音楽ビジネスに携わる人たちを紹介する新インタビューシリーズ「At Work」。初回ゲストのジョン・ジャニックが、アーティストたちとの信頼関係の構築、どんな仕事も辞さない心構え、心の支えになっている金の助言等について語ってくれた。


激動の10年間をくぐり抜けた今、音楽産業は数多くの困難に直面しながらも、かつてなくエキサイティングな時代を迎えている。2020年における音楽業界のキャリアとはどういうものなのだろうか? エグゼクティブたちは業界における伝統的価値観を守りつつ、いかにして時代の変化がもたらした新たな責任や、無限に溢れ出てくる新たな音楽、そして今後訪れるさらなる変化に対処するのだろうか? ローリングストーンが新たにローンチするインタビューシリーズ「At Work」では毎週、様々な業界の第一線で活躍する人々の観点から、大きく変わりつつある世界の流れについて考察する。

初回ゲストとなるジョン・ジャニックは、学生時代にインディレーベルFueled by Ramenを共同設立し、Warner傘下のElektra Recordsを率い、パニック!アット・ザ・ディスコやエド・シーラン、ブルーノ・マーズ等をトップスターに育て上げた音楽業界の実力者だ。彼は2012年にUniversal Music Group内のInterscope Geffen A&Mの社長兼チーフ・オペレーション・オフィサーに就任し、2014年にはジミー・アイオヴィンに代わってCEO兼チェアマンの座に就いた。同社は長期にわたって無数のヒットを生み出し続けているInterscope Recordsも抱えている。ジャニックはセレーナ・ゴメスやロビン・シックの曲をヒットさせたほか、昨年だけでもジュース・ワールドやダベイビー、サマー・ウォーカー、そしてビリー・アイリッシュ等、才能ある新星たちの作品を世に送り出してきた。Interscopeで彼は約200名の従業員を束ねるほか、頻繁にチャートに登場する数々のアーティストたちの監督役を務めている。

ーまずは1日の始め方について質問させてください。あなたは何時に起床し、まず何をされますか?

朝は6時から6時半の間に起きて、最初にすることといえば、良くも悪くも携帯でのメールチェックですね。その後は子供たちと時間を過ごしつつ、彼らが学校に行く準備をします。朝は仕事のメールに目を通してアップデートを確認しつつ、子供たちと1時間ほど一緒に過ごすようにしているんです。あとは本格的に仕事を始める前に、20~30分のワークアウトをこなしています。
まぁメールと電話を交わしている間に、既に仕事モードに入っているんですけどね。子供たちを学校に送り届けたら、そのまま職場に向かいます。

ー職場での習慣になっていることなどはありますか?

職場は建物の5階にあるのですが、エレベーターではなく階段を使うようにしています。いい運動になりますからね。私は四六時中電話に出ていて、いつも何かしらのミーティングに向かっています。それがルーティンと言えなくもないのですが、一方で私は同じことの繰り返しにはすぐに飽きてしまう性格なんです。状況が刻々と変化する業界なので、私はいつもあちこち駆け回っています。子供たちを学校で降ろした1分後には電話をかけていて、それはオペレーションに関することだったり、マーケティングについてだったり、アーティストに関することだったりします。毎週金曜日には注視すべき事態や動向、そして今後の方針について話し合う2時間のミーティングに出席していますが、ルーティンが固定している日というのはないですね。

「この会社を運営しているという事実がいかに奇跡的なことか、毎日自分に言い聞かせるようにしています」

ー極端に忙しい日はどういったことに追われますか?

