子だった。

一方、楽屋ではメンバーがファストフードで空腹を満たし、現地のプロモーターのリーさんと中国語のレッスンを開始。川谷は持参のポケトークを使ってみるも、思うように使いこなせず、「難し過ぎ! 呪文みたい」と音を上げつつ、リーさんから教わった「盛り上がってますか?」を意味する「ダージャーカイシンマ?」を何度も復唱し、「あとは後鳥さんに任せよう」と笑う。

開演時刻の20時半となり、客電が消え、メンバーがステージに姿を現すと、この日を待ちわびたオーディエンスからの大きな拍手で迎えられ、「花傘」でライブがスタート。
2曲目の「想いきり」の前には、後鳥が「ダージャーハオ! ウォシーindigo la End!」と中国語で挨拶をし、その後もイントロの度にワッと歓声が上がる。川谷は曲終わりにボソッと「シェイシェイ」とつぶやく程度で、シャイな性格が見て取れるが、隣の後鳥が序盤から熱っぽい演奏でリードし、彼のアクションにオーディエンスがしっかりリアクションすることで、いいムードが生まれていたように思う。バンドの中では最年長で、取材中は寡黙な印象もあるが、初めてのオーディエンスを前に演奏する、いわゆるアウェイのときに燃えるタイプかもしれない(実際は、アウェイではなくホームと言える空間だったが)。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

Photo by Kazushi Toyota

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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後鳥:最初は「はじめだけかな?」とも思ったんですよ。みんなはじめは元気なんだけど、だんだん失速していくパターンもあるから(笑)。でもずっと元気で、むしろだんだん盛り上がってくれて、安心しました。

栄太郎:大丈夫だとは思いつつ、盛り上がらない可能性もあるっていう緊張感は持ってたんですけど……必要なかったですね(笑)。客電が消えたときの歓声で、「これはいつもと違うな」って思ったし、ちょっと手を振っただけで、ギャーってなってて、「日本で外タレを見るときの感覚なのかな」って思うと、楽しかったです。あんまりテンション上げ過ぎないようにとも思ってたけど……あれは上がっちゃいますよ。

この日のセットリストは本編17曲中の9曲が『濡れゆく私小説』からの楽曲で、秋のツアーのセットリストにアレンジを加えたもの。東京公演が年明けということもあり、僕は今回のツアーをまだ観れていなかったので、アルバム収録曲の多くを初めて生で体験したのだが、これがすこぶる良い。長田が奇妙なフレーズを聴かせる「秋雨の降り方がいじらしい」は、間奏で狂騒的な盛り上がりを見せ、ベースの歪み、唐突な転調、ヒップホップビート、ラップパート、アウトロのジャズパートと、要素をこれでもかと盛り込みながら、あくまでキャッチーな「ラッパーの涙」もいいし、バラードの「通り恋」はやはり名曲。
上海でのリハ後に制作チームに話を聞いたところ、音響面に関しては、ホールツアーでより繊細な音作りができた経験も大きかったという。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

Photo by Kazushi Toyota

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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オーディエンスの盛り上がりにさらに拍車がかかったのが、ライブ後半の「瞳に映らない」からの流れ。ここまで小声で「シェイシェイ」としか話さなかった川谷が、初めて大きな声で「ダージャーカイシンマ?」と呼びかけると、「イェー!」とこれまで以上の熱狂的なリアクションが起こる。さらに「心の実」を演奏し終えると、「ドラムス、エイタロウサトウ!」と海外仕様のメンバー紹介から、ドラムソロを経て、「名もなきハッピーエンド」へ。サビでは長田と後鳥もステージ前方へと出て、オーディエンスを盛り上げていく。

TikTokの効果もあって広まった「夏夜のマジック」の盛り上がり

川谷:ライブがどんな空気になるかわからなかったから、セットリストはツアーの延長線な感じでやってみたんですけど、昔の曲でも盛り上がってくれて嬉しかったですね。「名もなきハッピーエンド」をやったときに、あの曲が入ってる『あの街レコード』のCDを掲げてる男の子がいて、あれには感動しました。

