クイーンの栄光と軌跡を巡る貴重なコレクションが日本に集結したイベント『QUEEN EXHIBITION JAPAN ~Bohemian Rhapsody~』(クイーン展ジャパン)。スタッフとして参加した元『ミュージック・ライフ』編集部の赤尾美香が、製作の舞台裏について寄稿してくれた。


2020年1月15日より東京・日本橋高島屋でスタートした『クイーン展ジャパン』が、1月30日より横浜・アソビルに場所を変えて3月22日まで開催中だ。ちょうどクイーン+アダム・ランバート来日公演の時期とも重なり、東京会場にはブライアン・メイ、ロジャー・テイラーのふたりがプライベート・タイムを利用して来場、当初は20分程度の見学かと思われたが約1時間も滞在し、クイーンと日本が築いてきた”歴史”に感慨を深めていたという。風邪をひいてその場にいられなかったことを心底悔やんだ自分であった。

さて、遡ること昨年の夏、韓国では一足早く『Bohemian Rhapsody: The Queen Exhibition』が開催された。日本のクイーン展製作委員会からもスタッフ数名が現地に飛んで視察した。当初は、韓国版の展示を日本に持ってきて一部を日本向きにアレンジするという案もあったからだ。けれど、結果的にスタッフが下した判断は、「日本独自の展示を1から作る」だった。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

本展覧会のために特注されたフレディ等身大フィギュアは記念撮影可。

まずは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た人が、映画の内容をなぞりながら、わかりやすくバンドの軌跡を辿れるものであること。クイーンと日本の深い繋がりを今一度確認できるものであること。マニアにとっても、新参のファンにとっても楽しめる内容が盛り込まれていること。この3点が製作の基本だったと言っていい。


私がお手伝いしたのは、展示写真のセレクション、年表や説明文の執筆、一部展示品の収集だ。そもそも、平面での仕事(雑誌やムックの編集)はそれなりに経験しているが、立体は初めて。しかも数字にはとことん弱いので、設営図面を見ても実物が想像すらできない。なので、そこはプロに任せるのが一番と割り切った。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

ステージに見立てた衣装展示となつかしい写真の数々。

写真は、主にシンコーミュージックが所有する膨大なアーカイヴの中からセレクトした。音楽誌『ミュージック・ライフ』や同誌増刊号のためにカメラマンの長谷部宏氏が撮影した写真だ。もちろん未公開写真は入れたい。が、見慣れた写真でも、インパクトがあって象徴的な写真なら、見た瞬間当時にタイムスリップできるはずだ。そんな思いでセレクトした。かっこいいクイーンを前面に出すため、ライブ写真を多めにしてくれという要望は製作委員会から出されていた。一方、かつての少女ファンがうっとりするようなポートレイトや、新しいファンが「本当に日本で時間を過ごしたんだね」と新発見できるようなステージ以外の写真もスペースが許す限り加えた。
70年代当時ロンドンに暮らしクイーンとも親交のあったカメラマン浅沼ワタル氏や、シンコーミュージックの海外駐在カメラマンだったデヴィッド・タン氏の写真も、効果的なアクセントとして機能していると思う。

文章の文字数やレイアウトは、展示と雑誌では異なる基準がある。しかも今回は、老いも若きも、新しいも筋金入りも混じったファンの皆様に読んでいただく原稿を書かねばならない。文体も自分のものとは変えた。

実際会場に入り設営にも立ち会ったが、次々に組まれていくパネルを見ながら、なるほどこうなるのか、と初めて展示を立体で捉えることができた。

とりわけ、衣装展示アイディアは素晴らしかった。ステージを模して組まれたスペースにスクリーンを設置、ライブ映像を流し、その映像で着ている衣装現物を展示しているのだ。しかも、全11着の展示衣装のうち6着は日本初公開。衣装をご覧いただければわかるが、とにかく細身である。昨年末、世の中が仕事納めをしている頃、衣装は東京に到着した。ところがマネキン屋さんが数種用意した細身の男性マネキンどれもがフィットせず大慌て。衣装の足腰が想像をはるかに超えて細かったからだ。
結局、ボーイズ用のマネキンがなんとかフィットし、スタッフ一同胸をなでおろしたのだった。設営当日は、プロのスタイリスト立会いのもと、丁寧に慎重にマネキンに衣装が着せられていった。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