残念なことに、ほとんど毎日が極端に忙しい日ですね。朝の9時半から夜7時まで、私は大抵電話に出ているかミーティングに出席しています。今手元の手帳を見ているんですが、予定がぎっしり詰まっています。
今は会社の向かいにスタジオを作ろうとしていて、それに多くの時間を割いています。先日はうちの所属アーティストの楽曲使用を検討している2時間の映画の試写会に出席し、その後ドキュメンタリー映画との関わり方について話し合うミーティングを開きました。終業後は何かしらのコンサートに行くか、ディナーに出かけることが多いですね。私の自宅はそういうロサンゼルスの繁華街とは真逆の方角にあるので、夜出かける時は一旦帰宅して、30分だけでも子供たちと接するよう努めています。

ドクター・ドレーやエミネム、ノー・ダウト、ナイン・インチ・ネイルズ等を聴いて育った私はInterscopeのロゴを見慣れていたので、自分がそういったアーティストを抱える会社を運営しているという事実がいかに奇跡的なことか、毎日自分に言い聞かせるようにしています。グウェン・ステファニーとスタジオで会った直後に、ベガスに飛んでレディー・ガガの新曲を聴いたりするたびに、自分が彼らと仕事をしていることが信じられなくなるくらいです。

ー新しい音楽がとめどなく溢れ出てくる現状に、あなたはどう対処されていますか?仕事以外の場では、どういった手段で情報をチェックしていますか?

Instagram、Spotify、Apple、うちの所属アーティスト関連のタグは毎日チェックしていて、あとはYoutubeやTikTokで流行しているビデオにも目を通すようにしています。その度に無数のコンテンツが見つかって、底なし沼に入っていくような気分になりますね。口コミで新しいアーティストのことを知ったり、同業者から新たなシーンについて聞かされたりする以外に、私は一日中InstagramやYouTube、TikTokのコンテンツをチェックしています。

ー音楽業界でキャリアを築く上で、最も有益だったアドバイスは? またそのアドバイスは、今日の業界においても有効だと思いますか?

最も有益だったアドバイスは「我慢すること」ですね。私は過去にも自分の会社を経営していましたが、常に迅速に行動し、ほんの少しの間でも立ち止まってはならないと感じていました。それは今も同じで、起業家精神を持ち続けることは重要だと考える一方、私はより大きなヴィジョンを持つ方法について学びました。
私がInterscopeに来てから7年半になるのですが、このような偉大な歴史を持つ会社でも、その間に様々な変化を迫られてきました。しかし音楽業界では、一夜のうちにそういった変化を遂げることはできません。なぜなら我々の仕事はアーティストを発掘し、時間をかけて彼らを育てていくことであり、その過程を急いではならないからです。私はそういった変化に対処するためにこの会社に迎えられましたが、私はアーティストや従業員たちに対しても責任を負っています。私は周囲の雑音をシャットアウトしつつ、来るべき時が来るまで辛抱し続けることの大切さを学びました。Interscopeがその核である部分を失うことなく2020年を迎えたことを、私はとても誇りに感じています。我慢しろというアドバイスは、今も昔も変わらず有効だと思います。

「最も有益だったアドバイスは『我慢すること』です」

ーレーベルの代表として、どういった点でライバルたちとの差異化を図っていますか?

当社と同規模のレーベルの大半は、A&Rとマーケティング、それにオペレーションの部署がそれぞれ独立していますが、私はその全てに積極的に関与しています。そういった姿勢は、過去に自身のレーベルを運営していた経験からきています。それにInterscopeは昔からやや左寄りのスタンスで、文化の進歩に貢献してきました。ディズニーの『ブラック・パンサー』やワーナーの『アリー/ スター誕生』とのパートナーシップも、長年かけて培ってきた映画業界との親密な関係の中から生まれたものです。最近ではiPhoneで撮影されたセレーナ・ゴメスの新しいミュージックのビデオのローンチにあたって、Appleと大規模なパートナーシップを締結しました。
それは当社にとっても、優れたアートをユニークな方法で世界に発信する初めての試みでした。単にミュージックビデオを撮って曲をメジャーなプレイリストに入れようとするのではなく、よりインパクトのある方法で楽曲の魅力を伝えようと考えたんです。