「夏夜のマジック」のイントロでは、オーディエンスからさらに大きな歓声が。TikTokの効果もあって、若年層を起点にジワジワと広まり、YouTubeでの再生回数が1000万回を突破するなど、インディゴのニュースタンダードとなった楽曲だけに、その浸透度は中国でも抜群だ。日本ではお馴染みとなっている、サビで川谷が手を上げるパフォーマンスこそなかったものの、曲終わりには川谷がこの日初めて「ありがとうございます」と日本語で挨拶をし、大きな拍手で包まれた瞬間は非常に感動的だった。

「ラストソング」と伝え、「結び様」が始まると、最前列のファンがメンバーの似顔絵が描かれた大きな旗を広げ、サーフさせることで感謝を伝える微笑ましい一幕も。また、演奏を終え、川谷が「Can I take a picture?」と尋ねると、「モチロン!」と日本語で返事が返ってきて、「日本語わかる?」と聞き返すと、「イェー!」と返ってくるというやりとりにも、自然と笑みがこぼれる。
栄太郎が「サイツェン」と告げてステージを去るも、アンコールを求める声が止まず、やる予定ではなかった「さよならベル」を急遽演奏と、最後まで大盛り上がりの初日となった。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

Photo by Kazushi Toyota

終演後のメンバーに話を聞くと、栄太郎は「めっちゃ楽しかった。ハマる気持ちがわかった」と上気した顔で話し、後鳥は「イヤモニを変えたら、すごくやりやすかった」と好調の理由を教えてくれて、長田は「ステージがあと50センチ低くていい。ちょっと怖かった」と笑っていたが、それぞれがライブを楽しんだことが伝わってくる。一休みした後、現地のプロモーターによる取材もあったが、「川谷さんは複数のバンドを掛け持ちしていて、どうやって時間を作ってるんですか?」や「天才と呼ばれることをどう思いますか?」と、中国でも日本同様に川谷に対する認知が伝わっていることを改めて感じさせた。

取材後、川谷に「夏夜のマジック」のサビで手を上げなかった理由を聞いてみると、「中国のライブは公安の取り締まりが厳しいから、オーディエンスを煽るようなパフォーマンスをしてはいけないと言われて、躊躇した」と言い、本当はセットリスト以外の曲を演奏するのもダメだったけど、「あんなにアンコールをしてもらったら、期待に応えたいと思った」と話してくれた。時刻はすでに23時過ぎ。明日の早朝には上海に向けて出発しなければいけないこともあって、メンバーはホテルに帰って吉野家の牛丼を食べることにしたそう。川谷は「俺こっち来てから中華料理全然食べてないんだけど」とぼやきながらも、その顔には充実の色が浮かんでいた。

コアなファンも多く詰めかけた2日目・上海公演

2日目の朝は5時半にホテルのロビーに集合。睡眠時間は決して多くなかったはずだが、川谷が一番元気にスタッフと談笑している。9時に北京の空港を出発し、12時過ぎに上海のホテルに到着。
ここからはそれぞれの時間を過ごし、僕は川谷、後鳥、ささみおらとともにランチへ。川谷はようやくの中華料理となったが、味の癖が強めなお店で、やや微妙な雰囲気に。まあ、これも旅の面白いところ。

上海の会場であるBandai Namco Future Houseは、その名前からして近代的な施設を想像していたが、近くに小学校があるような住宅地にあったのは驚き。建物自体は上海文化センターという2017年3月に建てられた新しい施設のようで、B1F~1FはDream Hallというキャパ1500人の大ホール、2FのFuture Houseがキャパ500人の小ホール。ホールと体育館の中間のような内装に巨大なシャンデリアが飾られた独特な空間だが、パックマンのキャラが壁に描かれていたり、バーカウンターに「HIGH SCORE」と書かれていたりと、やはりバンダイナムコの施設である。

16時半から始まったリハーサルは、この日もリズム隊の音出しから始まり、「鐘鳴く命」をリズム隊のみの演奏で聴けるレアな場面も。ささみおがそれを見ながらフロアでストレッチをしたり、後鳥がセッティング中の長田を撮影したりと、昨日より幾分リラックスしたムードが漂っている。通しリハも前日同様「はにかんでしまった夏」からスタートしたが、この日は前日にカットされた「煙恋」、「瞳に映らない」、「想いきり」も含め、全曲をフルコーラスで演奏。リハ後に栄太郎とえつこに話を聞くと、リハの分量は川谷次第だそうで、昨日のライブの手応えを持って、リハにも一層気合いが入ったのではと考えられる。