1975年の初来日公演でも着用したフレディ&ブライアンの衣装

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

1986年のマジック・ツアーでフレディが着用した衣装。意外にも素材は綿。

これら衣装のバックで流れるライブ映像の中にはマネージメントから特別に提供された公式初公開映像も含まれている(1976年ロンドン/ハイドパーク公演、1977年ロンドン/アールズコート公演)。これには、駆けつけたクイーン・マニアの方々も釘付けになっていた。出口に近いところに設けられたシアターでは1986年、フレディ在籍時最後のツアーとなった「マジック・ツアー」の模様を上映。シアターの近くには、メンバーの筆跡による手書きの歌詞もあって、長い時間をかけて見入るファンも少なくない。

そんな中、 ”クイーンと日本の深い繋がり”を示すための展示にも力を入れた。クイーンの来日時には必ずフレディ・マーキュリーのボディガードとして帯同した伊丹久夫氏から、フレディから贈られた日本刀や時計といった贈り物などをご提供いただいた。映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれたフレディの生涯の親友メアリー・オースティンとフレディのツーショット(1979年来日時。撮影は伊丹氏)などは、かなり貴重な展示ではないだろうか。


フレディがロンドンの自宅に造った日本庭園を手がけた高原竜太朗氏の提供による庭園の写真や、ブライアンの愛器レッド・スペシャルに魅せられてギター職人になりブライアン本人にも認められた伊集院香崇尊氏製作によるギターの展示もまた、日本らしく興味深いものとなっていると思う。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

神奈川県逗子に工房を構えるKzギターワークス製レッド・スペシャル。

その他、マニアやコレクターの方々にご協力いただいた来日公演ポスターやチケット、初期ファンクラブの会報や日本盤シングルなど、なつかしさに思わず声を上げているファンも少なくないし、ポスターやチケットに記された70~80年代のコンサート・チケット料金に驚く若いファンの姿も。どんな世代のファンであっても、それぞれの視点と思いで楽しめるファン目線の展示になっていたら嬉しい。小学生の時、「伝説のチャンピオン」のドーナツ盤をお小遣いで買った私も、そんなファンのひとりである。当時の日本盤シングルをズラリと壁に並べたコーナーの前では、しばし感慨にふけってしまった。

会場内、ほぼ撮影禁止となっているが、この展覧会のために特注された等身大フレディ・フィギュアとの撮影は可能なので、ぜひ来場の記念に撮影を!!

横浜会場では、東京会場を訪れたブライアン&ロジャーの様子を収めた映像及びふたりの直筆サインも展示。また、近日中には、2020年来日公演コーナーを増設、ブライアンのピック、コイン、ギター弦やロジャーのスティックなどを展示する予定だ(詳細は公式HPを参照)。

展覧会は、横浜開催の後、大阪高島屋(3月25日~4月6日)、松坂屋名古屋店(4月18日~5月10日)を巡回する。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

東京会場にて、展示を楽しむブライアン&ロジャー。

クイーンと日本の繋がりを示すために 展覧会スタッフが明かす製作の舞台裏

横浜会場では、このサインも展示中。

QUEEN EXHIBITION JAPAN
~Bohemian Rhapsody~

アソビル(横浜)
開催日時:2020年1月30日(木)~3月22日(日)
10:00~21:00(最終入場20:30)
※最終日3月22日は18時閉場(最終入場17:30)

大阪高島屋(大阪)
開催日時:2020年3月25日(水)~4月6日(月)
10:00~20:00(最終入場19:30)
※最終日4月6日は17時閉場(最終入場16:30)

松坂屋名古屋店(愛知)
開催日時:2020年4月18日(土)~5月10日(日)
10:00~19:30(最終入場19:00)
※最終日5月10日は18時閉場(17:30最終入場)

チケット料金
大人:前売券1,700円、当日・1,800円
学生:前売券1,300円、当日券1,400円
※小学生以下無料(保護者同伴3名まで)
※チケットは全て税込価格

https://www.queen-exhibition.jp/
編集部おすすめ