テレビや映画、ラジオといった伝統的なメディアだけでなく、従来とは異なる形態のラジオ局、あるいはYoutubeやAmazon、ソーシャルメディアのインフルエンサーたちなど、曲をヒットさせるためのチャンスは至るところにあります。私はその全てにまんべんなく燃料を注入したいのです。

ーアーティストたちとはどのように関わっていますか? 特に彼らが困難に直面している時の接し方について教えてください。

大切なのはアーティストたちとの信頼関係を築くことです。入社当初、私は新顔でしたが、多くのアーティストたちは既に何年もの間ここに籍を置いていました。だから私は、全てのアーティストが歩んできた道のりについて学ぶことにしました。例えばレディー・ガガの場合、『アートポップ』の後にトニー・ベネットとのデュエットアルバムを発表し、スーパーボウルのハーフタイムショーに出演し、アカデミー賞でパフォーマンスを行なった等です。アーティストの信頼を勝ち取る上で大切なことは、彼らが求めているものをはっきりと理解した上で対話すること。そうすることで彼らは徐々に心を開き、こちらの意見に耳を傾け、次にすべきことについて一緒に考えることができるようになるのです。

しかしより若い、今最もホットであらゆるレーベルが契約したがっているようなアーティストなどに接する時、私は「君はうちにいたいと感じているはずだ」といった風に強気な態度で臨むこともあります。
腹を割って話せるようになるには、互いに理解しあうことが不可欠です。キャリアが順調ならば問題ありません、達成感を共有するだけです。しかしそうでない場合は、誰かを責めようとするのではなく、チームが一丸となって突破口を模索しなくてはいけません。アーティストのためにベストを尽くす、そういう日々の積み重ねによって、家族のような一体感が生まれていくんです。

「以前よりも多くのことを考慮しなくてはいけないのも事実」

ーストリーミング時代の到来によってアーティストとレーベルの関係は大きく変化し、現在はアーティストの持つ力がかつてなく大きくなっているとされています。それはあなたの仕事のアプローチに影響を及ぼしていると思いますか?

レーベルとアーティストの両者にとって、いろんなことがやりやすくなったと思います。以前はとりあえずシングルを出してみて様子を見るといったやり方が基本でしたが、今は何が受けているかを見極めやすくなりました。また世間が曲に対してどう反応しているか、そこからどういった動きが派生しているか、そういったこともクリアになりました。曲やアルバム、あるいはミュージックビデオへの反響は一目瞭然です。

ー音楽業界が劇的な変化を迎える以前、あなたはFueled by Ramenを設立しています。今新たにレーベルを始めるとしたら、以前とは異なるやり方を選びますか?

私はいいタイミングでレーベルを始めたと思います。当時はインターネットによって、音楽業界の敷居が下がり始めたばかりでしたから。
私はストリートを中心としたマーケティング、そしてインターネットによってアーティストたちを世に送り出しました。今新たにレーベルを始めるとしたら、アーティストを成功させるためのより多くのツールと資金を有している一方で、以前よりも多くのことを考慮しなくてはいけないのも事実です。新しいアーティストを売り出すにあたって、その音楽が優れているかどうかだけでなく、人々がそれにどう接するかという点を考えなくてはなりません。そのアーティストのファンベースの規模を見極めるためには、視聴回数やフォロワー数、エンゲージメント、コンサートの集客数、グッズの売り上げなど、あらゆる数値に目を通さなくてはいけません。

ー仕事の疲れを癒すための日課などはありますか?

子供たちと妻が寝る前に、必ず彼らと顔をあわせるということですね。それが私にとって何よりも大切なことです。2人の息子はそれぞれ4歳と7歳で、珍しく休みを取った日には必ず家族と一緒に過ごしています。

Interscope RecordsのCEO、ジョン・ジャニックが語る仕事の極意

連載:AT WORK
音楽業界を牽引する人々の舞台裏に迫る、米ローリングストーン誌の連載「At Work(アット・ワーク)」
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