開場時間の19時半を過ぎ、続々とオーディエンスが会場内に入って来ると、上海は北京よりも若干年齢層が高めで、男性の姿も多く目に付く。開場前から並んでいた熱心なファンは、昨日の「結び様」で出てきたのと同じような旗を入口に掲げ、そこに来場者がメッセージを書き込んでいた。
この日もファン数人に話を聞いてみると、「ゲスの極み乙女。をきっかけにインディゴのことを知ったファンは多いと思う」という声がちらほら聞こえ、今ではジェニーハイも大好きで、「まるで幸せ」は名曲だと思う、と語るスーツ姿の男性や、川谷の才能を絶賛するインテリ風の男性から熱い声が聞けた。一方、女性ファンの中には「ネバヤンやヨギーが好き」と話す子もいて、やはり昨今のシティポップブームの影響は大きい模様。この並びにインディゴが入るのは日本だと珍しいかもしれないが、フラットな目線で見れば、決しておかしくはない並びだと感じる。

十分なリハーサルと、熱意を持ったオーディエンス。開演前からこの日のライブが昨日よりもいいものになるであろうと半ば確信していたが、そんなときにこそ予期せぬトラブルが起こるというもの。開演時刻の20時半となり、ステージに登場したメンバーに大きな歓声が送られるも、1曲目の「花傘」のイントロで川谷が突然「ちょっと待って」と演奏を中断。後で話を聞くと、イヤモニから音がまったく返ってきていなかったそう。トラブルが改善され、「indigo la Endです。よろしくお願いします」と日本語で挨拶をしたのは、前日からの心境の変化を感じさせたが、やはり出だしの躓きがバンドとオーディエンスの双方に影響していた感は否めない。イントロごとに歓声が起きるのは変わりないが、昨日以上の盛り上がりを期待していた分、序盤はややもどかしさも感じられた。

アンセム化している「夏夜のマジック」

それでも、昨日とは違って、「ありがとう」と日本語を交えながらコミュニケーションを取ることで、徐々に会場の空気が作られて行き、スロースタートとなった分、「瞳に映らない」からの後半戦は爆発的な盛り上がりを見せた。「名もなきハッピーエンド」の前の栄太郎のドラムソロは鬼気迫ったもので、それを川谷がさらに煽り、火の点いたオーディエンスを曲中で長田と後鳥がさらに盛り上げる。そして、この日もイントロでひときわ大きな歓声が起こった「夏夜のマジック」では、前日とは違って川谷がサビで手をスッと上げ、会場全体からも一斉に手が上がる。さらに、2番のAメロで川谷と後鳥が向き合って演奏するお馴染みの場面では、長田もそこに近づいて行って並ぶというレアなシーンがあり、悲鳴のような声も聴こえてきた。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

Photo by Kazushi Toyota

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栄太郎:(ドラムソロは)普段日本じゃやんない感じになってましたね。川谷さんから「3分間やらせるかも」って言われてて、気合いはもともと入れてたんですけど、チラッと見たらみんな水飲んでて、「これはマジかもしれない」って、ちょっと緩急つけたりもして(笑)。きれいな言い方をすると、「衣食住」の「食」と「住」を中国で体験させてもらったから、その分をあそこで返したいなっていうのも思ってました。

川谷:「夏夜のマジック」がアンセム化してるなっていうのは感じました。Spotifyの再生回数も一位だし、やっぱりストリーミングの再生数がライブにも如実に反映されるんだなって。長田くん、途中でアイドルみたいなことしてたよね?

長田:いや、あれは「心の実」のイントロとアウトロが暗転して、何もできなくて、「もういいや!」ってなった結果、ふざけに走っただけ(笑)。

川谷:恥ずかしがってるだけなんですよ、長田くんは。でも、「心の実」であの暗さはマジで合ってなかった(笑)。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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海外ならではのトラブルも乗り越え、川谷が「ラストソング」と告げて、「えー!」という大きな声が起こる中、「日本語わかる?」と続けると、「カッコイイ!」や「サイコウ!」など、一斉に様々な日本語が飛び交う。それに対し、「楽しかったです。本当にありがとう。また絶対上海に来ます」と応え、「結び様」が始まると、この日も最前列で旗が広げられ、最後はその旗とともに記念撮影。鳴り止まないアンコールに応えて、「さよならベル」を演奏し、2日間のライブがハッピーエンドで締め括られた。
indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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川谷:「日本語わかる?」って聞いたときに、「オツカレサマデシタ!」が多かったのが面白かったな(笑)。あと一番印象的だったのが、アンコール前に「渚にて」を歌ってる人たちがいて、青い髪の男の子がいたり、あれはびっくりした。

ライブ後に青い髪の子を見つけて話を聞くと、彼は日本のバンドの大ファンで、日本のファンと同じように大量のラバーバンドをカバンに付け、「知り合いに日本で買って来てもらった」というインディゴのCDを持ち歩き、音楽を通じて知り合った友人たちと、インディゴが中国に来ることを心待ちにしていたそう。「渚にて」は特に好きな曲だという。この日は広州から観に来たそうで、「今度はぜひ広州にも来てほしい」とも。〈渚にてもう一度 会えるかな 幻に〉。多くの中国のファンが、今もインディゴとの再会を願っているはずだ。

初の海外ライブを終えた4人の感想

中国での最終日は上海での写真撮影。上海のモニュメントである電波塔を対岸に臨み、オールドジャズバンドで知られる和平飯店などのある黄浦区は、一歩路地裏に入れば古びた建物の残る地区だが、メインストリートは再開発中で、中国のさらなる発展を感じさせた。撮影後はコーディネーターの方に連れて行ってもらった、いま中国の若者の間で流行っているという湖南料理(これにはメンバーみんな大満足)に舌鼓を打ちながら、2日間のライブを振り返ってもらった。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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長田:思ってた以上にお客さんの反応が良くて、ありがたかったし、やりやすかった。盛り上がらないんじゃないかとも思ってたけど、全然そんなことなくて……よかったんじゃない?

後鳥:斜に構えてる人がいなくて、投げかけたらその分返ってくる感じがして、それがすごく新鮮でした。「来てくれた」っていう反応をもらえると、僕らもその分頑張ろうと思うし、需要と供給がバッチリハマってる感じが楽しくて(笑)。

栄太郎:反応がすごくピュアで、決まりがないのが良かったですね。日本は良くも悪くもライブを見るときの決まりみたいなのがあるけど、それがないのはいいなって。あとは、一緒に歌ってくれる人が多かったのも嬉しかったけど、よく見るとリップが違って、それって僕らが英語の曲を音で聴いて歌ってるの一緒ってことだから、それは最高ですね。

川谷:前までは海外に行くっていうビジョンが全然見えなかったんです。インディゴは日本語を大事にしてるし、海外に行く流れとは逆行してるような気もしてたし。でも、最近はSpotifyとかで海外でも聴かれてることがわかって、今回中国に来てみて、すごく自信になりました。やっぱり、実際に行ってみないとわかんないもんですね。Spotifyだと僕らタイとかアメリカのリスナーも多いので、いろんな国に行ってみたくなりました。

確かな自信と手応えを掴み、羽田空港に到着したのは12月14日の22時半ごろ。なお、川谷はすぐにニッポン放送へと向かい、深夜3時からの『ジェニーハイのオールナイトニッポンZERO』に出演している。

12月30日、インディゴは『COUNTDOWN JAPAN』のCOSMO STAGEに出演し、入場規制を記録。川谷は前日にジェニーハイでASTRO ARENA、翌日にゲスの極み乙女。でGALAXY STAGEにも出演し、いずれも入場規制を記録している。それは川谷が楽曲の力によってもう一度この国における一音楽家としてのフラットなポジションを手に入れたことを、2010年代の最後にはっきりと示す状況だったように思う。そして、そのタイミングで川谷のバンド人生の原点であるインディゴで初の海外ツアーを経験したこと、しかも、それがひさびさに日本語のタイトルを据え、音楽人生の原点である日本語のポップスと改めて向き合った『濡れゆく私小説』のリリースタイミングであったことは、偶然にして必然だったに違いない。2019年で手にした確信を持って、これからのインディゴはより外へと開かれた活動に向かうだろう。結成10周年イヤーとなる2020年は、その新たな始まりの年だ。さあ、素晴らしい世界へ。

indigo la End、初の中国公演で学んだ「海外に出ていく意味」

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